12.訪問者
遠くから何かを叩く音が聞こえる。まだ重たい瞼を開けて、布団を剥いだ。このベッドは王都で使っていたものよりもだいぶ出心地が良くてぐっすりと眠れた。
昨日はあれから新しい家に帰って、中を探索した。大まかな作りはセロン様の家と変わらないそうだ。扉を入るとすぐリビングがあり、奥にある扉を開くと、寝室兼書斎のような部屋がある。風呂もキッチンもあり、不便なく暮らせそうだった。ひとつ気になるところと言えば、寒いことくらいだろうか。
そうだ。それで、持ってきたお金を数えているうちに眠たくなって、着の身着のまま眠ってしまったんだ。
部屋に置かれていた鏡に映る私の髪はひどく乱れて、とても見るに堪えない姿だ。慌てて手で梳かして適当にくくる。カーテンを開けると、まだ外は薄暗かった。
音の鳴り方からして恐らく扉をたたく音だ。そしてそこにいるのは十中八九セロン様に違いない。もしかしてもう出発の準備を整えたのだろうか。慌てて扉の方に向かった。
「おはようございます……あれ」
「おはよう」
目の前にいたのは私の想定とはまったく違う人だった。
短く切りそろえられた髪は街でよく見かける茶髪に、目も若葉色に変わっていた。これじゃあ、まるで
「まるで私みたい」
「参考にする人間がお前しかいなかったんだ」
寒いから入るぞ、と入ろうとした知らない人を必死に静止する。
「やめてください。私は嫁入り前ですからあなたが何を望もうと答えませんから! 私は武人です。早く出て行って!」
「な、なんだ。いてっ! おい、ふざけるな」
男の人は慌てた様子で、私の押しのけた腕を掴む。
「護衛対象を追い出すだなんていい身分だな」
「え、は、あぁ、セロン様……」
「さっきから言ってるだろう。よく声を聞け」
分かりやすいように変えなかったらしい。セロン様はそのまま私の家に入ってくる。
「それでも、女人の部屋に入るのは非常識ですよ」
「人間の常識を押し付けてくるんじゃない。ここは僕が建てた僕の家だ」
そう言われてしまっては言い返す言葉も見つからない。私は諦めてセロン様を通す。
「早く身支度をしろ。今から出たってつくのは昼頃になるぞ」
「え? 近くの村から出ている馬車で行きましょうよ」
「そんなのに乗っていては間に合わないだろう」
「間に合いますよ。昼前には着きますから」
「そう、か。馬は苦手なんだが」
「馬に乗るわけじゃなくて、馬が引いてくれる荷台に乗るんです」
「そうか。なら構わん」
そう言って、コートを脱ぐ。いたって普通の人間が着ていそうな服装だった。薄いシャツに茶色のブーツ。厚めのローブも脱げば、もう魔法使いには見えないほどほっそりとした体が出てくる。
「本当にセロン様ですか」
「あぁ、この杖を見ろ」
ポケットからはここ数日目が腐るほど見た杖が出てきた。持ち手の部分は深い青色になっており、植物の柄が彫られていた。
「本当だ」
「僕はある程度顔が割れているからお前の顔を借りようと思ってな。髪も短く切ったし、大丈夫だろう」
肩につきそうなくらいの長さの髪は短く切りそろえられており、本当に本人の見る影もなかった。
「僕は待っているから、早く身支度をしてきてくれ」
そう言って近くにあった一人掛けソファに腰掛ける。私は慌てて自室に戻った
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