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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
30/46

30話 都市フロストの攻防

 アルフォンスの巣穴に二匹のドレイクドラゴンが呼び出されていた。


「おい! お前達!! アルバント山の麓に居る、お喋り好きなワイバーン三人娘を探し出せ!」

「へ? アルバント山? それは赤竜様の巣穴のある場所では?」

 

「そうだ、そこにそのワイバーンと一緒に人族のオス、「シン」と言うやつが居るはずだ、そいつを殺して、ここに首を持ってこい」

「え? 首を持ち帰るのですか? ブレスで灰にした方が早いのでは?」


「ダメだ、そいつの首をメルフリードに見せるのだ、そうすればあいつも諦めがつくだろう」

「は、はあ……」


「良いか? 絶対に死体を持ち帰るのだ! わかったな!!」


 アルフォンスはシンの存在が有るから、メルフリードが自分に振り向かないと思い込んで居た。シンさえ居なければ、年齢的に釣り合うオスは自分しか居ない。そうなれば、メルフリードも諦めて自分と結婚する気になるだろう。そう考えて居た。


 アルフォンスの命令を受けたドレイクドラゴンのオス二匹は、アルバント山に向かって飛び立って行った。






 ――――――― ジラール王国 王宮


 王宮の会議室には、大臣を始め、国の重鎮達と将軍たちが会議をしていた。


「マティスの行方位はまだわからんのか?」

「はい、恐らくは……敵の手に落ちたかと思われます」


「そうか……」


 国王はガックリと肩を落とした。


「陛下、それでは現在の状況を報告します」

「うむ……」


「現在、帝国竜騎士部隊が帝国領「エスフルード」より来襲。「サンスマリーヌ」及び「ロンデリーヌ」は竜騎士部隊の攻撃で、都市としての機能を果たしていません。それにより、補給を立たれた「西の砦」は孤立状態が続いています。尚「西の砦」には我が軍の守備兵が3千。これを帝国の奴隷兵部隊が5千で包囲しています」


「まだ落ちては居ないのだな?」

「はい、相手の戦力がそれほど多くありませんので、耐えきる事は出来ますが……」


「補給が無いと言う訳か」

「その通りです。籠城は問題ありませんが、補給が無いこのままですと、いずれは……」


「エラン王国は?」

「はい、エラン王国軍2万5千が国境を突破、現在は国境の都市「フロスト」で我が軍と睨み合いが続いています。我が方は、西方騎士団砦より、2万がフロストに入りました」


「なんとか間に合ったか」

「そうですね、正直ギリギリでしたね。密偵からの報告があと一日遅れて居たら、「フロスト」は陥落していたでしょう」


「今後の予想は?」

「サンスマリーヌやロンデリーヌを襲った竜騎士部隊が、フロスト攻略に周る可能性があります。その場合は……」


「守りきれぬか?」

「はい……残念ながら、現在の状態では守りきる事は難しいと思われます」


「そうか……」

「現在、王国東方騎士団及び、各都市の騎士団が王都に集結しつつあります、フロストが落ちた場合は、王都まで一直線です。これを全軍を持って王都の手間で迎撃します」


「うむ、それ以外に方法は無いな、各自全力を尽くしてくれ」

「ハッ!」



挿絵(By みてみん)



◇◇◇


 シンとマティス王子は、まだジラール王国へは戻れていなかった。


 竜騎士部隊を蹴散らし、一気に国境を越えようとしたのだが、新たな竜騎士部隊と遭遇して、あまりにも数が違い過ぎたので、逃走を選択した。しつこく追いかけて来る竜騎士達から逃げ回り、夜になってようやく竜騎士達の追撃を振り切ったので、現在は森へ逃げ隠れている。


「やはり、国境は竜騎士だらけだな」

「そうですね」


 本来なら、一刻も早く出発したいが、ドラゴン達を休ませないと、とてもじゃないが飛べる状態では無い。まともに狩りも出来ない状態で、ドラゴン娘達は腹を空かせながら寝ている。狩をしようと飛び立てば、あっと言う間に竜騎士達に見つかってしまうのだ。


 今は森の中で、兎や狐等の、小動物をなんとか食べている状態だった。


「このまま、北へ向かおう」

「北ですか?」


「そうだ、北上すれば「ロンデリーヌ」の街がある、まずはそこに辿り着くのが先決だ」

「距離的には?」


「結構な距離があるが、このまま竜騎士と鬼ごっこをしていても始まらないだろう? 北の方は手薄だと思うしな」

「それもそうですね」


「このままドラゴン達を休めて、日の出前に出発しよう」

「わかりました」


 シンとマティスは、夜明けまで眠りにつく事にした。



 夜明け前に、シンとマティスは北へ向けて出発した。夜が明けて、明るくなると森へと着地する。そこからは歩きで北上した。数日かけて、朝の一時だけを低空飛行、その後は徒歩で北上を繰り返す。


「もう大丈夫だ、恐らく国境は超えただろう、竜騎士の姿も最近は見てないしな」

「ようやく飛べますね」


【やっとワイバーンらしく出来るわね】

【ほんとっ! ここ数日なら私達、牛もどきと変わらなかったもんね】


「明日は朝から飛んでロンデリーヌへ向かう」

 

 王子の宣言通り、翌朝日の出と共に、シン達は久しぶりに空の人になった。




【ねえシン!! 見てみて! 朝ごはんが走ってる!!】

【うひょぉ~ ごはんだぁ!!】

【もう無理、絶対に食べる!】


 三人娘達は、群れで走る牛もどきを見た瞬間に、飛び掛かった。シンも、今まで我慢してくれたいた三人娘達を止める事はせずに、好きにさせた。今迄言う事を聞いて、我慢してくれていた事に感謝しながら。


 腹を空かせたドラゴンに出会ってしまった牛もどきの群れは、これまで経験した事が無いほどに、不幸だった。久しぶりの食事にありついたドラゴン達は、あっと言う間に牛もどき数匹をたいらげた。


【いやぁ~ 食べた食べた】

【うんうん、満足したぁ~】

【ゲップ、もう食べれないよ】


 そんな三人娘を苦笑いで見ながら、シン達も牛もどきをおすそ分けしてもらって食べている。


「よし、ここからは一気に行くぞ」


 王子のその言葉で、再び空の人となったシン達。夕方になり、ロンデリーヌの街が見えて来た。



(はぁ~ やっとついたな)

 

 しかし、シン達の見た街は、ゴーストタウンとなっていた。街に降り立つシン達。


 住民の姿は無く、焼け落ちた街の姿がそこにはあった。


「殿下……これは……」

「ああ、酷い物だな」


 茫然とするシンとマティス。


【真っ黒ね】

【うん、真っ黒焦げだ】

【ボロボロね】


 三人娘達は、そんな感想を漏らす。


【シン様!! 人族が居ます!!】


 ルイーズの警戒した声と共に、一人の兵士が駈け込んで来た。


「死ねぇ!帝国兵め!!」


 突然、兵がマティスに切りかかる。しかしマティスを狙った兵士の剣は、虚しく宙を舞った。マティスは咄嗟に兵士の剣を、剣で弾いたのだ。


「殿下?! マティス殿下?!」

 シンは慌ててマティスの前に立つと、剣を構える。マティスに剣を飛ばされて尻餅をついた兵士。シン達を囲む様に、何処から現れたのか続々と騎士達が集まって来た。


「マティス殿下! おさがり下さい」

「いや、大丈夫だよシン」


 シン達を囲んでいた騎士の一人がポツリと呟いた。


「マティス殿下だと?!」

「ま、マティス殿下?!」



 シンの言葉に驚き、騎士達は思わず片膝をつく。マティスは、そんな騎士達を見る。


「責任者は何処だい?」

「ハッ! 私でございます。 コロンナ侯爵家騎士団長、ヘルメスと申します」


「ではヘルメス殿、この状況を説明してくれるか?」

「え? 説明と申されましても……」


「ああ、僕たちは今エラン王国から飛んできたばかりなんだよ、状況がまったくわからないんだ」

「エラン王国ですと?!」


「そう、同盟終結の使者として出向いてたんだ。そしたら酷い裏切りにあってね、なんとかエランを脱出して来た所さ」

「そうでしたか……」


 騎士団長は、これまでの経緯を説明した。帝国の竜騎士の奇襲によって、ロンデリーヌの街が壊滅した事。そして西の砦が孤立してしまった事。


 現在エラン王国と、フロストで睨み合いが続いている事。


「早馬の伝令による情報ですので、今は状況が動いている可能性はありますが……」

「そうか、やられたのは、ロンデリーヌだけなのか?侯爵や市民はどうしたのだ?」


「侯爵閣下及び嫡男のムック様はお亡くなりになられました」

「そうか……」


「はい、市民達を避難させようとしてその時に……しかし、アンナお嬢様はご無事です」

「それだけが救いだな……」


 アンナとはこの領地を治める侯爵の娘。貴族なので当然マティスは知っている。


「この街には地下壕がありますので、市民と騎士団の1/3はやられましたが、被害はそれだけでなんとかなりました」


 ここ、ロンデリーヌは帝国との国境に近い街の為に、緊急避難用の地下壕が設置されていた。竜騎士部隊による攻撃から一時的に避難する為の物だ。


「それと、サンスマリーヌにも竜騎士が攻撃を行った様です」

「なんだって?!」


 驚きの声を上げたのはシンだ。


「それで、シルフィード嬢や、街の皆は無事なのか??」

「それが……詳細は分かりかねますが、あの街には地下壕がありませんから……こちらより酷い状況の様です」


「そんな……」


 シンは言葉を失った。


 ガックリと項垂れるシンを横目に、王子が騎士団長へと声をかける。


「悪いが今日はここに泊らせてもらう、明日、俺達は王都へ出発する」

「ハッ! 直ぐにお部屋を用意致します」


 騎士達は、急ぎ準備へと向かった。


「シン? 大丈夫か?」

「くっ……サンスマリーヌには、知人が沢山います」


「わかっている、明日はサンスマリーヌ経由で、王都へと向かう」

「はい……」


 夜になって、マティスの部屋を訪ねる騎士隊長と、侯爵の娘アンナの姿があった。


「殿下、お願いがあります、アンナお嬢様を一緒に王都まで避難させては頂けませんか?」

「一緒にと言う事は、ドラゴンに乗ってと言う事か?」


「はい、ここでアンナお嬢様にまで何かあれば、侯爵家はおしまいです、どうか、どうかお願い致します」

「わかった、アンナ嬢はそれで良いのか?」


「はい、マティス様。私がここで倒れたら、私を逃がして下さった、お兄様やお父様に申訳が立ちません」

「わかった、明日シンに聞いてみるよ。しかし希望に答えられない場合もあるので、それは覚悟しておいてくれ」


「そうれはどういう事でしょうか?」

「ドラゴンに乗るには、何か制約みたいな物が在るらしいのだ、俺も詳しくはわからないが、竜族の使者であるシンならそれがわかる。明日、シンに確かめて、問題無ければ一緒に王都へ行こう」


「よろしくお願いします」


 アンナと騎士隊長は深く頭を下げた。



 その頃、シンはシルフィードやアビスの事を考えていた。

(無事でいてくれ)


 その日、シンは眠れぬ夜を過ごした。









 ――――――― ジラール王国 国境の街 フロスト


 シン達がロンデリーヌの街に到着した翌日。


 フロストの街は早朝から炎に包まれていた。50騎の竜騎士がフロストの街を急襲した。


 それに呼応する様に、エラン王国軍が前進を開始したのだ。


 竜騎士達の第一次攻撃をなんとか凌いだジラール王国騎士団。フロストの街を取り囲むエラン王国軍と、籠城戦を開始した。


「ちっ、なかなかシブトイではないか」

 

 そう言ったのは、エラン王国侵攻部隊の将軍、「ムスト」だった。籠城戦に徹した戦いをされては、現在の兵力比では落とすことが出来ない。その為の竜騎士部隊による攻撃だったが、ジラール王国軍は、竜騎士の攻撃を耐え凌いで反撃に転じていた。


「将軍、第二次攻撃隊の準備が整いました」

「うむ、では第二次攻撃隊、突撃せよ!」


 将軍の言葉が伝わると、後方から再び竜騎士部隊が飛び立った。


 しかし、今回は第一次攻撃とは異なり、ワイバーンは全て二人乗りだった。フロストの城門に殺到した竜騎士部隊は、次々とファイアボールで城門を攻撃した。50匹のワイバーンによる攻撃に耐える事が出来ずに、城門は破壊される。竜騎士達は、そのままフロストの市街地へと向かう。


 そこで次々と騎士達を降ろし始めた。


 市街地の広場に、ファイアボールで安全を確保し、騎士達を街中の奥深くに降ろしたのだ。


 市内はパニックになる。籠城戦なので、多くの兵は城門や塀の上に配置されている為、市内は手薄だった。


「帝国騎士団」の精鋭部隊が市内に降ろされ、領主の屋敷を目指して行く。





「閣下! 第二次攻撃隊、予定通り突入部隊を降ろした様です」


 側近の報告に満足そうに頷いたムスト将軍。


「全軍! 突撃ぃぃぃぃぃ!!!」

 将軍の掛け声と共に、エラン王国の騎士団が城門に殺到する。


 ジラール王国騎士団は、混乱を極めた。領主の館では、特攻してきた帝国騎士団と戦い、とてもではないが、戦闘指揮など取れる状態では無かった。城門は破壊され、エラン王国がなだれ込んで来る。


 騎士達を降ろした竜騎士部隊は、突撃するエラン王国部隊を掩護する為、上空からファイアボールを撃ちだす。あっと言う間に市内はエラン王国兵で溢れかえった。





「くっ……ここまでか」


 領主の館で、多くの帝国騎士団に囲まれた、ジラール王国西方騎士団長は、諦めの言葉を吐いた。既に市内はエラン王国軍の略奪が始まっている。


 騎士団長と側近の部下5名は、帝国騎士団と睨み合いをしていた。


「投降しろ! 命だけは助けてやる。 お前たちほどの使い手なら、帝国でも重宝されるはずだ、ここは大人しく投降しろ」


 既に帝国の精鋭部隊を何人も切り伏せた騎士団長。帝国騎士も、これ以上被害を増やしたくなかった。


「団長!」

「ああ、行くぞお前達!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 ジラール王国、西方騎士団長は、部下達と共に帝国騎士団へと切り込んでいった……



 その日、ジラール王国フロストは、帝国エラン王国連合軍によって、陥落した。







 フロストの街で戦闘が行われているその頃、シンとマティスとアンナは「サンスマリーヌ」の街へ向けて飛行していた。アンナは、王家の血を引いていた。この国の貴族なので、王家の血が混ざっていてもおかしくはない。


 貴族なので、血の濃い薄いの違いはあれど、多かれ少なかれ王家の血が混ざっている者は多い。アンナの波動は、不快な物ではなかった為、王子と一緒にルイーズに二人で騎乗していた。


 シンの表情は暗い。


【ねえねえシン? 大丈夫?】

 リネが気を使ってくれている。


【うん、大丈夫だよ】


 暫く飛ぶと、サンスマリーヌの街が見えてくる。


(やはり、ここも酷いな……皆、無事で居てくれ)


 上空から見た街は、以前のサンスマリーヌとは大違いだった。ロンデリーヌとは違い、こちらは街中にチラホラと市民の姿が見える。シン達の姿を見た市民は、パニックになって逃げ隠れするのがわかる。帝国の竜騎士と勘違いして、慌てて逃げているのだろう。


 シン達は、領主の館へと着地した。


 領主の館に降り立つシンとマティスは、あっと言う間に騎士団に囲まれる。しかし、サンスマリーヌの騎士はシンの事を良く知っている。


「シン殿?! シン殿ではありませんか?!」

 騎士の一人がそう叫びながら、笑顔でシンの元へ駆けてくる。以前の調査隊に居た騎士の一人だとシンも気が付いた。


「お久しぶりです! 無事でよかった」

「シン殿もご無事で!」


 再会を喜び、握手を交わす二人。


「それで、シルフィードさんは? アビスは? 他の皆は無事でしょうか?」

「それが……」


「詳しい話は私がしましょう」


 騎士達の輪の中から、騎士隊隊長のエバンスが現れた。


「エバンス隊長!!」

 シンの顔が笑顔になる。


「シン? 悪いが……」

 放置されていたマティスがシンに声をかける。


「あ、失礼しました。 エバンス隊長、こちらはマティス王太子殿下です」

「殿下?! こ、これはとんだ失礼を……」


 エバンスを始め、騎士達全員が膝をついた。


「ここではなんですから、殿下、こちらへどうぞ」


 シンとマティスは領主の館へと入って行った。

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