5話 貿易都市ノスティア
微妙なところですが、自分の目安である五千字を超えてしまったため、強制終了。
―数十分後 オリジアナ大陸 オリジア地方 貿易都市ノスティア 夕暮れ
「ようやく着きましたね……。彼らに襲われなければもっと早く着いたと思いますが……」
「そうはいっても仕方ないよ~。逆に他の原生生物と遭わなかったんだからよかったじゃない?」
「まあ、そうですけど…………。とりあえずこの牙を売って、さっさと宿を探しましょう」
二人は先ほどの戦闘で疲れ果てていた。そのため、さっさと休みたかったのである。
しかし、森で暮らしていたアークスと村を追い出されたファルクスは手持ちがないため、宿に泊まるためには、先に戦利品を売らなければならないのである。
しかし、2人はどこで素材の買い取りをしているのかさえ知らないため、とりあえずアークスは町の入口付近にいたおじさんに訪ねることにした。
「すみません。このあたりで素材の買い取りをしているところはありませんか?」
「素材の買い取りかい? それなら、あそこのギルド支部でやってるよ」
そういってその人は町のほぼ中央にある赤い屋根の建物を指差した。その建物はこのノスティアの中で一番大きな建物で、この場所から結構離れているにもかかわらず、圧倒的な存在感を放っている。
アークスはその人にありがとうございました、というとそのおじさんはいいってことよ、とこたえて人ごみへと消えた。
アークスはそのおじさんを見送ると、隣で興味深いのか、あたりをきょろきょろと見渡していたファルクスにいきますよ? と促すと彼女の手を取り、歩き始めた。
………ちなみにその繋ぎ方はいわゆる恋人つなぎだったため、その最中、ファルクスの顔は真っ赤に染まっていた。
―数分後 オリジア地方 貿易都市ノスティア中央部 ギルド支部前
「やっと着きました…………。人が多すぎです…………」
「それにぼくたち、背が小さいほうだからね~」
たかが、町中を歩いただけなのに、2人の疲労はさらに増していた。それもそのはず。ノスティアは貿易都市なため、人がものすごく多いのだ。
さすがにギルド本部がある自由都市オリジアやマクスウェル大陸にある帝都マクスウェルほどではないが、もっとも多くの人と物が行き交う町。それがノスティアなのだ。そのため、ただでさえ小さな彼女たちは多くの人ごみにおされ、なかなか進めなかったのである。
そんな2人がようやくたどり着いたギルドの扉を押し開け、中に入ると、そこは酒場の様になっており、ギルドの人であろう、多くの人が飲んだり、話し合っていた。
アークスたちが店内に入る。すると酒を飲んだり、話し込んでいた彼ら全員の目が彼女たちをとらえたかと思うと、今度は囁き合っていた。
それもそのはずである。ほとんど十代前半、しかも女の子がこのような人ごみに2人で入ってきたのである。そして女の冒険者はギルド院はただでさえ少ない。物珍しいに決まっている。
その光景と彼らの視線に居心地の悪くなった2人はさっさと素材を売るべく、受付のお姉さんに話しかけた。
「早く牙を売って帰りましょう。えっとすみません」
「はい。なんでしょうか? え? こども? お嬢ちゃんたちどうしたの?」
「こどもって……えっと…………素材を売りたいのですが……?」
「えっ!? 素材を? 失礼だけどお嬢ちゃんたちいくつ?」
疑うような探るような姿勢で受付のお姉さんが聞いてきた。2人は15歳です、14だよ~。ヒュ-マン換算だけどね~、と嘘偽りなく答えた。
その答えにその場にいた人は驚きの表情を浮かべる。
なぜなら最近の魔物の大量出現によって規律が変わり、ギルドの登録ができるのも、冒険者登録ができるのも16からなのである。素材を売りに来ただけならお使いなども考えられるが、とはいえ女の子2人だけでそのような持ち込みをするものは珍しいのである。
「え、えっと………お使いなのかな?」
「いえ、違いますが。ね? ファルクス?」
「うん! そうだよ~。さっきぼくたちの倒した原生生物の素材を売りに来たんだよ~」
「ファルクス? 前から言おうと思っていましたが、先ほどの彼らは原生生物でなくて魔物ですよ」
「そうなの? てっきり原生生物だと…………。道理であんなに強かったんだ~」
2人の会話に出てきた『魔物』という言葉に、その場にいた人たちは凍りついた。それもそのはずである。なぜなら、自分たちよりも年下、しかも少女2人組が原生生物の上位種とされている魔物を倒したのだ。たしかに魔物には上級なものだけでなく低級なものも存在するが、それでも強力な敵であることには間違いないのである。
数秒の沈黙の後、最も早く立ち直ったお姉さんが恐る恐る聞いてきた。
「ち、ちなみにお嬢ちゃんたちが倒したのはなんて魔物?」
「ストレンジボアですけど?」
その場にいた全員が今度はその言葉に絶句した。
ストレンジボアは魔物の中でも比較的名の知れた、中級の中でも上位にあたる魔物である。
魔物の階級について補足しておくと、下級魔物は個人で狩ることが可能な種であり、中級・上級・最上級・魔級…と上がっていくごとに危険度が増していく。それぞれの階級の中にも下位・中位・上位の魔物に分類されている。
なお、最上級以降の魔物は町などにどれだけ被害を与えたか、で危険度が判別される。
今はそれは置いといて、中級の中でも上位にあたるストレンジボアは、通常ならば数人で足止めしながら、心術で弱らせて倒すのが一般的な方法とされており、基本的に女の子2人で倒せるものではない。
しかも今の時期は子育てのため、通常よりも狂暴になるのだ。さらに周りには子供を連れていることが多い。そんなストレンジボアを2人の女の子が倒したことには驚きを隠せない。
そんな空気の中、いきなり風貌の悪そうな男がこう言ってきた。
「そんなの嘘に決まってるだろ? 大体、どうやって2人で奴を狩るんだよ? それによぉ、倒した証拠というより、素材を持ってねぇじゃねえか」
男の尤もであるその言葉に、ギルド内にいた周りの人たちはそうに決まってるよな、だとかそうそう。ありえないって、などと納得し始めたところで、無言で彼に斬りかかろうとしたファルクスを右手で止めながら、アークスがなら、論より証拠です、と言い、両腕にある魔具『オリジン』から一対の牙を取り出した。
その光景に彼とその場の全員が固まっていると、アークスは三度絶句している受付のお姉さんに手渡した。
「はい。どうぞ。鑑定お願いします」
「します~」
「はっ! はい! ただいま!」
彼女はそういって建物の奥へと走っていった。
その待ち時間の中、まだ疑います? と聞いたアークスに、その男は顔を青ざめさせながらい、いや信じるぞ!?なぁ!?、と周りに問いかけると、周りの人たちも首がとれるんじゃないかというぐらい、首を勢いよく縦に振っていた。
それをみて、何故かアークスではなく、ファルクスが得意げな顔をしていると、奥から大きな袋を持った受付のお姉さんと体の大きなビスティアの中でもループスと呼ばれる、狼の姿をしたビスティアの男性が出てきた。
そして、その男は2人のほうに歩み寄ると2人の様子を窺うかのように見始める。
「俺の名前はエイギス・メルトスだ。ここのギルドの長をやっている。お前たちがあの『主』を倒したという者たちか?」
「『主』? ああ。あのストレンジボア一家ですか。そうですよ。それがどうかしましたか?」
「結構強かったけどね~?」
それを聞くとエイギスは目を鋭くさせながら2人をにらみつけた。
その視線にその場にいた多くの人がその雰囲気を恐れている中で、2人は不思議そうに彼を見るとどうしたんですか? お兄さん? (したの~? おじさん?)、とのんきそうに聞いた。
すると、彼は驚くことも恐れることもなかった2人にすまない。試させてもらった・といいながら微笑んだかと思うと、受付のお姉さんから袋を受け取り、こういった。
「どうやら本当のようだな。この牙の持ち主、奴には町だけでなく、多くの商人が被害を受けた。それを退治してくれた君たちには感謝しきれない。これはあの牙の換金代とその恩赦だ。全部で15万アウルムある。…………もともとここにいる奴らに退治してもらうために町のみんなが集めたものだがな。…………受け取ってくれるか?」
エイギスの言葉にその場にいたギルド員たちは驚くもの、安堵するもの、そして悔しがるものがいたが、エイギスはそんな彼らを無視をして、それをアークスに手渡そうとするが、アークスは首を横に振る。
「そ、そんな大金受け取れませんよ!?牙の代金だけでいいです!」
「ガキが、しかも奴を倒せるような奴が謙遜するな。ただの嫌味にしか聞こえない」
「ですが…………!」
とまだ食い下がるアークスに、今まで黙っていたファルクスが受け取っておこうよ~。そうしないと逆に失礼だよ~、という。
するとエイギスは感心したようにそこのガキはわかってるな、というと、アークスに向き直ると、さらにこういった。
「確かにお前にとっては偶々遭遇して、倒しただけかもしれない。だが、それで助かった人たちが大勢いるんだ。これを受け取らないってことはその人たちの気持ちを無視しているのと同じだ」
「…………わかりました。受け取らせてもらいます」
人の気持ちを無視するのと同じという言葉にアークスが折れると、彼は「別に攻めてるわけじゃねぇ。そういうこともあるってことだ」といい、彼女に15万アウルムの入った袋を手渡した。
アークスがその袋を『オリジン』の中に収納していると、エイギスがお前ら、名前はなんていうんだ? と聞いてきた。
「アークスです。アークス・レクペラティオ。ほら、ファルクスも」
「うん!ぼくはファルクス・イニスだよ~。アークスの人生のパートナーだよ~」
ファルクスのその発言に意味の分からないアークスは「人生の?」と首をかしげ、意味の分かったものは噴き出した。
そこにかろうじて噴出さなかったエイギスが受付のお姉さんに「おい、ミリア!アークス嬢ちゃんの耳を塞げ」といって、彼女、ミリア・メルトス(姓からわかるように彼の妻)がアークスの耳を塞ぐのを確認してからファルクスに聞いた。
「あのなぁファルクス嬢ちゃん。お嬢ちゃんは女でアークス嬢ちゃんも女だ。同じ性別じゃ俺とミリアのような関係にはなれないぞ?」
彼のその言葉に彼の妻ミリアもうなづくが、ファルクスは年齢や身長とはかけ離れた大きさの胸を張りながらこういった。
「ぼくたちヴェネス、特にぼくの種族ラーミアは相手の性別は関係なく子を生したり、生させることができるできるから、アークスを悦ばせることもできるよ~」
「いくらヴェネスとは言え、その年で悦ばせるとか言うな。あと、アークス嬢ちゃんを無理やり襲うなよ
?」
彼がそう忠告すると彼女は遠い目をしながらわかってるよ~………。もうあんな目には遭いたくないし、とつぶやいた。
気になったエイギスはなんかあったのか? と聞くと、ファルクスはここにいる全員に聞こえるように言った。
「アークスは基本的に穏やかだけどね~。彼女の口癖は『会話ができれば、どんな姿をしていてもヒト』なんだけどさ~、それって逆に言えば『会話ができなければ、それはどんな姿をしていても敵』なんだよね~。だからね~会話をしないと殲滅されるよ~?」
そういうファルクスには14歳とは思えない哀愁が漂っていたが、ミリアに耳を塞がれている張本人であるアークスは彼女のその様子に首をかしげていた。
―数分後
「それで嬢ちゃんたちはこれからどうするつもりだ?」
「えっとですね…………。今日は休んで、明日、ここからレム地方か、オリジア地方へ行こうと思っています」
そう聞いたエイギスはレムは今無理だ。船が出せん、というと、アークスたちが理由を聞く前に彼が教えてくれた。
「今、海竜型の魔物が出ているせいで船が出せないんだよ。あいつら倒そうにもすぐに海に潜るし、津波は起こすしで手が付けられん。だったらもう、奴がいない以上、危険の少ないオリジア地方へ行ったほうがいい。いくら嬢ちゃんたちでも、潜られちゃ無理だろ?」
「そうですね。私たちは雷はつかえませんしね。情報ありがとうございます。」
「いいってことよ。それよりよ。嬢ちゃんたちと泊まるとこあるのか? もうこの時間じゃどこの部屋も空いてないぞ?」
その言葉に2人は顔を見合わせた。なにせ戦闘で疲労していたのだからさっさと休みたかったのであるが、確かにこの時間ではもうどこの部屋もいっぱいだろう。
そんな2人を見てエイギスはミリアを見る。そして彼女が頷いたのを見るとこういった。
「じゃあ、嬢ちゃんたちここに泊まるといい」
「「え?」」
2人の声が重なった。
「それはさすがに迷惑では…………?」
「いっただろ? ガキが遠慮するなよ。ってか、今までどんな生活送ってきたんだよ?」
そういわれて何も言えなくなる2人。
そんな2人を見て、エイギスはばつの悪そうな顔をすると「すまない。軽率だった」と謝る。
それを見たアークスは慌てて弁解する。
「い、いえ別にそこまで気にしているわけでは! ね? ファルクス?」
「うん!今はアークスがいるから幸せだよ~?」
「ですから! ? ミリアさん…?」
アークスが慌てながら説明しようとするとミリアが2人を抱きしめた。その眼には2人の態度から何かを悟ったのか涙が浮かんでいた。
「本当にごめんなさいね。でも、今は甘えてくれてもいいから」
その言葉を聞いて2人は涙を流しながら、彼女を抱きしめ返していた。
……かつての自分たちの母親の抱擁を思い出しながら。そして、しばらく泣き続けると、どうやら限界が来たらしく、彼女に抱きついたまま眠りについてしまった。
…………その2人の寝顔は憑き物が落ちたかのようにとても安らかだった。
感想よろしくお願いします。
この作品は基本的三人称です。もし、一人称を書くとするなら番外編や短編になりますが、読みたいでしょうか?とりあえず感想待ってます。