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地球に生きる生命(いのち)の物語  作者: 梅村 夕菜
第三章 運命を受け入れて。
16/20

内戦のからくり。


 この日も、森の中で野営していた。否、ここまで来ると、ジャングルと言った方がいいのかもしれない。木と木の間隔は狭まり、整備されていない原始林が広がっている。


 リーフとセグは、いつものように端の方で少ないご飯を済ませた。草や木に燃え移る可能性も、敵に位置を知らせてしまう危険性もあるので、火は使えない。



「‥‥‥セグ、ごめんね‥‥‥」



 小さな謝罪に、セグはちらりとリーフの方を見る。



「‥‥‥僕、あの兄弟だけは‥‥‥どうしても、殺せなかった‥‥‥。慣れてきた、はずなのに‥‥‥昔の、僕たちを、見てたようで‥‥‥」



 顔を俯けたまま、リーフは目を閉じる。いまはしっかりと、フォルの笑顔が甦るのに――――生き残ることに必死で、忘れていた。血を分けた唯一の兄弟を。



「‥‥‥おまえの行動は、この軍では間違っていた。あれじゃあ、いつか殺される」



 厳しいセグの一言に、リーフは地面を見つめたまま顔を上げられなかった。



「‥‥‥だが‥‥‥人としては、正しい行動だったんだろうな」



 意外な言葉に、リーフはかすかに驚いてセグを見る。



「オレたちは、人を殺すことでしか、生き延びる方法を知らない。ここから逃げ出すのは難しいし、居場所もない」



 軍は子どもたち自らの手で、故郷を襲わせ、親を殺させ、居場所を奪うことで彼らを軍に縛り付けている。たとえ戻れても、見つかれば裏切り者として殺される。


 軍隊は暴力と恐怖で、子どもたちをコントロールする。



「‥‥‥それでも、おまえを見ているうちに思った。世界には、オレたちが憧れている“戦いのない国”っていうのが、あるんじゃないかってな」



 何処か遠くを見つめ、セグは続ける。



「でなければ、銃は誰が造ってる? 地雷や、爆弾は? ‥‥‥大人の兵士たちが言ってた。大国が、武器を開発してると」



 二年ほど前、大人の兵士が数人で会話していたのを、セグは耳ざとく聞いていた。


 戦いには必ず、経済的な利益が絡んでいる。石油やダイヤモンドを求めて。あるいは、武器を売ることで利益を上げるために。



「オレたちが武器を使えば使うほど、内戦が長引けば長引くほど、奴らには金が手に入る。この国はもしかしたら、利用されているだけかもしれないな」



 自嘲気味に、セグは笑った。


 大国に存在する“武器産業”も、他の産業と同じように企業同士で競争し、新しい武器を造り出しては売りつけている。その武器産業が多くの労働者を抱えている場合、内戦がなくなれば利潤はなくなり、労働者たちは失業する。故に大国は、武器産業が内戦を助長させている等の非難を受けながらも、生活するためのお金を稼いでいる。


 狂ったまま廻り続ける歯車を、彼らは止められない。


 中には、別々の大国を背後に石油やダイヤモンドなどの資源を奪い合う、“大国の代理戦争”と呼ばれる内戦もあるという。単純な話で、勝った方の軍を支援していた大国が、資源を採れるというからくりだ。大国の人々のために、同じ国の人々が煽られ、分離させられ、殺し合っている。


 彼らにとって、途上国の内戦は盤上のゲームに過ぎないのだろうか。


 ――――この世界は、何かが間違っている。



「‥‥‥でも、僕たちは生きてる」



 リーフの声に、セグは彼の方に顔を向ける。



「誰も死なない世界は、つくれないかもしれない。でも、戦いのない世界なら、できると思う」



 戦いのない国でも、犯罪や事故という形で命は失われていく。誰も犠牲にならない世界は不可能でも、戦争や内戦のない世界ならできるかもしれない。


 セグと目を合わせ、リーフは微笑む。久々に見る、陰りのない表情だった。



「一緒に生き延びよう、セグ。僕、頑張って戦うよ」



 十歳の少年が言うには、悲しすぎる言葉かもしれない。だが、子ども兵たちに用意された道は一本しかない。死と隣り合わせの生活。


 貧しい子どもたちは、あるいは六歳になるまでに命を落とし、育ったとしても学ぶ機会を奪われ、一部の身勝手な大人たちや国に連れて行かれる。


 ある子は大人でも過酷な労働を強いられ、ある子はいまや数十億ドル規模の世界産業となってしまった商業的な性産業などで働かされるために売られ、ある子は銃を手に戦場の最前線に立たされている。


 絶望と失望が渦巻く中でも、子どもたちは生きている。苦しみや痛み、悲しみや恐怖に耐えながら、彼らは最期まで命を輝かせている。


 埋もれてしまったその命の輝きに気づき、助けられるのは誰だろう?



「‥‥‥そうだな」



 短く応え、セグは空を見上げる。変わらない満天の星が、彼らを見つめていた。

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