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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
28/46

28話 孤立

 冷たい洞窟の中で横たわるソフィー。


 目が覚めると、そこには紫竜の「マエル」が居た。


「うぅ……マエル、あなたは自分が何をしているのか、わかっているのですか?」

「お? 目が覚めたか?ソフィーリア」


「今すぐ私を解放しなさい、今ならまだ間に合います」

「くくく、残念だがそれは出来ないな、お前はずっとここで生活するんだよ、お前のガキもアルフォンスに捕まっているしな、お前達親子の事は、誰も気が付かないだろうよ」


「メルフリードが?!」


 ソフィーは怒りのあまり、マエルに飛び掛かろうとするが、体が思う様に動かない。


「無駄無駄、お前の魔力は封じられているからな、ここで大人しくしてろよ!」

 

 そう言って、尻尾でソフィーを頬を打った。『バチンッ!』と言う音が洞窟に響き渡り、ソフィーは倒れ込む。


「おっと、綺麗な顔が台無しになるな」

「くっ……」


「とにかく俺は一度戻らないといけねぇ、まったくルイーズのせいで嫁がうるさくてよ……とにかく、そこに居るドレイクドラゴンの言うことを聞いて、ちゃんと飯は食えよ。今度来た時は、たっぷりと可愛がってやるからな」


 マエルはソフィーの顔を掴むと、長い舌で「ベロリ」とソフィーの顔を舐めた。


「くくく、楽しみに待ってろよ」

 マエルは洞窟から出て行った。


 マエルが出て行ったのを見送ったソフィーは、自分の居る洞窟を見渡すと、一匹のドレイクドラゴンのメスがこっちを見ている。


「あなた、こんな事をして、どうなるかわかっているでしょ?」

「申し訳ありません、奥様。しかし、私達はマエル様には逆らえません、もし逆らえば、巣穴事マエル様に消滅させられていまいます……」


「もしこの事が、他の古代竜にバレたら、それこそあなた達も唯では済まないのよ?」

「わかっていますが……バレなければ良いのです。ですから大人しくして居てください」


「……」


 ソフィーは目の前のドレイクドラゴンの説得を諦めた。


 まだ時間はある、ゆっくりと説得すれば良いし、青竜あたりが異変に気が付くかもしれない。それよりも、メルフリードの事が気掛かりだった。


(メルフリード……)




 ◇◇◇


 アルフォンスに捕まっているメルフリードも、目を覚ましたところだった。


(くっ……痛い……)


 マエルの一撃は、メルフリードの骨の一部を砕いていた。体を動かしたくても、激痛で動かせない。


(魔力が……封じられてるの?)


 癒しの魔法を使おうとしたが、魔力が首輪に吸い込まれて、思う様に行使できない。


(でも、少しは使えそうね)


 メルフリードが最後に放ったブレスが、リングを掠めた時に一部の封魔石を破壊した様だ。リングには複数の封魔石がついている。その何個かは機能していない様だった。ほんの少しだけ、魔法の行使ができそうだ。


(時間はかかるけど、これで少しずつ傷を癒すしか無いわね)


 メルフリードは、ゆっくりと癒しの魔法で、自分の体を癒す事にした。


(それにしても、母様は何処へ連れていかれたのかしら?)







 ―――――――― 王都 サファリア


 シンとマティスが丁度、エラン王国の都市「ドランド」に到着した頃の王宮にて。


 今日は、シルフィードが王都へ遊びに来ていた。目的は、竜騎士に襲われた時の街の修復費用を、なんとか王家に負担させようと交渉に来たのが一つ。


 シンがなかなかサンスマリーヌへ戻って来ないので、様子を見に来たのが一つ。王女とのお喋りが一つと、色々な用事で来ていた。



 シルフィードが案内された部屋には、エリスとローラ、さらにビアンカが居た。


「お久しぶりね、皆」

 笑顔でシルフィードが挨拶をすると、それぞれに言葉が返って来る。


「いらっしゃい、シル」

「いらっしゃい、シルフィードさん」

「ご無沙汰しております、ウェストリア伯爵代行」


「うわ、ビアンカ固い。伯爵代行はヤメテ」


 笑い声と共に、シルフィードが応接セットの席に着くと、侍女がお茶を用意する。侍女が退出すると、年頃の娘達の会話が始まった。


「ねえエリス? シン殿は何処に居るのかしら?」

「え? シンなら居ないわよ、お兄様とお出かけ」


「うっそ? 何処に行ったのよ? せっかく会いに来たのに!」

 シンが留守だと聞いて、若干がっかりした顔をするシルフィード。


「シンならお兄様と一緒に、エラン王国だよ」

 ローラがシルフィードに教えた。


「え? エラン王国??? そんな遠くまで行ったの???」

「うん、お兄様と一緒にドラゴンで飛んで行ったよ」


「ドラゴンで飛んで行ったって??」

「お兄様もドラゴンに乗せてもらって、二人で飛んで行ったの」


「……」


 マティスがドラゴンに乗せてもらえた事に、衝撃的な顔をするシルフィード。


「まあ、驚くのも無理は無いわね」

 エリスがそう言うと、シルフィードが物凄い勢いでエリスに詰め寄った。


「それって、シン以外にもドラゴンに乗れるって事よね?」

「え、ええ……そうね」


「凄いわ! これは竜騎士部隊も夢じゃ無いわね!!」


 シルフィードは、シンを取り込む自分の計画が間違っていなかった事に、目を輝かせた。その後もシンの話題が中心で、娘達の話は進む。


「ところでさ、気になってるんだけど、エリスもローラも、シンって呼び捨てなのね?」

「そ、そうね……いつの間にかそうなったわね……」


 思わず目を逸らしたエリス。


「ん? なあにその意味ありげな態度は?」

「今、王宮の中では、シンさんとエリスさんは恋仲って話ですからね」


「ちょっとっ!! ビアンカっ!!」

 ビアンカの一言に、焦るエリス。


「ちょっと待って!! 恋仲ですって?? どういう事よ?!」

 物凄い勢いで食いつくシルフィード。


「だから、それは……お兄様の策略で、私とシンが恋仲で、婚約間近だって噂を流したのよ」

「殿下の? なるほど、殿下の考えそうな事ね、それで? そう言うって事は事実じゃないのね?」


「う、うん……」

 歯切れの悪いエリス。


「え? そうなの? 私は二人がお似合いだって思って見てたのよ?」

 ビアンカは、逆に驚いた様に言う。


「ちょっと待って! シンは私と結婚するのよ、お姉様じゃ無いわ」

 突然ローラがそう言い出す。


「え? 待って! ローラ姫と? いくらなんでもそれは……」

 ありえないって顔をするシルフィードだが、妙にローラは自信満々だ。


「シンは、若い子が好きなの、だからお姉様より私を選ぶはずよ」


(確かに、メルが人間になるとローラと同じぐらいよね……)


 妙にローラの自信を納得するシルフィード。


 しかし、エリスが少しムッとして、ローラを見る。


「でも、シンは私を抱きしめて「君の事は守る」って言ってくれたわ」

「抱きしめたっ??!!」


 驚くシルフィード。


「ええ、エリスさんとシンさんが王宮の庭で抱き合っていたのは、それはもう有名なお話です」

 ビアンカも肯定する。


「え? それなら私も言われたよ「僕はローラを守る」って、私もシンに抱きしめられたもん」

「「「えぇぇぇぇ? ローラも抱きしめられたの???」」」


 驚く三人。


「ちょっと待ってっ! 結局シンの事、二人はどう思っているのよ?」


「わ、私は……シンがどうしてもって言うなら、結婚してあげても良いけど……」

 エリスは恥ずかしそうにそう言うと、次にローラも口を開く。


「私も同じよ、シンがお願いするなら、お嫁さんになってあげても良いわ!」


「待って、二人とも王族なのよ? シンみたいな何処の馬の骨ともわからない人とは、結婚できないでしょ?」


「それは、きっと大丈夫よ……」「うん、たぶん大丈夫……」

「ねえ、二人のその根拠の無い自信はどこから来るの?」


「「……」」

「はぁ~ それにしても、困ったわね」


 思わずそう言ってため息を吐くシルフィード。


「困った?」

 ビアンカがその言葉に反応した。


「あっ……」

「ちょっと! 困ったって何が困ったのよ?、ま、まさか、あなたまで??」


 エリスが、シルフィードに詰め寄る。


「私は違うわよ! そっりゃぁ、シン殿からシルフィードさんは美しいとか、相手して欲しいとか言われたけれど……」

「相手して欲しい? それはどういう意味かしら?」


 エリスから殺気が沸き上がる。


「うん、私も詳しく聞きたいね」

 ローラもシルフィードに詰めよる。


「え? あ、いや…… それよりも、うちの魔術師の子がシン殿に入れ込んでね……」

「魔術師?」


「うん、屋敷にシン殿が居た時に、魔法を教えていた子なんだけれどね……」

「その子がどうしたのよ?」


「アビスって言う魔術師なんだけどね、どうやらシン殿に口説かれたみたいなのよ」

「し、シンに口説かれたですってっ????」


「う、うん……それで、シン殿はいつ戻って来るのかと、毎日うるさくてね……」

「本当にシンが口説いたの?」


「いや、本人はそう言ってたんだけどね……」

 あまりのエリス迫力にシルフィードは引き気味だ。


「何処に居るの? その娘は何処に居るのよ? 本当にシンが口説いたのか、確かめるわ!!!」

「いや、サンスマリーヌに置いてきたわよ……」


「早馬よ! 早馬を出しなさい!! その「アビス」とか言う娘を、今すぐ王都へ呼びなさい!」

「え? ちょっとエリス? 本気で言ってるの?」


「ウィステリア伯爵代行! 第一王女、エリスティーナとして命じます! 今すぐ「アビス」を王都へ呼びなさい! 査問会よ!! 査問会を開くわ~~!!!」


 そんな訳で、早馬が一騎サンスマリーヌへ向けて出発した。


「でも話を聞くと、シンさんって全員口説いてる気がしますね」

 ビアンカの一言。


「「「あっ……」」」


 今日も平和な王都であった……







 王宮のとある場所では、騎士達が訓練に励んでいる。


 その一角に、エリス専属近衛騎士隊長のラルが顔を出していた。


「二人の様子はどうだ?」

「ラル隊長でしたか、凄い物ですよ。ちょっと教え込んだだけで、もう使い物になりますよ、掘り出し物ですねあの姉妹は」


 そう言ったのは、「ルルカ」「ミオ」の戦闘訓練の教官。二人は戦闘訓練の真っ最中だった。


「そんなにか?」

「ええ、ちょっとお見せしましょう」


 教官はそう言うと、刃の潰したナイフをミオに向かって投擲した。


『キーン!』

 突然投げられたにも拘わらず、ミオは持っている小刀でそれをはじき返した。


「二人とも!」

 

 教官は自分の首に手を当てて、横に引く。首を斬れという合図を送った。


 二人は頷くと、訓練場に置いてある藁人形を見る。藁人形から5mほどの距離を一気に跳躍する。小刀を逆手に持って、二人同時に藁人形の首の前でクロスする。


 二人が通り過ぎた後の藁人形は、ポロリと首の部分から頭が地面に落ちた。


「……」声にならないラル。


「ね? 凄いでしょ? 元々狩人の父親と一緒に、森へ狩に入っていたらしいのですよ。ですから気配の察知と自分の気配の消し方も心得てますし、直ぐにでも実践配備できる実力がありますね」


「それは凄いな……」


 そう呟くラルの前で、二人は模擬戦闘を始める。


 相手の攻撃をバク転でかわしたり、バク中したりと、とんでもない身体能力の高さを見せた二人だった。


「ん? なんだ?」

 二人を見学をしていたラルは、早馬が掛けて行く事に気が付いた。


(何かあったのか?)


 ラルは二人の訓練場を後にした。







 エリスの暴走が落ち着いて、暫くしてから、部屋に近衛騎士隊長のラルが入って来た。


「失礼します、先ほど早馬が出て行ったが、何かあったのですか?」

「ラル! それがね……」


 シルフィードは事の次第をラルに説明した。


「はぁ~ エリス様! 税金の無駄遣いはおやめください」

 溜息を吐きながら、エリスに苦言を言う。


「だって……気になるじゃないの!」


 若干、やりすぎだったと反省のエリス。しかし、早馬はもう戻せない。


『コンコン』

 そこに別の近衛騎士が部屋に入って来た。


「隊長、こちらでしたか、実は大至急集まる様に、招集がかかりました」

「何? わかった、いますぐ行く」


 ラルは退出した。


 その後も色々な話をして、四人は一緒に昼食を取る事になる。昼食も終わり、食後のお茶を楽しんでいる所に、再度ラルがやって来た。


 しかし、先ほどとは違ってラルの顔は険しい。


「あらラル? どうしたの? 怖い顔をして」

 エリスは冗談っぽくそう言うが、ラルの顔は険しいままだった。


「エリス様、それとビアンカ様も、落ち着いてお聞きください」

「どうしたのかしら?」


 ビアンカも不思議そうな顔をする。


「エラン王国が裏切り、帝国の傘下となりました」

「え? エラン王国が?」

「あら、まあそれは大変……え? マティスは? あの人は今……」


 言葉の意味の重大性を理解していない二人だが、ビアンカは途中で気が付いた。


「ちょっと?! シンは今エラン王国に向かっているのじゃなかたったの???」


 シルフィードが勢い良く立ち上がり、持っていたティーカップを激しくテーブルに置いた。食器のぶつかり合う音が響き渡る。


「はい、シン殿とマティス殿下は、今エラン王国です。予定では今日にはエラン王国の「ドランド」という都市に泊る予定です」


 ラルの言葉に、ビアンカもエリスも言葉が出なかった。


「先ほど、エラン王国の密偵から連絡が届きました。既にエラン王国の王都には、竜騎士部隊が駐留しているそうです」

「そ、そんな……」


 言葉を失うシルフィード。


「更に、エラン王国は軍を既に我が国に向けて出発、帝国と共同で侵攻する準備に入っているそうです」

「な、なんですって?!」


 叫ぶシルフィードに対して、ラルは説明を始めた。


 王女である、エリス、ローラ、ビアンカは戦争の話には疎い。シルフィードは、事の重大性に気が付いている。


「随分と前から、用意していた様ですね……」

「やられたわね……シン殿と殿下は罠にハメられたと考えるべきね、こちらの騎士団は?」


「現在早急に出撃準備に入りましたが……間に合うかどうか……」

 ラルの声が虚しく響いていた。





 ―――――――― エラン王国 都市ドランド



 シンとマティスは、外から館に逃げ込んで来る、領主達を追いかけていた。


「シン、一人頼めるかい?」

「わかりました殿下」


 廊下を曲がると、先には領主と護衛の騎士が二人いた。騎士はこちらに気が付いて足を止めると、振り向いて抜剣して構える。


「ウインドカッター!」

「ハッ!」


 王子は魔法を使い、それと同時にシンは身体強化で一気に騎士へと距離を詰めた。


『ガキーン!』

 騎士とシンの剣と剣がぶつかり合う。


 王子の使った魔法は、もう一人の騎士の首を跳ねた。首が床に転がり、騎士の体が力なく倒れる。


『キン! キン!』剣と剣がぶつかり合う音が響く。

 シンと騎士は何度か剣を合わせるが、相手の実力の方がシンより上だった。


(くそ! こいつ強い)


 しかし王子が加勢に入り、王子は剣で騎士の首をあっけなく飛ばした。


「ふぅ、助かりました殿下」

「なぁに、良いって事さ」


「魔力は戻ったのですか?」

「いや、今の一発が精一杯だよ」


 そんな会話をしながら、二人は黙って立っている領主を見る。領主は顔に大量の汗をかいて、手がブルブルと震えていた。


「さて、中々面白い余興だったが、一つ確認した事がある、ゴルドール伯爵」

「くっ……」


「今回の件は、誰からの指示だ? エラン国王か?」

「……」


「なんだ、命だけは助けてやろうと思ったが、喋らないのなら、殺しても一緒だな」


 マティスはそう言って、剣を伯爵に向けた。


「ま、待て!!」

「これは国王の指示か? それとも伯爵の独断か?」


「こ、これは陛下の指示だ……俺は命令されてやっただけだ、だから……」

「ありがとう伯爵」


 マティスは最後まで伯爵の言葉を聞くことは無く、剣で伯爵の首を落とした。 



「さて、ここから早々に逃げ出した方が良さそうだが……」

 マティスはそう言いながらシンを見る。


【ルイーズ? 外の様子は?】

【それが、竜騎士達が居ません、ひょっとしたら、引き上げたのかもしれません】


 闇に紛れて、竜騎士達は撤退したらしい。


【もう無理、お腹空いた、眠い、魔力切れ】

 ゾエがそんな事を言っている。


 竜騎士も、夜通し戦っていたので、そろそろ限界だったのかもしれない。


「殿下、竜騎士は引き上げたようですね」

「そうか、では出来るだけ早くここから出よう」


 もう飛べないと文句を言う三人娘をなんとか宥めて、シンとマティスは「ドランド」から脱出した。都市の近くの森へと降り、ドラゴン達を休ませることにする。


 全員徹夜で戦っていたので、ドラゴン娘とシン達は、あっと言う間に眠りに落ちた。


 シンとマティスは敵中に孤立した。

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