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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
25/46

25話 王太子の陰謀

 ソフィーとメルは、長い旅の末、ようやく黄竜のオス「アルフォンス」の巣穴へと到着した。


 巣穴で二人を出迎えたのは、ドレイクドラゴンのメス。


「赤竜族長、ソフィーリアです。娘のメルフリードを連れて来たわ、アルフォンスは何処かしら?」

「只今呼んで参りますので、こちらで少々お待ちください」


 メル達の住んでいる洞窟と違い、黄竜の巣穴は地下にある。リアン大陸から離れ、別の大陸にある広大な森。その一角に小さな山がある。山の麓には洞窟の入り口があり、そこから洞窟の通路は地下へと降りて行く。


 地下空間はメル達の洞窟とは比べ物にならないほど広い。黄竜は大地に関わる魔法を得意とするドラゴン。アルフォンスが独立して、嫁を迎え入れた時に、この洞窟を自分で掘り進めたのだ。


 先ほどとは違うドレイクドラゴンがやってきて、ソフィーとメルを部屋へと案内する。


「アルフォンス様は、現在水浴びの最中です。お疲れでしょうから、これをお召し上がりお待ちください」

 そう言って、牛もどきを二人分用意された。


 ソフィーはドレイクドラゴンを召使の様に使うのが大嫌いだ。一部の古代竜は、こうやって格下のドラゴンを下僕の様に扱う。


(こんな事やっているから、ルイーズみたいな事になるのよ!)


 アルフォンスの巣穴に、ドレイクドラゴンの召使が居る事に憤慨したソフィーは、絶対にここにはメルを嫁に出さないと決心していた。


「メルフリード?……とにかく頂きましょうか」

 ここに来てから、ずっとメルは黙っている。


 ソフィーは出された食事に手をつける事にして、アルフォンスを待つ事にした。


(……っ!!! これは毒?!)


 牛もどきを食べたソフィーの体が痺れだす。


「母様? どうしたの? 母様?!」

 メルはソフィーの魔力の変化ですぐに異常に気が付く。


「うぅ……メルフリード……逃げなさい……」

「誰かっ?! 母様がっ!!」


 体が痺れて動かないソフィー。メルが慌てて叫んでいる。


「おっと、掛ったのはソフィーリアだけか」

 そう言いながら現れたのは、紫色の鱗をしたドラゴン。


「うぅぅ……やはり、紫竜……マエル…あなたでしたか……」

 ソフィーが見たのは紫竜のオス「マエル」だった。


 通常毒なんかでは、古代竜の体には影響などほとんど無い。しかし、ソフィーが食べたのは、紫竜の毒。

紫竜の吐くブレスは、毒のブレスを吐く。その紫竜の毒入り牛もどきを食べたソフィーの体は、痺れて動かない。


「貴様っ! よくも母様を!」


 メルが怒り狂ってブレスを吐こうとした瞬間、メルの体は弾き飛ばされて壁面に叩きつけられた。


「危ねぇ 危ねぇ、赤竜のブレスは危険だからな、こんなガキでも当たれば唯じゃ済まねぇ」

 

 紫竜の尻尾の一撃がメルを吹き飛ばし、壁に叩きつけられたメルは動けなかった。まだ幼竜のメルの体では、大人のオスの一撃に耐えられない。


「ありゃ? 死んだか?」

「うぅ……母様……」

 メルは気絶した。


「うぅ……メルフリード……マエル?…これは、なんの真似ですか?……」

「あぁ? 何の真似だぁ? それはこっちのセリフだ! 俺のメスを何処にやりやがった?」


「なんの事ですか?」

「俺の大事なメスをオメーが何処かに隠したのは分かってるんだよ! まあ良い、オメーの方が楽しめそうだしな」


 マエルはそう言うと、一つの首輪を持ってくる。


「くくく、これが何かわかるか? 知ってるよな?」

「それは……」


「古代文明の遺産、封魔石のついたリングだ」

 

 マエルがその首輪をソフィーに着けると、ソフィーの魔力は封印された。ソフィーの体には、一切の力が入らなくなる。


「あははははは! こんなに簡単にソフィーリアが手に入るとはな、まったく他の連中が羨ましがるだろうよ。お前は俺達の種族の中じゃ一番美しいって評判だったからな。それが人族となんかつがいになりやがって!正直がっかりしたぜ。 でもまあ、今日からはオメーは俺の物だ、たっぷり可愛がってやるからな、オラ!来いよ」


 マエルはソフィーの首輪を引っ張り、ソフィーは引きずられながら連れていかれた。



「ま、マエルさん……」

「おう、アルフォンス、助かったぜ! ありがとうな」


 ソフィーを引きずるマエルに声を掛けたのは、この洞窟の主、アルフォンスだ。


「い、いえ。それで……メルフリードは?」

「赤竜のガキなら奥で気絶してるぞ、骨の何本かはイったかもしれんがな、今のうちに封じとけよ、あのブレスはヤバイからな」


「わかりました」

「お前もあのガキをこれで好き放題だ、人族に入れ込むガキなんか、さっさと孕ませてしまえ。そしたら大人しくなるぞ」


「は、はい……」

「じゃあ俺は行くが、わかってるな? この事は他の誰にも他言無用だぞ」


「わかってます」

「じゃあな」


 マエルがソフィーを連れて洞窟から出て行くと、封魔石の付いたリングを持った、アルフォンスがメルの居る部屋へと歩いて行った。




◇◇◇



 シンと王子を乗せたドラゴン達は、予定通り空の旅をしている。


【皆! あそこの宿場町が今日の宿だ、降下してくれ】


 シンは横に並んで飛ぶ王子にハンドサインを送ると、王子からは「了解」のサインが返って来る。二人と四匹は無事に今日の宿へと到着した。宿には街を守る数人の衛兵が待っていた。


 先行した手紙で王子とシンが来る事は事前に知らせてある。ドラゴン達の家畜も用意されている。


【皆、今日はお疲れ、食事をしてゆっくり休んでくれ】

 ドラゴン達を労い、シンと王子も宿に入った。



 宿の食堂で、王子と二人、食事を取るシン。


「「乾杯!」」

 アルコールで乾杯をする二人。


(うん、これはビールだな)

 シンの中で、この飲み物はビールと認定された。


 ビールを飲みながら、明日以降の日程を確認しながら二人で食事を取る。


「ところで王子? ちょっと聞いても良いですか?」

 シンは疑問に思う事を聞くことにする。


「帝国と戦争になるなるって言ってますけど、なんかそんな気配、全然無い様に思えるのですが?」

「そうだね、少なくとも一年以内には、戦争にならないと思うよ」


「え? そうなんですか?」

「帝国は今、我が国とは反対側の西側にある国と戦争しているからね、帝国の東側にある、こちら側は手薄なのさ」


 王子の説明を聞きながら、先日の地図を見る。ここ「ジラール王国」の西側が帝国。その帝国はジラール王国の反対側で他の国と戦争の真っ最中らしい。流石に帝国も二正面作戦を行うほど愚かでは無く、こちら側は最低限の守りしか行っていないそうだ。


「もっとも、その最低限の守りでも、我が国単独では突破できないけどね」

「え? そうなの??」


「それだけ帝国の軍事力は強大なのさ」

「それで三ヵ国同盟ですか?」


「そう、その通りだよ。そして今帝国が戦っている国「エルトス王国」を帝国が破れば、その先には「バレット王国」がある」

「バレット王国?」


「うん、この大陸で、二番目に国力がある国だ。帝国がここまで大きくなる前は、バレット王国が最大の国家だったんだよ」


「バレット王国」それは広大な土地に、エルフ領、獣人領の自治区を持つ大規模国家だそうだ。


「エルフ? エルフってあの耳の尖ったエルフですか?」

「え? そうだけど……シンはエルフを見た事ないの?」


 思わず驚いたシン。その食いつきに若干引き気味の王子。


(すげぇ、やっぱエルフも居るんだ……って事はドワーフも居るかな?)


「無いです、王都にエルフって居るんですか?」

「うん、普通に居るけど……」


「そうなんだ……王都見学してないしなぁ~」

「あはは、じゃあ戻ったら、王都見学をするといいよ」


 王子はそう言いながら……

(獣人の次はエルフか……やっぱりシンは人間よりも他の種族好きなんじゃないのか?)


 そんな事を考えていた。




 王子の話では、今戦っている「エルトス王国」は「バレット王国」からの支援を受けて、かなり善戦しているらしい。当初の予想とは違い、帝国が攻め入っても、いまだに陥落していない。


 いつものパターンなら、大兵力で攻める帝国に対し、可能な限り兵を投入して最大兵力で迎え撃つ。そこを竜騎士にコテンパンにやられ、奴隷兵の特攻を受けて、立て直せないまま帝国正規兵になだれ込まれて陥落。そのパターンが多かったのだが、今回は初戦を耐えきったみたいだ。


 従って帝国も、こちらに攻め込むだけの余裕はないはずだと。


 もし、エルトス王国が敗れても、次にあるのはバレット王国。戦争をしなくても、帝国の軍事力は防衛の為に、間違いなくそちらに多く配置されるだろう。今の戦争が終わり、こちらに軍を差し向けるとしても、帝国軍の1/3程度の規模だ。その規模でも、一国で向かい打つのは難しい。そこで三ヵ国同盟の出番だ。


 三ヵ国で協力をする事が出来れば、帝国軍1/3と拮抗する事が出来る。


「今の帝国の軍事力はね、竜騎士を除いても三十万と言われている」

「さ、三十万??」


「我が国は、どんなに兵をかき集めても5万に満たない」

「え? 六倍なの?」


「そう、一般の兵だけでその差なのさ。まあその大半が奴隷兵だけどね、そしてあの竜騎士、もう考えるのがバカバカしくなるよね?」

「それは、確かに……」


「もっとも、一か所にそれだけ集めるのは不可能だけど、帝国がこちらに軍を向けるとなれば、7~8万にはなるだろうね」

「なるほど、それで同盟を結んで対抗したいと言う訳ですね」


「その通り、だから今のうちにさっさと同盟を結んでしまう必要があるのさ、帝国が西側で戦っているうちにね」


 そして、帝国もそれほどバカじゃない。


 同盟を結ばせ無い様に、竜騎士小規模部隊で、戦意を挫く作戦に出ているという事だ。


「出来れば帝国は、我々と戦争するよりも、膝を屈させて配下に置きたいのさ」

「それで例の使者って訳ですか」


「そう、珍しく戦争よりも、膝を屈するやり方をして来たって事は、帝国も余裕が無くなって来たかもしれない」


 帝国に余裕がなくなって来たのであれば、尚更同盟を早く結んで、帝国に攻め入る隙を与えない様する。


「もしくは、バレット王国との戦争を考えて、国力を温存するつもかもしれないね、「シラール、エラン、エルディア」この三国を無傷で手に入れる事が出来たら、帝国の国力は益々伸びるだろうからね」


 王子はそう言った。






「ところで、「ルルカ」と「ミオ」の件、ありがとうございました」

 戦争の話題が終わった所で、シンは先日の件を改めてお礼を言う。


「あはは、気にしなくて良いよ、あのまま二人を追い出したら、シンは怒るだろ?」

「まあ、怒りはしませんけど。彼女達の宿や、仕事先は一緒に探したと思います」


「それに、こちらにも都合が良かったしね」

「都合が良かった?」


「今、彼女達には戦闘訓練を受けてもらっている」

「え? そうなの??」


 王子の話によると、王宮の奥に入れる獣人は少ない。身元がハッキリしている事や、貴族から変な息が掛かっていない事、色々と面倒な制約が多いのだ。二人は幸いに、田舎育ちで、調べるとすぐに身元が判明した。両親が亡くなった経緯も、嘘偽りは無かった。


 そこでマティスは彼女達に、簡単な身体能力のテストをやらせた。


 二人は元々田舎育ちで、活発に遊んでいた事もあり、訓練次第で暗殺者になれる身体能力を持って居る事がわかったのだ。街中育ちの獣人とは違い、言ってみれば野生の猫の様に彼女達は動くことが出来た。


「僕の奥さん、ビアンンカを警護する獣人が不足していてね、彼女達は年齢も近いし、丁度よいと思ってさ」


 マティスの言っている事は本当だが、他の人に付ける訳にはいかなかった事実は、シンには内緒だ。


「なるほど」

 シンも納得した。


 マティスとしても、ビアンカの警護は増やしたいが、獣人を新たに雇うのは、色々制約がありすぎて大変なのだ。大臣の承認を取ったり、王宮の警備担当や、女官長の面接を受けてクリアしたりと……今迄、なかなか実現しなかったが、今回シンの名前を使ってゴリ押しでなんとかしたのだ。


「彼女達を雇わないと、ドラゴンが協力してくれない」と言って……


「そもそも、ビアンカと僕は結婚する予定じゃなかったからね、まだまだ僕の結婚は先の予定だったのさ。だから警護要員の増員話はまだ先の予定だったんだ」

「ん? そういえば、王子は婚約者って居なかったのですか?」


 シンも、ビアンカとマティスの結婚エピソードは聞いている。戦争が無ければ二人は結婚していない。


「居たよ……エルディア王国の姫、まだ8歳だけどね……婚約した時なんか、まだ3歳だったよ……」

「8歳?? それって……殿下はその様な趣味でしたか……ブブ、僕の事獣人好きだとか言えませんね」


「違うっ!!!! 王族の政略結婚だから年齢は関係ない!」

「あはは、わかってますよ、冗談です。それにしても、その姫との婚約蹴って大丈夫なのですか?」


「いや、大丈夫じゃ無いから、この有様なんだよ」

「へ?」


 王子によると、現在三ヵ国同盟の話がなかなか進まない原因は、王子にあるそうだ。


「ビアンカもね、エラン王国の王太子の第二婦人として、嫁ぐ予定だったのさ」


 エラン王国の王太子、現在35歳。そこにビアンカは第二婦人として嫁ぐ予定だった。既に正妃は居るので、ハッキリ言って妾だ。


「しかも、エラン王国の王太子って嫌な奴でな……」

 どうやらエラン王国の王太子は性格に難があるらしい。王子の語る顔が、実に嫌そうだ。


「いつも俺と、アルステルドの二人で、なんとかあの婚姻を阻止できないか、知恵を絞ったものさ」


 そんな訳で、両国共婚約を蹴られた形になり、その蟠りが残っているので、同盟交渉が進まないらしい。本当ならさっさと対帝国同盟を集結させてもおかしくは無い。


 マティスに言わせると、エルディア王国が怒るのはわかるが、ビアンカの危機に援軍を出さなかった、エラン王国には、文句を言われる筋合いは無いと怒っている。


「そして、今回はシン、君の存在も重要なんだよ」

「え? 僕ですか??」


「ビアンカと僕が結婚したからね、エラン王国はローラかエリスを嫁に寄こせと言って来た。同盟の話はそれからだと……」

「え? そうなの??」


「まったく、あの王太子は厚顔無恥で困ったよ、ローラもエリスも可愛いからね、是非嫁に欲しいそうだ。しかも同盟の道具にするなんて、許せないよね」


 婚約者に死なれたエリス、まだ婚約者の居ないローラ。この何方かを狙っているらしい。


「僕がね、王宮でシンと二人の婚約者説を広めたのは、この為だったんだよ」

「え? ひょっとして、エラン王国に渡さない為?」


「その通り、王宮にはエランの密偵も居るからね、シンとエリスが恋仲だとか、ローラとも仲が良いとエラン王国には伝わっているだろうね」


「それって……僕は歓迎され無さそうですね」

 苦笑いのシン。


「今回、是非ドラゴンの力をエラン王国へ見せつけて欲しい、そしてエリスとローラは、当然俺の物だ!ぐらいの態度で頼むよ」

「はぁ? はぁ~????? マジで言ってます?」


「うん、僕は本気だよ」

 そう言いながらも、マティスは笑っている。どこまでこの王子が本気なのか、いまいちシンには分からない。


「正式な婚約をしていなくても良いのさ、シンの力を見せつけて、シンが居ないと帝国に勝てないと思ってくれたらそれで良いのさ。そこで我々は、エリスとローラはシンのお気に入りだから、差し出すのは無理だと言い切る」

「婚約者のフリみたいな物ですか? 本当に上手く行くんですか?」


「まあ婚約者のフリってよりも、僕らジラール王国としては、味方してくれる「竜族の使者」には逆らえないって事になってるしさ、どちらかと言うと、シンが悪役だね」

「事になってる……ねぇ。しかもドラゴンの力で姫を手に入れる悪役ですか……」


「まあシンも、エリスやローラは可愛いと思うだろ? 満更じゃないだろ? なんなら本当に婚約してくれても良いんだけど?」

「いやまあ……そうなんですけどね、メルが戻って来るまでは、その話は保留ですね」


「ふむ、君は本当にそのドラゴンの事が好きなんだね?」

「まあ好きというか……メルが居ない間に婚約して、メルがそれを聞いたら……王宮を吹き飛ばしちゃうかもしれませんよ?」


「……それは困るな、うん、やっぱり保留にしよう」


 メルとシンが仲の良い事はマティスも聞いて知って居る。しかし、メルに会った事の無いマティスは、ドラゴンと人間が恋仲になるなんて、信じる事は出来なかった。

 

 これだけ姫との婚約話をお膳立てしても、まったく乗って来ないシン。マティスは不思議に思い、色々と聞いて回ったのだ。それに対して、シルフィードが「メルとシンは恋仲」だと言った。最初は信じなかったが、エリスもシンはきっとメルに気を使っているのだと言ったので、ゴリ押しするのは止めていた。


 マティスとしても、本当に婚約しようが、しまいが、どちらでも良いのだ。シンと言う外交カードが使えて、エリスやローラを無償で守ってくれると言うシン。この世界の人間の考え方とは違うので、マティスは戸惑ったが、シンの行動を見ていると、本当に無償でこの国を守る戦いに参加してくれそうだ。今はシンの機嫌を損ねない事に、専念すれば良いのだ。



「でもまあ、フリだけは頼むよシン、エラン王国で王太子に会ってみるとわかるよ、絶対に二人は渡せないって思うから」

 マティスはそう言って笑った。


 食事が終わり、明日も早朝から出発なので、早めに寝る事にするシン。ドラゴン娘達の様子を見に行くと、皆既に夢の中だった。


(なんだかなぁ~ 王子を運ぶだけのつもりが……王族の面倒な取引材料に使われるとは……なるほど、ルルカとミオの愛人説で焦る訳だ。ジラール王国が無理に姫を押し付けたと思われたら困る訳だよ、俺が二人を寄こせと言っている事にしないといけないとは……)


 こうして、旅の一日目の夜が更けて行った。



◇◇◇


 倒れているメルフリードは、意識が朦朧としていた。


 紫竜「マエル」の一撃で、激痛が走って体が動かせない。そこへアルフォンスが入って来た。


 メルは、最後の気力を振り絞って、アルフォンス目掛けて高熱のブレスを放つ。しかし、ブレスを放つ瞬間、体中に激痛が走り、ブレスはアルフォンスと手に持つリングを掠めただけで、後ろの壁に大穴を開けた。


「なっ!!……このヤロウ!!」


 アルフォンスの尻尾の一撃がメルに当たり、メルは倒された。


「危なかった……リングも無事か、くそっ……痛い」


 アルフォンスは急いでメルにリングを着ける。自分の手を見ると火傷を負っていた。


(レッドドラゴンのブレスは古代竜の中でも最高の火力があるからな……当たれば唯では済まない)



 アルフォンスも、メルを引きずって洞窟の最下層へと連れて行く。ここは、嫁達も知らない場所。広大な地下洞窟は、大きく広げ過ぎて巨大迷宮となっていた。


 メルを監禁して、部屋にドレイクドラゴンの一匹を呼ぶ。


「おい、こいつの面倒を看るんだぞ、ちゃんと食事を与えるんだ、いいか?この事は絶対に嫁達には内緒だからな、良いか?」

「は、はい……畏まりました」


 アルフォンスはドレイクドラゴンにメルの世話を頼むと、一人で上階へと歩き出す。


(来月になれば嫁達が一度里帰りする予定だ、ククク、その時までお楽しみは取っておくさ……)

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