19話 曲技飛行
ジラール王国 王都サファリアの王宮では、国王を初めとした国の重鎮達が、広いバルコニーテラスで空を見上げていた。
バルコニーテラスにはテーブルと椅子が用意されて、国王、王妃、王太子、王太子妃、第一王女、第二王女が同じテーブルでお茶を飲んでいる。
その後ろには重鎮達も席について、お茶を飲みながらドラゴンの到着を待っていた。周りには大勢の近衛騎士や侍女達が控えている。
「そろそろかの?」
「ハッ! 予定では夜明けと共にこちらに向かっていますので、そろそろかと」
国王の問いに近衛騎士隊長がそう答える。しかし、この会話はもう10回ほど繰り返されていた。
既に王都の上空近くに居るシン達。王都目指して降下を開始した。
【よーし、まずは高度400で王都の周りを一周するぞ~】
【かしこまりました】
【皆! 打ち合わせ通り、一列になって飛行してくれ】
シンの声で、ルイーズを先頭に縦一列になって飛行するドラゴン達。その隊列で王都を守る城壁に沿って一周する予定だ。
(さすがに大きいな、これが王都か)
サンスマリーヌの様に城壁でグルリと囲われているが、その壁は三重になっており、下町、商業の街、王宮と貴族街、そんな風に分かれている様に見える。
(遠すぎてよくわからないや……)
【予定変更、あの二つ目の壁の上を旋回する事にする】
【了解しました】
シンは王都の外側の壁を一気に超えて、下町と商業街を区切っている城壁に沿って飛ぶことにする。
(お、見えた見えた……えっと南向きのバルコニーに王様が居るんだよな……あれか?!)
遠くから王宮を見て、シルフィードに教えてもらった王様が居る予定のバルコニーテラスを発見する。
【ルイーズ、一度ここから離れて、あの山を目指して飛んでくれ】
【わかりました】
シンは城壁の上の旋回飛行を止めると、一度王都から離脱をする。
【さあ皆っ! ここからが本番だ!】
【わかったよ~】
【イヒヒ 楽しみだね~】
【人族ビックリするかなぁ?】
シンとドラゴン達は、一旦王都から離れて行った。
「き、来ました!! あそこです!」
騎士の声が響き、指さす方を見ると、そこには四匹のドラゴンがまっすぐ王都へ向かって飛んできていた。
「おぉ~! ドラゴンだ!」
「本当にドラゴンが来た」
国王を初め、周りからドラゴンの姿に感嘆の声が漏れる。縦一列になって、王都の上空をぐるりと一周するドラゴン達。
「エリスティーナ、あれが君の言っていたシンって人かい?」
「ええ、お兄様、先頭のドラゴンに乗っているのがシンですわ」
王太子と第一王女のエリスがドラゴンを見ながらそんな会話をする。
「ねえねえ、お姉さま! あとで私にもシンさんを紹介してくださいね!」
第二王女のローラは、ドラゴンに目を輝かせている。
「ん? 何処へ行くのだ?」
ドラゴン達は、一度王都から離れる様に飛んで行ってしまう。この場に居る全員がエリスを見る。ドラゴンは何処へ行ったのだ? そう言いたそうな疑問の目だ。
「……私も、わかりませんわ」
(まさか……また歩いて王宮に来る訳じゃないわよね?)
若干不安なエリスだった。
【よーし! 全員旋回して、ダイヤモンド隊形!】
ドラゴン達は、ルイーズを先頭に綺麗なダイアモンド隊形をとる。シンは王宮のテラスの前を、真横に横切ってフライパスするつもりだ。
【じゃあ 予定通り GO!】
「お! 戻ってきましたぞ!!」
バルコニーに向かって綺麗なダイアモンドを作って飛行するドラゴン達。
「来た来たっ!」
綺麗な隊形で飛ぶその姿に、第二王女は目を輝かせて、はしゃいでいる。
次の瞬間、三匹のワイバーンの胴体がらスモークが出た。ワイバーンから出るスモークは、赤、白、青と王都の空に三色の綺麗なラインが引かれる。先頭のルイーズ以外の、三匹のワイバーンから出るスモーク。
「おぉぉぉぉぉ!!!」
「き、綺麗っ!……」
「これは凄い!」
曲技飛行チームの様な姿を初めて見るこの世界の人々、バルコニーに居る全員が歓声をあげる。王宮の上空、100mの高度で、バルコニーテラスに向かって飛んでくるドラゴン達。
【よぉーし、皆行くぞ! 3・・2・・1・・GO!】
バルコニーテラスの前を横切る瞬間!
クルッ! クルッ!と体の軸をずらさない様にドラゴン達は体を捻ってスクリューのような宙返りを二回繰り返す。その息はピッタリで、綺麗に揃っていた。宙返りをした瞬間に、鱗が太陽の光を反射させ、それがまたドラゴン達をとても美しく見せる。
「おおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
大歓声が沸きあがる。
バルコニーの前をフライパスしたドラゴンは、そのままの隊形を維持して、機首を上げると大きな宙返り、インサイドループを行った。
綺麗な3本の円が大空に描かれる。
その様子は王宮だけでは無く、街からもよく見え市民達も歓声をあげている。
【あはは、上手く行ったな】
【はい! とても息がぴったりでしたね】
【ニャハハ、人族喜んでるね】
【これ面白いね! またやろう!】
【まあ、楽しかったのは、本当ね】
ドラゴン娘達も満足の行く飛行だった様で、ワイワイと感想を述べていた。
貴族街と商業街を区切る塀の上を、ダイヤモンド隊形を維持しながらゆっくり旋回すると、騎士達や、街の市民たちが歓声を上げながら手を振っているのが見える。
シンも応える様に手を振り返す。
ワイバーン達に取り付けてあるスモークが無くなったので、隊形を縦一列に戻して、着陸態勢に移行した。
【さて、王宮に降りるぞ】
この世界で初の曲技飛行を行ったシン達は王宮へと降下を開始する。
この時の様子が市民達の間でも話題となり、永遠と語り継がれる事になる。
王宮の庭に、大きな○印が四つ書かれており、そこへ下りろというのがよくわかった。ホバリングモードで空中で静止すると、ゆっくりと垂直降下をする。
庭には大勢の騎士達が居て、歓喜の声で出迎えてくれた。
中庭に着地して、ルイーズから降りるシンの元へ王女がゆっくりと近づいてきた。
「お久しぶりです、シン殿」
「お久しぶりです王女殿下」
「長旅でお疲れの所、早速で申し訳ありませんが国王陛下がお待ちです」
「わかりました、ただその前に……」
シンはドラゴン娘達を見る。
「ドラゴン達への食事ですね? 既に用意してあります」
王女が視線を向けると、その先には騎士達に連れて来られる家畜達が居た。シンは念話で行儀よく待っている様に言い聞かせると、王女に向き直った。
「申し訳ありませんが、騎士達は必要以上にドラゴンに近づかない様に言ってください、あのドラゴン達は本物の野生のドラゴンです。メルと違って人間に慣れていません。機嫌を損ねると危険ですから」
「わかりました、その様に伝えましょう」
サンスマリーヌの騎士達は、既にルイーズ達には慣れているが、王宮の騎士達はほとんどが初めてドラゴンを見る。いらぬちょっかいを出そうとする人間が居ないとは限らない。
王女が騎士を呼んで注意事項を伝えると、シンを伴って王宮へと入る。
近衛騎士に囲まれて、王宮の廊下を歩くと、周りから物凄い注目されて若干居心地の悪いシン。
(流石王宮……立派だな)
豪華な廊下を進むと、大きな扉の前で立ち止まる。
「謁見の間です」
「あの、そう言えば、僕は王様に対する礼儀を心得てませんが……」
王女の言葉に今更ながら焦るシン。
「必要ありません、あなたが古代六竜の使者である事は既に伝えてあります。人間には膝を屈しないのでしょ?」
悪戯っぽく王女にそう言われて、苦笑いのシン。前回のメルの言葉を思い出す。
「本当に大丈夫ですか? また、無礼者とか言われませんかね?」
「大丈夫ですよ、私も同席しますから。では行きましょう」
近衛騎士が大きな扉を開くと、その先には真っ赤な絨毯が真っ直ぐ伸びている。絨毯の左右に騎士と、文官達がずらりと並んでいた。一番奥の、一段高くなっている場所に二つ椅子が並び、二人の人物が座っていた。
(王様と王妃様って事だよな、うへ 緊張する)
「まいりましょう」
王女の後に続いて、ゆっくりと正面に進むシン。
高くなっている段の少し手前で王女が止まるので、シンも足を止めた。
「国王陛下、古代六竜の使者、シン殿をお連れしました」
王女がそう言って頭を下げる。
そして王女はシンの方を見た。
(え? 何か言うの? 先に教えてよ!なんて言えばいいんだ??)
内心焦るが、王女は早く言えと目で訴えてくる。
「お、お初にお目にかかります……国王陛下、竜族の使者、シンです」
(これであってるのか??)
シンは深々と頭を下げた。
頭を上げると、王女がよくできましたとばかりにニッコリと微笑んだ。そして王女は段の下に整列している人達の中に加わる。そこには王太子、王太子妃、第二王女が並んで立って居た。
「うむ……シン殿、遠路はるばるご苦労だった」
「…………」
ここで喋って良いのかわからないシン。
『ザワザワ……どうしたんだ?……ザワザワ』
周りのギャラリーがザワつく。
(あれ? ここって答える場面なのか?)
「えと、先に申し上げたき事がございます」
思い切ってシンが喋る。
「なんじゃ? 申してみよ」
「私は田舎者でして、しかもずっとドラゴンと共に暮らしていました、ですからこの様な場所での人族……いや、人間の礼儀作法を心得ておりません、何分非礼があるとは思いますが、ご容赦願いたい」
「そなたの事は、王女のエリスティーナより聞いておる。その様な心配は無用だ」
「はっ! ありがとうございます」
「そなたは、サンスマリーヌを襲った竜騎士を撃退したと聞いておる、大義であった」
「は、はい、ありがとうございます」
「今宵はそなたを歓迎する細やかな宴を用意しておる、詳しい話はその時に聞かせてもらおう」
「ハッ!」
(ふぅ、これで終わりか)
謁見が終わったと思い、ほっとしたシン。
「国王陛下! よろしいでしょうか?」
横の列に居た、恰幅の良いおっさんがそう言って一歩前に出た。
「うむ、国務大臣、発言を許可する」
(げっ?! おっさん! 余計な事を……)
「ありがとうございます。 さて、シン殿?そなたは伝説の古代竜、レッドドラゴンに乗っていると聞いていたが、先ほどのはレッドドラゴンでは無かった様にお見受けするが?」
「はい、ここに乗ってきたのは、ドレイクドラゴンです。レッドドラゴンではありません」
「では、レッドドラゴンは何処に居るのだ?」
「今は……レッドドラゴンは古代竜の会議で出張中です」
(まさか本当の事は言えないよな、嫉妬に狂ったドラゴンの話なんて……)
「出張?? 出張とは、あの出張と会議ですかな?」
出張と言われて間抜けな顔をする大臣。
「はいその通りです。従って、レッドドラゴンの族長であるソフィーリアが、彼女達の不在の間の新しい翼として、ドレイクドラゴンを紹介してくれました。伴って来たワイバーン3匹は、僕の護衛役です」
「そうか、ではレッドドラゴンは近くには居ないのか?」
「はい、暫くの間は戻らないと聞いています」
レッドドラゴンが居ないと聞いて、少し残念な顔をする国務大臣。
そこでもう一人の人物が一歩前に出た。
「陛下! 私も宜しいでしょうか?」
「うむ、軍務大臣、発言を許可する」
「シン殿、ウェストリア伯爵家からの報告書では、レッドドラゴンは我々の味方はしないとの事だが、それは本当か?」
「はい、古代竜は人族の争いには関わらない、それが古代竜の取り決めだと言っていました」
「では、今回シン殿が帝国の竜騎士を撃退したのは?」
「帝国の竜騎士を撃したのは、今回一緒に来たワイバーンとドレイクドラゴンです、古代竜ではありません」
「古代竜でなければ良いのか?」
「竜族の中でも、人間の争いに関わらないと取り決めしているのは、古代竜だけです。ドレイクドラゴンやワイバーンは関係ありません」
「なるほど……では、ワイバーン達は、我々の味方をしてもらえるのだな?」
「えと、それはちょっと違います」
「何が違うのだ?」
「今回はたまたま、偶然サンスマリーヌの街で竜騎士と遭遇しただけです。竜騎士が街を攻撃していたので、僕は知人の居るサンスマリーヌの街を守ろうとして竜騎士と戦いました。あなたの仰り方では、ドラゴンが帝国との戦争に参加してくれるのか?僕にはそう聞こえましたが」
「我が国の味方はしないと?」
「出来ません」
『ザワザワザワ……なんだと? 話が違うでは無いか……ザワザワ』
シンの発言に、周りのギャラリー達がざわめき出す。
「あのっ!」
シンの大きな声が響き、全員がピタっと黙ってシンを注目した。思わず大きな声を出したが、全員に注目されて、続きを喋れなくなるシン。
「シン殿、言いたいことを申されよ」
国王がそう言って、シンに発言の続きを促す。
「えと、まず、古代竜は人間の争いには一切関知しない、これは先ほど言った通りです」
「それはわかった」
軍務大臣が答える。
「しかし、古代竜族はワイバーンを家畜の様に繁殖させて戦争の道具にする帝国の竜騎士に対して怒っています。僕が使者に選ばれたのは、ドラゴンと暮らしているので、ドラゴン、人間双方の気持ちがわかるからです。ドラゴン達の希望は、帝国に竜騎士という物を廃止してもらう……出来れば話し合いで」
「そんな事が出来る訳無い!」
シンの言葉を遮る様に国務大臣は大きな声を上げた。帝国に竜騎士の廃止など、絶対に実現しないはよくわかっている。
「このままでは、古代竜は怒って人族を絶滅させると意気込んでいます、それを防止する為の使者なのですが、話し合いで解決出来ない場合は、実力行使に出るのも、一つの手段ではあります」
「何が言いたいのだ?」
国務大臣が少しイラついた様に言う。
シンは国王に向き直ると、真っすぐに国王を見る。
「まず竜族の使者として、国王陛下にお願いがあります。帝国に使者を出し、この話を伝えてください。古代竜の怒りに触れたので、竜騎士を廃止せよと」
「それが受け入れらない場合は?」
国王もそんな事は不可能だと、言わんばかりに投げやりな回答。
「僕の出来る範囲の力をお貸しします。それはこの国の味方をすると言うよりも、竜騎士を倒す為のお手伝いをする、そういう事です」
「よく話がわからんな、回りくどい言い方はよせ」
軍務大臣もイラついた様子だ。
「つまり、帝国との戦争の為にドラゴンの力は行使しません。一般の軍を焼き払ったり、街を焼いたりと言う行為です。但し、竜騎士が出てきたら竜騎士は倒します。帝国が話を聞かないのであれば、竜騎士は全滅させるしかありませんので」
「そこまでするのに、我が国の味方はしないと?」
「今の帝国の力は、竜騎士によるものが大きいとと聞いています。ですからその竜騎士の力を無力化するお手伝いはしますが、この王国が帝国を倒した後、大陸の覇者になろうとして、ドラゴンの力を利用する事は拒否させて頂きます。最も、ドラゴン達はその様な理由で僕の言う事は聞いてくれません。今居るドラゴン達は、飼い慣らされたワイバーンに思う所があって、僕に協力してくれているので」
「よかろう、帝国へ使者を出すことを約束しよう」
国王がそう言って、他に意見がある者が居ないかぐるりと見渡した。
誰も何も言わず、謁見は終了した。
国王との謁見が終わり、騎士に案内されて客室へと移動するシン。案内された部屋に入ると、3名の可愛らしい侍女と一人の女近衛騎士が待機していた。
「はじめましてシン殿、この王宮では私がシン殿の護衛を務めさせて頂きます。ルキアと申します」
ルキアは第一王女の近衛だと言った。
王宮内を勝手に歩き回る事は許されず、常にルキアが付き添う形になる。早く言ってしまえば監視役だろう。侍女達はシンの身の回りの世話をしてくれるらしい。
歓迎会の為、風呂に入って着替える様に言われて早速浴室へと移動する。浴室には予想通り、獣人族の娘が二名待機していた。
しかし、ここではシンを落とせと指令が出ていない様で、まったくもって普通に体を洗われて終わる。ちょっと残念な様な、これで良かった様な複雑な心境で部屋に戻り、用意された服に着替える。
そこへ別の騎士がやってきて、ドラゴン達の寝床の準備が出来たので、ドラゴンを移動させて欲しいと言われた。庭に移動するシン。
【食事は終わったかぁ~?】
【はい、人族が家畜を用意してくれました】
【えっと、寝る場所はここじゃ無いそうなんで、一緒に来てくれ】
ドラゴン娘達を伴って、案内役の騎士の後に従い王宮の裏側へと移動する。そこには大きな天幕と、中には藁のベッドがあるが……周りはぐるりと柵で囲われている。まるで檻に閉じ込める様な雰囲気だ。
「あの? この柵は?」
「これは許可の無い部外者がドラゴンに近づかない為の物です」
「そうですか」
ドラゴン達を檻に閉じ込める様で、なんとなく納得の行かないシンではあるが、ルイーズが念話を送ってくる。
【心配無用ですシン様、この程度の柵は私達には無いも同然ですから、それに空はがら空きですし】
【それもそうだな、変に人族が近づかなくていいか】
【はい、その方が私達も安心して寝れますので】
【わかった、じゃあ明日までここで大人しくしていてくれ】
【かしこまりました】
彼女達はそれぞれ藁のベッドで体を丸くする。
その後、シンは歓迎会の会場へと移動した。
歓迎会と言うからパーティーかと思ったが、そうでは無く、長いテーブルに、王族と一部の大臣だけが夕食を共にすると言うスタイルだった。
どうやら、前回のパーティーでメルが見世物になってシンが気分を害していたので、王女が気を使ってくれたらしい。
夕食が始まる前に、参加者全員と挨拶をする。
国王陛下、王妃様、王太子殿下、王太子妃、第二王女、国務大臣、軍務大臣だ。
国の文官は国務大臣がトップで、その下に数多くの大臣がいるそうだ。軍務大臣は軍事面のトップで、その下には各将軍達が居る。ちなみに宰相は居ないそうだ。
第二王女はローラと言って、年齢は14歳。エリスによく似ていて、とても可愛らしい金髪美少女だ。
王太子は国王によく似ていて、22歳、王太子も金髪の美青年だった。王太子妃は、これまたすごい美人で、茶色の髪を腰まで伸ばして居る。16歳だと言った。昨年、成人と同時に王太子と結婚したそうだ。
王妃様は、流石エリスの母親、とても美しいと表現するのに相応しい気品溢れる女性だ。年齢は怖くて聞けないし、聞いちゃいけない。見た感じは30代前半といったところだ。
国務大臣は恰幅が良い50歳ぐらいの、頭が薄くなりはじめた……まあ普通のおじさんだ。
軍務大臣は元軍人の将軍だっただけあり、鍛え上げられた肉体、茶髪を短く刈上げ、いかにも軍人と言う感じの、迫力ある50歳ぐらいの人だった。
国王、国務大臣、軍務大臣、この三人でこの国の国政は動いていると言って過言では無い。
その他大勢の貴族は、媚びを売るだけで邪魔なので、この場には呼ばれていないそうだ。エリスがこっそり教えてくれた。
長いテーブルのお誕生日席に国王が座り、端から順に、王妃、王太子、王太子妃、国務大臣と座った。その向かい側に、第一王女、シン、第二王女、軍務大臣の順に座る。
エリスとローラの希望で、シンは二人の姫に挟まれる形となった。
食事が始まり、ローラははしゃいで、シンに色々な質問をしてくる。それに快く答えるシン。
特にあの曲技飛行には大興奮だった様で、どの様な仕組みでスモークを出したのか聞いて来る。
「あれは、狼煙を上げる魔道具を使ったのですよ」
シルフィードから軍で使う狼煙を上げる魔道具を貰って、それをドラゴンに括り付けてドラゴンの魔力で発火させたと教える。王都の少し手前で一度準備の為に着地して用意をした事を知った皆は、シンの思わぬ心遣いに喜んだ。
ついでに来る途中で出会った獣人の姉妹の事や、ゴブリンを退治した話に目を輝かせて聞いているローラ。獣人の娘をワイバーンに乗せて運んだ話を聞くと、自分もドラゴンに乗りたいと言いだした。
最も、強く王妃様に窘められていたが・・・・
「ところでシン殿、一つ宜しいか?」
軍務大臣からの質問だ。
「なんでしょうか?」
「古代竜達は、シン殿が竜騎士のワイバーンを倒すことについては、何も言っていないのか?」
「その件については、詳しくは話していませんが、僕がワイバーンと戦うと言っても止めませんでしたし、問題ないと思います、それに……」
「それに?」
「戦いとなった場合、上に乗る竜騎士だけを倒してワイバーンは野放しとはいきません」
「それは何故だ?」
「自分で狩りをした事の無いワイバーンは、腹が減って何を襲うと思いますか?」
「…………」
「一番てっとり早いのが、人間だと僕は思います。集団で生活し、ワイバーンに対抗できない人間の里を襲うでしょうね」
「なるほど」
「野生のドラゴン達は、人間の縄張りには入って来ません。それは子供の頃から親に教わっているそうです。お互いの縄張りを犯さない様にと」
「それは初めて聞いた、何故だ?」
「竜族の頂点の古代竜が、人間を襲わない様に言ったのが始まりみたいですね」
「古代竜が何故??」
「古代竜は人間の形になれる。だから人間を襲って食べると、共食いになるかでは? 僕も詳しくはわかりません」
「なるほど……」
滅多に人里へ姿を現す事の無いドラゴン達、その理由に妙に納得した皆だった。その後も色々な話をして歓迎会は終わった。
寝室へ戻ると、侍女三人組が部屋で待っていたが、特に誘惑される事も無く退室してしまった。
ちょっと残念な様な、ほっとした様な複雑な心境でシンは眠りについた。




