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蒼空の竜騎士  作者: 黒影たかし
10/46

10話 国政会議

 シンとメルが飛び立って行くのを見送ったシルフィード達。


「お嬢様、本気ですか? ドラゴンなど屋敷に招くとは・・・」


 シルフィードに騎士隊の隊長が聞いてきた。


「ええ、私は本気よ」

「しかし・・・ドラゴンとは・・・危険ではありませんか?」


「大丈夫よ、あのドラゴンの子供、シンに懐いているどころか、大好きってオーラを出していたじゃないの」

「はぁ・・・・」


「おとぎ話の、大魔道師とドラゴンの恋、あれもまんざら嘘じゃ無さそうね」


 この国には、ドラゴンと大魔道師が恋に落ちたおとぎ話が伝わっている。それはソフィーが教えてくれた

人間に変身する事が出来る竜の、言い伝えと一緒だった。


 もっとも、シルフィードはドラゴンが人間に変身する話などは完全なおとぎ話の夢物語だと思って居る。


「さて、これから忙しくなるわよ! まずは王都への報告書ね、それと軍務大臣にも手紙を書いて、エリスにも手紙を書かないとね!」


 軍務大臣はウェストリア伯爵家とは親戚関係にある。対ワイバーン用秘匿兵器を簡単にシルフィードが持ち出せるのも、そういったコネがあるからだ。


 エリスとはエリスティーナ姫。ここジラール王国の第一王女だ。


 シルフィードとエリスは友人関係にある。年齢の近い王女様と貴族の娘、二人は気が合い仲が良かった。


「エリスティーナ様にもですか?」

「そうよ、こんな一大事、王族を利用しないとどうにもならないでしょ?」


「あの・・・お嬢様は何をなさろうと?」

「本当にわからないの?」


「ええ・・・」


「いいこと? あのシンって青年とドラゴンの子供。あの二人の存在でこの大陸の軍事バランスは一気に崩れるのよ」


 シルフィードが説明をする。


 あのメルの戦闘能力。伝説の古代竜の力は、想像以上で圧倒的だった。先日の戦闘は騎士団の精鋭でも全滅しそうな常況だった。それを一瞬でモンスター達を消滅させたのだ。


「ワイバーンの10匹程度なら、余裕で相手出来るわよあれは」


 竜騎士なんて目じゃない。帝国がここまで国力を増強できたのは、間違いなく竜騎士の存在だ。そのワイバーンに対抗する力が手に入るのだ。しかも、野生の古代竜。飼い慣らされたワイバーンは敵ではないだろう。これで帝国の優位は一気に覆される。


「それにあの森見たでしょ? 一瞬で森を消滅させたのよ」


 メルが怒り狂って消滅させた直径1キロメートルの森。敵の野営地に飛んで行って、あの力を使えばどうなるか・・・考えるまでも無い。


 王国は、帝国と一戦も交えることなく、敵の野営地ごと敵戦力を消滅させる事ができる。


「しかし、そう上手く行くのでしょうか?」

「いかせるのよ! シンには女を充てがうわよ。そうね、綺麗処の侍女をまずは10人ね、美味しい料理とお酒に綺麗な女の子達、それでシンは簡単に落ちるわね、落ちなくても良いわ。とにかく我が領地に居つかせるのよ」


「しかし、ドラゴンが言う事を聞かなければ?」

「最悪はシンだけでも手中に入れれば良いわ。彼は恐らく特殊能力持ちね、ドラゴンと会話できる能力持ちよ」


「特殊能力ですか?」

「シンを見ていて気が付かなかったの? 時々魔力の行使を感じたわ、その時はドラゴンと間違いなく会話していたのよ」


 シルフィードは気が付いていた。シンが時々メルと念話している事を。そして、その時は微量ながらの魔力反応がある事を。


「あのレッドドラゴンが言う事聞かなくても、シンが居ればこちらも竜騎士部隊が作れるのよ」

「竜騎士部隊ですか?」


「そう、ワイバーンとシンを会話させて、ワイバーンを飼い慣らす方法を探る事ができるわ」

「な、なるほど・・・・」


「女だけでシンが言う事を聞いてくれたら良いけど、名誉や金、領地なんかを望んでくる可能性もあるでしょ? そうなると王家の力が必要だわ」


 そこで、友人であり、王族のエリスを巻き込むつもりで居る。国王陛下はエリスに甘い。エリスを上手い事説得できれば、間違いなくこの手は上手く行く。更には、国政会議の重鎮共を黙らせる為にも、軍務大臣には根回しをしておきたい。


「これが上手く行けば、ウェストリア伯爵家は安泰どころか、この王国に絶対の地位を築くことが出来るのよ」


 なんとしてもシンを手に入れる。シルフィードは心に誓っていた。


「それに・・・このままではエリス達は・・・・」

 シルフィードの呟きは、誰にも聞こえる事は無かった。


 翌日、王都へ向けてシルフィードの手紙を持った早馬が掛けて行った。






 翌日からのシンとメルは旅の準備だ。


 旅と言っても、隣町にお泊りに行くだけなので対した準備は要らないのであるが、メルが一人で服を着る訓練だとか、変身した時に全裸を晒さない訓練だ。更にシンはエトに買ってもらった調理器具を使って、野菜料理を作ったりとのんびりとした時間が過ぎて行く。


「うっひょ~ この野菜炒め最高だぁっ!」


 そんな声が洞窟に響いていた。






 ―――― ジラール王国 王都サファリアの王宮。



 王宮の会議室には、国王と国政を動かす重鎮達が集まっていた。


「全員、ウェストリア伯爵家からの報告書は読んだな?」


 国王がそう言って全員を見渡すと、頷く姿が返ってくる。


「あのお転婆娘が、とんでもない提案をして来た。それについて皆の意見を聞きたい」


「レッドドラゴンですか・・・あの様な話、信じられませんな」

「ドラゴンの力を取り込もうなどとは、正気の沙汰とは思えませんな」


 次々と上がる批判的な意見。


 シルフィードの報告書は過激な内容だった。まずは現状の報告。帝国の竜騎士では無く、レッドドラゴンに乗った青年の事。レッドドラゴンの戦闘能力の分析。30年前の開拓村の真実。


 次に、そのドラゴンを自分の屋敷に招く事にしている事。


 そして、ドラゴンの力を我が国の物として、帝国に対抗するべきだと書かれている。また、シンは「特殊能力持ち」の可能性があり、新しいドラゴン騎士部隊を作る事が出来る可能性がある事。その為に、まずはレッドドラゴンの視察団を寄こして欲しいと書かれていた。


 出来れば、王族の誰かを寄こして欲しいと。



「王族をあの田舎に呼びつけるなどと、随分とウェストリアは偉くなった物だな」

「本当ですな、最近増長も甚だしいのではありませんか?」


 次々と出てくるのは、ウェストリア家に対する批判。


 ある程度意見が出尽くした頃合いを見て、国王が口を開く。


「軍務大臣、軍事面から見た意見を頼む」


 今迄、シルフィードと親戚関係になる軍務大臣は一回も口を開いては居ない。腕を組んで、ずっと目を瞑ったままだった軍務大臣は、ゆっくりと目を開けた。


「もし、ドラゴンの戦闘力が、ウェストリア家の報告書の通りの物であったとして聞いて頂きたい。ウェストリア家うんぬんはこの際忘れて、純粋に聞いて頂きたいのだが、皆さん宜しいか?」


 ウェストリア家と軍務大臣は親戚関係にある事は、ここに居る誰もが知っている。先に、その事に対して釘を刺したのだ。


「続けられよ」

 国王が先を促す。


「まず、一つ目。ドラゴンの子供の力を我が国の物とした場合、今後予想される帝国の侵攻を十分に食い止める事ができるであろう」


 全員が黙って軍務大臣の言葉を聞いている。


「その場合、我が国の被害は想定の十分の一以下だと予想される。最もこれは、ドラゴンの子供がこちらの言うとおりに動いてくれた場合ではあるが」


「帝国を食止める事が出来るのか・・・」


 ザワザワと会議室の中は、軍務大臣の発言に対してザワつき始める。


「次に、二つ目だが・・・今協議が行われている帝国に対する三カ国軍事同盟、これが成立した場合は、帝国の侵攻を食い止めるどころか、逆に帝国へ進攻も可能となるだろうな」

「それほど迄に強力だと言うのか・・・・」


「そして三つ目。ドラゴンの協力を得られないとした場合でも、ワイバーン部隊を設立した場合は、帝国もおいそれと攻め込んでは来ないであろうな。三カ国同盟プラスワイバーン部隊、帝国に対する抑止力としては十分だ」


「それは、その青年を何としても我が国に取り込めと言う意見と同意見だと言う事か?」

「その通りです」


「なるほど・・・・」


「そして最後に、もし、ドラゴンの子供と、その親の協力も得ることが出来たら・・・我が国は、単独でこの大陸を制覇できるだろうな。それも十年もかからずに達成できるだろう」


「・・・・・・・・・」

 会議室の中に沈黙が流れる。


「まあ、最後のは置いておくとして、この青年が他国へ渡った時の事を考えて欲しい。そして取り込まれ、私と同じような事を考えた場合どうなるのか」


「そ、そんな事が許される訳はない」

「そうだ、その青年を絶対に国外へ出したらダメだ」


 軍務大臣の意見に肝を冷やした他の人々は、次々に賛同の意見を出す。


「今回、ウェストリアのお嬢ちゃんの言っている事は、非常に的を得ている。ウェストリア領都サンスマリーヌには、帝国の内通者が沢山いるだろう。ドラゴンを我が国の力とした事を宣伝する。王族が参列したら尚更効果的だ。国を挙げて、ドラゴンを迎え入れたと思うだろうな。もちろん、帝国も青年を懐柔しようとするし、暗殺者を送ってくる可能性もある。多かれ少なかれ、数多くの国の密使が青年に接触するだろう。それを防止する為にも、ウェストリア家の屋敷で匿うのは悪い手じゃ無い」


「しかし、それは逆効果じゃないのか? あえてこちらから宣伝する必要は無いと思うが」

「時間の問題だよ。ドラゴンの背に乗った青年の噂はすぐに広まるだろうな」


「先手を打つと?」

「そう、そして嘘でもハッタリでも構わない、ドラゴンの力を手に入れたと思った帝国はこちらに手を出し難くなるのは間違い無い」


「意見は出尽くした様だな」

 国王が口を開いた。


「ウェストリア領へは娘のエリスティーナを向かわせる」

「姫様をですか?」


「朝からうるさくてな、ドラゴンを見に行きたいと・・・・まったくあのお転婆娘め、報告書と一緒に、娘にも手紙を書いたみたいだ・・・」


 国王は溜息を吐きながらそう言うと、国務大臣を見る。


「そのドラゴン使いの青年を何としても繋ぎ止めるのだ、その為に多少金が掛かってもかまわん、どの程度迄できるか、明日までに報告せよ」


「御意」

 国務大臣は頭を下げる。


 次に軍務大臣を見る。

「エリスティーナの護衛は近衛に任せるとして、その青年の警備に軍を差し向けよ、ウェストリアの騎士だけには任せて置けない。帝国の竜騎士の襲撃も考えられるので十分に備えて、軍を差し向けろ」


「ハッ! 直ちに準備に掛かります」

 軍務大臣も頭を下げた。


 こうして、国を挙げてシンを取り込むことが決定された。






 一方のメルとシン。


 ウェストリアの屋敷では人間形態で寝る事になるので、その訓練が行われていた。


「ねえシン?」

「ん~? なんだい?」


「流石にこの姿だと、岩の上で寝ると痛いわ・・・そっちに入っても良い?」


 枯葉のベッドで寝ているシンの横でいつも寝ているメル。今日は人間形態なので、岩の上は流石に痛そうだった。


「え? ま、まあ良いけど・・・・」

「えへへへ お邪魔しま~す」


 シンのベッドへと潜り込んで来るメル。シンは、先日人族の服を着たメルの姿を見てから、妙に意識してしまっている。


「シンの魔力の波動・・・本当に心地良いね」

「そうか? 俺は良くわからないけど・・・メルが良いなら俺も嬉しいよ」


 メルはシンに体を寄せてくる。密着するメルの体に、シンの心臓はドキドキしている。


「ねえシン?」

「ん?」


「発情したら踏み潰すからね」

「・・・・・・・き、気を付けます」


(これは・・・生き地獄じゃないのか?)


 シンはそんな事を考えながら、二人は眠りについた。



(うっ・・・なんだ? 重い・・・・)


 目が覚めると、ドラゴンの大きな手がシンの上に乗っていた。


(げっ・・・メルのやつ・・・ドラゴンに戻ってるじゃないか!)


『グーー グーー グーー』

 大きなメルの寝息が響き渡る。


 突然、メルが寝返りを打った。


「ちょっ! メルっ! 起きろ!! ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」

『ブチッ』


 何かが潰れる様な、嫌な音が洞窟に響き渡っていた・・・・

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