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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
14/46

14話 活火山

 ウェストリア伯爵家の屋敷で今夜はシンとメルの歓迎会が開かれる。


 メルが居るので、歓迎パーティーは中庭で行われる予定だ。既に中庭では歓迎パーティーの準備が始まっていた。シンと王女達との話し合いは一旦終わり、自室へと戻っているシン。


 王女達はそのまま部屋に残り、シンの言った事について話し合いが継続していた。



「なんだか、話がとんでも無い方向へ行ったわね・・・・」とエリス。

「ドラゴンを我々の力にするどころか・・・ドラゴンとの戦争ですか」とラル。


「でも、先に分かって良かったじゃない、それにまだ時間もあるし」とシル。

「随分と楽観的ね」


「そうかしら? いずれにしても、鍵を握るのはシンよ。シンが居れば古代竜の怒りは、帝国だけに向ける事だってできるのよ」

「それはそうだけど、そんなに上手く行くのかしら?」


「いかせるのよ、とにかくシンを取り込む方針は変わらないわ」

 相変わらずシンに固執しているシルフィード。



 そこへ、ノックの音と共に侍女が部屋に入って来る。


「あの、シルフィード様、宜しいでしょうか?」

 そう言って、シルにこそっと耳打ちをした。


「なんですって? シンが獣人の子に食いついた?」

「はい・・話によりますと、たいそうお気に召した様子だったとか・・」


「そう、わかったわ・・・・その獣人の娘はもちろん、他の獣人族の侍女を集めなさい!」


「なるほど、流石ドラゴンと暮らしているだけはありますな、人間より獣好きだとは」

 ラルの辛辣な意見が部屋に響いた。



 一方のシン。


【なあメル? 今日の歓迎会、ずっとドラゴンのままで居るのか?】

【だって人族のご飯は量が少ないから、夜にお腹空くと寝れないでしょ?】


【夜はどうするの? そこで寝るの?】

【どうしようかなぁ~】


 シンは自室のベッドに寝転がりならが、中庭の天幕に居るメルと念話をしていた。


『コンコン』

 シンの部屋のドアがノックされ、先ほどの猫耳侍女が現れた。


「シン様、御召し物をお持ちしました。今日の歓迎会はこちらの服で出席をお願いします」

「あ、そうだね、ボロボロの服じゃ流石にマズイか」


「あと、着替える前にお湯を浴びて頂けますか? ご案内致します」

「わかりました」


【メル?風呂入って来るな、また後で】

【わかったぁ~】


 侍女の後について、浴室へと移動するシン。


 脱衣場へ入ると、そこには狐耳と犬耳の侍女が二人待っていた。


(猫耳以外にも居るんだ・・・・狐の尻尾・・・モフモフしたら気持ち良さそう)


 二人は白く薄い布のワンピースを着て居る。スカート丈は股下20センチぐらいだろうか。二人はとてもスタイルが良く、大きな二つの山が薄い布越しによくわかる。


 そして、短いスカートの下から可愛らしい尻尾が出ていた。


「こちらへどうぞ」


 言われるままに、二人の前に立つとシンの服を脱がせにかかる侍女達。


「えぇぇぇ? ちょっ?」焦るシン。

「どうなされましたか?」不思議そうな顔をする狐耳。


「いや・・・ひょっとして、ひょっとしなくても、僕の体を洗ってくれるとか?」

「はい、お嬢様よりシン様のお世話をする様に仰せつかりましたので」


「マジですか?」

「どうぞお気になさずに」


 そう言って、あっと言う間に全裸にされてしまうシン。思わず手で隠してしまう。


 その様子を見て、狐耳の子はクスッと笑う。


「私達は慣れていますから、恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」


(いやいや、あなた達は慣れていても、こっちは慣れて居ないんですが!)


「「手を」」

 二人はそう言って、手を差し出した。


 二人に挟まれ、両手を握られ、まさに両手に花の状態で浴室へと向かう。


(平常心、平常心、平常心・・・・)


 浴室は豪華で、ライオンの様な動物の石造の口からお湯が流れている。二人に手を取られたまま、そのまま湯船に入る。二人は一度湯船から出ると、浴槽の縁に腰を掛けた。


 二人は一度浴槽に入ったので、濡れた服がピッタリ体に張り付き、目のやり場に困るシン。


(マズイ、マズイ、これはマズイ)


「さあ、体を洗いましょう」


 少し湯に浸かってシンの体が温まると、二人は再び浴槽に入りシンの手を取る。


「ちょっ! ちょっと・・・色々とマズイんですが・・・」

「ウフフ、お気になさらず」


 ニッコリと微笑む狐耳の侍女の視線は下の方を見ていた・・・


(もうダメ・・・諦めた・・・)


 マットに寝かされ、狐耳に膝枕をされて、優しく頭を洗われる。その間、もう一人は体を洗っている。


(この世界にも、石鹸はあるんだ)

 優しく洗う頭や体は泡がたっている。

 シンは違う事を考えて気を紛らわせ様と努力する。


 狐耳の大きな山を見上げながら、後頭部には柔らかい太股の感触。頭を気持ちよく洗われる感触。


 犬耳娘の体を洗う手はどんどん下へ降りて行き・・・


(もうダメ・・・無理・・・)


 シンの活火山は噴火した・・・・





 浴室から出て自室へと戻って、用意された服に着替える。


【ねえシン?】

 メルからの念話だ。


【どうしたメル?】

【なんか、さっきシンの魔力が変な波動をしてたけど、大丈夫なの?】


【え?・・・・だ、大丈夫だよ・・・】

【そう? それなら良いけど・・・】


 鋭いメルの感覚に、シンは変な汗を流すのであった・・・・・




 歓迎パーティーが始まり、大勢来賓が屋敷に集まっていた。ドラゴンの姿を一目見ようとする者、王女様の機嫌を取ろうとする者、色々な人間で中庭は溢れていた。


 メルはパーティーが始まる前に食事を済ませている。


 流石に来賓の前でメルの食事姿は見せられないと、先ほど食欲を無くした不幸な騎士達の意見でそうなった。 メルの居る天幕の入り口から、メルの姿を見てはあーでもない、こーでもないと人々が色々言っている。


 この状態に気分を害しているシンの姿がある。


(メルは動物園の動物じゃ無い!)


 イライラするシンに、メルの方が気を遣う。


【私は大丈夫だから、シンも気にしないでご飯食べなよ】

【でもさ、これは酷くないか?】


【大丈夫、この人族の集まりは今日だけでしょ? 私は我慢できるし・・・・嫌な事があれば、吠えるから大丈夫よ】


 メルはそう言って笑った。


 メルの事を心配してくれるシンの心遣いがとても嬉しく、人族の事は気にしない事にした。シンはメルの天幕の入り口に座り、見物客が天幕の中に入って来ようとするのを阻止している。


 王女やシルフィードは、シンを色々な人に紹介したいのだが、メルの側を離れようとしないシンに呆れ顔だ。


「ドラゴンが人間に恋するのではなく、人間がドラゴンに恋する。こっちだったのか?」

 そうラルが冗談を言う。


「そうなのかしら?」とエリス。

「獣人がお気に入りなら、ありえるわね」とシルフィード。


 シンが浴室で活火山を爆発させたのは、既に三人の耳に入っている。


 シルフィードはシンの態度は気にせずに、シンを取り込む第一段が無事に成功したと、とても機嫌が良かった。パーティーもお開きとなり、来客が帰っていく。


【メル!今日は人族の姿で一緒に寝るぞ! いいな?】

【えぇ~? どうしたの? シン】


【これ以上メルをさらし者にしたくない!】

【まあ、私は良いけどね・・・】


 そっけなく答えるメルだが、メルの心は踊っている。


 シンが本気で心配してくれているのが、シンの魔力の波動から伝わるのだ。飛び上がって喜びたいが、そんな態度をシンに見せる訳には行かない。シンがメルの服を持ってくると、メルは人族の姿になった。


 服を着て、シンと一緒に屋敷へと入る。



 私室の扉を開けると・・・・そこには獣人三人娘が居た。


「おかえりなさいませ、シン様」

 そう言って頭を下げる三人は、スケスケのネグリジェ姿だ。


「なっ・・・・何をしてるのですか?」とシン。

「シン様の夜のお供を仰せつかりました」と狐耳。


「はぁ?」思わず間抜けた声を出すシン。


【シン? これはどういう事なの?】

【いや、俺にも何がなんだかさっぱりだ・・・】


 そう答えたシンだが、シンは理解していた。どんなに鈍いシンでも、この状況は理解できる。浴室での出来事、続いてはこれだ。どうやら、王女やシルフィードは、シンに色仕掛けを行っているらしい。


(それにしても、メルにイケメン男を付けるならわかるけど・・・何故俺なんだ?)


「え? そちらのお嬢様は?」

 メルの姿を見た狐耳がそう言う。


「今日はこの子と寝ますので、お引き取り願いますか?」

 

 獣人三人娘は、侍女にこんな子居たかしら?と不思議そうな顔をする。しかし、次の瞬間には野生の本能が警笛を鳴らしていた。大量の汗が額から流れ落ちる。ここに居ては危険だと野生の本能が言っているのだ。


 メルが人族の姿になることが出来るのを知らない三人は、メルの事を危険な獣人族だと思う。


「し、失礼しましたっ!」

 慌てて逃げる様に部屋から出て行く三人娘だった。



 獣人三人娘はそのまま女館長の部屋を訪れた。


「あなた達! 何をしているのですか? シン様の所では無いのですか?」

 三人娘を見た女館長は、三人娘に向かってキツく言うが、三人の顔が青い事に気が付く。三人は、シンが見た事も無い娘を連れて寝室へ戻って来た事や、とても危険な獣人族だと報告する。


(まさか・・・帝国の暗殺者?)


 女館長は直ぐにシルフィードの部屋へと急いだ。





「なんか、今日は一日疲れたな」

「うん、本当だね」


 部屋では、シンとメルが寛いでいる。


「メル? 何か飲むか?」

「私はいらなぁ~い」


 シンは部屋に用意されているお酒の水割りセットで水割りを自分で作る。


「お、ウイスキーと変わらないな」

(氷ってやっぱ魔法で作るのかな?)


 シンは一人でチビチビとお酒を飲み始めると、メルが部屋の入口を見ながら緊張した声を出した。


「シン? 誰か来るよ・・・それも大勢」


 メルの聴力に大勢の足音が聞こえるみたいだ。


『コンコン、ガチャ』

 ノックの音と共に、返事も待たずにドアが開けられる。


 ドタドタと足音を立てて、武装した騎士達と一緒に王女とシルフィード、ラルが入って来る。


「なんだなんだ?」

 皆が殺気立っているので、思わずシンの口から驚きの言葉が漏れた。


「シン殿! その娘は何者だ?」シルフィードは鋭く質問をしてきた。

 騎士達は剣に手をかけ、何時でも抜剣できる状態だ。


「メルですよ」

「・・・・・・」


「だからこの娘はメルですって」

 シンの言っている意味が誰も理解できないで居る。


 目に映るのは可愛らしいドレスを着て、真っ赤な髪をした美少女だ。しかし、獣人の侍女達が言っていた通り、とても少女とは思えない雰囲気を感じる。



「シン殿、その娘から離れるんだ、娘っ! 貴様は何者だ? どうやってこの屋敷に入り込んだ?!」

 メルを見ながらラルが鋭く言い放つ。


「いや、だからメルですって、古代竜が人族の姿に成る事が出来るの、知らないんですか?」

『シン、人族と我ら竜族が交流を絶って100年以上になる、我らが人族の姿になる事を知っている人族は、もう生きてはいまい』


 メルがまたもや威厳たっぷりな念話で、この部屋に居る全員に聞こえる様に言った。


「なっ・・・メルって・・・ドラゴン?」そう言ったのはエリス。

「だからそうですって、メルは人族の姿に成る事が出来るんですよ」


「嘘? だってあれは、童話やおとぎ話の内容で・・・」とシルフィード。


「か、か、可愛いぃ~~~!!!」

「え?」


 エリスは突然メルに駆け寄ると、メルを抱きしめる。


「うそうそ? これがあのメルちゃんなの? メチャメチャ可愛いじゃないの!」


『なっ・・・こら、ちょっと! このメスはなにするんのよ! やだ・・変な所さわらないで・・・シン! 助けてっ!!』


 目の前で、エリスがメルに抱きついて揉みくちゃにしている・・・どうやら王女は可愛い女の子好きの様だ・・・流石に王女に触れる訳にはいかないシン、黙ってエリスを見守るしかない。


 メルの人間形態がエリスの壺に入った様子で、可愛いを連呼しながら抱きついて離れようとしない。


『離してっ! やだ・・・離れろこのメス! ちょっとシン! 見てないでこの人族のメスをなんとかしなさいよね!』


「あ~・・・ラルさん、お願いできますかね?」

「え? え、ええ・・・エリスティーナ様、落ち着いてください」


 ラルがなんとかエリスを引き剥がして、騎士の人達は解散させられる。



 部屋には三人娘だけが残った。


『ハァハァハァ・・・まったくなんなの? この人族のメスは?』

「大丈夫かメル?」


「申し訳ない、シン殿、メル殿」と言うのはラル。

 エリスはまだ物足りない様子でメルを見ている。


「しかし、ドラゴンが人間の姿になるなんて・・・信じられないわ」とシルフィード。

「ドラゴンと言っても、古代竜だけですよ、それも亜種の古代人竜と言うそうです、最も、純粋な古代竜はもう、絶滅してしまって居ないそうですけどね」


 シンがそう説明をする。


「おとぎ話は本当だったという訳ね・・・」

「それってどんな話なんですか?」とシン。


 シルフィードは昔から伝わるおとぎ話「大魔術師とドラゴンの恋」をシンに話して聞かせる。


「あ~それ、竜族に伝わる伝承と同じですね」

「そうなのですか? 竜族にも同じ話があるのね・・・」


 その後も少し、古代竜に伝わる話をしていると、メルが眠そうな事に気が付いた。


「そうだ、メルに合う寝る時に着る服ありませんかね?」

「あるけど・・・・メルさんは、ここに寝るの?」とシルフィード。


「ええ、そうですよ」とシン。

「それって・・・・」とシンを見る目が厳しいラル。


「いやいや、いつも洞窟では一緒だったので、変な目で見ないでくださいよ」

「・・・・まあ、わかったわ、今用意させるわね」


 別室でメルが着替えると、さっさとベッドに潜り込んで、寝息をたてはじめる。その様子を見た三人娘も、解散する事にする。


 シルフィードだけが部屋に残り、シンへ意味ありげな顔を向ける。


「ところでシン殿? 良ければ別室を用意しますが、獣人の娘たちも用意しますけど?」

「お気遣い無用です、遠慮します」


「そう? 遠慮せずに、何時でも言ってくださいね」

 そう言って、シルフィードは部屋を出て行った。


 シンも着替えると、ベッドに入る。メルはシンの気配に引き寄せられる様にもぞもぞとシンに体を寄せてくる。


 メルの体温を感じながら、シンも眠りについた。

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