13.消えない契約
「お待たせいたしました」
「昨日と、服が変わらなくないか」
「任務中ですから、隊服です」
「それだと僕が一般人に見えないだろう」
ベルトを締めてから扉を開けると自室のようにくつろぐセロン様がいた。相変わらず見慣れない風貌だが、何か言いたげなそのまなざしだけは変わっていなかった。
「見えますよ。そんな細かいことは気にしないはずです」
「疑われたら上手く逃がしてくれ。僕は相当人間から嫌われているから」
そのまま近くにあったコートを手に取る。私もローブを手に取り、ブーツの紐を結びなおす。
「ここから近くの村まではワープできますか?」
「無理だな。歩いていくしかない」
ゆっくりと準備をしていいと言われたからお言葉に甘えてそうしたら、ずいぶんと空は明るくなっていた。雪もやんで、やっと歩きやすそうな視界になっている。
「雪が降っていないうちに出発しましょう」
「そんな大差ない」
「慣れればそうなんですかね」
そのまま外へ出る。太陽はまだ視認できないが、もう日は登っていそうな明るさだった。こんなに朝早く起きたのにトレーニングをしなくていいなんてなんだか新鮮だった。これからは仲間なんていない、一人でこの任務に就かなきゃいけないんだと考えると少し憂鬱だった。
「行かないのか?」
「今行きます。鍵を閉めないと」
「他の動物たちがいない間に急ぐぞ」
先に外へ出たセロン様が振り返る。真っ白な雪原に、夜明けの空。そこに佇む青年の図は美しい絵画のようだった。
「セロン様、歩くの早くないですか」
「そうか? ここに越してきてからずいぶん経ったからな。もう慣れた」
振り返りもせずにそう言いながらずんずんと進んでいく。一方で私は慣れない雪道に悪戦苦闘しながら、セロン様の背中を必死に追いかける。
「いつ頃ここに? こんな暮らしにくい場所にわざわざ来るなんて」
「従属の契約を結んだ頃だな。無理やりここに住めと言われたんだ。当時王宮には凄腕の魔法使いがいて、この森全体に大きな防護壁を張られて閉じ込められていた」
聞かなきゃよかった。触れずらい話題が出て、そのまま黙ってスルーする。一生懸命歩いてますって感じを醸し出した。
「何で黙る」
「いや、なんか聞きにくくて」
「知らないのか? 結んだ時に国王から国民に発表があったから知らないやつはいないと思っていたが」
「いや、それ何百年前の話ですか」
「さぁ、300年くらい前か。僕が100歳になったころの話だから」
「そのころ生きていた人なんてもう死んでますよ」
「あんたいくつなんだ」
「22です」
「若いな」
十分あなたも若く見えますよ、なんて言葉は飲み込んでおく。計算したら400歳だ。もうその年になると1刻みの計算とかはやめてしまうのだろうか。
「その、契約について聞いてもいいんですか」
「文献に載っているはずだ」
「すみません、活字を読むの苦手で」
素直にそう言ってみると、セロン様は振り返った。
「魔法使いに向いてないな」
「魔法使いじゃないからいいんです」
足首のところまで積もった雪を踏みしめながら歩く。時折見かける小さな足跡は雪が降ったらすぐ消えてしまうだろう。
「従属の契約は、僕がカタルト王国と交わした消えない契約だ」
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