01話 出会い
昔々、とても偉い立派な大魔導士様がいらっしゃいました。
若いうちから魔法の研究に打ち込み、色々な魔法を開発するとても偉い方です。その大魔導士様は、ある日、山で怪我をしている大きなドラゴンと出会いました。
ドラゴンは酷い怪我で、放って置いたら死んでしまいます。
可哀想に思った大魔導士様は、ドラゴンに癒しの魔法をかけてあげます。自分でご飯を捕れないドラゴンに、大魔導士様は食事を与え、毎日癒しの魔法で怪我を治していきます。
やがて怪我も治り、すっかり体調も良くなったドラゴンは、大魔導士様にこう言いました。
「このご恩に報いる為に、私はあなたの翼となって、あなたの行きたい所へ連れて行きましょう」
大魔導士様はドラゴンの背に乗り、世界中を旅する事になりました。一緒に旅をするうちに。ドラゴンは大魔導士様に恋をしてしまうのです。そしてドラゴンは言いました。
「私が人間の姿になる事ができたら、もっとあなたのお役にたてるのに」
その言葉を聞いた大魔導士様は、ドラゴンを人間の姿に変える魔法の研究を始めました。
やがて二人の努力が結ばれ、ドラゴンは人間の姿になる事ができたのです。
人間の姿になったドラゴンの娘は、それはそれは美しく、大魔導士様もその姿に見惚れて、二人は結ばれ、結婚して幸せに暮らしたのでした。
「ねえママ? ドラゴンさんって人間になれるの?」
「うふふ、これはおとぎ話だから、ドラゴンは人間には成れないわね」
「え~? そうなのぉ?」
「これはね、頑張って努力したら、なんだって出来るって言うお話ね、あとは愛の力はドラゴンを人間に変える事が出来るほど素晴らしいってお話しでもあるのよ」
「そうなんだぁ~! ママもパパの事愛してる?]
「そうねぇ~ こんなに可愛い娘と私を放って、今日も飲みに行ったあの人を許せたら・・・・それは愛の奇跡・・・かもね・・・」
「ママ? お顔が怖いっ!」
「さあ、もう寝る時間よ!」
そんな平和な街から遥か彼方遠くにある山脈にある洞窟。
巨大な洞窟の中で、体を丸めて寝ている生物が居る。
「クー・・・クー・・・クー」
大きな体の割には、可愛らしい寝息が洞窟の中に響き渡る。
『ゴゴゴゴゴゴ!!!』
突然大きな揺れが起こり、洞窟の中で寝ていた存在の上に、洞窟の上部から小さな石がパラパラと降り注いだ。
(また地震かしら?・・・最近多いわね・・・)
リアン大陸中央部に位置するエスバンヌ連峰。2千メートル級の山々が連なる山脈。その中でも一番大きなアルバント山の頂上付近にこの洞窟はあった。この山は活火山である為、地震はさほど珍しくは無い。
洞窟の主は、頭上に降り注ぐ小石を気にも留めずに、再び眠りにつこうとした。
しかし次の瞬間、洞窟の主の目がパっと開かれる。
(この反応は!?)
大きな羽音が響き渡り、目覚めた洞窟の主が翼を動かし飛び出して行った。
洞窟の主が大空を羽ばたくと、その姿を見た地上の生き物達は我先にと慌てて逃げ出す。真っ赤な鱗を持ち、翼を広げるとその両翼は20メートル以上になるドラゴン。
この地上で最強の強さを誇るドラゴン種の中でも、古代竜と言われる最上位種族の一匹、赤い鱗が特徴的で、人々からレッドドラゴンと呼ばれる洞窟の主が大空をはばたいていく。
(あれね・・・)
レッドドラゴンの視線の先には、エスバンヌ連峰の山の一つの中腹で青白く光を放つ場所。
光る場所の上空に到着すると、様子を覗いながらレッドドラゴンは上空をゆっくりと旋回する。
(こんなに大きな魔力反応を見たのは、何百年ぶりかしら?)
レッドドランゴンが感じた気配は大きな魔力反応。尋常ではないあまりにも大きな魔力反応に、思わず巣を飛び出して来たのだ。大きな魔力反応は徐々に弱まって行く。それに呼応する様に徐々に弱まる青白い光。
レッドドラゴンは目を凝らして光の中心を見る。
(・・・・? 人族?)
光が収まると、そこには人間の男が全裸で血を流して倒れているのが見えた。レッドドラゴンはゆっくりと降下を開始すると、人間の男目指して降りて行った。
目が覚めると、そこは知らない天井・・・では無く、洞窟の中だと言う事がわかった。
(俺、生きてるのか?・・・・)
ゆっくりと辺りを見渡すと、自分に違和感を感じる。
(えっ?・・・・ えええええーーーー????)
何故か自分は全裸で、薄いシーツの様な布きれを一枚掛けられている状態だった。
(俺、なんで裸なんだ?? あれ? 俺の服は??)
「気が付かれましたか?」
「うわっ!!??」
突然声を掛けられ、飛び上がるほど驚く男。
慌てて声の方を見て・・・さらに驚いた。
(が、外人?? それにしても・・・赤い髪って・・・)
声を掛けてきたのは20代と思われる綺麗な女性、ゆっくりと歩いてこちらに近づいて来る所だった。真っ赤な髪を腰まで伸ばし、体は真っ白なレースのカーテンの様な布きれを巻いている。
容姿の美しさも然ることながら、そのスタイルの良さも薄い布越しによくわかる。
その美しさは神秘的とも言える雰囲気を出していた。
「あの・・・ここは?・・・・あなたは?・・・・」
慌てて起き上がろうとする男に、女性は優しく声を掛ける。
「まだ起き上がってはなりません。酷い怪我でしたので体液がかなりの量失われました。もう少し安静にしてください」
「怪我?・・・・そっ そうだ! 俺洞窟で地震にあって・・・あれ? 怪我は??」
男は慌ててシーツを捲ると、自分の足を確かめる。
(嘘? 治ってる???)
男は怪我をした経緯を思い出していた。
観光スポットにある鍾乳洞を歩いている最中に大きな地震が起きた。そして崩れる天井、天井には氷柱の様な先の尖った鍾乳石がびっしり垂れさがっていた。
天井が崩れ、その鍾乳石が次々と降りそそいできたのだ。一つが自分の右足に刺さり、痛みに耐えながら這って逃げようとするが、どんどん崩れてくる天井。
もうダメだと思った瞬間、目の前に広がる青白い光に目が眩んで・・・・
(目が眩んで・・・・その後・・・どうなったんだっけ? 思い出せない・・・)
「んっ・・・コホンッ!・・・あの・・・隠して頂けると・・・・」
自分の思考に陥っていた男は、女性の声で我に返ると、自分が全裸で下半身丸出しだった事を思い出す。右足の怪我を確認する為に、シーツを捲ったままだった。
慌ててシーツを元に戻しながら女性を見ると、しっかりとガン見されていた。
「うわっ!・・・えっと・・・失礼しました・・・・」
「いえ、お気になさらずに」
そう言った女性の目が笑っていた・・・・
(うぅ・・・笑われた・・・まあいいや、そんな事より・・・)
男は現在の状況が理解できない。
ここは何処なのか? この女性は何者なのか? 何故あれほどの怪我が治っているのか?考え出せばキリが無いほどに湧き上がってくる疑問。
「あの・・・ここは何処なんでしょうか?」
「ここですか? ここは私のねぐらです」
「ねぐら?」
(そうか、家って日本語が出てこなかったんだな・・・でもここ、洞窟だよな?)
「失礼ですがお名前は?・・・僕は、藤崎信二です」
「フビ・・・ガキ?・・・シンギ?・・・難しいお名前ですねぇ」
(ありゃ?・・日本語こんなに上手なのに・・・発音できないのか?)
「えっと・・・シンで良いです。シンと呼んでください」
「シンですね? わかりました。私はソフィーリアと申します、ソフィーと呼んでください」
「ソフィーさん・・・」
ニッコリと微笑むソフィーの顔に思わずドキっとしてしまう信二。
(凄い綺麗な人だなぁ~・・・でも、何だろうか?この違和感は・・・)
ソフィーを見ると、薄いレースのカーテンの様な生地を体に巻き付けている。透けそうで透けない生地。しかし体のラインがハッキリ出ていて、豊満な胸を強調している様に見える。
(さすが外人さん・・・でかっ!・・・ってかなんて言う恰好をしてるんだ? この人は)
「ソフィーさん・・・・あの? 僕はソフィーさんに助けられたのでしょうか?」
「はい、倒れていたあなたをここ迄運んで、怪我の治療をしたのは私です」
「ありがとうございます・・・でも、僕の怪我は酷かったはずですが?」
「癒しの力を使いましたので、あの程度の怪我でしたら大丈夫ですわ」
「癒しの・・・・力?」
そこまで話をして、シンは目の前のソフィーに対する違和感をはっきりと認識した。
確かに美人な外国人のおねーさんには違い無いのだが・・・何処か神秘的な、人間離れした雰囲気を感じる。そして何より、綺麗な声のソフィーさんではあるが、先ほどから口を動かしていないのだ。ソフィーさんの声は、頭の中に直接響いてきている。
最初は洞窟の中なので、声が反響しているのかと思っていたシン。
しかし、今ハッキリと違和感に気が付いてしまった。全身を変な汗が流れ始める。
周りをもう一度よく見ると、ここは洞窟の中だ。半径20mほどある円形の大きさで、天井はドーム型になっている。
(洞窟なのに、この広い空間って・・・それに明かるいよな?)
電気がある訳ではないのに、何故か洞窟の壁面が光っている様に感じる。更に、洞窟の中なのに暖かい。全裸で寝ているにも関わらず暖かい洞窟。自分の寝ているベッドを見てみると、それは枯葉の山に、シーツを敷いただけの物である事がわかった。
(おかしい・・・何もかもがおかしい)
「どうなさいました?」
変な汗が出て、焦るシンの様子を見て不思議そうな顔をするソフィー。
「え? いえ・・・で、ここは何処なんですかね?」
「ですからここは・・・」
「いえ、そうじゃなくて、僕が居た鍾乳洞では無いのですよね? ここってあの鍾乳洞の近くですか?」
また「ねぐら」だと言われそうだったので、ソフィーの言葉を途中で遮るシン。
「ここはアルバント山にある洞窟です」
「アルバント山? え? それ何処?? 聞いた事無いですが?」
「我が一族は代々この山に住んでいます」
「一族??・・・ですか・・・」
(マズイマズイマズイ・・・やっぱりこの人喋ってない・・ヤバイぞ、しかも洞窟に住んでる一族?・・・妖怪? 雪女? 化け物??)
「あら、化け物とは失礼ねっ!」
思わず声に出てしまったらしい・・・少し怒気を含んだ声が頭に響き、ソフィーの雰囲気が変わると彼女を包んでいるオーラの様なプレッシャーが放たれる。
「っ!!・・・」
彼女のプレッシャーに気圧されて、喋ることが出来なくなるシン。
全身から汗が流れ出る。マズイ! やっぱり化け物??フッっと怒気が和らぐと、彼女から放たれる重圧から解放された。
「シン、あなたこそ何処から来たのですか?」
「え? 俺は・・・○▽市から」
「・・・?? それは何処の国でしょうか?」
「国って・・・日本に決まってるでしょ?」
「ニホ・・・ん? それはリアン大陸にある国なのですか?」
「リアン大陸?? いや・・違うっていうか・・・」
その会話の途中で、『バサバサ』と大きな羽の音が洞窟の中に響いてきた。
「・・・? 何の音?」
羽音が止むと、次にドスドスと歩いてくる足音。どう考えても、人間の出す足音では無かった。
足音の方を見ると、横幅10m程あるトンネルがあり、そこから響いてきている。そして・・・・現れたのは真っ赤な色をした恐竜の様な、トカゲの化け物。
「・・・・・なっ!!!」
あまりにも非常識な出来事で、言葉を失っているシン。
その大トカゲはこの空間に入ってくると、驚いているシンをじぃぃっと見つめた。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
大トカゲを指さし、言葉にならないシン。
【ん~~~? どうしたのこれ? 今日の夜御飯?】
大トカゲはそう言うと、牙の生えた大きな口を開け舌なめずりをした。
「ひっ! ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!! く、食われるぅーーー・・・・あうぅ・・」
シンは悲鳴を上げて、そのまま意識を失った。