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地球に生きる生命(いのち)の物語  作者: 梅村 夕菜
第一章 狂った歯車。
7/20

生きる道。


 戦いから数日。ようやくショックから立ち直れたリーフは、セグよりとある話を聞いてしまっていた。



「‥‥‥え‥‥‥ライドが‥‥‥?」



「そうだ。さっき、地雷班の奴らが言ってた」



 軍服から私服に着替えながら告げるセグの声には、なんの感情も籠っていなかった。



「地雷班の子ども兵が、地雷源で将校の前を歩かされて、吹っ飛んだってな」



 地雷班、というのは軍の班のひとつで、名の通り地雷関係のことをしている。地雷を埋めたり、簡単なものであれば作ったりもするらしいが、子ども兵の場合は偉い身分――――将校などの前を歩かされることも多い。酷いことに、一部の兵士には“人間地雷探知機”とまで言われている。


 その事実に暫し茫然としていたリーフは、やがてふつふつと沸き上がる怒りに口を開く。



「そんな、ひどい‥‥‥! 命は道具じゃないんだよ!? なのに、なんで‥‥‥!」



 ひとり拳を震わせているリーフを、着替え終えたセグは一瞥することなく諌める。



「奴らにとって、子どもは利用しやすい手駒なんだ。力も弱いし、扱うにはもってこいってわけさ」



 しかし、セグの言葉はリーフの怒りを更に煽っただけだった。こちらに背を向けているセグに、リーフは声を荒げる。



「セグもセグだよ! どうして、そんな平然としていられるの!?」



 衝動的にリーフが言葉を吐き出すと、不意にセグが振り返った。右目が髪と影で見えない分、その左目に宿る眼光は鋭かった。


 はっとして口をつぐんだリーフに、セグは静かに言う。



「‥‥‥この戦いでは、もう何百人って人たちがいなくなってんだ。おまえみたいに、目先の感情に捕らわれてばかりいたら心がもたねえし、生き残ることも難しくなる」



 冷たささえ感じるセグの言葉は、もっともだった。一気に熱が醒めたリーフは、伏し目がちにぽつりと呟く。



「‥‥‥でも‥‥‥ひどいよ、こんなの間違ってる。セグだって、軍に入る時、親を殺すよう命令されたんでしょ?」



 セグだけでなく、親のいた子どもは皆そうだったと聞く。それは“入隊儀式”と呼ばれ、故に両親のいる子どもは、この基地にはいなかった。


 リーフの小さな問いに、返事はしばらくなかった。数十秒の沈黙のあと、低い声が空気を震わせた。



「――――あんな奴ら、もう親だとは思わない。あいつらに、オレは裏切られた」





《――――いやだ! 軍になんて、行きたくない!

 お父さん、お母さん、どうして!?

 ‥‥‥助けて、くれないの‥‥‥?》



《‥‥‥おまえの親は、自分たちの命と引き換えに、おまえを売ったんだ。

 事実、助けてはくれなかっただろう?

 残念だったな。人は、裏切る生き物だ。

 ‥‥‥奴らが、憎いか? 憎いだろうな。


 なら‥‥‥殺してこい、セグ》



――《大丈夫だ、セグ。おまえは、絶対に私たちが守ってやる》――





 信じていたのに、と思った。当時七歳だった彼は、怒りに従って銃を持ち、そして――――家にいた両親を、涙とともに撃ち殺した。





 甦った過去を消すように目を閉じ、セグは意識を現実へと戻す。



「‥‥‥軍は、親を殺させることで、人を殺すことに慣れさせるんだ。おまえは、親が病気で死んだんだろ? その分は、運がよかったな、リーフ」



 いまだ口を閉ざし、リーフは俯いていた。確かに、親を殺さずには済んだが――――彼も、親が亡くなった時には大声で泣いた。弟と寄り添い合って生きようと決めたが、運がいいとは言えない――――否、言いたくなかった。


 だが、自分よりもセグの方が辛い目にあっているだろうことは容易に想像できたので、リーフは反論を呑み込んだ。



「‥‥‥わかった」



 喉から漏れたのは、小さな肯定。



「もう‥‥‥なにも言わないよ」



 まだ完全に納得できたわけではなかったが、リーフは他に言えなかった。



<僕は‥‥‥弟と約束したんだ。絶対に、生き延びるって>



 感情のまま行動して大人の兵士に逆らえば、殺される可能性だってあるのだ。リーフは己の心を押し殺し、無理矢理納得するしかなかった。

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