14.雪道とクッキー
「国と結んだんですか」
「正確には結ばされたんだ。当時の僕はすごく強かったんだが、そのせいで黒の魔法使いに目をつけられたんだ」
なんてことないふりをしながら私の前を歩いているが、そのこぶしが微かに震えているのが見えた。
「なんか……」
そう言いかけて止まる。音にならなかった言葉は代わりに白い息となって吐き出された。空の色はぼんやりとしたままで、降り積もった雪が枝から落ちる音だけが時折聞こえた。
「なんか?」
「いや、あの、何でもないです」
「この国で知らないやつはいないだろう。80年ほど前の国王を殺した魔法使いだ。アイツは魔法使いの中でも長生きで、その分力も強い。失われた魔法をいくつも知っているから厄介だ」
どこの国にも属さない放浪している魔法使いだと聞いたことがある。国王を殺された恨みを果たそうと、大量の資金と人員で姿を探したが、ついに見つかることはなかったそうだ。
「厄介だから見かけたら逃げたほうがいい。アイツは人間を魔法使いにする魔法を使えるからな。この国は魔法使いには生きにくい」
セロン様の背中はどこか寂し気だ。なんだか落ち着かなくて歩くスピードを上げた。強く地面を踏んだタイミングでブーツの隙間から雪が入ってくる。
「あれが村か?」
「おそらくそうです。私も行ったことがないので詳しいことは分からないのですが」
そこには数件の家と一つの大きめの建物があるだけの静かな村だった。一人私たちの姿に気が付いて話しかけてくる。
「どうしたんだ、何か用か」
「街へ出るための馬車に乗りたくて」
「それだったらもうじき来るさ。遠慮せずに乗っていきな。ちょっと待ってろ」
腰の曲がったおばあさんだったが、親切に雪の積もったベンチまで案内してくれた。雪を素手で払い、腰掛ける。
「二人は兄弟かい? ここらへんじゃあまり見ない顔だな」
「えぇ、街に買い出しに行くんです。この村よりももう少し奥まったところに住んでいます」
「ここよりも深いところかい? そりゃあ大変だな。ほら、これをもっておいき」
「こんなにいいんですか」
「そこの食堂を旦那と経営していてね。これは試作品だ」
そう言って袋を渡される。中にはナッツが混ぜ込まれたクッキーが数枚入っていた。
「そこに住んでいるチビたちに持っていこうと思ったんだが、あげるよ」
「わぁ、今いただいてもいいですか? はい、一枚どうぞ」
さっきから一人で少し離れたところに立っていたセロン様にクッキーを手渡す。セロン様は目を合わせないようにそっとクッキーを受け取った。
「すみません、人見知りで」
「気にしないで」
一口クッキーをかじってみる。ナッツを一度炒めたのだろうか。いつもよりも香ばしさが増している。ほんのりと生地はメープルの味がして優しい甘さだった。
「美味しいです。ねぇ?」
セロン様に聞いてみる。セロン様はしばらくクッキーを見つめた後、小さく一口かじった。何かを考えているように固まってから、二口目、三口目と矢継ぎ早に口へ運ぶ。
「うまいな。今度買おう」
「そこまで言ってもらえるなんて料理人冥利に尽きるね。良かったらこれも持っていきな」
そう言って追加のクッキーをもらう。おばあさんが言うにはここは小さな村で住民が全員顔見知りらしい。みんな町まで出稼ぎに行っていて、寂しい様子だった。
「いつでも遊びにおいで」
霧のいいところでちょうど馬車が来た。おばあさんにお礼と別れを告げて馬車に乗り込む。
「いつでも遊びにおいで! 魔法使いには気を付けてね」
おばあさんの善意を分かっているからこそ最後の一言を聞いて少し胸が痛んだ。
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