先生に恩を返すつもりだった反省はしている。
うちの村には先生と呼ばれる不思議な人がいる。
普段は農作業とかをしている普通の人なのだがなぜか偶にいろんな人が訪ねてくるのだ。
どこかの街の商人だったり、某教国の法王様だったり、どこかの村の職人であったり、とにかくいろんな人が訪ねてくる。
なんでも若い頃にいろいろとやんちゃしてた(本人談)らしくそのつながりで今でもいろんな人と交流があるらしい。
顔に大きな傷があったのでもしかしてそういうヤの付くような自由業でもやってたのか?とか考えたこともあるが話してみるとうちの父さんとかとほとんど変わらない。
なのになぜそんなに人との繋がりがあるんだろうと不思議に思っていたのだが、ある日その凄さに気がついた。
それは雲ひとつ出ていない晴れていた日の事だった。
僕は友達と山に遊びに行こうとするとその行き先でばったりと先生と出会った。
僕らは特に話したこともないのでこんにちわと軽く挨拶だけして立ち去ろうとした。
そうして通りすがった時、先生はふと思い浮かんだように言ったのだ。
「今日は午後から雨が降るから早めに帰りなよ」と。
その時僕らは全く雲など出ていないのに雨が降るなんておかしなことを言うな、と思った。
だからすぐ僕らはそんなことを忘れ山に入り遊んでいた。
それから太陽が一番上にたどり着いて2時間位たった頃だろうか?
何やら雲行きが怪しくなってきたのだった。
あ、これは雨が降ると思い僕らは帰ろうとしたが山を降りる前に雨が降り出してしまった。
そして雨が降ってしまったせいで道に迷ってしまったが、その後先生は僕らを追いかけてきたらしく合流し、なんとか家に帰ることが出来た。
僕らは父さんや母さんにこっぴどく叱られたがそのあと先生がどうして天気を当てられたのか疑問に思って父さんに聞いてみた。
すると、なんでも彼は天気をだいたい当てられるらしい。
どうやって当てているのかは知らないがその的中率はおおよそ8割くらいだという。
結構便利なので同じように農作業をする人の中には参考に聞きに行く人もいるそうだ。
それで僕はどうやってそれを当てているのか知りたくなったので次の日先生の家を訪れることにした。
一人で行くのはなんとなく怖かったので友達を何人か誘って。
そしてこれが僕達の未来を決める最初の一歩だった。
先生の家に訪れると彼は快く僕達を歓迎してくれた。
何やら不思議な牛乳とは違う白い飲み物も出されたが甘くて美味しかった(先生いわくカル○スとか言うらしい。遠心分離器?とか言うのを使って脂肪を抜いた牛の乳を作ってそれを凍らせ、フリーズドライ?とか言う製法で粉末状にし、それを水に混ぜた上でヨーグルトをいれて発酵させるらしい。なんでそんな手間をかけているのかを聞くとその粉末状にすると長持ちすると答えてくれた。ただ保存期間の影響かそのままだとあまり美味しくなかったらしいのでどうやったらおいしくなるだろうと実験した結果らしい)。
そして彼は詳しく説明してくれた。
「ああ、アレは簡単な統計学だよ。気温と温度、大気圧、あとは風向きとか前日の雲の動きとか細かくデータに……だいたい5年分くらいかな?それで同じような気温で同じような大気圧で同じような風向きの日が何日あるかを大まかにまとめて、天気の割合出して確率を出してるだけさ」
そんなことを言っていたがその時はちんぷんかんぷんで何を言っているのかさっぱりわからなかった。
だがその様子を見た彼は首をかしげている僕らに気づくと、ガサゴソと家の中をあさりいろんな器具を持ちだして説明してくれた。
そしてその実験が僕らはすごく楽しかったのでその日から僕らは暇さえあれば先生の家に入り浸るようになった。
先生はいろんなことを知っていた。
水車とかいろんな機械の作り方(うちの村の水車や風車は先生が作ったらしい)、いろんな物質の性質だとか、太陽や月、星の動きから地球の形や大きさを計算する方法、本当にいろいろだ。
そんな科学(そういう学問なのだと先生が言っていた)の話は僕は楽しかったが友達の一人は楽しくなかったらしい。
すると先生はどんなことに興味が有るのか聞いてきた。
するとそいつはこう言った。
「俺は騎士になりたいんだ。戦場に行ったりして戦って出世したいんだ」
そいつは僕達の中で一番力が強くて頼りになるやつだった。
確かにそんな奴が将来の役にあまり立たないことを聞いても面白く無いと感じるだろう。
それを聞くと彼はそれならとまた別の話をした。
どこか別の国の戦争の話を。
それは偉大な将軍や指揮官がどのように軍隊を動かし戦いに勝ったかといった話だった。
他にもどうやれば効率的に軍隊を動かせるか、相手が騎兵を多く持っていた場合どうやればそれを打ち崩せるか、火薬の画期的な使い方、兵站の運用方法についてなどを。
そしてそれを聞いた友達は満足して毎日こういう場合はどうすればいいんですか、と楽しく先生の話を聞くようになった。
それから先生は考えることがあったらしく僕達の将来の夢を聞いてきた。
僕は科学者に、友達の一人は騎士に、また他の友達は商人に、料理人に、親を継いで農家に、いろんなところを旅する旅人に、技術者に。
とにかくいろんな夢を僕たちは語り合った。
そしてその日から先生は僕達がなりたい職業にあった授業を日によって変えるという方法に変えた。
今日は軍事、次の日は計算、そのまた次の日は料理、また次の日は科学という風に。
それぞれが受けたい授業を受けるというようになった。
それから何年かの月日が経ち僕たちは別れた。
先生はいろんな人との付き合いがあったので各自学ぶことが終わったら、先生がそのやりたいことにあった職業の人を紹介し弟子入りさせたり仕官させたり就職させるという風に。
そしてその弟子入り先や、仕官先、就職先でまた僕たちは先生の凄さを知った。
なんというか学ぶことが殆ど無いのだ。
大抵のことは先生から教わっていたことでなんとかなったので僕たちはかなりの速度で出世していった。
騎士になりたかった奴は歴史的な勝利を国にもたらし英雄になったり、商人になったやつは株式会社?や投資?と言った新たな商売を作り出すことで国内有数の富豪になったり、料理人を目指した奴はそのいろんな料理を作ったことで人気の酒場を作ったり、新大陸を発見したりと色々な形で。
もちろん僕も学者として活躍した。
いろんな物質を混ぜ合わせたりすることで新たな物質を作り出したり、いろんな数にまつわることを証明したりと様々だ。
まあ正直僕らは出世するのが早すぎたのでいろんなやっかみを受けたりもしたが大抵はなんとかなった。
てか宗教国がバックに付いてるとかどうやったんですか先生……
僕らのこと貴族たちも怯えた目で見てるんですけど……
……気にしないことにしよう。
そしてそんなこともあって出世した僕らはどうにかして先生に恩が返せないかと考えた結果、取りあえず今の自分達があるのは先生のおかげだとそれとなく色んな所で言って回ることにした。
するとその噂がまわりまわってこの国の大貴族の耳に入ったらしい。
いつの間にか先生はその貴族の息子の家庭教師をやっていた。
そしてその後それが貴族たちの間で広まり何らかのパワーゲームが行われた結果、大きな学園作ってその知識を誰かに独り占めされないようにしよう、ということになったらしい。
そして学園が出来てから数年後、先生から文句言われた。
「わし、もう60近い爺さんなんじゃが、なんでこんなに馬車馬のように働かされてるのじゃろうか……。後はのんびり隠居生活の予定じゃったんじゃが、まあちょっとは楽しいからいいんじゃが……」
……なんかごめんなさい先生。僕らも悪気があったわけじゃないんだ。
そうしてそんな背中が煤けたような先生を僕たちは見ないことにした。
た、楽しそうだからいいよね?
なんとなく別視点が思い浮かんだので書いてみた。
書いてて思ったけど技術チートというより知識チート+人脈チート