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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
26/46

26話 都市ドランド

 シンと王子の旅は順調に進んでいる。


 王都を飛び立ってから、数日が経過していた。シン達は既に国境を越えてエラン王国へと入っている。今日はエラン王国の一つの都市「ドランド」に一泊予定。明日はいよいよエラン王国王都、「ジロンドロン」に到着予定だ。


 シンの乗るリネ、王子の乗るルイーズは真横に並んで飛行している。旅の途中はお互いにハンドサインが見え易い様に、この隊形で飛んでいる。先行はルカ、後方にゾエだ。ルカは偵察を兼ねて、かなり先行している。




(予定では、そろそろ街が見えて来ても良い頃だけど……)


【シンさ~ん! 右斜め前方にガガド巨鳥発見っ!】

 先行するルカがモンスターを発見した様だ。


【うっそ? 久しぶりに食べたいっ!】

【うんうん、食べたい食べたい!】


 リネとゾエがそんな事を言い出す。


【ダメ! 今は王子を乗せているからダメ!】

【え~? シンのケチぃ~】


 リネが文句を言うが、王子を乗せて空戦なんて出来る訳が無い、シンは即座に却下した。


【もう少しで目的地の都市だ、着いて王子を下ろして、時間あれば狩に行こう、それまで我慢!】

【はぁ~い わかったぁ~】


 ガガド巨鳥は彼女達ドラゴン娘だけでは危険だ。連携を取らないと反撃される恐れがある。従って、シンも都市に到着してから余裕があれば、一緒に狩に行くつもりだ。それに、久しぶりに空戦の連携を試したい気持ちもある。


【でもさぁ~、シンさん? なんか、向こうの方がこっちに向かってくるけど?】

 先行するルカが、ガガド巨鳥が向かってくると言っている。


【え? マジで?】

【ルカのバカ!! あれガガド巨鳥じゃないよ!!】


 リネの言葉でシンもガガド巨鳥が見えた……見ると、確かに大きさがまったく違う。


(ってか……でかすぎだろ? なんだあれ?)


 大きさは、ワイバーンの倍近くある。真っ黒でコンドルのお化けの様な鳥が、こちらに向かってくる。


【シン様!! あれは危険です!!】

 ルイーズの声も緊張している。


 シンは王子にハンドサインを送る。


『敵発見、これより戦闘に入る』


 ハンドサインを見て王子が驚いた顔をするが、シンが指さす方を見て、直ぐに納得した。巨大な鳥が3羽、真っすぐにこちらに近づいて来るのが見えたからだ。


【ルイーズ!王子を避難させる、左斜め旋回して降下、距離をとってくれ! 他の二人は俺に続け!リネ、真正面から一発ブチかませ!】


 とにかく王子の安全を確保したいシン。


 リネを先頭に、ルカとゾエが続く。真っ正面から突撃して巨大鳥の気をこちらに引こうと考えた。


【ひぇぇぇ~ シン?! ちょっと!!でかいよあいつ!!】

【ビビるなっ! 真ん中のヤツに集中砲火だ! 三人一斉射撃後、右斜め下方に旋回する】


【う、うん……】

【わかったぁ~】


【真ん中のやつにブチ込めっ!! 3・2・1・てぇっ!!!】


 シンの合図で三匹のワイバーンからファイアボールが打ち出される。


【旋回っ!】

『ドドドンッ!!!!』


 右斜め下方に旋回して、急降下を始める三匹。シンはリネに捕まりながら、ファイアボールが命中したのを見た。


【一羽撃墜っ!】


 炎に包まれながら、落ちて行く巨大鳥。


【水平飛行っ!】

【なんかさ、見た目倒しじゃない? あいつ】


 あっさりと撃墜された鳥を見て、リネがそんな感想を漏らす。それにはシンも同感だった。怒り狂った残りの2羽の鳥が追いかけて急降下してくる。


【ルカ! ゾエ! 左右に分散! リネは少し速度を落として囮になるぞ! GO!】


 シンの合図で左右に綺麗に分かれた2匹。残ったリネは、少し速度を落とした。2羽の鳥は真っすぐにこちらに向かって飛んでくる。


(かかったな)


【ルカ! ゾエ! 合図で射撃してくれ】

【おっけぇ~】

【はいなぁ!】


【ちょっ! シン!! 来たっ! 近いっ! でかいっ! 早く!!】

 流石に間近に巨大鳥が迫って来ると、リネも焦るらしい。


【今だっ! 撃てっ!! 降下っ!!】


 リネはクルっと180度体を捻って回転すると、シンは逆さまを向いた状態になる。そのまま垂直に降下する。この機動はよく戦闘機が行うスピリットSと言う機動だ。一瞬で垂直に降下を開始できる。


『ドドンっ!』


 垂直降下を開始した瞬間に爆発音が響いて、爆発の余波が伝わる。


【水平っ!!】

 水平飛行をしたリネの横を、羽を焼かれた巨大鳥が落下してく。


【やりぃ~!】

【ふっ! チョロイわね】


 ゾエとルカは見事に2羽を撃墜してくれた様だ。


【よくやったっ! 偉いぞ皆っ!!】


【流石にでかくて焦ったぁ~】

【あははは、リネもお疲れ】


【後でナデナデよろしくねっ!】

 リネは相変わらずだ。


【ルイーズ、合流してくれ】

【かしこまりました】


 少し遠くに避難していたルイーズも無事に合流する。空戦を見ていた王子が、横に並ぶとグッジョブとサインを送って来たので、こちらもサムズアップで返す。その後は何もなく、無事に目的地の「ドランド」の街に到着した。




 領主の館に着地して、王子と一緒に領主に挨拶へ行く。案内の騎士に従い、王子と二人で廊下を歩いて行く。王子は終始無言だ、シンはマティスらしくなと思いながら、一緒に廊下を歩いている。


 館の中にある、謁見の間の様な場所に通されると、領主が一段高い椅子に座ってまっていた。


(うへ、アニメに出て来る、成金領主そのまんまだな)


 シンがそう評価した領主は、50歳ぐらいで、かなり太っている。指には似合わない煌びやかな宝石が嵌り、どう見ても善政を敷いている人物には見えなかった。


「これはこれは、マティス殿下、遠い所ご苦労様でした。お初にお目にかかります、この街の領主、ゴルドールでございます」


 そう言って、領主は立ち上がると、マティスと握手をした。


「こちらこそ、ゴルドール伯爵、今日はお世話になります」


 マティスとゴルドールは、貴族と王族の会話をしている。シンは黙ってそのやり取りを見ていた。シンも紹介され、伯爵と挨拶をする。その後、部屋で休む様に言われて、二人はそれぞれ、バラバラの部屋へと案内された。


 王子は綺麗な侍女が5名ほど付き添い、シンには厳つい騎士が2名。


(ちっ、差をつけやがって……)


 ゴルドール伯爵は、マティスには敬意を払うが、シンに対しては、この平民風情がと言う目をしていた。案内された部屋も普通の客室で、質素な感じだった。


 部屋で休憩していると、ドラゴンの件で話があると言われて、騎士と一緒に庭へ向かう。庭には四匹のドラゴン娘達。



【みんな、食事は終わったかぁ~?】

【はい、家畜を用意して頂きましたが……】


 珍しく歯切れの悪いルイーズ。


【ん? どうかしたのか?】

【ねえシン! なんかね、殺気がビシバシ伝わって来るんだよね~】


 リネが周りの騎士を見ながらそう言う。


【ほんとっ! 食べてても落ち着かなくてさ】

 ゾエも同調した。


【なるほど、まあドラゴンに慣れてないだけだろ?】

【そうかなぁ~? まあ私達はこの程度人族なら気にしないけどね】


 ルカはそう言って、ゴロンと転がった。


「シン殿! 聞いていますか?」

「あ? えっとなんでしたっけ?」


 ドラゴン達と念話に集中している間に、騎士が話しかけていたらしい。


「ですから、このドラゴン達を縄で繋いで欲しいのです」

「へ? 縄でつなぐ? それはまた何故?」


「ドラゴンなんて凶暴なモンスター、もし何かあったら大変じゃないですか? ちゃんと縄で繋いで動けない様にしてもらわないと」

「それ、本気で言ってます?」


「ええ、もちろんです! ドラゴンが暴れて人を襲ってからでは遅いですから!」

「縄で繋ぐってどうやって?」


「アレに縄でドラゴンの首を繋いでください」


 騎士が指さした場所には、ある程度の間隔で、木で出来た杭が四本刺さっている。杭にロープを付けて、それぞれのドラゴンの首と結べと言って来たのだ。


(こいつ……ドラゴンを犬かなんかと勘違いしてるんじゃないのか?)


「お断りします」

「なっ?! なんですと???」


「そんな事をしなくても、ドラゴンは暴れたりしませんよ」

「いいえ! 私はここの警備の責任者としてですね……」


 その後も少しの間、繋げ、嫌だの応酬が繰り広げられた。その様子を見て、殺気立った騎士達が集まって来る。


【シン様、私達は問題ありませんから、大丈夫です】

 ルイーズが気を使って念話を送って来た。


【そうだよ、そんな杭、寝返りしたら抜けちゃうし、大丈夫だよ】

 ゾエもそう言って、問題ないと言う。


 こんな茶地なロープでドラゴンを拘束できると思って居る事にビックリだが……シンとしてはドラゴン達をその様に扱うのが嫌だったので、拒否していたのだ。ドラゴン娘達が「大丈夫」と言うので、最後は素直に従う事にした。


 騎士達は、恐ろしくてドラゴンに近寄れない為、シンが全員をロープで繋いだ。


(なんだかなぁ~ 国が違うと、ここまで扱いも違うのかねぇ~)


 ロープでドラゴン娘達を繋ぎながら、ルイーズと念話で話す。


【ルイーズ、王子の波動はわかる?】

【はい、ここからでも認識できます】


【そうか……王子の部屋ってどの辺りにあるんだい?】


 その後、シンはドラゴン娘達を固定して部屋へ戻った。




 夜になり、王子の歓迎パーティーが開かれた。パーティーと言っても、細やかパティーだ。


 テーブルには、領主の横に王子が座り、その他文官や軍の高官が少しだけ参加している。美女が10名ほど、王子と領主の周りに居て、実に領主は楽しそうに酒を飲んでいる。少し離れた所に座らせられたシンの横には、猫耳娘が一人だけ居て、シンに酒を注いでいた。


(まあ俺は、猫耳でも十分満足だから良いけどね)


 王子との差に、ちょっとイラっとは来るが…‥


「シン様、もっとグイっと飲んでください」

「いやいや、僕はあまりお酒は強く無いのですよ」


「まあ、そんな事おっしゃらずに、ささ、グイっと」

 猫耳娘は、結構セクシーな恰好をしていて、べたべたとくっついてくる。思わず鼻の下が伸びるシン。


 王子を見ると……

(なんか、すっごく羨ましいんですけど)


 美女達に囲まれて、もっとベタベタしていた。羨ましそうなシンの視線を苦笑いで受け止めるマティス。


(ん? あれって?…… なるほどねぇ~ 流石王子だ)

 侍女たちとベタベタしながら、王子の手は忙しなく動いていた……


 シンの耳元に、猫耳娘が甘い言葉を伝えて来る。


「今夜は、夜のお供をする様に言われておりますので、楽しみにしていてくださいね」

「え? 本当にっ?!」


「はいっ! うふふっ」

(うひょっ、マジっすか?)


 思わず王子を見ると、こちらの様子を苦笑いで見ながら、相変らず手は忙しなく動いていた。


(ふぅ……流石王子だ)



 パーティーも終わり、自室へと戻ったシン。相変わらず、部屋の前には厳つい2名の騎士が立っている。


【ルイーズ?! 聞こえる??】

【はい、シン様】


【王子は部屋に戻ったかい?】

【はい、先ほどと同じ場所に戻りました】


【実はさ……これから獣人の娘が部屋に来るんだけどさ……メルには内緒ね】


 シンは念話でルイーズと相談をした。





『コンコン』

 深夜になり、シンの部屋をノックする獣人娘。


「シン様? 起きてらっしゃいますか?」

「……」


「あら? 飲み過ぎで寝ちゃいましたか?」


 甘い声を出しながら、シンの部屋に入って来る獣人の娘。


「シン様? もう、ちゃんと待って居てって言ったのに……しょうがないわねぇ~」

 獣人娘は、ベッドに寝ているシンを見る。


 ベッドに居るシンは、すっぽりと布団で顔を隠しているが、規則的な寝息が聞こえてくる。


「せっかくのお楽しみだったのに……しょうがないわね」

 ゆっくりと、ベッドの端に腰をかけて、優しく甘い声を出す。


「ねえ、シン様? 起きないのですか?」

「ぐぅ~ ぐぅ~ ぐぅ~」


 シンは寝息を立てて、まったく起きる様子は無い。


「そう、ちょっと飲ませ過ぎたかしら、まあいいわ、起きないなら……」


 猫耳獣人は腰からナイフを取り出すと、シンの寝ているベッドに突き立てた。


「死になさいっ!」

『ガキーン』


「なっ?!……」


 猫耳獣人の突き立てたナイフは見事に折れた。


「あ~あ、せっかくの甘い夜が……台無しだね」

 

 慌てて後ろに飛んで距離を取る猫耳。起き上がったシンは、完全武装で真っ赤な鎧を着ていた。


「な、何故??」

「さすがソフィーの鱗だ、ナイフなんかじゃビクともしないね」


「貴様っ?!」

「さて、これはどういう事か、説明してもらおうかな?」


「ちっ!」


 猫耳娘はもう一本ナイフを取り出すと、一瞬でシンに切りかかった。


「もらったっ!」

『ガンッ!』


 しかしナイフの刃がシンの首を切り裂く手前で、ナイフは弾かれ、猫耳娘も弾かれた。


「バカな?! 障壁だと??」

「危ねぇ~ 猫耳が暗殺者だって聞いといて良かったよ、間に合わないかと思った」


「くっ……まさか障壁も使えるとは……」

 

 唯の騎士だと思い込んで居た猫耳は焦った。額から汗が流れ始める。騎士で障壁が使える人間など、稀にしか居ないからだ。目の前に居る青年は、予想と違って強敵だと言う事だ。


「さてと、じゃあ……」


『ドドーンッ!!!!』


 突然外で大爆発が起きた。


「なっ? なんだ??」

 驚いたシンは、思わず外を見る。外には大きな炎が上がっている。


『ガキーン!』

 猫耳が、隙をついてシンに切りかかったが、シンは障壁を展開してそれを防ぐ。


「だから無駄だって」

「ちっ!」


 猫耳はあっと言う間に消えて居なくなった。それはまるで忍者の様だ。


【シン様!! シン様!!】

【ルイーズ?! どうした? 何があった??】


【人族が魔法で攻撃してきました。ルカがファイアボールで……申し訳ありません】

【いや、構わんよ、それより打ち合わせ通り王子を頼む!】


【かしこま……】

『ドドーンッ!!!!』


 再度大きな爆発が起きる。


【ルイーズ? どうした?? ルイーズ??】

【シンっ! ワイバーンが出た!】


 今度はリネが念話を送ってきた。


【なんだって? 竜騎士か?!】

【このぉ~! こんちくしょう!!】


 リネはワイバーンと戦闘を開始した様子だ。


【皆! 協力してワイバーンに対処してくれ! 連携するんだ!!】

【シン様は?】


【大丈夫かルイーズ? こっちはこっちでなんとかするから! そちらは竜騎士を!】

【はいっ!】


 シンは部屋の扉を引いて開けた。部屋の扉は内側に開く。扉の前は廊下だ。左右に長い廊下。目の前は壁になっている。部屋の前に居た騎士が二名、部屋の扉の両脇に居るのが気配でわかる。


 シンが出てきたところを、左右から斬り付けるつもりだろう。


「……」

 シンはそのまま数歩下がる。


 シンがでて来ないので、痺れを切らした騎士が二名、部屋に入って来た。騎士達は既に抜剣している。殺気を漲らせて、シンを本気で殺そうとしているのがわかる。


(やれるか?)


 正面で剣を構えるシン。


(訓練を思い出せ)


 荒くなる呼吸を押さえ、サンスマリーヌで騎士達と行っていた訓練を思い出す。身体強化魔法で、一気に距離を詰めて右の騎士に斬りかかった。


「ハッァ!」

 気合と共に、剣を振り、次の瞬間騎士の右腕が飛ぶ。


『ガキーン!!』

「ぐはっ……痛てぇなこのやろうっ!!!」


 右の騎士の腕を斬り飛ばした瞬間、左の騎士の一撃を受けた……が、ソフィーの鱗は伊達じゃない。あっさりと騎士の剣をはじき返した。驚きの表情をしている騎士に向かって剣を振るシン。


 左の騎士の首に当たり、大量の血が噴き出す。シンはそれを見ない様に、そのまま廊下を走り出した。


(くそったれ! 王子は何処だ?!)


 その間にも、外では爆音が響き渡り、ドラゴン娘達が戦っているのがわかる。


(確か、この先のはずだよな?)


 ルイーズ達を庭でロープにつないだ時、王子の波動から大体の位置を聞いていたシンは、そのまま王子の部屋を目指して走り出す。


(あった! あそこだ!!)


 一つの部屋の扉が開いていて、倒れている人の足が見え、床が血で染まっている。


(王子??)


 シンは慌てて部屋の前に来ると、中の様子を見た。部屋の中は、まるで地獄絵図の様だった。数多くの騎士や、侍女達が血まみれで倒れている。


 腕や首が無い死体がゴロゴロ転がっているのだ。


「王子?! マティス王子?!」


 シンは叫びながら部屋に入ると、そこには血まみれで椅子に座って項垂れている王子の姿があった。


「王子っ?!!!!!!」

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