4話 リディス草原
設定とキャラがずれないようにきをつけてはいますが、ずれていたら教えてください。
1日後
―オリジアナ大陸 リディス草原 ルナ地方側 ルナ方面
「うん。大丈夫です。なにもいませんね」
「そ、それはそれでいいんだけどね~。…………こういう時って嫌な予感しない?」
あの後、運よく原生生物に逢わずに古代の森を抜けられたアークスたちは中間都市ノスティアへ向けて歩き出していた。
ファルクスがそう思うのも無理はない。ノスティアへは古代の森の南にあるリディス草原を通るのだが、先ほどからなぜか原生生物に出くわさないのだ。
通常ならばリディス草原には多くの原生動物が生息しているため、戦闘になることが多いのである。
「確かにおかしいとは思いますけど、今は好都合です。早くノスティアへ行かなければ……、どこかの誰かさんが、今朝作っておいた、携帯用干し肉を食べてしまいましたからね?」
「ひっ!?」
アークスがそう言ってファルクスに笑いかけるが、目が笑っていない。そんなアークスに先ほどのことを思い出したのかガタガタ震えだすファルクス。その瞳には恐怖と後悔が浮かんでいた。
アークスがなぜこんな状態になっているのか。
………実はアークスが昨晩、余っていたウルフ肉で干し肉を作ったのだが、それをファルクスが全部食べてしまったのである。
さらにファルクスは最大のミスをしてしまった。
………そう、彼女の口癖の『あの言葉』を知らなかったのである………。
回想
―数時間前 ルナ地方 リディス草原 古代の森南側出口付近
「ファルクス~? ここにあった干し肉知りませんか?携帯用として作ったんですが」
野営していた場所にアークスの声が響く。
その言葉にファルクスは一瞬、びくっ! と体を震わせる。明らかにその瞳は揺らいでいた。
「し、しらないよ~?」
顔を背けたファルクスが嘘をついている事に気付いたアークスは、とりあえずファルクスのこの後の対応によっては許そうかと思い、口を開く。
「正直に言ってください。でないと「しらないよ~?」…………そうですか。知りませんか」
優しげに問いかけたつもりだったが聞く耳を持たないファルクス。そんなファルクスに何を思ったか、アークスが突然、にっこりと微笑みかける。
ファルクスが同性であるはずのアークスの優しげな笑顔に思わず見とれて、惚けていると、アークスがこういった。アークスの口から出た言葉はその笑顔と似ても似つかぬものだった。
「では、手加減しませんよ?」
そう宣言し、微笑みを浮かべたアークスのその両手には籠手型魔具『オリジン』によって心力が凝縮した剣が展開されていた…………。
数分後、元気そうに心装具『オーニス』でウルフを狩っている彼女の後方に、ぐったりとした少女が横たわっていたという。
回想終了
―現在 リディス草原 オリジア地方側 ノスティア北方面
「まぁ、今回は私が伝えるのを忘れていたので、回復はしましたが…………次はありませんよ?」
「はっ、はい!?」
アークスが先ほどの微笑みを浮かべてそういうとファルクスが元気よく(?)返事をしたので、アークスはファルクスの頭をなでながら、いい子ですね。さすがです、という。
ファルクスは初めはビクビクしていたが、しばらくすると気持ち良さそうに、………若干危ないくらいうっとりしながら、目を細めていた。
アークスがしばらくファルクスを撫でていると、気持ち良さそうにしていたファルクスが突然、顔を上げていった。
「原生生物だよ~! くるよ~!」
そういわれてアークスが顔を上げると、猪の姿をした原生生物の「ボア」の上位種、魔物である「ストレンジボア」とその子供であろう「ストレンジウリボア」5匹がいた。
それを見たアークス何かに納得するようにストレンジボア? だから、この辺りには………、とつぶやくとファルクスの近づいたら危ないよ~!? という声に、大丈夫です、と答えてからこういった。
「できれば話し合いませんか?」
………そして時が止まった。
その沈黙はその数秒後、ストレンジボアがブルルル! と唸りだしたことで切られた。
アークスがストレンジボアにやっぱりだめですか? と問いかけるが、ストレンジボアはそれを無視して突進してきた。
危険を感じ取るまでもなく危険な状態であるため、アークス! とファルクスが叫ぶが、アークスはさほど驚いた様子は見せずに、そうですか………、とつぶやくと左手を前に突き出し、心装術の詠唱を始めた。
それを見て危ないと感じたファルクスは、左手で自分の頭についていた金色の心装珠が施された花の髪飾りに触れる。すると、彼女の手には、髪飾りについていた物と同じ心装珠が付いた、まるで竜が巻き付いているかのような装飾が施された長杖が現れる。
ファルクスはその杖、魔具『龍杖 イニス』を左手に持つと、右手を横に伸ばし、「きて!『ルーメン』!」と言いながら走り出した。
そして、ファルクスの右手に太陽のような光が集まったかと思うと、アークスの前に躍り出たファルクスから放たれたその光がストレンジボアの突進を受け止めた。
そんなファルクスの右手には、太陽のような金色の光で出来た巨大な刃のついた鎌が握られていた。それを見て一人、心装術を詠唱していたアークスは驚く。何故なら、ファルクスが心装術を詠唱せずに心装具を具現化させたのだ。
「『……具現せよ!心装具オーニス!』ファルクス!? どうして言葉だけで具現化できるんですか!?」
「アークスも魔具持ってるんでしょ~? なら、その魔具の心装珠に心力を込めながら心装具の名前を言えばいいんだよ~」
ストレンジボアの突進を止めながらそう説明するファルクス。その短い説明を受けて、今まで魔具に触れることのなかったアークスは納得する。
そんな様子を見て笑みを浮かべたファルクスは「『陽陣』!』と叫び、心技を発動させ、鎌をそのまま手元を軸に回して、刃でストレンジボアの鼻先と牙の片方を切り裂いた。
しかし、技の隙を突かれ、ファルクスがきゃっ! という声と共に、ストレンジボアに弾き飛ばされた。
だが、とっさに鎌で防御したのかファルクスに目立った外傷はない。
すると、アークスは体勢を立て直そうとしているファルクスに、傷つく親を見て怒ったのか、ストレンジボアの後方にいたストレンジウリボアが向かっているのに気付いた。
アークスはストレンジウリボアたちのいる方向に『オーニス』を向け、さらにその上方へと白銀の弓の弓先を向け、弦を引いた。
「ファルクス、大丈夫ですか!? できれば先に親を仕留めてしまいたかったですが、仕方ないですね。ファルクス下がって!『空烈』! えっ!?」
アークスはファルクスに注意を呼び掛けると、昨晩ウルフの数匹を屠った心技を放ったのだが、予想できなかったことに驚きの声を上げた。
アークスが驚くのも無理はない。
なぜならアークスの心技の掛け声とともに放たれた白光の矢はウルフに放った時のように数本ではなく、十数本に拡散し、ストレンジウリボアだけでなくストレンジボアにまで降り注いだのだ。
その矢はストレンジボアに三本、すべてのストレンジウリボアに2本づつ、そして数本は地面に刺さり、爆発した。この心技は爆発などするはずがないのだが。
そんな矢をまともに受けたストレンジウリボアは、矢が突き刺さるダメージに加え、内側から凄まじい衝撃を受け、破裂した。辺りにはストレンジウリボアであったであろう真っ赤な液体の付いた肉塊と、その真っ赤な液体、血液が降り注いだ。ストレンジボアは爆発と同時に砂煙にまかれ、巨大な姿が見えなくなっていたが、内側からの衝撃を受けたのならば、おそらくただでは済まないだろう。
その地獄絵図のような光景に思わず唖然とするアークスにファルクスは恐怖や驚きでは無く、尊敬の眼差しを向け、アークスを見ていた。
「アークスすご~い! かっこいい~」
「ここまでやろうとは思っていなかったんですけどね………? 食料としても使えないくらいグチャグチャですし。それに、どうやらまだ終わっていないようですしね」
何かに気付いたアークスは褒め称えてきたファルクスにそう呟く。そんなアークスにファルクスがえ? と聞き返すと同時に、ストレンジボアがいるであろう砂煙が上がっている一角から、ブルアアア!!! という咆哮が聞こえたかと思うと、全身から血を流したストレンジボアが砂煙の中から勢いよく飛び出してきた。
片眼はアークスの先ほど放った心技と、それによって流れ出た血液で潰れていたが、残されていたもう片方のストレンジボアの眼には怒りと憎しみが込められていた。
それを見たファルクスは恐怖からか、体を強張らせていた。
「おこってる!?」
「それはそうでしょう。向こうが仕掛けてきたとはいえ、子供を殺しましたからね。ですが、殺らなければこちらも唯ではすみませんしっと! 『連点』!」
アークスはがむしゃらに突進してきた巨体をかわしながらオーニスを構えると、振り向きざまに弦を引きながら心技を発動させると、集まってきた白色の光をつかんでいた指を放した。
すると『空烈』と同じく、白光でで出来た矢が、今度は高速で5本飛んでいき、5本のうち、3本はストレンジボアの背中に突き刺さり、残りの2本は勢いが強かったのか、ストレンジボアの体を突き抜けてストレンジボアの後ろにあった岩へと突き刺さっていた。
その矢が消えると、ストレンジボアは痛みからか怒りからか分からないが、悲鳴を上げる。しかし、足を引きずってはいるものの、まだ倒れていなかった。
そんなストレンジボアは前足を勢いよく揚げたかと思うと、地面に勢いよく振り下ろした。すると、前足が振り下ろされた地面と近くにあった岩が割れ、2人の方へと飛んできた。どうやら突進は諦めたらしいが、それでも倒れない生命力に、アークスは感嘆する。
「これでも駄目ですか………。この状態のストレンジボアに接近戦は危険ですし、どうしたら………?」
「ほんと~にしぶといね~。アークス!こうなったら合成心術をつかうよ~!」
アークスが『オリジン』で心力の剣を交差させて、飛んでくる岩を斬り壊したり、盾のようにして身を守りながら、どうするか悩んでいると、『ルーメン』で接近戦をしていたが、アークスの心技の範囲に入らないように後退していたファルクスが、おそらく心技を発動させて飛来してくる岩を防いでいるのであろう、金色の光を纏った鎌を回転させながらそう提案してきた。
「合成心術ですか? かまいませんが、私はエンシスがいた頃にしか使っていませんし、ファルクスと会ってからまだ1日なんですけど?」
「大丈夫だよ~! ぼくたちなら出来るよ! だってパートナーだもん!」
――――――合成心術というのは2人以上の心力を文字通り合成させて発動させることが出来る心術で同じ属性を混ぜて威力を高めたり、別の属性を混ぜることで多くの魔物の弱点を突くために開発された技術であるが、心が通じ合っていなければ心力が干渉し合い、最悪命に係わる。
アークスはそのことを思い出して、自分たちの関係についてそういうが、ファルクスは真剣な表情で出来ると自信満々にそう答える。
アークスはそんなファルクスに頷くと、アークスは心力を高めると頭に浮かんできたフレーズ通りに詠唱を始めた。
「(今回はルーンの言っていた月属性の心術を使ってみますか。えっと)『静かなる夜に瞬く月の光はこの世界の終わりを告げる』」
そうアークスが詠うと、ファルクスは月属性!? だってアークスは……! と驚きながらも続きを詠う。
「おっ、『大いなる太陽の光はその静寂を破り、この世界の始まりを告げる』」
その間にもストレンジボアが2人に迫る。しかし、その牙が2人に届く前に2人の詠唱が終わる。
「「『そして、すべては始まり、すべては終わる!! それは自然の理なり! 「リミットエンド」!』」」
その瞬間、空から月と太陽、巨大な2つの属性の光の柱がいくつも降り注いだ。
そのうちの数本に当たり、すでに瀕死のストレンジボアに、その光の柱は無情にも降り注ぎ、ストレンジボアはもう片方の牙を残し、すべて光の柱に押しつぶされてしまった。
こうして、初の共闘は予想外のことがあったが、無事済んだ。だが、リディス草原の一角には大小様々なクレーターがいくつも出来ていた。アークスはそれを見てため息を吐いた。
「相反する属性の心術を混ぜると、こうなるんですね…………? あぶないなぁ…………。それに技の威力も上がってるますから狩りには不都合ですね…………」
「そうだね~じゃなくて! ちがうよ! なんで月属性が使えるの!? アークスって属性は月じゃないよね~?」
マイペースに話し始めたアークスにファルクスは肯定したが、アークスが使っていた月の心術先ほど気になったことを聞いた。
なぜなら、基本的に持てるのは1人につき1属性が普通なのである。明らかにアークスは月属性ではないし、だからと言って何属性であるかは本人も分かっていなかったが、ルーンが癒し属性と言っていたので間違いはないだろう。
アークスは詰め寄ってくるファルクスを引き離すと、ルーンにもらった月の加護のことを話した。アークスが話している最中、ファルクスは何かを考えており、話が終わるとアークスに問いかける。
「じゃあ、ぼくももらえるのかなぁ~?」
「いえ、彼女は私の属性が『癒し』だから受け取れるといっていましたから無理だと思いますよ?」
ファルクスはその言葉に頭を垂れて悲しげにそっかぁ~…………だめかぁ~…………、と呟く。
ファルクスは月属性の加護があれば、もう1度、故郷に入ることが出来るかもしれないと考えたのだろう。そんな気持ちは故郷を追い出された者にしかわからないだろうが。
アークスが頭を下げたファルクスをみて、悲しげな表情をすると、アークスに気を使ったのか笑顔でじゃあ、その代わり、もう1回なでて~、といった。
アークスは気を遣わせてしまったことに嘆息すると、頷く。
「いいですよ。その代わりノスティアに着いたらね? それとこの牙、売るために持っていきましょう」
「うん! そういえばぼくたちお金持ってないもんね~」
お金が無いという、割と重要なことを忘れていたことを笑う2人。2人の顔には先ほどの暗い感情は残っていなかった。
そのあと2人はストレンジボアの牙を『オリジン』の中に収納すると再びノスティアに向かって歩き出した。
…………クレーターだらけなこの惨状を放置して。
ノスティアはもう、すぐ目の前に見えて始めていた。
感想を頂けると嬉しいです。