麻薬と制御―洗脳。
朝早くに目覚めたリーフとセグは、しばらくもしないうちに招集された。ここでは子ども兵が全体の約六割を占め、平均年齢は低い。
「いいか、これから敵地に乗り込む。その前に、おまえたちに配るものがある」
そう言って、兵士たちが出したのは数個の紙コップと、川の水を火で温めたお湯だった。色が透明ではないので、なにかが煎じてあるのだろう。
「各自、これを一口ずつ飲め。飲んだ奴から向こうへ行け」
戸惑いながらも受け取り、子どもたちはお湯を飲む。しかし、セグはかすかに眉をひそめ、回ってきたお湯を受け取ったリーフを制した。
「おまえは飲むな、リーフ。飲んだふりをして、次へ回せ」
「えっ?」
小さく呟かれた言葉に、リーフは思わずセグを見る。その真剣な表情に、リーフは言われたようにしてコップを回す。
「向こうに行くぞ」
押されるようにしてリーフは指示された場所へ移動する。そこで彼は、周りの子ども兵たちの様子がおかしいことに気づく。
そう、皆どこかぼんやりとしているのだ。先程まで多少なりとも恐怖していたはずなのに、いまはそれすらも感じていないように見えた。
「あれ? みんな、どうし‥‥‥」
リーフの口を手でふさぎ、セグは黙っていろと目で示した。そうしている間にも子ども兵たちはお湯を飲み終わり、全員が集まっていた。
「よし、集まったな。ここから先には、政府軍が潜んでいる」
広場のような、石や草が点々とした先を指し、兵士は続ける。
「おまえたちの仕事は、奴らと戦うことだ。さっき与えたのは、弾が当たらなくなるもの。たとえ当たったとしても、痛みなど感じない。――――行け」
滅茶苦茶な物言いに、リーフは困惑する。それはあり得ないと、学の低い自分でも判る。だが、周りの子ども兵たちは違っていた。
彼らは迷うことなく駆け出し、敵の射程範囲へ入っていく。それに驚き、リーフは一瞬茫然とするが、すぐに腕をつかまれた。
「ぼけっとするな。行くぞ」
短い叱責を受けて、リーフは慌てて銃を構える。既に周りには銃弾が飛び交い、突っ立っていれば標的にされるだろう。
木の陰に隠れ、リーフは引き金を引く。無意識にその先から目をそらし、素早く隣の木へと移動した。
他の子ども兵たちを見てみると、隠れる様子もなく進み、何度も銃を撃っている。何が起きているのかが理解できず、リーフが傍らにいるセグを見ると、やはり黙っていろ、と目で制された。その間にも子ども兵たちは撃ち抜かれ、地面に赤い水たまりをつくっていく。
釈然としない心を抱えながらも、リーフは自分が生き残ることを第一に考えた。腕が未熟なうちは、誰かを護ることなどできない。
時間とともに辺りは血の海となり、彼がその匂いに耐えきれなくなってきた頃、ようやく撤退命令が出た。それに従うべくリーフは身体の向きを変えたが、頭がふらりとして平衡感覚が無くなる。
「‥‥‥‥‥っ!」
倒れる、と思った時、誰かに腕をつかまれ、そのまま引っ張られた。
「‥‥‥セグ‥‥‥?」
肩を貸してくれた人物を見上げると、無表情のセグだった。服には点々と血がついているが、返り血らしく彼は怪我ひとつ負っていない。
「遅れると置いて行かれる。早く歩け」
乱暴ともとれる言葉だったが、セグはリーフを背負うようにして歩いてくれている。それに彼の不器用な優しさを感じ、リーフは笑う。
「‥‥‥うん。ありがとう」
頭はまだふらついているが、心は不思議と穏やかだった。
そのまま軍隊と合流し、ふたりは野営地へと向かった。




