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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
29/46

29話 各国の思惑と決意

 メルは、癒しの力を使って、日々自分の体を治療している。


 そして、最近ようやく体が動かせる様になってきていた。そんなメルの元にアルフォンスがやって来た。


 アルフォンスは嫁達の目を盗んで、3日に一度ぐらいの割合でやってくる。もっとも、それほど長居する訳では無く、5分程度で帰っていくのだが。


「やあメルフリード、僕のお嫁さんになる決心はついたかい?」

「嫌よ、私がなんであなたと結婚なんてしないといけないのよ」


「そう言っても、君と釣り合う年齢のオスは、僕しか居ないんだ、そろそろ現実を見たらどうだ?」

「別にあなたと結婚しなくても、他に相手は居るわ」


「ふぅ……それは人族の事を言っているのかい? 君の母親もそうだけど、人族なんかとよく結婚する気になるよね」

「それは私の勝手でしょ? それにあなたには、二人も奥さんが居るじゃないのよ!」


「まあ確かにそうなんだけれどね、でもメルフリード。君ほど美しいドラゴンは他には居ない。僕は絶対に君を手に入れたい」

「それ、奥さん達の前で言ってみなさいよ……」


「あはは、流石にそれは無理だ」

「私は決めたの! シンと一緒に居ると、毎日が楽しくてしょうがないもの!」


 そう言ったメルフリードの声は明るい。シンの事を話す時のメルは、本当に楽しそうだ。しかし、アルフォンスから見ると、それが嫉妬心を煽る行為以外の何物でも無いのであるが。


「そんな事より、母様は何処にいるのよ?」

「この洞窟からそう遠くない場所さ、僕がマエルさんの為に、洞窟を一つ掘ったんだ、ソフィーリアさんはそこに居るよ」


「母様は無事なのね?」

「うん、マエルさんは今自分の山に帰ってるからね、お世話をするドレイクドラゴンを一人残しているよ」


「そう、無事なら良かった」


 ソフィーが無事と知って安心するメル。


「さて、僕はそろそろ行くよ、君は僕のお嫁さんになる決心を早めに固める事だね、僕は無理矢理って言うは、好きじゃないんだ」

「だから、ならないって言ってるでしょ?」


「君は、本当にその人族と結婚するつもりなのかい?」

「……そんなの、シンがなんて言うかわからいもの、今はまだわからないわ」


「そうか……その人族のオスが居る限り、君は僕に振り向いてくれないんだね……」


 アルフォンスは独り言の様にそう呟くと、メルの監禁部屋を出て行った。






 ――――――― エラン王国の森



 シンとマティスは、川で水浴びを終えて、食事をしている。


 マティスは返り血を浴びて、全身真っ赤になっていたので、川で血を洗い流していた。ドラゴン娘達も、一日ゆっくり休んで、とりあえずは落ち着いている。


【それにしても、まさか走って狩をする事になるとはね……】

【うんうん、流石にこれはびっくりね】

【走ると、牛もどきでも、強敵になるのね】


 三人娘はそんな事を言いながら、牛もどきを食べている。


 森の上には、時々竜騎士の偵察部隊が飛んでいる。シン達を捜索しているのだろう。


 ドラゴン娘達は、目立たない様に空は飛ばずに走って狩をしていた。ワイバーンが物凄い勢いで走って来るので、野生動物たちは、その方に驚いている様子だった。


「それにしても、エラン王国が裏切るとは……」

 王子はショックを隠し切れない様子だ。


 エラン王国が裏切ったとなれば、帝国の侵攻に耐える事が出来なくなる。


「エルディアは、どう動くかな……既にそちらも裏切っているのだろうか……」

 ルイーズにブレスで焼いてもらった、牛もどきを食べながら、マティスがブツブツ言っている。


「どちらにしても、一刻も早く戻る必要がありますね」

「そうだけど、国境は固められているんじゃないかな?」


「別に空を飛んで行けば良いので、問題にはならないと思いますが」

「竜騎士部隊がどれぐらい配置されているかによるね、シン? どの程度なら戦うことができる?」


「そうですねぇ~、同数ならなんとか、それ以上だと厳しいかもしれません」

「だとすると、国境の強行突破は厳しいかもしれないね」


「夜間移動して、夜に一気に国境を越えましょう」

「そうだね、そうしよう」


 シンとマティスは、夜の移動に備えて、昼は寝る事にした。シンはリネ、マティスはルイーズに寄りかかる様にして、眠りについた。








 ――――――― ジラール王国 テトの家。



「ねえねえお父さん? ドラゴンさんがいっぱい飛んでるよ」

「ん? ドラゴンがいっぱい?」


 畑仕事をしていたテトは、娘の言葉で空を見上げた。


「こ……これは……」


 テトが見上げた先には、帝国の竜騎士が30騎以上、サンスマリーヌ方向へ飛んでいくのが見えた。


「モニカ!! モニカ!!」 

「どうしたのあなた? そんなに慌てて」


「直ぐに荷物を纏めるんだ、森に籠る準備をするぞ、帝国と戦争になったかもしれん」

「え? わかりました、直ぐに準備します」








【シン様! シン様!!】

【ん? なんだいルイーズ】


 森で寝ているシンへルイーズが念話を送って来た。


【申し訳ありません……囲まれています、気付くのが遅れました】

【なんだって?】


 シンが目を開けると、既に王子も起きていて、シンを見て頷いた。


【リネ! ルカ! ゾエ! 起きてるか?】

【なぁにぃ? シン?? まだ眠い……なにこれ? 人族でいっぱいだ】


 どうやら三人娘も、昨日の徹夜の戦闘の影響で、疲れ切って寝てしまったので、気付くのが遅れた様だ。


【こちらを囲む様に、人族の兵がゆっくりと近づいてきます、距離は50ぐらいです】

【ワイバーンは居るか? 竜騎士は?】


【ここからではわかりません】


 時刻は夕方になっている。太陽が山の向うへ沈み始めた頃合いだ。エラン王国の兵たちは、森の中をゆっくりと進んでいる。


 シンからは、兵士たちの姿はまだ見えない。


【25mまで近づいたら、ファイアボールとブレスを一斉射撃して、一気に上空へ逃げるぞ】

【かしこまりました】


 王子とシンは、それぞれのドラゴンに騎乗する。


『気付かれたぞ!! 逃がすなっ!!!』


 兵の声が上がり、一気に兵士たちが駈け込んでくる。どうやら騎乗したのがバレてしまったみたいだ。


 ルイーズがブレスを放ち、三人娘がファイアボールを撃ちだした。森の中で大爆発が起きて、敵の兵たちが吹き飛ばされる。


【待てみんな! 竜騎士が居る、飛んだら狙い撃ちされるぞ!!】


 シンは森の木と木と間から竜騎士の姿を見た。慌てて飛び立った所を狙撃するつもりの様だ。森の中なので、ホバリングモードでゆっくりと飛び上がるしか無い為、そんな事をしたらよい的だ。


【えぇぇぇ? じゃあ どうするのよ?!】

 リネが叫ぶ。


【走れ! 走ってまずは兵を蹴散らすぞ!!】

【オリャオリャオリャオリャ!! オリャァーーーーーー!!!】


 ゾエは叫びながら、人間の兵隊を蹴散らしていく。


 ワイバーンが物凄い勢いで走って来るので、兵たちは逆に慌てて逃げ始めた。


【さっきから私達、走ってばかりね! これじゃぁ地竜になった気分よ おりゃぁ!】


「に、逃げろぉ~!!」


 兵士たちに先ほどまでの威勢は無く、ドラゴンが走って来る迫力に負けて逃げ始める。上空の竜騎士達は、木が邪魔をして、こちらの場所を特定できないようだ。味方への誤爆を懸念して、ファイアボールは撃ってこない。


【リネ、上空の竜騎士を狙撃できるか?】

【できるよ!】


【じゃあ頼む!】


 兵達が逃げ始めたので余裕のできたシン達。


 森の中の様子を見ようと、低空に高度を下げてきた竜騎士に、リネのファイアボールが炸裂した。


『ドドン!』


 一匹のワイバーンの翼に当たり、炎に包まれながら森に落ちる竜騎士。墜落した竜騎士は、慌ててワイバーンから降りようとした。


 羽が燃えているワイバーンは痛みで暴れている。しかし、竜騎士の目の前には、口を大きく開いているルイーズの姿が見えた。


「なっ?!」

『ゴォォォォォォォ』


 ルイーズのブレスで消し炭になるワイバーンと竜騎士。



 上空の他の竜騎士は、森からの突然の攻撃に慌てて距離を取る。上空へ高く舞い上がった。


【このまま森を走り抜けて、低空で飛ぶんだ!!】

 ドラゴン娘達は、森の中を全速で走り出す。


 森が途切れると、助走のまま翼を広げて、低空で飛び上がる。高度5m程度の高さで、翼を広げて速度を上げるドラゴン娘。


 振り返ると、森の上を飛ぶ3騎の竜騎士の姿が見えた。こちらに気が付き、慌てて追いかけてきている。


【回避!】

 竜騎士からファイアボールが打ち出される。


 リネとルイーズ、ルカとゾエは、低空のまま綺麗に二手に分かれた。左右に分散すると、先ほどまで飛んでいた場所にファイアボールが着弾して大爆発を起こす。


 方向転換をして、竜騎士に向かうと、リネとルイーズの方に一騎の竜騎士が向かってくる。


 ぐんぐんお互いの距離が縮まる。


【お? 2対1でやるつもり?】

 リネがそう言ってファイアボールを撃ちだす。


 竜騎士は難なくファイアボールを回避するが、回避した先にルイーズのブレスが炸裂した。すれ違いざまに、炎に包まれてていく竜騎士。


【ナイス! ルイーズ!!】

【どういたしまして】


 空を見上げると、ルカとゾエが残りの竜騎士と空中戦を行っている。シン達もそちらへ援護に向かう。


【ちょっと コイツしつこいわね】

 ゾエの後ろにピタリと付いて離れない竜騎士。


 敵はファイアボールを撃ちだすが、それを避けながら、逃げの一手のゾエ。


【背中が、がら空きよ】

 リネはゾエを一生懸命追いかけている竜騎士へ、更に後方から狙撃する。ゾエを追っていた竜騎士は、あっけなく炎に包まれた。


 一方のルカは派手に撃ち合いを行っている。正面からお互いに撃ちあっては、お互いに回避して、なかなか決着がつかない。


 ルイーズも加勢しようとするが、ルイーズのブレスで空中戦は不得手だ。射程が短いので、かなり接近しなくてはいけない。


 そこへ王子が魔法を行使した。


 マティスの放ったウインドカッターが、見事ワイバーンに乗る竜騎士の上半身を切断した。竜騎士を失ったワイバーンは、一瞬動きを止める。


 その隙を逃さずに、ルカのファイアボールが見事に命中して、竜騎士は墜落していった。


【へぇ、この人族もなかなかヤルじゃないの!】

 ルカは王子の機転の利いた攻撃に、関心している。


 空には、もう竜騎士の姿は無い。


【よーし皆! このまま一気に国へ戻るぞ!!】

 4匹のドラゴン達は、国境を目指して飛んで行った。








 ――――――― ジラール王国 領都 サンスマリーヌ



『逃げろーーー!』

『帝国軍だー 逃げるんだーーーー!!』


 サンスマリーヌは、炎に包まれていた。


 30騎を超える竜騎士部隊が、サンスマリーヌの街へ、無差別攻撃を仕掛けている。


 その日、多くの騎士、魔術師、市民を巻き込んだ竜騎士の攻撃で、多大なる被害を出し、サンスマリーヌの街は都市としての機能を失いつつあった。






 ――――――― エルディア王国 王都 ルクセンルクス




 王宮の謁見の間には、帝国からの使者が来ていた。


「さて、国王陛下、決断して頂けたでしょうか?」

「いや、しかし……」


「まだ迷っておられるのですか? エラン王国は我が帝国に降りました。いくら足掻いても無駄な抵抗なのはお分かりでしょう? 残された道は二つに一つです。このまま我々帝国と戦い滅びるか、姫を差し出して帝国の庇護下に入るのか。三カ国同盟等とふざけた事をやって居るのにも関わらず、姫を差し出すだけで許してあげようと、我が皇帝のなんと寛大な心でしょう、それを踏みにじるつもりですかな?」


「くっ……姫を差し出す以外に、何か条件は無いのか?」


 エルディア王国の国王はまだ28歳。第一王女8歳と王太子5歳の二人の子供が居る。帝国はエルディア王国へも使者を出していた。三カ国同盟で、なんとか帝国に対抗できると考えて居た矢先に、エラン王国の裏切りが行われた。


 これで帝国に対抗できる術は無くなってしまっている。しかし、帝国に降れば8歳の娘を引き渡さないといけない。


 引き渡された娘がどうなるのか、その末路は嫌でも知っている。従って素直に帝国の軍門に降る訳にはいかなかった。




 帝国は「ドラゴンと契約した」と宣伝するジラール王国の噂に頭を悩ませていた。その噂が大陸全土を駆け巡り、「ひょっとしたら」そう思った人間達の謀反未遂が多発したのだ。


 今迄力でねじ伏せてきた帝国にとって、竜騎士部隊に対抗できる力を持ったジラール王国の噂は、頭の痛い種だった。帝国占領下のあちらこちらで、反抗的な態度が見受けられるようになったのだ。


 そこに、今度はジラール王国の使者がやってきた。


「古代竜の怒りに触れたので、竜騎士を廃止せよ」と言って来た。


 これに皇帝は怒り狂った。自分達はドラゴンの力を手に入れたと宣伝し、こちらには竜騎士を廃止せよと言ってきたのだ。帝国は密偵を使ってジラール王国を探った。本当にドラゴンの力を手に入れたのかを探るために。


 噂では古代竜レッドドラゴンの力を手に入れた事になっている。


 しかし、密偵の報告では、実際にジラール王国に居るのは、ドレイクドラゴン1匹とワイバーン3匹と報告を受けた。この報告に更に頭に来た皇帝。


「たったの四匹だと? バカにしやがって!!」


 従って帝国としては、コケにされたと思い、さっさとジラール王国を潰す事にした。本来ならば、西側の「エルトス王国」を打ち破ってから、東へ侵攻する予定だったが、皇帝の逆鱗に触れた以上、放っては置けない。


 エラン王国に対しては、軍門に降れば最初から1等国民として扱うと打診していた。その条件として、エラン王国の軍でジラール王国を打ち破る事。これが条件だった。


 準備が整っていない為、東側で大きく軍を動かす事の出来ない帝国は、エラン王国を使ってジラールを落とす算段に出る。当然、エラン王国だけで難しいのは承知しているので、大規模な竜騎士部隊をエラン王国に貸す事にした。


 竜騎士部隊なら、西側から東側へ移動させるにも、大して時間はかからない。


 竜騎士部隊を借りる事が出来るなら「ジラール王国など恐れるに足りぬ」と言う訳で、エラン王国はさっさと裏切行為に走ったのだった。



「さあ、お返事を陛下」

「しかし……」


 エルディア王国の王宮では、最後通告だと言わんばかりに使者が国王に迫る。


「貴族の娘や姫を差し出せば全て丸く収まるのですよ? 何を迷う事があるのですか?」

「しかし、娘はまだ8歳だぞ」


「それが、どうかしたのですか? 8歳の娘がオークに犯される、これ以上の見世物が他にあるでしょうか? くくく、帝国の変態趣味を持つ貴族たちは嬉々として喜んでいますぞ、だからこそ、それだけで許してやると言ってるんだ。どうせ戦争になれば殺される、それならば有効利用した方が良いと言う物ではありませんか?」


「き、貴様っ!!」

「さあ、そろそろ決断してくれませんかね?」


「我慢ならぬ……」


 そうポツリと呟いたのは、国王の後ろに控えていた近衛騎士隊長。


 突然檀上からツカツカと歩き出した。


「な? なんだ貴様は?」

 目の前に歩いてくる騎士に、驚きの声を出す使者。


 近衛騎士体長は、無言で剣を抜くと、そのまま使者を切り捨てた。ドサリと音がして、使者が崩れ落ちる。


「なっ……??!!」


 その場に居ただれもが、驚きのあまり声を出せないで居る。


「陛下、もう良いでしょう?……この様なヤツラの言う事を聞いて、本当に姫様を差し出すつもりですか?」

「しかし……」


「戦いましょう、姫様を惨たらしく死なせるより、帝国と戦って散った方が100倍マシです」

「そうだ! 戦いましょう陛下!!」


 周りに居る騎士達から、賛同の声があがる。逆に青い顔をしているのは文官達。


「わかった、使者も死んだ事だし、他に選択肢も無いか……」

 切り捨てられた使者を見て、ぼそりと呟く国王。


「ジラール王国へ使者を出せ! 共に帝国と戦うとな!」

「ハッ!」


 国王は近衛騎士隊長を見る。


「済まぬな、俺が決断できなかったばかりに、お前の手を煩わせた」

「いえ陛下、勝手な事をして申し訳ありません」


「もう済んだ事だ」

「それで殿下と姫様ですが……」


「うむ、ボルドー共和国へ密使をだせ、出来れば二人を匿ってもらえないか打診してみるのだ」

「ハッ!」


 こうして、エルディア王国は帝国との戦争を決意した。

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