6.幸運な遭遇
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次の日、私は再び冬の森を訪れていた。
「おや、こりゃあまた。まだ調査は終わらないのかい?」
「あぁ……実は長引いてしまって」
「こんなに寒いのに大変だねぇ。王都につとめれば今頃薄着で過ごせるっていうのに」
そうだ、今の王都は少し肌寒いが冬の終わりの方だからこんなに着こむ必要はない。もう四枚も着込んでいる。それでもまだ肌寒かった。ここが冬の森と呼ばれる理由だろう。
「時間があるときにわしの村へ来てみると言い。村民は少ないがいい人たちばかりだよ」
「えぇ、ぜひ」
雪が止んだのを見計らって馬車から降りる。先日冬の森に来た時にも会ったおじいさんに手を振り返してから歩きだした。降り積もったばかりの新雪を踏みしめて歩く。ふかふかで、足首まで埋まってしまいそうだった。
「ここから青の大魔法使いのところまで、何分くらいなんだろう」
前回は男について行っていつのまにかたどり着いていた。私は昨日の会話を思い出す。それにしても、あの男が同郷だったなんて驚いた。久しぶりに故郷へ帰りたい。王都と違って何もない田舎街だが、今となってはあの閉塞感さえ懐かしい。ただ、入村の手続きが面倒だからしばらく行けないだろう。
とにかく歩き続けるしかない。止まっていたってどこにもたどり着けない。何よりこんなところで立ち止まっていたら凍死してしまう。昨日受け取ったローブのボタンを一番上まで止めた。冬仕様の温かい裏起毛付きだ。
あてもなく歩き続ける。しばらくすると、黒い影が見えた。こっそり近づくと、小さな雪ウサギだった。バッグから短剣を取り出して飛びかかる。その瞬間、何かが私に突進してきた。
「痛っ!」
「うっ!」
ウサギは私たちをするりと交わして、雪の中へ消えていった。何かの野生動物だろうか。そう思って顔を上げると見覚えのある男がいた。
「お前か」
「青の、魔法使い」
「大魔法使いだ。間違えるな」
私が探している男が、服についた雪を払っていた。見るからに機嫌が悪い。恐らく、彼が新鮮な肉を獲る機会を潰してしまったのだろう。他でもないこの私が。
「この僕に刃物を突き刺そうとした野蛮な女が何の用だ。まさか、また護衛だのなんだの言うんじゃないだろうな。言っただろう。一度でも刃を向けてきた女を信用することはできない」
男はすねたようにそっぽを向いた。そしてそのままどこかへ歩いていこうとする。
「待ってください!」
「お前と話すことはもうない」
「ヘイズン村……!」
私が咄嗟に叫ぶと彼は足を止める。最後の切り札にしたかったけれどここまで来たら仕方がない。もう、このまま行こう。
「私はヘイズン村出身です。室長……ヘスペラさんから伺いました。私の故郷について知りたがっているのでしょう? 私なら何か助けられるかもしれません」
「ヘスペラ。あの半端物はまだ生きてたのか」
男はぽつりとつぶやいた。雪が降っているせいですべての音が小さく、か細くなっている。
「食料は持ってきたか」
「え? あぁ、ありますよ。前回と似たようなものですけど」
「手土産は?」
「母にいつも人の家に行くときは土産をと言われていたので、王都の日持ちするスイーツを買ってきました」
男は少しだけ黙って考え込んだ。そして、小さくため息をつくとポケットから何かを取り出した。
「お前を受け入れたわけではないからな」
手に握られていたのは杖だった。地面に向かって杖を振ると、一瞬の浮遊感に襲われる。落ちる、と思ったときには遅かった。バランスを取り切れずに雪の中に頭を突っ込んでしまう。目の前が真っ白だったし、顔面が冷凍されそうだった。
「早く立て。雪は払ってから中に入って来いよ」
顔を上げると男が私に背を向けて家の中に入っていった。いつの間にか私は、前回きた青の大魔法使いの家の前に来ていたようだ。




