ほんっと、最低!
清潔感のあるシンプルな部屋で男は女に話しかけていた。
「ハルー?なに怒ってんのー?」
机に頬杖をつきながらテレビを無言で見る彼女の背中に声を掛ける。
「・・・。」
ハルと呼ばれた女は、男の声が聞こえているが返事をしなかった。
「無視すんなよー。ハールー。」
ハルの背後にのそのそと近づく男。
「・・・。」
男が近づいてくるのを感じとり、ハルは横にあったクッションを男に投げつけた。
「イテッ!なにすんだよハル。」
思い切り顔面でクッションをキャッチした男は、ハルに文句を言った。
「・・・くっさ。」
鼻をつまんで顔をしかめハルはつぶやいた。
「・・・え?」
男はキョトンとした表情をうかべた。
「くっさい!!」
鼻をつまんでいるため鼻声でハルは不機嫌そうに言った。
「え、うそ。まじ?」
男は慌てて自分の服や腕の匂いを嗅いだ。
「まじ。気持ち悪い。」
右手で鼻をおさえ、左手で口に手をあてるハル。
「ちょ、そこまで言うことないだろー。気持ち悪いって、結構ショックなんだけど。」
あまりにもハルが拒絶するので男は少しすねながら言った。
「怜央。」
ハルが男の名を呼んだ。
「・・・ん?」
すねていた怜央は顔を上げハルの顔を見た。
「・・・お風呂。さっさと行ってきて。」
少し迷ったような顔をした後、しかめっ面をしながらお風呂を指さした。
「・・・はーい。」
怜央はそんなハルを見てにやっと笑い、小さい子のように大きく手を挙げ返事した。
「・・・。」
怜央の笑い顏を見てハルはさらに顔をしかめた。
怜央はこれ以上ハルの機嫌を悪くさせないように余分なことを言わず風呂場に向かった。
「・・・可愛いねぇ。」
脱衣所で服を脱ぎながら、先ほどのハルの反応を思い返しながら怜央はそう呟いた。
「・・・はぁ。」
怜央のシャワーの音を聞きながら、ハルはため息をついた。
さっき、ハルが怜央を臭い、と言ったのは決して怜央の体臭がキツイわけでも汗臭かったわけでもない。では、なぜ臭いと言ったのか。それは怜央が女物の香水をぷんぷん香らせていたからだ。おおかた、ハルの家に来る前他の女といちゃいちゃしていたのだろう。浮気を隠す気が全くない怜央に本当は帰れ、と言おうと思っていたのだ。だが、実際怜央の顔を見ると出ていけとは言えなくなってしまった。それを怜央は見抜いたのだろう。出ていけ、ではなく風呂で香りを消してこい、と言ったハルの本音に。
風呂場からシャワー音と共に怜央の鼻歌が聞こえてきてハルはもう一度大きなため息をついた。
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