2話 プロローグ 後編
後編です。
1話ごとのあらすじはいらないとの指摘があったため、別口で掲載しようと思います。
3人称のつもりで書いていますが、3人称になっていなかったら遠慮なく非難してくれてかまいません。
―オリジアナ大陸 ルナ地方 古代の森奥地 月光の塔1階
「中はこんな風になってたんですね。なんか不自然なくらい綺麗ですね……。エンシスの話では作られたのはずっと昔のはず……」
月光の塔に入ったアークスは感嘆の声を上げた。
なぜならこの月光の塔は英雄の伝記のすぐ後、つまり何千年以上も昔に作られているはずの遺跡なのである。しかし、この塔には傷どころかほこり一つないのである。(アークス自身は伝記を読んだことはなく、エンシスに教えてもらっただけで、それすらもうろ覚えであるが。)
「さて、これからどうすればいいのでしょう? どこかに階段とか…………? あれは?」
どこかに道はないかとアークスが見渡すと壁の一角に何か光っているのを見つけた。
不思議の思ったアークスが近づいてみると、そこには不思議な色をした水晶が埋め込まれている扉がある。扉の隙間から風が流れてくるのを見ると、どうやら奥に通じているようだ。しかし、押しても引いても扉は開くどころか1mmたりとも動く気配すらない。
「この水晶をどうしたらいいのでしょう? ……………え?」
アークスが扉に嵌め込まれている水晶に触れながら扉の前で唸っていると、外で金色に光っていた光球が塔に入ってきたかと思うと、おもむろにその扉の水晶の前に移動した。
その光球はその水晶の周りを数回回ると、アークスの目の前で動きを止める。
「えっと…………? ここに手をかざせばいいの?」
不思議に思いながらもアークスがそう聞くと、その光球はその問いにまるで肯定しているかのように点滅する。
そんな光球を不思議に思いながらもアークスは頷き返すと、扉に埋め込まれている水晶の前に移動して手をかざす。
「これでいいのかな? えいっ! …………えっ!? きゃあああああああああ!!! 心力がが吸い取られる!?」
アークスががおもむろに水晶に両手をかざすと、突然水晶が輝きだし、彼女の心力を吸収し始めた。それに伴い少しずつ水晶に光が灯っていく。
しかしそんな中、アークスは襲ってくる痛みと体から力が抜けていくような脱力感に悲鳴を上げることしかできず、体も動かせない。それもそのはず。心力はその者の命その物の力であり、それが無くなることはすなわち死を意味するのである。そんな力が吸われていく中で、全身に痛みや脱力感が襲ってくるのは当然のことなのだ。
その間にも水晶はアークスの心力を吸い続け、数十秒後、水晶に光が完全に灯り、ようやく心力吸収から解放されたと思うと、動きそうになかった扉が音を立てて横に開いた。
しかし、アークスは未だ続く脱力感に耐えきれず、その場に座り込んでしまった。
「ようやく終わりました…………。結構心力を吸われてしまいましたね…………。とりあえず先に……なんですかこれ……?」
命その物の力である心力を吸われ、精神的に疲労しているアークスは開いた扉の先を見て思わず絶句してしまう。何故ならその先にあったのは先の見えないくらい長い螺旋階段があったからである。
もっとも、螺旋階段なので先が見えないのは当たり前であるが。
「…………これを登れと?」
その螺旋階段を見据えながらアークスが呆然として、自身の傍らにいる光球に問いかけると、光球は先ほどと同じく肯定の意味の点滅をするだけだった。
―数時間後 ルナ地方 古代の森奥地 月光の塔最上階
「はぁはぁ……よ、ようやくつきました……。??? あれはいったいなんでしょうか?」
アークスが必死の思いで螺旋階段を登り切り、最上部までたどり着くとそこには、巨大な光球と何かが置かれている台が見えた。
不思議に思ったアークスが近寄ってみると、その台の上に置かれているのは2つの籠手のようだ。アークスは躊躇なくその籠手の片方をを手に取ると、まじまじと見始める。
「なんでしょうこの籠手は? 籠手にしては軽すぎますし……。それになぜか手に馴染むような……!? なんですかこの光!?」
アークスが置かれていた籠手を手に持って考えていると、突然頭上に浮かぶ巨大な光球が輝きだした。
その眩しさにアークスはとっさに両腕を交差し、目を閉じる。
しばらくすると眩しさが緩んだので、アークスが目を開けると――――――
「……なんで私は籠手を装備しているのでしょうか?」
――――――いつの間にかアークスの両腕に籠手が装備されていた。先ほどはただ持っていただけであるのに、いつのまにか手にはめられているのである。
「……そのものが自分から装備されるとは珍しい。いつもはもっと嫌がるのに」
アークスがいきなり籠手が装着されるという、突然のことに驚いていると、背後から女性の声がしたのでとっさに振り向く。しかし顔を向けた先には誰もおらず、そこにあるのは先ほどの金色の小さな光球のみである。不思議に思ったアークスが辺りを見渡すが、やはり誰もおらず、あるのはその光球だけである。
そんな中ふと、アークスの目の前に浮かんでいた光球がピカピカと点滅しているのに気がついて、もしや、と思ったアークスはその光球に声をかける。
「えっと…………? どちら様でしょうか?」
「驚かないの? さっきもそうだったけど、普通は光球が点滅したり、話しかけたりすると驚くと思うのだけれど……」
首を傾げながらもそう問いかけるアークスに、光球なので表情などは見えないが、光球から呆れたような声が響く。
しかし、アークスはこう答える。
「いえ、驚いてはいますが……。今は驚きよりもこの籠手とあなたについての興味のほうが大きいので。それに私は会話さえできれば、それがどんな姿をしていても、ヒトして考えますから」
アークスが自分の考えを含めそう答えると、その光は若干嬉しそうに、そう。なら話は早く済みそう、というと、そのままアークスに話し出した。
「単刀直入に言うと、その籠手型魔具『オリジン』をもって英雄所縁の地、つまり聖地を巡って、そこにある生命子をその籠手の心装珠に注いでほしいの」
「この籠手は魔具だったんですね。なら勝手に装備されたのにはうなずけますが、何故ですか? それとその役目は私でなければだめなんですか? たとえばもっとつよ「だめよ」…………最後まで言わせてくださいよ」
言葉を遮られたアークスが不満気にするが、その光球はいきなり、ごめんなさいね、と謝ると、溜息を吐くような音を出しながら、呆れと期待を含んだような声でこう続ける。
「それはこの魔具が必要になったからよ。それに別にあなたじゃなくても、ここまでたどり着ける心力と体力、そして私の意思が大まかに伝わればだれでもよかったんだけどね…………。『オリジン』がとてもあなたに懐いてるのよ。…………それも呆れちゃうほどにね。しかも、その魔具には意思がある。だから、その魔具あなたを主として認識した以上、あなたが死ぬまで、どんなに遠くに捨ててきても、あなたの元へ戻ってくるのよ」
その光球は、だからあなたにしか頼めないのよ、と疲れたような声でそうつぶやく。
死ぬまでと聞いたアークスは驚愕の表情を浮かべた。
それはそうだ。誰でも死ぬまでと言われれば仕方のないことだろう。
「そ、そうなんですか!?」
アークスのそんな質問に答えず、その光球は、あなた、名前はなんていうの? と聞いてくる。突然のことながらもアークスはとりあえず名乗ることにして口を開く。
「ア、アークスです。アークス・レクペラティオ。…えっとよかったらあなたの名も聞いてよろしいでしょうか?」
「わ、私!? えっと…………(ルナは不味いから………そうだ!)ルーンよ」
自ら名乗りながらも、思わず聞き返してしまったアークスに、その光球は自身の名前をルーンと名乗る。
途中ルーンが小さな声で何かつぶやいていたが、ルーンさんですか……、とその光球の名乗った名前を覚えることに集中していたアークスには聞こえていなかった。
それを良いことに、その光球は何事も無かったように話を進める。
「えっと、それは置いといて、その魔具の使い方を教えておくわね。その『オリジン』にある心装珠に心力を注ぐことで、使うことができるわ」
説明を聞いたアークスが、じゃあさっそく……、とオリジンに心力を注ぐが、何も起こらない。
そんな魔具の様子に首を傾げるアークスに、ルーンから呆れたような声がかけられる。
「人の話は最後まで聞かないとだめよ。封印を解かないと使えないわ」
アークスが疑問符を浮かべ、封印? と聞くと、ルーンが点滅しながらそうよ、と答える。
「『オリジン』にはこの塔の入り口の扉のように封印が施されているのよ。強力な封印がね」
「じゃあ、どうやって解くのですか?」
「こうするのよ」
「えっ…………!? きゃあああああああ―――――――!!」
アークスが頭に浮かんだ疑問について、ルーンに尋ねると、ルーンである光球が輝きだし、何かがアークスの体の中に流れ込んできた。アークスはそれに伴って襲って来た痛みで悲鳴を上げた。
ルーンは驚きながら、その光景を見ていた。
数秒後、ルーンははっ、としたかと思うと、アークスの両腕の『オリジン』の心装珠に光が灯るのを確認し、よく頑張りましたね、と告げた。
「な、何をしたんですか……? ものすごく痛かったんですが」
「この月属性の聖地「月光の塔」の生命子を『オリジン』とあなたに注いで、『オリジン』とあなたの中に眠る力を一部、引っ張り出したのよ。…………まあ、ここまでだとは思わなかったけれどね」
そう呟きつつ、ルーンは純粋にアークスのもつ才能に驚いていた。
昔と違い、現在の人々は生命子を受け入れることの出来る体質の者は多くない。しかも本来使うことの出来るはずの種族でさえ、生命術の使用が出来ないものもいる中で、
ヒュ-マンでありながら、本来なら素質を持たない心術の素質を持ち、生命術に高い適性と共鳴性を持っていること。
そして、その高い共鳴性からあの痛みが発生したことに。
「あの………聖地の生命子を取り込むごとにあの痛みがあるんですか?」
「(まさかとは思うけど……本当に『彼女』そっくりね……。あの言葉も言っていたし。もう時間もないけど、確かめてみようかしら)」
「ルーンさんどうしたんですか? 突然黙って」
突然黙り込んだルーンにアークスは首を傾げ、尋ねる。
「ご、ごめんなさい。ええそうよ。辛いかもしれないけど頑張ってね。えっとねアークス。もう朝になるから私とはお別れなの」
「そうなんですか!?」
黙り込んでいたルーンの言葉に驚きながらアークスが聞くと、彼女は小さな声でと、行っても一時的だけど、とつぶやいたが、驚きで慌てているアークスには聞こえていない。
それをいいことに彼女はだから、最後にお願いがあるんだけど、いい? という。
アークスがなんですか? と聞き返すと、ルーンはこういった。
「あなたの心装具を見せてほしいの」
「私の心装具ですか? ランク1ですし、属性も面白くないですよ?」
彼女がらんく? なによそれ? と聞いてきたので、アークスはかつてエンシスが言っていたように、人の価値のこじ付け、と答えた。
実際のところ、確かに自分自身の心力を具現化させることで生み出される心装具は、そのヒトの価値を決めるといっても過言ではない。しかし、そのようなことだけでヒト個人の価値は決まるものではない、というのがパートナーであるエンシスの口癖であった。それは戦死した彼の父親の心装具も高ランクであった、という環境もあったからのようだが。
それに対してルーンは、ふ~ん? 変なの、というと、
「いいから見せてよ。別にいじめないから」
と、いう。それに対してアークスは苦笑する。
「いえ、別にいじめられたくなくて見せないわけじゃないんですけど……? まあ、いきますよ! 『我が内に秘められし心力よ…………』」
アークスはルーンの調子に若干呆れながら呟くと、心装術の詠唱を始める。
そして『……心装具オーニス!』との宣言が終わり、アークスが詠い終わると、白光がアークスの左手に集う。そしてあの白銀の弓、「封印癒弓 オーニス」がアークスの左手に現れる。
すると、アークスを今まで黙って見守っていたルーンが突然、驚いたように大声でそれはっ!? と叫んだ。
ルーンの突然の大声に驚いたアークスがルーンの方を見ると、ルーンは頻りに点滅しながらなんでもないの、と答える。
しかし、ルーンの声には明らかに驚きよりも喜びが満ちていた。
「本当に大丈夫ですか? やっぱり駄目な心装具でしたか……?」
「い、いえ少し私の知っているものにそっくりだったので驚いてしまって。(封印されているけど、この弓。そして属性を表す心力の色。おそらく間違いない! この子の心装具は『彼女』の………!)」
いきなり大声を上げたルーンの反応に申し訳ない気持ちになっていたアークスに悟られぬようにルーンは内心興奮しながらそう返す。
それから数十秒間、アークスは何が何だか理解しておらず、ルーンは何か考え込んでいるため、2人のどちらも話さない時間が流れる。そして、その数十秒の沈黙の後、ルーンがこう言った。
「気が変わったわ」
「えっ?」
「普通ならこのまま塔の入り口に返すんだけど、『加護』をあげるわ」
ルーンは突然気が変わったといい、そういう。
ルーンの言った内容が理解できていないアークスは、話し出したルーンに『加護』? と聞き返した。 アークスは『加護』という単語を聞いたことが無かったためである。もっとも、今の時代で『加護』のことを知っているのはその筋の人たちだけなのだが。
「そうよ。月属性の『加護』。あなたの属性は『癒し』みたいだから、どんなものの加護も受けられるわ。さあ、受け取って!」
「んっ」
そういうと、再びルーン、つまり光球が金色に光り出し、そこから漏れた光がアークスの中に入ってくる。
その時にアークスを再び痛みが襲ったが、先ほどの扉の開放や封印解除覚醒の時とは違い、多少の痛みはあるものの、まるで自分のすべてを包み込んでくれるような優しいものだった。
そして、ほとんど痛みがなくなると、今まで全部透明で光の灯っていなかった『オーニス』の心装珠の1つに満月のような金色の光が灯っていた。
「これが…………『加護』ですか?」
「そう。これであなたは私の属性、つまり月の心術も使えるようになってるはず。もう時間がないから説明はできないけど、頑張ってね!『月の光よ、彼のものを導け ムーンロ-ド』!」
「ありがとうごさいます! 頑張らせて……もう転移ですか!? もうちょっ…………!」
加護について、アークスがお礼を言い終わる前に、ルーンは彼女を塔の入り口まで転移させる。ルーンの放った心術は直ぐに発動すると、アークスを塔の入口へと転送した。
ルーンは先ほどまで彼女がいた場所を見つめながら、過去にあったことを思い出していた。
「運命っていつも残酷なものね。あの『オリジン』が懐くはずよね…………。何から何まで『彼女』そっくりなんだもの…………。…………特にあの言葉は。頑張ってね『・・・・』。いえ、アークス」
そうつぶやくとルーンは塔に差し込んできた朝陽に当たると、姿を消した。
…………最後にアークスを労わる言葉と意味深な言葉を残して。
これでプロローグは終わりです。次は月光の塔前から、旅に出るまで。
感想よろしくお願いします。