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青の魔法使いと最後の執行官  作者: 雨曇晴
冬の森にて
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7.春の遺書

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 立ち上がって、雪を払う。いつの間にか雪がちらつき始めたようで、私の紺色のローブにかわいらしい結晶の形が浮き上がっていた。このままでは体は冷える一方だった。

 小刻みに震える手をぎゅっと握りこみ、駆け足で男の後を追った。既に男が家の中に入った後だったが、扉は自動で開いた。勝手に開く扉なんて見たことがない。


「そこでローブは脱いでくれ。はぁ、客が来るの50年ぶりだな」


 男の家は前回来た時と何ら変わっていなかった。相変わらず部屋の中は雑然としている。上と下それぞれに繋がる階段もあるようだ。見た目からは分からなかったが、そこそこ広いらしい。


「雪を払ったら入ってこい。靴についた雪で本がダメになるから気をつけろよ。特にそこ。お前の足元にあるのは94年前に絶版になった資料だ」

「そんなに大切なら上に置いておきますよ」


 私は勝手に手に取り、表紙にかかったほこりを払う。あんな風に言っていたが、もうずいぶんと長い間開いていないみたいだった。


「ところで、ヘイズン村の人間らしいな。同郷の人間には初めて会った」

「はい。私もです。改めまして、リベラ・ハワードと申します。長いお付き合いになると思いますので、よろしくお願いします」

「お前を長くここに置いておくつもりはない。ただ、都合がよさそうだ。取引をしよう」

「なんとお呼びすればよろしいですか」

「セロン様、だな。形式的でも、俺の護衛をするんだろう」

「ではそのように」


 セロン様、だなんてたいそうな呼び名だ。でも、ここで職を失うわけにはいかない。ある程度信頼関係が出来上がるまで従順なふりをするのがよさそうだった。ずいぶんと偉そうだが、それにも目を瞑る。


「俺はとある探し物をしているんだ。お前にはそれを手伝ってほしい」

「探し物とは?」

「春の遺書の最後の一ページだ。俺はそれを100年間探し続けている」


 春の遺書、口が勝手にそう動く。いつの間にか体は温まり、手の震えもおさまっていた。


「春の遺書って……私の記憶違いでなければ、あの伝説の春の魔法使いが記した魔術書のことですか?」

「あぁ。その最後の一ページには……誰も知らない魔法が載っているらしい。あくまでも噂だが」


 セロン様はどかっと近くにあった椅子に座り脱力する。髪紐をほどけば、肩につくか、つかないくらいの長さの髪が姿を現す。荒れ放題の髪の隙間からは真っ赤な瞳がこちらを捉えていた。


「俺は魔法使いだ。他の魔法使いに負けずに生き残るには強い魔法が必要なんだ。そのためにそれを探し続けている」

「そんなことしなくたって十分お強いじゃないですか」

「そろそろ僕も戦争に駆り出されるだろう。最新の技術と戦うためにはソレが必要だ。魔法を生み出すのには最低でも80年はかかるし、それじゃあ間に合わない。僕はまだやりたいことがある。死ぬにはまだ早い」


 このライテリオン王国にとってもいいことばかりだろう? そういうと、近くにあった折れかかった杖を不気味な色をした鍋の中に投げ込む。まさかあれを食べるつもりじゃないよな。だとしたら、魔法を習得する前に食生活を見直した方がよさそうだ。


「どうだ。あんたらにとっても都合がいいだろう。魔法を会得した僕は今まで以上に強くなる。未知の魔法だろうからこの国で独占できるぞ」


 私は頭を抱えてしまった。どう考えてもここで答えを出すには重すぎる提案だ。本当だったら、帰って団長の意見を聞きたいところだが、いかんせん遠すぎる。もう外は暗くなっているし、帰っていたら返答できるのは明日の昼過ぎだ。気が変わってしまっては、私の居場所がまた無くなってしまう。

 私が返事をしないからか、セロン様は怪訝な表情でこちらを見つめてくる。


「お前の願いはないのか?」

「願い?」


 私が聞き返すと、セロン様はにやりとほくそ笑んでこう続けた。


「あぁ、魔法で叶えられるものならなんでも。どんなに汚い願いでも、春の遺書を完璧に戻す手伝いをしてくれるなら一つだけ叶えてやろう」


 それは必要以上に甘い誘いだった。何でもいいのか、そこまでして、修復するほど春の遺書は魅力的なものなのか、全ての浮かんだ疑問は即座に消えていった。

 そうだ。王国のためになる願い事をすればいいはずだ。私に叶えてほしい願いはないし、国に仕える身分だから、国のために願うのは当然のことだ。そう考えてゆっくりとうなずいた。



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