17話 融合魔法 後編
「アギエル様。お迎えに参りましたが準備はよろしいですか?」
「ああ。ありがとう。準備は出来ている」
昨日も旨い料理と酒を堪能させてもらった。この世界の食べ物と飲み物のはずなのに今まで知らなかったのは、大きな損失である。是非、この知識を広めて欲しいが彼らの意見を尊重しなければならないのだろう。
彼らが今回の次元の裂け目の問題が起こるまでは存在を消していたのだから、決して簡単なことではないのだろう。彼らの信頼を得られるようにこちらも努力をしなければならないと考えるのであった。
フローラに案内された場所は、森林の奥地にある場所であった。そこには色鮮やかな花々が広範囲に渡り咲き乱れていた。
「おはようございます。アギエル殿」
「おはよう。ガンドアール殿」
「早速ですが、今日の訓練内容はこの花々が咲いている一帯のみに意識を広げてもらいます。この一帯にはまだ精霊とはいえる存在に至ってはおりませんが、小さな生命エネルギーが多く存在します。その存在を感じて頂くことから始めましょう」
「フローラ。準備をして下さい」
「はい。分かりました。アギエル様は私の隣にどうぞ。手順は昨日と同じ要領です」
「そうか。わかった」
フローラは草の上で仰向けになって目を閉じた。俺も同じようにフローラの隣で仰向けになり目を閉じる。そして、瞑想を始め意識を体に巡らせ徐々に外へと開放していく。
外へ意識を向けるとフローラと意識が重なり合うような感覚を覚える。フローラが手を指し伸ばし、手を取ることで導かれているようだった。
ここには無数の小さな生命エネルギーを感じる。とても心が包まれたような暖かい穏やかな安らぎを与えてくれる空間なのだろうか?
会話をしたりすることは出来ないが、只々心地よい状態である事には間違いない。見ている時には感じなかったことが、瞑想して意識を深めていくことで感じることが出来た。不思議な場所である。
「アギエル様。戻りましょう」
意識の中でフローラが声を掛けてきた。俺は意識の広がりを少しずつ抑え、体内に戻していく。そして目覚めて上体を起こす。
「お見事です。流石はアギエル殿ですね。今日の予定を変更して次の段階へ進みます」
ガンドアールは褒めてくれているようだが、俺自身にはどのくらいすごいのかが良く理解できなかった。
「アギエル様は不思議そうな顔の表情をされていますが、本来ここまで短時間で適性を見せたものはいないのです。私の父も私もこの段階に来るまでに長い年数を必要としているのです。私たちにとって融合魔法を習得するは容易なことではなかったのです。まだ習得には至っていないですが、このまま順調にいけば問題なく習得は出来るはずです」
「そうだな。ありがとう」
ガンドアールやフローラが言っていたように俺には魔法を習得する能力が他の者達よりも秀でているのだろう。確かに魔法を覚えることは昔から苦にしたことはなかった。俺はそれが当たり前だと思っていたから間違いだったのだろう。俺にとっては悪い事ではないから問題はないのだろう。
「アギエル殿。次の訓練は意識をこの森林の一部にまで広げて下さい。そこで、一つの小さな生命の意識を感じて頂きます。生き物であればどのような種類でも構いませんが、最初は小さな個体から行うようにして下さい。いきなり大きな生命体ではどのような結果になるのか分かりません。ですから、手順を踏んで頂きたいのです。よろしいでしょうか?」
「構わない。指示に従う。まずは小さい生き物だな」
「はい。そうです。では始めましょう」
フローラは俺の隣で仰向けになり目を閉じた。俺もまたフローラと同様に目を閉じ瞑想を始めた。
意識を体の中から外へ広げていく。先程よりも広範囲に渡り意識を徐々に広げていく。少しずつ、感じる生命のエネルギーの数が増えていく。大きいもの小さいもの様々な生き物を感じ取る事が出来た。さらに意識を深めていくとそれがどのような生き物かも知ることが出来た。
とりあえず、1匹の角が生えている昆虫に意識を集中し、そこからさらに昆虫の体の中に意識を浸透させていく。
すると、俺自身が昆虫になったような錯覚を感じ取ることが出来た。とても不思議な感覚だが面白い。この生き物には羽があるようなので飛ぶイメージを意識すると羽を広げて飛び始めた。あまり高くは飛べないようだが、木から木へ飛び回るなら十分なのかもしれない。
着地した木には同じ個体が既にいた。俺は戦うイメージの意識を強くすると頭部にある細長い角で相手を威嚇し始めた。相手もまた臨戦態勢にあるようだ。面白い。俺の意識がそのままこの昆虫に伝達されていく。まるで俺自身が戦っているようだ。お互いに角で押し合いをする。力比べと同じであるのかもしれない。角を左右や上下に振り相手の姿勢を崩す。相手に力が入らなくなったところで角を相手の体の下に潜り込ませ、一気に上に押し上げる。相手は耐えることなく吹き飛んでいく。俺達の勝利だ。
しばらくこの昆虫の動きに身を任せていると木の蜜を食し始めたらしい。蜜の味を感じることは出来ないがこれが好物なのは意識から感じ取ることが出来た。
このような体験が出来るのも訓練のおかげであり、他の生き物も同様に感じ取ることが可能なのだろう。しばらくは様々な疑似体験を楽しんでみるのも面白い。そう思いながら一度自身の肉体へ意識を戻すことにした。目を覚ますとフローラも同じように目を覚まし、上体を起こした。
「アギエル様。いかがでした?」
「とても不思議な感じだったが、面白い体験が出来た。不適切なことかもしれないが、正直なところ楽しかったと言える」
「そうですか。無事に訓練が進んでいるので問題はないのでしょうね」
「ああ。そうだな」
「アギエル殿。貴方には本当に驚かされてばかりです。この訓練もあっという間に終えてしまった」
「そうか?次は大きいものへの挑戦かな?」
「その通りです」
「じゃあ、始め・・。いや。ちょっと待てよ・・・」
「アギエル殿。これは少々まずい状況になりましたね」
「ああ。そうだな」「転移の術式の方はどうなっている?」
「使者はアドラメルク陛下の王城へ向かっているはずですが、まだ到着はしていないと思われます。ですから術式の展開は出来ないかと思います」
「仕方がない。戦える者達ですぐに応戦をしよう。俺は先に向かう」
「アギエル様。私も一緒に参ります」
「アギエル殿、ありがとうございます。フローラ、アギエル殿のサポートを頼んだよ。私は他の者達に声を掛けすぐにあとから現地へ向かいます」
「よし分かった。フローラ行くぞ」
俺達は予想をしていなかった事態に慌ただしく対応するのであった。




