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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
27/46

27話 ドランドでの戦い

 血まみれになって、項垂れて椅子に座っているマティス王子。


「王子っ?!!!!!!」

 シンは慌てて王子の元へ駆け寄った。


「ん? シンか……」

 ゆっくりと顔を上げるマティス。


「王子? 大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ」


「でも、凄い血が……」

「これか、これは返り血だ、僕の血じゃないよ」


「え?」

「ごめん、ちょっと魔力切れを起こしたみたいだ」


 王子は頭を手で押さえて、辛そうにしている。


「大丈夫なのですか?」

「大丈夫、酒と一緒に魔力を乱す薬が入っていたみたいでね、上手くコントロールできないから、全力で魔力解放したのさ、そしたらまあ……この惨状になったと言う訳だよ」


「そ、そうですか……」


 マティスもシンと同様に剣も魔法も使える。


 一国の王太子なので、小さい頃から英才教育を受けている。王子もシルフィードと同じで風魔法が得意だった。暗殺者に襲われそうになり、魔法攻撃をしたが上手く魔力コントロール出来なかった為、全力でウインドカッターを飛ばしまくったら、暗殺者や騎士が首や腕を切られて、大量に噴出した血を浴びてしまったとの事だった。



「立てますか?」

「ちょっと休めば大丈夫だ、それよりもシンは大丈夫だったかい?」


「ええ、殿下が送ってくれたハンドサインのお陰で、油断せずに済みましたから」


 歓迎会の晩餐の時に、王子は沢山の美女に囲まれながらも、シンに一生懸命ハンドサインを送っていた。最初、王子は美女の体を触っているのかと思ったシンだが、よく見ると王子の手は、他の人から見えない様に、美女の腰に手をまわして、シンに向かってハンドサインを送っていた。


『周囲警戒せよ』『敵発見』


 このハンドサインを繰り返していた王子。


 猫耳娘を指差し、敵発見となれば、シンでも暗殺者の可能性があると理解できた。そして猫耳娘からの、夜のわざとらしいお誘い。これはもうベッドの上で美女に刺殺される、スパイ映画の展開だと思った。


 従って、シンは鎧姿で寝たふりをしていたのだ。


 ルイーズにお願いして、シンの部屋に入ってくる人の、殺気を探ってもらっていた。まだ、人間の出す殺気を敏感に感知できないシンは、寝たフリをしながらルイーズと念話で、部屋に入ってきた人物が、殺気を持っているか感知してもらっていたのだ。


 万が一、本当にお誘いならメルに内緒ね!って言ったのは言うまでもない……


 王子はこの屋敷に来た時から、自分達が歓迎されていないのを感じていた。


「でも、何故わかったんですか?」

「ああ、それか……僕は王族だよ?なのにあの伯爵は出迎えもせずに、謁見の間で待ってい居ただろ?普通、他国の王族にあの態度はないよ、歓迎していないのが見え見えだったしね」


 その他にも、騎士達の見せる殺気や、王子の周りに居た美女たちは、隠しきれない殺気を放っていたそうだ。


「あれだけ殺気をダダ漏れさせていたら、さすがに気付くさ」

 そう言って王子は笑った。


「さて、外が騒がしいけど、どうなってるんだい?」

「帝国のワイバーンが出ました。今ルイーズ達が戦っています」


「そうか……これは、エラン王国が裏切ったと見た方が良いのかな?」

「え? いくらなんでもそれは……」


「最初は、帝国の傘下に入ろうとする貴族達の、帝国派の伯爵の独断かと思たけれど、ここまでタイミング良く竜騎士が来たとなると、どうやら、僕らとドラゴン達を纏めて消すつもりだったのかもしれないね」


 王子はそう言うと、なんとか椅子から立ち上がった。


 魔力切れになった事の無いシンは、王子の体調が大丈夫なのか判断できない。


「あまりモタモタしていると、他の騎士達が集まってきそうだし、場所を変えよう」

「そうですね」


 王子とシンは移動を開始する。


 シンは移動しながら念話を送った。


【皆 無事か??】

【はい! 今の所、みんな無事ですが……】


【ちょっとシン! 真っ暗で何も見えない!!】

【暗くて敵が何匹いるかもわからないよぉ~】

【下手に撃つと危険、良い的になる】


 ドラゴンは夜行性では無いので、相手の姿が見えずに苦戦しているようだ。下手にファイアボールを撃つと、その光で自分の場所を相手に教えてしまう。最初は派手に撃ちあっていたが、お互いにそれに気が付き、今は爪で相手を攻撃する接近戦になっているらしい。


 しかし、見えない相手に接近戦を行うのは無理がある。今はお互いに、相手の魔力気配を探って飛び回っている状態だ。



 シンと王子は階段で屋敷の一階に降りる。廊下にはいくつもの部屋の扉が沢山ある。その一部屋に王子と二人で入った。


『逃げられたぞーーー!!』

『探せぇーーー!』


 廊下から、そんな叫び声が聞こえてきた。


「危なかったね、きっと暗殺者が戻ってこないから、様子を見に行ったのだろう」

「そうですね、外の方も静かになったので、敵も落ち着きを取り戻したのでしょう」


 先ほどまでのファイアボールの撃ちあいが終わったので、騎士達も冷静になったのだろう。今迄ファイアボールの爆発音に驚いて、隠れていたに違いない。


「ドラゴン達はどうだい?」

「それがですね……」


 シンは念話で話した事を王子に伝える。


「そうか、これはなかなか決着が付きそうにないね」

「殿下の体調の方は?」


「少しはマシになったけど、暫く魔法は使えないな」

「そうですか……」


「どうにかして、ここから逃げ出したけど、門は抑えられているだろうしね」


 領主の屋敷なので、屋敷の周りはグルリと塀で囲まれている。かと言って、このまま部屋に隠れていても、見つかるのは時間の問題だ。


 強行突破しようにも、王子は魔法が使えないので、戦闘力は激減している。とても成功するとは思えない。


(八方塞がりだな……)


「それにしても、騎士の数が少ない気がする……」

「言われてみればそうですね……ここに来た時は、50名は居たと思います」


「うん、僕達がこの屋敷に到着した時は、それぐらいは居たはずなんだけどね……罠かな?」

 王子はそう言ったが、実際には少し事情が違った。


 シン達の予想通り、この屋敷には50名の騎士が居た。領主は、ドラゴン達を庭の一か所に集めて、動けない様にロープで拘束した。これはシンが言われて嫌々やったのだが……


 領主の作戦は、魔術師が深夜に、寝ているドラゴン達にファイアボールを放つ。当然、その程度でどうにかなるドラゴン達では無い。人間の魔法のファイアボール程度では致命傷にはならない。しかし、上空の少し遠い場所で待機していた「帝国の竜騎士」部隊が、そのファイアボールの明かりを目指して次々とファイアボールを放つ。人間の魔法に比べると、ワイバーンが放つファイアボールは威力が桁違いなのだ。


 それでルイーズ達ドラゴンを葬る計画だった。


 魔術師の撃つファイアボールは、夜目の効かないドラゴン達に対する、レーザー誘導爆弾のレーザーの様な物だ。その明かりに対して、次々と撃ち込めばよい。


 更に、それでも生き残ったドラゴンが居たら、待機している騎士達が止めを刺すつもりだった。


 待機していた騎士は25名。


 ところが、シンはルイーズと念話で、暗殺者の可能性の話をしていたので、当然三人娘も起きていた。

次々と集まって来る騎士と魔術師達。殺気がビシビシ伝わって来る。ルカは人間の魔術師がファイアボールを撃った瞬間に反撃した。


 ルカの撃ったファイアボールは、魔術師のファイアボールと当たり、そのまま魔術師のファイアボールを吹き飛ばして、魔法を放った魔術師の近くに着弾した。


 吹き飛んだ魔術師。更にそこへ、上空のワイバーンが合図のファイアボールだと勘違いして、上空から次々とファイアボールを撃ちだしたのだ。領主の魔術師と騎士達は、味方の誤爆で全滅した。


 味方とは知らずにファイアボールを撃ちこんだ竜騎士達、そのおかげでルイーズ達は無傷のまま、帝国の竜騎士の襲撃を知る事が出来たのだ。


 半数の騎士を失った領主。更に、シンが2名倒して、王子も3名倒して居た。騎士の残りは20名となり、2か所ある館の門を警護する騎士が5名ずつで合計10名。この屋敷の中には、領主の護衛5名と、シン達の姿を探す騎士5名しか居なかった。


 王子の部屋の惨状を見た騎士達は、流石に単独で捜索をする気になれず、5人で固まって行動していた。

そのおかげで、この広い屋敷に隠れているシンと王子は、まだ見付からずに居る。



 暫く部屋に隠れていると、廊下から騎士達の話声が聞こえてくる。扉に耳を当てて外の様子を探るシン。


「マズイですね、騎士達が、一部屋一部屋捜索しています」


 騎士達は、王子とシンの姿を探して、部屋を一つずつ順番に捜索を始めた。このままでは、何れここの部屋の順番が来るのも時間の問題だ。


【リネ?! 聞こえるか??】

【うん、なによシン? 今忙しいんだから!!】


【俺の波動から、場所がわかるか?】

【ん~ たぶん大丈夫】


【じゃあ 一発だけファイアボール撃てるか?】

【えぇぇぇ? 本気で言ってる? まあ撃てない事は無いとは思うけど……】


【上空から急降下で一発撃って、直ぐに旋回退避したら狙われ無いだろ?】


 リネがファイアボールを放てば、そこへ集中砲火が来ることが予想される。従って一撃離脱、撃った瞬間には旋回して回避すればなんとかなると思いたかった。これは賭けでしか無い。


【まあ、やってみるけどさ…‥】

【悪いな、他の皆は出来るだけ上空へ上がって待機してくれ、リネにファイアボールを撃ったヤツを上から狙撃するんだ!】


【わかったぁ~】

【おっけぇ~】


 ルカとゾエから了承の返事が来る。


【リネは俺の合図で、俺の居る場所から5mほど先を攻撃してくれ、中庭から向かって、俺の左側5mだ】

【えぇぇぇ? そんな事したらシンまで巻き込んじゃうよ! 絶対にダメ!!】


【大丈夫だ、合図で一気に逃げるから】

【本当に? 本当に大丈夫なの?】


 リネは心配そうな声を出した。


「殿下、ワイバーンに隣の部屋を爆撃させますので、僕の合図で部屋から飛び出してください」


 シンは横の部屋に騎士が入ったら、そこをリネに攻撃させるつもりだ。王子とシンは、部屋の扉の前に待機する。扉に耳を当てると、二つ隣の部屋まで来ている。


【リネ! あと30秒以内だ、準備してくれ】

【うん……わかった……】


 心配そうなリネの声。


 リネはシンの波動を察知して、大体の居場所を特定した。本来ならワイバーンはここまで波動に敏感ではない。メルとは違うのだ。しかし、最近ずっとリネの背中にシンが乗っていたので、なんとかシンの波動を感じる事が出来た。


 本来なら波動の感知に優れているルイーズにお願いしたい処だが、ルイーズはブレスしか撃てないので却下だ。リネは屋敷を目指して、降下を開始する。


「いきますよ殿下」

「ああ、わかった」


 隣の部屋に騎士が入る気配がした。


【リネ! いまだ撃て!!】

「殿下っ!」


 扉を開けて飛び出す二人。


「いたぞっ!!」


 部屋の中に騎士全員が入って居る訳では無く、廊下にも二人の騎士が待機していた。二人の姿を見た騎士は叫びながらシン達を追い出した。


 シンは立ち止まって振り返ると障壁を展開する。


『ドドンっ!! ドドドド ドン!!』

 大爆発が起きて、シンと騎士を炎が包み込む。


「うぉっ!!」


 シンの張った障壁は粉々に砕け散って、シンは爆風に吹き飛ばされた。



 外では、リネに向かって集中砲火が炸裂した。リネはファイアボールを撃つとすぐに旋回上昇して退避したのだが、周りの竜騎士がそのファイアボールの炎に向かって、反射的に撃ったのだ。


 リネには当たらずに、数発が屋敷に直撃した。


 上空で待機していたゾエとルガが、リネにファイアボールを撃った竜騎士を攻撃する。見事にゾエとルカの撃ったファイアボールは、竜騎士を直撃した。


 突然撃つことになった竜騎士とは違い、予め分かっていて待機してたので、命中精度はまるで違う。2騎の竜騎士が墜落していく。


 外では再び、ファイアボールの撃ち合いによる空中戦が始まった。




「大丈夫か? シン?」

「痛てぇ~ まあなんとか生きてますね……」


 吹き飛ばされたシンは廊下を転がっていた。


 王子も無事の様だ。


 もっとも、王子を庇うつもりで足を止めて障壁を展開したのだが、シンの予想とは違い、他のワイバーンのファイアボールまで飛んでくるとは思わなかった。


 予想以上の大爆発が起きた。


「いやぁ~ この鎧じゃないと、死んでたな」

 

 炎に飲み込まれたが、ソフィーの鱗の鎧のおかげで助かったのだ。レッドドラゴンは火を司るドラゴンなだけに、炎には強かった。以前とは違い、ドラゴンの鱗に守られたシンは、火傷も負っていない。


 シン達を追って来た騎士の一人はまだ息があったが、全身火傷の状態で、とても助かるとは思えなかった。


「ずるいなぁ~ 僕もその鎧が欲しいよ」

「ソフィーが戻ってきたら、聞いてみますよ」


「あはは、それは是非お願いしたいね」


 王子が差し出した手を握って立ち上がるシン。


「さて、どうしますか?」

「そうだね、ここから脱出したいけどね」


 外を見ると、激しくファイアボールを撃ちあっているドラゴン達が見える。


「しかし、まだ外は危険ですね」

「ん? あれは伯爵じゃないのか?」


 マティスは、外を護衛に囲まれながら、慌てて門に向かっていく領主の姿を見た。領主はドラゴン達の流れ弾が屋敷に当たったのだと思い込み、ここは危険だと逃げ出す事にしたのだ。


 屋敷の上空で空中戦をやっているので、屋敷の敷地の中は危険だ。


 屋敷の一部は火災が起きていて、その明かりで領主の逃げる姿を見つける事が出来た。


「どうします?」

「本当なら捕まえたい所だけど、護衛の数が……勝てないな」


 しかし、領主のすぐ近くにファイアボールの流れ弾が着弾した。大爆発を起こすと、騎士数名を巻きんだ。


 慌てて領主は館へと引き返して来る。


 領主の周りには、2人の騎士しか居なかった。


「これはチャンスだね、行くよシン」

「わかりました!」


 王子とシンは、領主目掛けて走って行った。

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