11.小さな家と甘いお菓子
「魔法だ」
私たち人間が想像するような大きな、夢のある魔法だった。
セロン様はしばらく出来上がった小さな家を満足そうに見ていた。肩に雪が見えるくらい積もってきたころ帰ってきた。
「ふぅ。いいか。今日からあそこに住め。明日は街に買い出しにでも行ってこい」
「すごい。材料とかってどうやって持ってきたんですか」
「持ってきてなんかいない。あれは僕の魔法でできている。僕が死んだら消えてなくなるさ」
玄関で体に積もった雪を軽く払う。それにしても、シャツ一枚で外に出ても平気だなんて、人間とは体のつくりが違うのだろうか。
「セロン様も明日一緒に行きますか?」
「いや、僕は街には降りないことにしてる」
「それはなんでですか?」
「人間が嫌いだからだ」
セロン様は杖を暖炉の上にある花瓶のような筒に刺した。そして近くに置かれているロッキングチェアに腰掛ける。
「人間はすぐ嘘をつくし、いけ好かない。最初は下からものを頼んでくると思ったら、大きな力を手にした瞬間僕たちの頭を踏もうとする。それに、人間のことはよく分からない。ヘイズン村の時以降は同族たちとしか話していない」
「えぇ、それはそれは……なんというか」
何か言葉を探したが、相応しいものはみつからなかった。正直、最初に出てきた感想は、冗談ですよね? というものだったが、それは違うというのがここ数日でわかった。
この人は冗談を言わない。冷たいし、話しにくい。少し乱暴でぶっきらぼうだ。でも悪い人ではなさそうだ。急に任務を言い渡されて戸惑っていた私を無理やり追い出すこともしなかったし、なんだかんだ面倒見がよさそうだ。任務期間中の宿も、今から探すのは大変だろうなと薄々思っていたが、ものの数分で解決してもらった。
「何も言うな。僕は筋金入の一人好きなんだ。僕のことは放っておいてくれ。本当は、あんたのことも追い返そうとしていたが、従属の契約を持ち出されては仕方がない」
従属の契約、何度か耳にしたが詳細は知らなかった。ただ、ここで聞く勇気はなかった。でも、あの日見た団長と対面した時の右手を庇ったのはこの契約のせいなのだろうか。
「そうですか。では、何かお土産とか買ってきますよ。宿をくださったお礼です。何がいいとかありますか?」
「あぁ、でもこの前アイツが持ってきた茶菓子はうまかった。そうだな……袋がまだあったはず」
椅子から立ち上がってそのままキッチンへと姿を消す。戻ってきたセロン様の手に握られていたのは緑色の紙袋だった。
「これだ」
「あーこれはここから一番近い都市の名物じゃないですか。クッキーの間にジャムが挟まっているやつですね」
「一番近い街のものなのか」
「はい。カタルト王国は畜産が有名でしょう? あの街は特に卵と乳製品が絶品だって。冬の森が近いから常に涼しい気候だし、動物たちもストレスなく過ごせるみたいです」
この王国は最近やっと落ちこぼれ国家の名前を返上することができた。まだまだ他国と競える豊かさなのは王都だけだが、緑豊かで静かなのが他国の人にはウケるらしく、観光客が増えてきたところだ。
「うまいものが多いのか」
「はい。新鮮な卵や牛乳を使って作るスイーツが有名ですね。どなたからもらったんですか?」
「腐れ縁だな。同じ魔法使いだ。よくうちに顔を出す。会うこともあるかもしれないな」
紙袋を受け取ろうとすると、そのまま取り上げられた。もう一度掴もうとすると、手が届かないように上へ上げられる。
「なんですか」
「あんたはその街に詳しいのか」
「いや、私も来たばかりですから。この森、王都の間反対にあるじゃないですか。私は王都にある兵舎に住んでいたので、こっちに来る機会もありませんでしたから」
「そうか……」
セロン様はどこか迷っている様子だった。口をへの字に曲げて、紙袋をじっと見つめている。ほんの少しの表情の違いだったが、変化に乏しいと感じていたぶん分かりやすかった。
「もし、明日お時間あるようでしたら、一緒に行きませんか?」
魔法使いを街に誘うなんて、初めての経験だった。緊張のあまり、目線が泳いでいるのが自分でもわかる。踏み込みすぎたかもしれない。
「いいだろう。明日、夜が明ける頃に出発だ」
返事は予想していたものとは違っていた。
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