3話 1人目の仲間
続きです。プロローグと繋がっていますので、先にそちらをお読みください。
結構大幅に改変した回かもしれません。
―オリジアナ大陸 ルナ地方 古代の森奥地 月光の塔前
「……っと、詳しい説明をってあれ? …………ここは…………月光の塔の前?」
さっきまで月光の塔の最上階にいたはずのアークスは塔の入り口のすぐそばに立っていた。
すでに朝陽は上っており、朝陽の眩しさに思わずかざした腕には先ほどルーンからもらった魔具、『オリジン』が装備されている。
それを見て、アークスは呟く。
「『オリジン』があります。ということは、あれは夢でないことは確かみたいですが…………。そうです! まだ『オリジン』を使ってません! それに聖地がどこにあるかも、『月の加護』の説明も受けてません!」
アークスは月光の塔の入り口に向かうと、塔の入口である扉を開こうとするが、扉は全く開かない。また封印されてしまっているようだ。
そこまでしたところで、アークスは先ほどルーンに言われたことを思い出した。
「確かルーンさんは朝になるからもうお別れとと言っていましたね。なら夜まで待てば…………? あれは?」
アークスがそう考えていると、おそらく何かが燃えているのであろう。森の一部から煙が出ていた。それを見てアークスは首を傾げる。
「山火事でしょうか? ですがこのあたりで山火事なんて…………」
そこまで言うと、彼女の脳裏に何かが引っ掛かった。あの煙の出ている場所に何か見覚えがあったのである。
「はて、何か忘れているような」
そして数秒後――――――
「ああぁ――――! 思い出しました!」
――――――アークスはそう叫ぶと、辺りの様子には目もくれずに煙が上がっている場所に向かって走り出した。
「獲物のこと忘れてました―――――!!!」
そうである。
アークスは元々、この古代の森の奥地で昨夜の夕食分の食料の狩りをしていたのである。(プロローグ 前編参照)
なのにアークスは月光の塔の発光という現象に対する好奇心に負け、その時に狩ったウルフを処理もせず、森の一角に置き去りにしたのである。
…………それも朝までである。それ故にまだアークスは晩御飯も朝ごはんも食べていない。
アークスは自分の昨晩の夕食になるはずであったウルフの肉がまだ残っていることを切実に願い、そして昨晩から何も食べていないため、襲ってくる空腹を我慢しながら、その場所に向かって走りだした。
…………極度の疲労と焦りを抱いていたアークスは気づかなかった。
アークスの腕についていたはずの『オリジン』が心装珠の付いた手袋のようになっていることに………。
―数十分後
―オリジアナ大陸 ルナ地方 月光の村ルナと魔境エクスクレセンスの中間地点 古代の森
「やっと着きました…………見たところ火事のようなものは起きては無いですね? ? あれは焚き火? それと女の子…………?」
先ほどの塔の中でのことによる疲労と、夕食だけでなく朝食もとっていないため空腹を我慢しながら、アークスが昨晩、ウルフの群れを倒した広場のような場所へ行くと、中央には火の消えかかった焚き火があり、ウルフの死体が2体と、眠っている少女が食べたと思われるウルフの骨、そして、おそらく捌いたときについたのであろう、ウルフの真っ赤な血がべったり付いたウルフの毛皮にくるまった、およそ十代前半であろう少女が眠っている。その少女は満月を思わせるルーンとは違い、太陽を思わせるような金色の髪を持つ少女で、どことなく人形のようにも見える。
アークスが近づいてみると、その少女は、くるまっている毛皮にべったりと血がついているにもかかわらず、すぅすぅ、と気持ち良さそうに規則正しい寝息を立てている。どうやら接敵にも気づかぬほど熟睡しているようだ。
「どうして女の子が…………? それにこの毛皮と骨…………。この子がやったのでしょうか……?」
気持ち良さそうに眠っている少女を見て、アークスが頭に浮かんだ疑問に首を傾げて考えながらも、少女を起こさないようにそっと離れる。そして残っていた2匹のウルフの死体の処理をしようとウルフの死体に近づき、処理をし始めた。
昨晩殺したときに喉元を切り裂いてあったため、すでに血抜きはされているようなので、ポーチに入っていた解体用ナイフで腹を裂き、内臓を取り出すと、腐敗防止のため、中に塩を揉み込む。それから肉から皮を剥ぐために、先ほどとは別のナイフを宛がうと、少しずつ皮を剥ぎ取ってゆく。
アークスがウルフ一体の処理にかかる時間は数分程度なのですぐに終わるであろう。
アークスが処理を始めて数分後、丁度アークスが一匹目のウルフの皮を剥ぎ終わった時に、毛皮に包まれた少女の体がもぞもぞと動き、人形のような少女の顔がアークスのほうを向いたかと思うと、少女の目がゆっくりと開いた。
そして、未だ眠気眼の少女とアークスの目があう。
ウルフの死体を処理しているアークスと血まみれの毛皮で眠っていた金色の長髪と、髪と同じ色の目をした少女。そんな2人が見つめあう。
そして数秒間の沈黙の後、口火を切ったのはアークスだった。
「えっと…………? おはようございます?」
「あっ! おはようございます~」
突然、笑顔で朝の挨拶をしたアークスに驚くことなく、少女が間延びした声で挨拶してきた。
アークスはそんな少女に頷き返すと、手元に目を戻す。そして一匹目のウルフの肉に革の剥ぎ残しが無いことを確認したアークスはもう一匹のウルフの処理に戻る。
アークスがウルフの肉から毛皮を剥いでいると、少女があっあの~、と声をかけてきたので、振り返ると、少女がアークスの捌いてるウルフとアークスの顔を交互に期待と羨望に満ちた目をしながら見ていた。アークスはその様子に苦笑すると少女に尋ねる。
「えっと…………なんでしょう?」
「いや~捌くのうまいな~って思って。どうやったらうまくなるの~?」
アークスが何回もやっていれば、うまくなっていきますよ、と答えると、少女はそうなんだ~、と笑う。
それにつられてアークスもくすくすと笑いだした。しばらく、2人して笑いあうとお互いがピッタリのタイミングでこう聞いた。
「「ところであなたは(君は)だれでしょうか(誰)?」」
今頃になってそう聞く2人。再び顔を見合わせると、また、2人して笑い出した。
―数分後
「えっと、遅れたけれど私はアークスです。アークス・レクペラティオ。あなたは?」
「ぼくはファルクス・イニスだよ~」
アークスが捌いたウルフの肉を炙って一緒に食べた後、近くにあった切り株に座ると、2人はお互いに自己紹介をした。
そして、2人はお互いの今置かれている境遇について話し合い始めた。
「え!? じゃあ、私と同じくあなたも村を追い出されてしまったんですか?」
「えっ!? キミもなの? うん………そうだよ」
アークスはファルクスの言葉に目を丸くした。
ファルクスもアークスと同じように故郷を追い出されていたのだという。
「ぼくの心装具がランク1なのはよかったの。その程度じゃあ、ぼくたちヴェネスは同族を見捨てないから」
「なら、何が悪かったんです? 私から見て、どう見てもあなたは禁忌を犯すようには見えないですし」
「それは…………」
アークスがそう聞くとファルクスは少し言いづらそうに、人形のように整った顔を歪め、それと同時にファルクスの金色の瞳が曇る。
「別に言いたくないなら言わなくても…………!」
「いや、言うよ」
アークスは自分の失言を慌てて取り繕うとするが、ファルクスは首を横に振ると、覚悟を決めたように話し出した。
「ぼくの心装具、いや、心力の属性が『太陽』だったからだよ」
「太陽ってたしかヴェネスの苦手属性の…………!?」
アークスは思わず絶句した。
なぜなら、種族の苦手属性を持ってしまった者の末路は何時の時も残酷なのだ。良くて追放、悪いと処刑されてしまうと聞く。
「うん…………。だからエクスクレセンスの村長に成人である14歳になったら村を出てくか、処刑されるか、幽閉されるかを選べって言われて…………。出ていくことをしたんだ」
アークスはそれを聞いてそんなことが………、と呟くと、ファルクスが作りだした重い空気を何とかしようと、自分のことを話した。
自分がルナを追い出されたこと、パートナーとこの森の小屋に暮らしていたこと、そのパートナーが3年前にマクスウェル大陸に連れて行かれ、今では一人で暮らしていること、そしてパートナーだったエンシス・フリエンスについてのエピソードについてなどを話した。
すると、まだアークスがルナを追放された話している時は自分が追い出されたことを思い出したのか、辛そうに顔を俯かせていたが、エンシスとの話をしているうちに、ファルクスの纏っていた重い空気が軽くなっていき、アークスが話し終える頃には先ほどの笑顔が戻っていた。
「なんかぼくと似ているね~」
「そうですね」
――――――シンクロニー効果というものをご存じだろうか。自分との共通点や類似性を見出すことで好意を持ってしまう、というものである。
シンクロニー効果は共通点が希少なほど効果が高くなるという。今のファルクスはまさにこれである。
ファルクスはアークスが自分と同じ立場の人だと分かって多少気が紛れたのか、先ほどの暗い印象はほとんど見られなくなっていた。
その様子を見てアークスは微笑むと、どうしても気になっていたことを切り出した。
「ファルクスさん。あなたはこれからどうしますか?」
「これから…………?」
アークスがそういった瞬間、ファルクスの金色の瞳が揺らぎ、人形のように整った顔を歪めた。その表情には不安と恐怖が表れていた。
「えっと、もし良かったら私の小屋に住みませんか?」
「アークスの? 良いの~?」
故郷を追い出されたからか、遠慮をすると同時にアークスの様子を窺うファルクスに、アークスは思わず苦笑する。そして、ファルクスの顔を正面から見ると頷く。
「ええ、私は行かなければいけないところがあるので少しの間、旅に出るんです。ですから好きに使ってくれて大丈夫ですよ?」
「え?」
アークスがそういうと、ファルクスの顔が再び曇る。
おそらく、ようやく気を許せるだろう相手と出会えたのに、その人がすぐにいなくなる事に不安が襲って来たのだろう。
アークスは嘆息して立ち上がると、ファルクスが座っている切り株に近づき、微笑みながら彼女の頭を撫で始めた。いきなり頭を撫でられたファルクスは驚きと警戒からか、最初は体を強張らせていたが、すぐに緊張を解くと気持ち良さそうに顔を緩ませた。
それから十数秒間撫でた後、アークスは撫でるのを止めるとファルクスを正面から抱きしめた。アークスの行動にファルクスは驚いてはいたが引きはがそうとはしなかった。
「ファルクス。不安に思うかもしれませんが、それは当然のことです。ヒトは誰でも1人では生きられませんから。だから…………誰かに頼ってもいいんですよ?」
アークスは抱きしめていたファルクスにそう諭す。
かつて自分がパートナーであったエンシスに頼ったように。だが、アークスがファルクスから離れると、ファルクスは顔を伏せて言う。
「でも、アークスは行っちゃうんでしょ?」
「ええ。ですが大丈夫ですよ。ファルクスならルナの人たちも歓迎すると思いますよ?」
アークスは思ったことを口にする。
追い出されたのはアークス自身でファルクスではないし、自分が追い出されたのは心装具のランクが1だったためではなく、アークスの属性が伝記に記されていなかったためであったとエンシスから聞いていた。アークスは、だったらファルクスは大丈夫であろうと考えたのだ。
しかしファルクスは未だ顔を伏せたままだった。
「…………でもそれじゃ意味がないよ」
「はい?」
顔を伏せたままそう呟いたファルクスにアークスが疑問を浮かべると、いきなりファルクスが顔を上げた。その顔には涙が浮かんでいた。
「だって、ぼくと同じなのはアークスだけで、他の人は絶対にぼくたちのことなんて気に留めなんてしないよ! だってあの時もそうだった!」
「――――そう言われましてもね…………私は行かないといけませんし」
アークスにはファルクスの言うあの時というのは分からなかったが、流れ的に禁句だと判断して聞き流すと、苦笑を浮かべ、頬を掻きながらそう呟く。
そういった自身に向けられる罵倒は特に気にしていなかった、いや気にならなかったアークスはこういった事態に慣れていない為、妥協策が思い浮かばず困り果てていた。
目の前で未だファルクスが目尻に涙を浮かべて立っているので、とりあえずアークスは彼女の頭を撫でながら考える。
「(こんな時にエンシスが居たらなぁ…………エンシスならこんな時、どうするんだろう?)」
アークスはかつてのパートナーはそういった妥協案を考えることが得意だったことを思い出し、エンシスならどのようにするのだろうか? と考えていると、アークスに撫で続けられていたファルクスが顔を上げた。
顔を上げたファルクスの眼には何かを決心したような意思が浮かんでいる。
ファルクスは目尻に浮かんだ涙を拭うと、アークスに向かってこう言った。
「なら、ぼくもアークスと行く!」
「はい?」
アークスの口から思わず疑問符が零れた。ファルクスは確かに自分と行くといった。
それは危険すぎると悟ったアークスはそんなファルクスを宥めようと口を開きかけるが、アークスがファルクスの目を見ると思わず口を閉じてしまった。顔を上げる前には不安が浮かんでいたはずの瞳に、強い意志が宿っていたからである。
思わず口をつぐんでしまったアークスに、決心が固いファルクスが言葉を紡ぐ。
「ヒトは1人では生きてはいけないんでしょ~? なら、ぼくはアークスとずっと一緒にいるよ~」
「いえ……えっと……」
「良いよね~? アークス?」
有無を言わさぬといった態度のファルクスと自身の失言に深いため息を吐くと、苦笑を浮かべ、アークスは1度だけ頷いた。
それを見たファルクスは今までで一番の笑顔を浮かべると、アークスに抱きつく。
「ぼく、これから頑張るからね。そのエンシスって人に負けないようなパートナーになってあげるから!」
「仕方ありませんか…………期待していますよ。ファルクス」
未だ抱きつかれているアークスは、再びため息を吐いてからそう言い、ファルクスを数秒抱きしめ返すとファルクスから離れる。アークスは離れた瞬間、若干不機嫌な表情をしたファルクスに微笑みかけると、歩き出す。
「行きましょうか。ファルクス」
「うん! アークス!」
そういって歩き始めようとして、2人はふと、あることに気づき、また口をそろえてこう言った。
「「うん? どこに?」」
…………2人の旅はまだ始まらなかった。
―数分後
「あれ? いつの間にか『オリジン』が手袋状に!? なんででしょう!? どうしたからいいのでしょうか…………!?」
先ほど二人してボケた後、アークスはやっと、魔具『オリジン』が籠手から手袋型に代わっていることに気付いた。
「アークス落ち着いて~! それは待機モードだから! アークス!? 心力が漏れてますよ~!? って、あわわ! 何? この濃い心力~!? 止めて~!」
ファルクスがそれは魔具の待機状態であると伝えようとするが、アークスは慌ててしまい、心力を放出してしまう。
「えっとっえっと…………って、あれ? 元に戻ってる? と言いますか剣みたいになってます。」
すると、手袋になっていた『オリジン』の心装珠が光ったかと思うと、籠手に戻った。
しかもアークスの心力が剣状になっている。
「とりあえず、この剣を消して…………うん! 消えましたね」
アークスが剣状になった心力を消す。
アークスがきちんと消えたかを確認すると、剣状に凝縮されていたアークスの心力は四散していた。
「すごいね~。さっきの心力も凄かったけど。アークスそれなんなの~?」
「えっとですね…………。これは魔具の『オリジン』といってルーンさんと言う人から…………あぁ! 思い出しました!」
アークスがそれを見て安心していると、ファルクスが『オリジン』について質問したことでルーンに頼まれていた聖地巡りを思い出した。
そんなアークスはファルクスに向き直る。
「もうすでにこのルナ地方の聖地にはいきましたから…………。とりあえず、このオリジアナ大陸にあるレム地方か、オリジア地方の聖地へ行こうと思いますが……。ファルクス。どちらから行きますか?」
「どっちにしてもルナ地方とオリジア地方、そしてレム地方の中間地点にあるノスティアへいかないと話にならないよ~」
「じゃあ、そうしましょうか。ファルクス」
「うん、アークス」
そういって二人は歩き出した。
…………この時、2人は忘れていた。自分たちがそれぞれの聖地の場所を知らないことを。
というわけで、新キャラ「ファルクス・イニス」登場
次はノスティアの道のり。ファルクスとの初共闘です。
感想よろしくお願いします。また、引っ越しがあるので、次の更新は遅くなると思います。