03話 古代竜
相変わらずシンはドラゴン親子の巣で暇を持て余している。
ソフィーとメルは今日も狩に出かけて不在。
(なんか俺、ドラゴンに飼われているペットみたいだな)
そんな事を考えながら風呂に入っていた。活火山だけあって、洞窟内に温泉が湧いている場所があり、温度も丁度良いので俺は風呂に入っている。
(異世界か・・・・俺って向うの世界では死んだ事になっているのだろうか?)
既にこちらの世界に来てから一週間が経っていた。
シンはボーっと昨日の事を考えていた。
昨日、ソフィーからドラゴンの言い伝えについて話を聞いたのだ。彼女達が人間に変身出来る様になった言い伝えだ。
昔々、一匹のメス古代竜が大怪我をして、山の中で死ぬ寸前だった。そこへ一人の人族の男の魔導士が現れ、ドラゴンの怪我を治療した。治癒魔法を受けても、酷い怪我だったので暫くは安静が必要だったドラゴン。
人族の魔導士はそんなドラゴンを看病して、餌を与え、日々治癒魔法を掛けた。元気になったドラゴンは、その魔導士の恩に報いるために魔導士を背に乗せ、世界中を飛び回ったそうだ。
やがてドラゴンは人族に恋をした。
膨大な魔力を誇る古代竜は魔導士と協力をして、念願の人族へ変身する魔法を編み出した。そして、二人の間に子供が出来た。人間形態のままでお産は出来ず、ドラゴンの姿に戻り竜の卵を産んだそうだ。
生まれたドラゴンの子は、なんの苦労も無く魔力で人間形態へと変身出来る様になった。
それがソフィー達の祖先の始まり。
「人とドラゴンのハーフねぇ」
「言い伝えだから、本当の事かどうかは、わからないわ」
「でも変身出来るのは人族だけなんでしょ? じゃあ案外本当かもね」
「そうね・・・人族と交尾をして子供もできるし、本当なのかも」
「へ? 人族と交尾??」
「ええそうよ、メルの父親は人族のオスよ」
「マジ??? って事は・・・ソフィーは人族の男と・・・・」
「・・・・変な事考えてるでしょ? 踏みつぶすわよ」
「・・・・それはシャレにならないからヤメテ・・・」
「でも、不思議な事に人族との交尾で出来るのは、メスだけなのよね、オスは生まれないのよ」
「そうなの? じゃあソフィーの種族はメスしか居ないの?」
「人族とじゃなく、ドラゴン同士で交尾をするとオスもちゃんと生まれるわよ、まあそれでもオスが産まれて来る確率は低いけれど」
「ドラゴン同士から産まれた子供は変身出来るの?」
「ええ、オスでも変身できわね。オスかメス何方かが人族に変身する能力があれば、子供は変身できるわ」
「そうなんだ・・・・ちなみにドラゴンのオスと人族のメスが交尾すると?」
「人族の子供が出来るわよ。その場合はオス、メスどちらも出来るらしいわ、そして人族としては異常なほどの魔力量を保有しているそうよ」
「そうなんだ・・・ドラゴンとのハーフだしおかしくは無いか・・・まさかドラゴンには変身できないよね?」
「うん、それは無理ね。シンの魔力量も凄いから、私は最初ドラゴンのオスと人族のメスの間に出来た子だって思ったのよ」
「なるほど・・・それが俺を助けた本当の理由なんだ?」
「・・・・そうね、何処かのドラゴンの子だったら見過ごせないじゃない?」
「でも、俺の居た世界にはドラゴンは居ないから・・・」
「そうみたいね・・・あとはシンの魔力の波動がね、とても私達ドラゴンには心地良いのよね」
「あ~、それメルも言ってたな」
「そう・・・・あの子も・・・・」
「俺にはよくわからないけど、心地よいって事は、不快な波動もあるの?」
「あるわよ、基本的に人族は不快な波動の持ち主が多いわね」
「そうなんだ・・・・」
「でも稀に、シンほどでは無いけど優しい波動の人族も居るわ」
「それって、メルの父親?」
「・・・そうよ、あの人も優しい波動の持ち主だったわ」
「人族と交尾して子供が出来るなら、ソフィーの種族って結構な数が居るの? ドラゴンって希少種かと思ってた」
「いいえ、人族のオスと交尾をしても、人族にかなりな魔力量が無いと子供は出来ないわ。それに心地良い波動の持ち主でないと、交尾なんて絶対に嫌だから、人族と交尾すること事態が奇跡みたいな物ね」
「そうなのか・・・・」
「だから結局、私達の種族はそれほど数は多くないのよ」
(なるほど、まあ古代竜がウジャウジャ居ても、生態系のバランスが崩れるか)
「ちなみに、メルの父親って何処に居るの?」
「さあ・・・もう50年も前の話だし・・・・人族だから生きていないかも」
「50年??? って事は・・・メルって50歳なの?」
「そうよ・・・・何歳だと思ってたの?」
「いや・・・まだ十代かと・・・・」
「人族と私達の成長は異なるから・・・そうねぇ、人族で言うとメルはやっと子供が産める体になって、これから成人するくらいかしら」
(なるほど・・・・やはり人族になった見た目とあまり変わらないか)
「こっちの世界の人族って、何歳で成人なの?」
「さぁ・・・・詳しくはわからないけど・・・15年程度だったかしらね・・・」
人族社会にそれほど興味が無いソフィーの答えは曖昧だ。
(それにしても・・・ソフィーが人族と交尾していたとは・・・・これはひょっとすると・・・ひょっとしちゃう?)
「ところで、シンは何歳なの?」
「え? 俺は25歳だけど」
「そうなの?、思ったより歳なのね? もっと若いのかと思った」
「そういうソフィーは何歳なの?」
「・・・・・・・・・踏みつぶしても良いかしら?」
「げっ・・・・・やっぱり女性に年齢を聞いちゃいけないのは、人族もドラゴンも一緒みたいだね・・・」
「その通りよ、ちなみに私達の種族は800歳ぐらいが寿命ね」
「800??? そうなんだ・・・・」
「人族は魔力量によって寿命が異なるそうよ、でも良い所100歳程度かしらね」
「へぇ・・・俺の世界もまあ、長生きな人はそれぐらいなので、変わらないか」
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『バサッ バサッ バサッ』
羽音が洞窟に響き渡り、メルが帰って来た事がわかった。風呂に入りながら、昨日のソフィーとの会話を思い出していたシンは我に返る。
温泉空間へ人間の姿のメルが走ってやってきた。
「シン―? またお湯浴び?」
「ああ、だって他にやる事無いしな」
「そっか、今日はねぇ~ ガガド巨鳥を捕って来たよ!」
「そうなんだ・・・じゃあ今日は焼き鳥だな」
そんな会話をしていると、ソフィーが帰って来た羽音が響いてきた。
「ソフィーも帰って来たか、さて飯にしよっか」
「うんっ!」
夕食の時間となり、居間と思われるスペースには、なんとか巨鳥の死体が山の様に・・・・
シンは一匹だけ分けてもらって、ドラゴンブレスで丸焼きとなった鳥らしき物体を食べる。ソフィーとメルは、ドラゴン形態のまま丸かじりだ・・・・
「バリ、ボリ、ムシャムシャ」と嫌な音が響き渡るが、そこはあえて無視だ・・・見たら負けだ、見ると食欲が一気に無くなる。
最近、やっとこの環境に慣れてきたが、慣れて来た自分が怖い気もする。食事が終わると、ソフィーが部屋に鎧を持ってきた。
人間サイズの鎧と剣、そして盾。
「母様? それは父様の?」
メルが持ってきた鎧一式を見てそう言った。
「シン? あなたにサイズがあうかしら?」
どうやらこの装備一式をシンに渡すつもりらしい。
「俺にですか? でも良いの??」
「かまいません、どうせ置いてあっても誰も使いませんし、メルも良いわよね?」
「うんっ! シンが使えるなら、私はいいよ!」
メルの父親の形見と思われるを防具一式を受け取ると、早速装備してみる。初めて着る鎧に手間取りながら、ソフィーとメルに手伝ってもらいながら装備する。鎧は皮鎧なので、見た目ほど重くは無く、剣も予想より軽かった。
片手装備の剣と盾を持ち、ポーズを決める。
「あはは、人族の兵隊みたいだ」
「よく似合ってますよ、シン」
二人から似合ってると言われて、シンはやっと異世界っぽくなって嬉しくなる。
「でも、突然どうしたのですか?」
「シン、あなた昼間暇を持て余しているでしょ? メルと一緒に狩に行ってはどうかしら?」
「うんうんっ! 一緒に狩に行こうよっ!」
「いやでも・・・・」
「あとは、これを・・・・」
ソフィーは馬の鞍の様な物を持ってきた。
「これはメルの父親を、私の背中に乗せて飛んでいた時に使っていた物です」
「背中に乗せて・・・飛ぶ・・・」
「これを使用すれば落ちる事はありません、明日からメルと一緒に狩に行き、この世界を見て来ると良いと思わ」
その言葉に一気にシンのヤル気が出る。
「ありがとうソフィー、そうだね、この世界を見て来るよ!」
どうやらソフィーは、昨夜メルの父親の話をした時に、この装備の事を思い出したらしい。今迄すっかり失念していたそうだ。
こうしてシンは、初めてこの世界を見る事になった。