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地球に生きる生命(いのち)の物語  作者: 梅村 夕菜
第二章 すべては、生き延びる為に。
14/20

人として大切なもの。


 二時間の行軍の末に辿り着いたのは、白い箱をそのまま巨大化したような建物のある場所だった。ようやく立ち止まることを許され、彼らはほっと息をついた。


 何人かの兵士が建物の中へ入り、十数丁の小型銃<AK47>を手に戻ってきた。彼らはそれを、村から連れてきた子どもたちに手渡す。


 村を襲撃した子ども兵たちは下がるよう言われたので少し離れると、連れてこられた子どもたちは困惑して互いに顔を見合わせる。



「よし、まずはそこのおまえだ。自分の親を殺せ」



 当たり前のように言われ、指された少年は動きを止める。ゆっくりと両親であろう夫婦の方に首を向け、小刻みに震え始める。



「‥‥‥いや、だ‥‥‥」



 呟くと同時に殴られ、少年は地面に倒れた。それからも彼は何度も殴られ、しかし引き金を引くことはできなかった。



「‥‥‥ちっ。来い、ロディア」



 黙って見ていた子ども兵の中から、ひとりの少年兵士が出ていく。彼は怯えを隠すように銃を握りしめ、兵士の所へ行く。



「こいつを殺せ」



 短い命令に、ロディアは銃を構える。手が震え、なかなか引き金を引くことができなかったが、兵士に睨まれ、彼は目を瞑って銃を撃った。


 銃声に続き、少年の身体は左胸から血を吹き出して倒れていく。仰向けに倒れた彼には目もくれず、兵士は夫婦を射殺し、他の子どもへ同じ命令をした。


 拒否すればどうなるかを見せつけられたせいか、子どもたちは震え、頭を真っ白にしながらも銃で親を殺した。しかし、数人は最初の少年と同じように撃てずに、ランダムに呼び出された子ども兵によって殺された。


 その様子を悲しそうに見つめていたリーフは、やがて見覚えのある少年が指されたのに気づいてはっとなる。彼が連れてきた家族だ。


 少年の怯えた瞳にリーフの心は痛み、同時に罪悪感も感じた。



<‥‥‥僕の、せいだ‥‥‥。僕が、連れてきたから‥‥‥>



 後ろの方にいたリーフは、無意識のうちに手を伸ばそうとする。だが、セグにその腕を掴まれ、我に返った。この場にも見張りとして兵士がいるため、勝手な行動をとれば命令違反と見なされ処罰される。


 少年はやはり躊躇い、震えていたが、ふいにリーフの方を向いた。縋るような瞳と目が合ったのはほんの一瞬だったが、兵士は気付いたらしい。



「リーフ!」



 鋭い声で呼ばれ、リーフはびくりと身を震わせる。セグにも目で示され、小刻みに震える足で歩き出す。なにを命令されるか、判ってしまっていた。



「こいつとその親を殺せ。できなければ、おまえも一緒に殺す」



 さらりと出された命令に、リーフの思考が停止する。まさか、少年の親まで殺せ、と言われるとは思っていなかった。


 ゆっくりと少年に銃を向け、リーフは恐怖に怯えた目に少年を映す。家族を脅したときと同じ瞳に、少年もただリーフを見つめる。


 情けないほどに震えていたリーフは、視界の端で兵士が銃に手をかけたのを見て、目を瞑って引き金を引く。



「っ!」



 聞き慣れた音と、倒れていく少年の姿。何度も、同じ光景がリーフの頭に刻み込まれていく。


 それから少年の両親をどうやって殺したのか、リーフは覚えていなかった。気づけば、血溜まりの中に心臓を撃ち抜かれた夫婦が倒れていた。



「――――‥‥‥」



 リーフは頭の中で、なにかが消えた感覚がした。後ろへと戻っていく彼の虚ろな瞳には、もう明るさも希望もなかった。隣に来た彼をみて、セグはそっと目を伏せる。



<‥‥‥‥‥>



 命じられた以上、行かせ、殺していなければ、今頃リーフの命はなかった。同じように子どもを殺すよう命令された子ども兵の中にも、リーフと似た目をしている者はいるし、こうなるのではと思ってはいたが――――彼のこんな姿を見ていると、セグの心は何故か釈然としなかった。


 残った子どもたちを兵士として補充し、軍隊は再び歩き出した。三十分ほど進んでから、どこからか弾が撃ち込まれ、それを合図に彼らは四方に散る。


 応戦するリーフには、普段のような恐怖の欠片はなかった。他の子ども兵たちも、少しずつなにかが変わってきているようで、引き金を引く速度が違う。


 リーフの傍で、セグはただひとり、その異変を冷静に見ていた。六年間軍隊にいた中で、幾度もあった。故に、彼は異変の原因を、なんとなく悟っていた。


 軍隊で、戦いという日常を生き延びるためにはそうなるしかないのだし、リーフにも「殺したくない」という思いが甘さだとも言った。なにより、人を殺すことで上官に褒められると、部隊の中で評価されることが自分の存在を確認する唯一の手段となる。政府軍や反政府軍から、死をもってしか逃れられぬというのなら、それが救いとなる時もある――――たとえそれが、間違った仮初めだとしても。


 彼ら子ども兵には、ほかに縋るものなどないのだから。


 しかし、リーフもいずれ「人を殺すための道具」になってしまうと考えると、やはりセグの心はもやもやとしていた。初めての感覚で、彼はその正体をつかめなかった。



「セグ。おつかれさま」



 戦闘が終わり、真っ先に駆け寄ってきたリーフに肩を叩かれ、セグは頷く。疲れた表情はしていたが、恐怖心は欠けているように見えた。



「今日ね、初めて言われたよ。よくやったって」



 まるで、子どもが親か先生に褒められたと自慢するような口調。「そうか」と短く返したセグに、リーフは首を傾げる。



「? セグは、言ってくれないの?」



 各々に寝られる場所へ移動する人たちから離れつつ、セグは隣を歩くリーフをちらりと窺い、小さくため息をつく。



「‥‥‥オレはおまえの上官じゃない」



 呟き、セグは適当な所に腰を下ろす。リーフもそれ以上何も言わず、同じように身体を休める。しばらく無言の時が続いたが、やがてセグが口を開く。



「‥‥‥大切なものを、見失うな」



「えっ?」



 星空を見上げていたリーフは、小さな声に気づいてセグを見る。しかし、彼は空を仰いで再び黙ってしまった。



「えっと‥‥‥覚えておくね」



 とりあえずそう返し、リーフは笑う。数日前に見た彼の笑顔となにかが違う気がして、セグは胸に沸いたものを抑えた。

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