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地球に生きる生命(いのち)の物語  作者: 梅村 夕菜
第二章 すべては、生き延びる為に。
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麻薬と制御―洗脳。


 朝早くに目覚めたリーフとセグは、しばらくもしないうちに招集された。ここでは子ども兵が全体の約六割を占め、平均年齢は低い。



「いいか、これから敵地に乗り込む。その前に、おまえたちに配るものがある」



 そう言って、兵士たちが出したのは数個の紙コップと、川の水を火で温めたお湯だった。色が透明ではないので、なにかが煎じてあるのだろう。



「各自、これを一口ずつ飲め。飲んだ奴から向こうへ行け」



 戸惑いながらも受け取り、子どもたちはお湯を飲む。しかし、セグはかすかに眉をひそめ、回ってきたお湯を受け取ったリーフを制した。



「おまえは飲むな、リーフ。飲んだふりをして、次へ回せ」



「えっ?」



 小さく呟かれた言葉に、リーフは思わずセグを見る。その真剣な表情に、リーフは言われたようにしてコップを回す。



「向こうに行くぞ」



 押されるようにしてリーフは指示された場所へ移動する。そこで彼は、周りの子ども兵たちの様子がおかしいことに気づく。


 そう、皆どこかぼんやりとしているのだ。先程まで多少なりとも恐怖していたはずなのに、いまはそれすらも感じていないように見えた。



「あれ? みんな、どうし‥‥‥」



 リーフの口を手でふさぎ、セグは黙っていろと目で示した。そうしている間にも子ども兵たちはお湯を飲み終わり、全員が集まっていた。



「よし、集まったな。ここから先には、政府軍が潜んでいる」



 広場のような、石や草が点々とした先を指し、兵士は続ける。



「おまえたちの仕事は、奴らと戦うことだ。さっき与えたのは、弾が当たらなくなるもの。たとえ当たったとしても、痛みなど感じない。――――行け」



 滅茶苦茶な物言いに、リーフは困惑する。それはあり得ないと、学の低い自分でも判る。だが、周りの子ども兵たちは違っていた。


 彼らは迷うことなく駆け出し、敵の射程範囲へ入っていく。それに驚き、リーフは一瞬茫然とするが、すぐに腕をつかまれた。



「ぼけっとするな。行くぞ」



 短い叱責を受けて、リーフは慌てて銃を構える。既に周りには銃弾が飛び交い、突っ立っていれば標的にされるだろう。


 木の陰に隠れ、リーフは引き金を引く。無意識にその先から目をそらし、素早く隣の木へと移動した。


 他の子ども兵たちを見てみると、隠れる様子もなく進み、何度も銃を撃っている。何が起きているのかが理解できず、リーフが傍らにいるセグを見ると、やはり黙っていろ、と目で制された。その間にも子ども兵たちは撃ち抜かれ、地面に赤い水たまりをつくっていく。


 釈然としない心を抱えながらも、リーフは自分が生き残ることを第一に考えた。腕が未熟なうちは、誰かを護ることなどできない。


 時間とともに辺りは血の海となり、彼がその匂いに耐えきれなくなってきた頃、ようやく撤退命令が出た。それに従うべくリーフは身体の向きを変えたが、頭がふらりとして平衡感覚が無くなる。



「‥‥‥‥‥っ!」



 倒れる、と思った時、誰かに腕をつかまれ、そのまま引っ張られた。



「‥‥‥セグ‥‥‥?」



 肩を貸してくれた人物を見上げると、無表情のセグだった。服には点々と血がついているが、返り血らしく彼は怪我ひとつ負っていない。



「遅れると置いて行かれる。早く歩け」



 乱暴ともとれる言葉だったが、セグはリーフを背負うようにして歩いてくれている。それに彼の不器用な優しさを感じ、リーフは笑う。



「‥‥‥うん。ありがとう」



 頭はまだふらついているが、心は不思議と穏やかだった。


 そのまま軍隊と合流し、ふたりは野営地へと向かった。

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