15話 エルフの秘術
会談は中断され食事を取ることになったが、見たことのない料理と酒が多く用意されていた。
親父は懐かしそうに料理を堪能しているが、この料理がこの魔界で作られたものとは・・・。
ふっと、多種族との交流は魔界全体にとって日常の生活をさらに豊かにしてくれるものなのかもしれないと考えた。
料理に使われている材料や調味料が知らない物ばかりだが、驚くほど旨く食事はとても楽しいものだった。
酒も味わったことのある高級なワインだけでなく、大麦、ライ麦、トウモロコシなどの穀物から作られた酒。白ぶどうやリンゴなどの果実から作られた酒。酒の種類も非常に豊富である。この後、会談はまだ続くためにこれらの酒を自制するのは非常に厄介であった。
「アギエル。ユグドラシルの世界へ行けば、お前の知らない料理も酒も沢山ある。海に住む生き物を調理した料理は格別だ。透明に透き通った酒もうまかった記憶がある」
親父はニヤニヤしながら、料理や酒の自慢をしてきた。
「そうかよ。そのうち俺もその食事と酒を味わって来るよ」
「そうだな」
俺達は異世界人達が用意してくれた食事と酒を十分とは言えないが堪能させてもらった。
十分とは言えないのはこの後も会談がある為に色々な種類の酒を飲むことが出来なかったからである。
「しばらく休憩の後、会談を再開させましょう」
「分かった」
エルフの長ガンドアールの言葉に親父が返す。
休憩用に用意された部屋で暫しくつろぎながら会談で話す内容の確認を行った。
会談が再開され、今後の予定についての確認が最初に行われた。
転移の術式を施す場所の確認。次元の裂け目の監視と伝達方法の確認などを改めて行った。
今後の種族間の交流方法については、時間を掛けて徐々に行うことも決められた。
転移の術式を最初にアドラメルクの城に施し、異世界の長達を王城でもてなす事も決まった。
「さて、大まかな確認は出来ました。後は、アギエル殿下はこのまましばらくご滞在と言うことでよろしいですか?」
「もちろんだ。しばらくは世話になる。よろしく頼む」
「承知致しました。それでは最初の会談はここまでに致しましょう。皆様、お疲れ様でした」
「この後、歓迎の宴を準備しております。今夜の寝床の用意もしておりますのでゆっくり滞在なさって下さい」
「そうか。それは嬉しい申し出だ。是非、参加させてもらうとしよう」
「俺にも有難い話だ。酒が飲みたりなかったからな。嬉しいかぎりだ」
「私も折角の機会ですから参加させて頂きます」
宴には3人で参加することになった。
宴の料理は更に豪華なものが用意されていた。鬼人族が用意した生の食材を使った料理も新鮮で味も良かった。酒はドワーフ族が作ったものが用意されており非常に満足出来る旨さだった。
ドワーフ族は酒好きで有名らしい。ワインやエールといった酒は飲み慣れているが、先程も少し飲むことが出来たが、彼らが用意したウイスキーやブランデーは、今まで飲んでいた酒よりも遥かに強い酒でうまかった。使われている原材料にも違いがあるようで様々な味が楽しめたのは新たな発見であった。
ユグドラシルの世界には、俺の知らない料理や酒が多くあるらしい。
それについては非常に楽しみである。
「アドラメルク陛下。アギエル殿下。ヴァンス殿。紹介します。私の娘で名をフローラと申します」
「お初にお目にかかります。私はガンドアールの娘フローラと申します。以後、お見知りおき下さい」
「ああ、分かった。何か困った事があれば気軽に声を掛けてくれ。必ず力になろう」
「ありがとうございます。アドラメルク陛下」
「アギエル殿下には明日から娘と秘術の訓練に取り組んで頂きます。娘はすでに秘術を習得しておりますので役に立つことができるでしょう」
「へーそうなのか。明日からの訓練よろしく頼む」
「承知しました。お任せ下さい」
「ところで気になってはいたのだが、秘術とはどのような内容なのか聞いてもよいか?」
「構いません。但し、秘術が広まることはあまり好ましいとは思いませんのでご配慮頂きますようお願い申し上げます」
「ああ、分かった。一部の者達で厳守することを約束する」
「ありがとうございます。では秘術についてご説明致しましょう」
「我々の秘術とは、簡単に言えば融合魔法です」
「融合魔法だと・・・」
「はい。融合魔法です」
「それは他人または生物と同一化する術です。当然、力は合わさったものとなり意識もまた共有することになります。融合魔法によって融合する者とされる者が互いに意識がはっきりしている場合には力関係の割合によって体に変化が生じます。例えば、我々は空を飛ぶことが出来ません。ところが、融合魔法を使えるものが鳥類と融合した時、融合した者は羽を出現させることが出来ます。それにより空を飛ぶことが可能となります。但し、融合魔法を使える者はごくわずかです」
「魔力を持っている誰もが使えるというわけではありません。融合魔法を使う為の潜在能力が必要です。アギエル殿下にはその潜在能力があると判断しました。我々の中で融合魔法を使える者は私を含めても数名しかおりません。エルフ族の他には鬼人族の長であるガイ氏とその息子に限られます」
「この融合魔法は我々エルフ族の祖先からの長年の研究によって作られました。我々がユグドラシルの世界へ渡るためには膨大な魔力を必要とします。個々の魔力量ではとても実現できません。祖先は魔力の継承又は膨大な魔力を持つ者との融合により不足している魔力を補おうと考えたのです」
「私も娘も融合魔法を使い力を得ています。私は父から力を受け継ぎ、娘は母親から力を受け継いでおります。私の妻は病に侵され治す手立てが見つからず死を迎えるだけでした。妻と娘の意思で融合が行われましたが、妻は融合の際に自身の意思をほとんど消し去ってしまったようです。融合の際に妻の病が娘に引き継がれる恐れもありましたが、結果としては病について娘が引き継ぐことはなかったようです。理由はいまだ不明です。娘の中には妻の記憶と力だけが残っているようです。私も亡き父から融合魔法によって力を継承しておりますが、妻は融合魔法によって強力な力を得ていた者でしたので、現在のエルフ族の中で最高の魔力を持つ者は娘のフローラとなります。娘ならばアギエル殿下と共にユグドラシルへ渡ることが可能でしょう」
「それはすごいことだな」
「ワシも驚いた」
「だが、その力は冥界の王ルシファーと戦うには必ず役に立つだろう。お前が強くならなければ、ユグドラシルの世界へ行っても無意味とは言わないが非常に厳しい状況に陥るだろう」
「ああ」
「融合魔法は敵対する者達に知られることはとても厄介です。敵の力を増加させる恐れがありますので、細心の注意が必要と思っております」
「そうだな。ワシらもここで聞いた話は厳重に注意しなければならないな」
俺は秘術について聞かされた時には驚きが先であったが、ルシファーやその強力な配下達と対峙する為の力が鍛錬だけでなく、別の方法もあったことに多少救われたように感じた。俺にとっては本当にありがたい話である。多くの者達の期待に応えるためにもまずは融合魔法を覚えなければならない。のんびりだらだらとした生活と無縁な状態になっているが、いましばらくは我慢するしかないだろう。その代わりに旨い料理と酒がある事が救いだ。
明日の朝起きればまた最悪な状態であるだろうが、今だけは何も考えずに目の前の料理と酒を楽しむことにしようと、間違った方向性の気合を入れ直すのであった。




