6話 ユグドラシル 前編
意識を取り戻したアギエルは、自分が最後の攻撃に耐える事が出来なかった事を認識する。
周りにはマルファスとボルタ、王子達の側近達がおり、安堵の表情を浮かべた。
「心配をかけてしまったか?すまなかった」
「何も問題はありませんよ」
「そうそう」
「「「アギエル殿下の勇姿、感動しました」」」
アギエルが謝意を伝えると、マルファス・ボルタ・側近達が笑顔で答えた。
「この後の予定を聞いているか?」
「叔父上が夕食会を開くと言っていました。ですので、城に戻りましょう」
「そうか。分かった。では、城に戻るか」
アギエル達が城へ戻ると各自に部屋が用意され、そこには衣料品なども準備されていた。
それぞれ部屋に入ると夕食会に参加する為の身支度をするのであった。
しばらくしてから、アスタロトの使いの者がアギエル達に夕食会の準備が整ったことを知らせに来た。
アギエルら3兄弟は、食事が用意された部屋へ同行する。
そこには、アスタロトとその家族がすでに席についていた。
アスタロトの妻であるリリス。アスタロトの息子サルガタナス。娘のエストリエである。
アギエルはリリスとは顔なじみであったが、マルファスとボルタは会った時は非常に幼かったためほとんど面識の記憶がかった。アスタロスの息子と娘に会うのは初めて出会った。
「叔父上、夕食にお招きいただき、感謝申し上げます」
「お久しぶりでございます。リリス王妃」「初めまして。サルガタナス王子。エストリエ王女」
「私はアギエルと申します」
「叔父上、夕食のお誘いを賜り、光栄に存じます」
「失礼ながら私の場合は、お久しぶりですと言える記憶がないのですが、ここではお久しぶりですと言わせて頂きます。リリス王妃」「初めまして。サルガタナス王子。エストリエ王女」
「私はマルファスと申します」
「叔父さん、夕食のお誘い、ありがとうございます」
「僕は普通の挨拶にさせてもらって、こんばんは。リリス王妃」「初めまして。サルガタナス王子。エストリエ王女」
「僕はボルタです」
3兄弟はそれぞれが挨拶をした。
「よく来た。まずは座れ」とアスタロトに着席を促され、給仕達が各々の席に案内する
席に座るとリリスが話し始めた。
「皆さん本当にお久ぶりですね。すっかり大きく逞しく成長されて、大変喜ばしい事ですわ」
「まずは、サルガタナスとエストリエからご挨拶をしましょうね」
リリスがそう話すとサルガタナスとエストリエが3兄弟に挨拶をする。
「お初にお目にかかります。サルガタナスと申します。本日は家族と共にお食事をご一緒出来てとても光栄です」
「初めまして。ようやくアギエル様・マルファス様・ボルタ様にお会い出来ました事に喜びを感じております。今後、交流の機会を多く出来たらと思っております」
それぞれの挨拶が終わり、「では、食事にしよう」とアスタロトが言うと給仕により食事が運ばれる。
食事は非常に和やか雰囲気の中で進んでいく。
3兄弟の小さい頃の話題からサルガタナスやエストリエの話題に続くのであった。
一通りの食事が終わると、アスタロトの表情に変化が見られた。
「さて、少し大事な話をしようか」
給仕達が全員が退席するとアスタロトが話を始める。
アスタロトは、リリス・サルガタナス・エストリエに向かって「お前達も話を聞いておけ」と言った。
アスタロトは3兄弟の方を向き、「お前達は、ルシファーの事をどこまで理解している?」
「今後の事を考えると、お前達が奴の事を知っておく必要がある。だから俺が知る事を教えてやろう」
3兄弟はアスタロトの言葉に頷く。
「お前達の父アドラメルクと俺は、ルシファーとユグドラシルの世界で戦った事がある。お前達の父の顔に消えない傷があるのは、奴の力によるものだ」
「本来、我々魔族の者は大きな怪我を負っても、時間と共に修復させる事が出来る。しかし、ルシファーから負った傷だけは癒す事が出来なかった」
アスタロトは突然、上着を全て脱いだ。すると彼の上半身には無数の深い傷が残っていた。
「俺もルシファー以外の者から受けた傷は、時間とともに治る。しかし、ルシファーからの傷だけは残ったままだ。これは奴の特別な力によるものだと考える」
「ルシファーの力はあまりにも強大。故に奴の本体が異界に簡単に渡ることは出来ない。これは多次元世界でのルールのようなものだ。ルシファーの場合には必ず、依代となる肉体を必要とする」
アスタロトがシャツを着て、話を続ける。
「異界との繋がりを管理しているものがユグドラシルの世界に存在する。それは世界樹と呼ばれるものだ。ユグドラシルにある世界樹が破壊されると各世界が持つエネルギーのバランスが崩れ、均衡が保てなくなる。その結果、各世界の融合が始まるらしい。どのように融合されるのか、その後各世界がどのような状態になるのかは誰にも分からないらしい」
「どのような事が起こるのか断言できないのは、世界樹を管理している者達にも分からないからだ」
「俺とアドラメルクがユグドラシルに行ったのは、まだ俺達が若かった頃だが、何故、俺達がユグドラシルの世界に行ったかというと、世界樹を管理する者達から救いを求められたからだ」
「ルシファーが配下の者達を使って、ユグドラシルの世界に住む者達を殺戮し、世界樹を破壊しようとしていた。それと同時にルシファーは配下に依代となりえる肉体を持つものを探させ、人間族の勇者である者の肉体を奪い憑依した。憑依した肉体が強力であればあるほどルシファーは、己の持つ力を開放することが出来る。だからこそ、俺やアドラメルクと対峙した時には、俺達の肉体を奪おうとしていた。あの時に、もっと強力な肉体に憑依されていたら、俺達は敗北していただろう」
アスタロトが話す内容をこの場にいる者達は、真剣な表情で聞き入っていた。
「俺達は他の仲間たちと共に、ルシファーの配下にあった者を可能な限り葬った。多くの仲間を失いながらもルシファーが憑依した勇者の肉体を消滅させることが出来たのだが、ルシファーを完全に消滅させることは俺達の力では出来なかった。だから、力を回復させつつある状況で、いろいろと動きを見せ始めたのであろう」
「これは俺の推測だが、ルシファーの行動の全ては天界と戦うための準備に過ぎないのだろう」
「この魔界に関与するのは、魔界には強力な力を持つ魔族や魔獣が多く存在する。多分、ルシファーの軍勢を強力にする目的があるのだろう」
話を聞いていた者達の表情が、徐々に険しくなっていた。
「今日の話は、ここまでにしよう」「あとはゆっくり休んでくれ」
アスタロトが立ち上がり、部屋を出ていく。王妃や王子・王女は落ち込んだ様子で部屋へ戻っていった。
アギエル達3兄弟も同様にお互いに何も言わずに、各自が用意された部屋へと戻るのであった。
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