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地球に生きる生命(いのち)の物語  作者: 梅村 夕菜
第二章 すべては、生き延びる為に。
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見えざる兵士。


 翌日も、朝早くに行軍を開始した。相変わらず太陽は容赦なく照りつけ、子ども兵たちの体力を奪っていく。


 一、二人の子ども兵が倒れたが、やはり隊は休むことなく進み続けた。そして、約二時間が経過した頃、隊はようやく歩みを止めた。



「‥‥‥‥‥? ここは‥‥‥?」



 同じ軍服を着た者が何十人といる砂利道の広場に出て、リーフは首を傾げた。



「‥‥‥部隊の組み換えか」



「? 組み換え?」



 ぽつりとセグがもらした独り言にリーフが聞き返すと、彼は肩を竦める。



「ああ。戦闘で部隊ごとに人数に差ができたから、分け直すんだろ」



 あっさりと言われた言葉に、リーフの表情が曇る。



「分け直し、って‥‥‥僕、セグと離れるのはいやだ」



 小さく、周りに聞こえないよう呟かれた一言に、セグはかすかに目を見開く。しかしそれはほんの一瞬のことで、すぐに無表情に戻る。



「‥‥‥変わった奴だ」



 同じくらいの声量で返され、リーフはまた首を傾げる。


 まだ到着していない部隊があるらしく、彼らは待機を命じられた。暇なのもあって、リーフは辺りを見回し――――いままでと違う人たちに気づく。



「‥‥‥女の子‥‥‥?」



 そう、他の部隊には、少女たちの姿があったのだ。少年たちに混ざって銃を持っていたり、産まれて数年も経っていないだろう子どもを連れたりしている。



「‥‥‥ああ、オレたちの部隊にはいなかったが、珍しいことじゃない」



 リーフの視線を辿り、セグは淡々と言った。


 “子ども兵”という言葉に隠れてしまいがちだが、少女兵というのも珍しくはなかった。誘拐され、無理矢理大人の兵士と結婚させられたりレイプされたりして子どもを産み、軍隊で生きていく。しかし、栄養面や衛生面で考えると、赤ん坊が生き延びるのは難しいだろう。周りの環境も悪い。



「戦えるなら女でも使おう、って考えだろ。同情してる暇はねえぞ」



 少年兵だけが目立ち、少女兵はあまり知られていない。だが、彼女たちもまた、少年たちと同じくらいの苦しみと恐怖を感じている。かわいそう等と思っても、どうすることもできない。


 戦争や内戦が終わらない限り、彼らや彼女らの“子ども時代”は奪われていく。



「‥‥‥うん」



 目をかすかに伏せ、リーフは小さく頷く。


 話している間に残りの部隊が到着し、振り分けが決まったらしく、ふたりは右側の部隊に入れられた。セグと一緒だったことに安心して、リーフは銃を持ち直す。


 それにしても、とリーフはふと疑問を抱く。前に見た建物の中には、小型武器を始めとする武器がたくさん入っていた。一体どこから持って来たのだろうと考えたが、彼には判るはずもなく、行軍を始めた軍隊に従った。



「‥‥‥武器を買う金はある、か」



「えっ?」



 ぽつりと呟かれたセグの独り言に、リーフは彼の方を向く。しかしセグはそれ以上口を開かず、リーフも詳しくは聞かなかった。


 そのからくりは、資源にあった。リーフたちのいる大陸では、石油だけでなくダイヤモンドも採れる。反政府組織はそれを密輸し、利益を得て、武器の購入資金に充てているのだ。


 ダイヤモンドなどの宝石は、豊かな先進国の人々が、身を飾るためや結婚指輪として購入する。しかし、その裏では、多くの命が犠牲となっているのだ。


 美しい輝きは多くの人を魅了する。そして、多くの血を代償とする。


 一時間ほど歩いていると、村に到着した。前に襲った時と同じ、森の中の簡素な村。



「ここにいる奴らを殺し、食糧を奪ってこい」



 兵士の命令は簡明だった。短い間ではあるが、子ども兵たちはだんだんと軍のやり方に慣れてきていたので、大した動揺はなかった。


 各々に村へ飛び込み、家の中に侵入する。すぐに村には銃声と悲鳴が響き、血が飛び散った。


 リーフも手近な家に入って中にいた老夫婦を射殺し、食べ物などを探した。元々物はそんなに置いていなかったので、数分で済んだ。早々に家を出て、隣の家へ入る。そこにいたのは、十歳をいくらか過ぎたくらいの少年と、七歳ほどの少年。



「‥‥‥‥‥あ、」



 脳裏に、弟の姿が甦った。両親を亡くしてからは、ずっと寄り添って生きてきた。彼ら兄弟のように、抱き合って寒さや飢え、苦しみに耐えてきた。


 忘れていた何かが甦り、リーフは銃を引き寄せる。


 殺さなければならないのに、手が震えて引き金を引けなかった。お互いに抱き合って自身を見上げる兄弟の瞳は、恐怖に濡れていた。


 弟のフォルが撃たれた時も、このくらいの歳だった。



<‥‥‥いやだ‥‥‥いやだ‥‥‥>



 殺したくない、と心が訴え、リーフはこのまま引き返そうとも考えた。だが、もしそのことがバレたら、なんらかの罰を受けるかもしれない。いままでにも、罰として耳や鼻を切り落とされた子ども兵もいる。それが恐怖となり、リーフの心を支配していた。


 背後から二発の銃声が聞こえ、リーフは肩を震わせる。兄弟の瞳から光が消え、血を吹き出して倒れてゆく。


 それを茫然と見つめていたリーフの傍らを影が通り過ぎ、家の中で最低限の物を集めると、彼の腕を引いて影――――セグは、部隊の所へ戻る。


 集めた物を上官に渡し、セグは彼らから離れた。


 傍らに立つリーフは、またどこか虚ろな目をしている。その原因を察しているセグは、しかしなにも言わずに彼の腕をつかんだまま、移動を開始した部隊に従った。

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