13話 魔界の王 アドラメルク 後編
オリエンスが此処にいたなら、間違いなく殺気を盛大に周囲に撒き散らし本気でワシを殺すつもりで襲って来るだろう。
『わっはは・・・。悔しかったらワシを殴ってみろ! バカたれが・・・』
「親父は意外と泣き虫だな」
「うるせっい! 酒が顔に付いただけだ。バカにするな」
「ところでオリエンスの恥ずかしい話を聞かせろよ」
「ああ、そうだな」
あれはユグドラシルの世界を旅している時に、奴には恋人と呼べる存在の者がいた。奴はワシらには否定し続けたが、奴が彼女を想っていることは行動から察することが出来たし二人は一緒にいる事が多く、彼女もまた奴を慕っておった。ワシらが近くにいない時は、とても仲が良さそうに話をしておった。
彼女はハイエルフという種族で名はフリージア。
剣技や弓が得意で風属性や聖属性魔法の使い手であった。
そして、世界樹の管理をする者達の一人であった。
奴が持っていた魔剣レーヴァテインは、彼女から受け取った剣だ。
奴が魔剣レーヴァテインの持つ使命を負い、生きたのも彼女との約束だろう。
「そのような女性がいてオリエンスは何故、共に生きる事を選ばなかったんだ」
「彼女は最後の戦いで死んだからだ」
そう、ルシファーが憑依した勇者とその配下達との戦いで、奴とフリージアは息の合った連携攻撃で多くの敵を葬っていた。しかし、敵の数は数十万という大軍勢で強力な力を持つ敵も多くいた。
ワシらの軍勢は5万位だったと思うが、数の上で圧倒的に不利な状況で尚且つ強者と渡り合える仲間は限られていた。そのような状況で長い時間続く戦いは次第に劣勢の状況に陥り、窮地に追い込まれてしまった。
ワシらは多くの敵を葬っていたが、魔素が少ない世界で長い時間戦い続ける事は想像以上に困難であった。魔素による急速な回復が見込めない為に、疲労が蓄積され徐々に動きが鈍くなっていく。
オリエンスとフリージアもワシらと同様に目に見えて動きが悪くなっていった。
敵は追い打ちをかけるように、強力な力を持った敵がオリエンスとフリージアに集中し、2人は敵の攻撃を受け流すことが出来ずに受ける事が多くなっていた。そんな状況の時に、ルシファーからの攻撃をオリエンスが受けてしまった。
直後、オリエンスが動けなくなり、アスタロトと仲間達が彼らを守りながら戦っていた。フリージアが回復魔法を使ってオリエンスの治療を施したが、ルシファーからの攻撃は予想以上にオリエンスの肉体に深刻なダメージを与えていた。
オリエンスの治療に時間が掛かってしまった為に、彼らを守っていた仲間達が次々と倒れていった。
そして、彼らを守るものがアスタロトだけになってしまった。
ワシは、ルシファーやその幹部達に対応することで必死の状態であった。
非常に厳しい状況だった。
あの時、ワシだけでは状況を打開する事が出来なかった。だからとにかく目の前の敵を葬る事に全力を注いでいた。
フリージアの回復魔法のおかげでオリエンスが何とか動くことが出来るようになっても、敵の猛攻が激しく防戦一方であった。
フリージアもオリエンスの回復にかなりの魔力を使ってしまい魔法の行使がほとんど出来ない状況だっただろう。それでも彼女は戦い続けていた。
仲間が次々と倒され、怪我を負ったオリエンスの動きも非常に悪くなっていた。アスタロトもワシも力の大半を失いつつあった。まさに崖っぷちに追いやられた気分だったのを覚えている。
その時、フリージアから発せられた強烈な光が周囲を包み込んだ。その瞬間、体中に力がみなぎり、魔力全開とはいかなかったが半分ほどには回復していた。オリエンスやアスタロトも動きが良くなり、再び多くの敵を葬り始めていた。
しかし、突然オリエンスが叫び始めた。オリエンスがフリージアに何を言っているのかはっきりとは聞こえなかったが、最後に言ったであろう言葉は覚えている。
『 フリージア! お前を愛している。 未来永劫・・お前の魂と共に俺は生きよう・・・ 』
オリエンスがフリージアに伝えると彼女は最後に微笑んでいたように見えた。
そして、彼女は光が徐々に細かい塵となるのと同じくその存在が失われていった。
何故、ワシらの体力などが回復し、彼女が消えてしまったのか。それは、彼女が己の生命力を使って世界樹の力の一部を一時的にその身に宿し行使したことが原因であったようだ。これはオリエンスが戦いの後に教えてくれたことだ。
フリージアが消えた直後のオリエンスは、まさに鬼神のごとく剛毅果断の行動でルシファーの配下達を次々に葬っていった。
あの時の奴は、本当に別格の存在だった。
ワシらが窮地の状況からルシファー達を押し返せたのは、フリージアの力によるところが非常に大きい。
彼女の貢献なしでは、勝利はあり得なかった。
ルシファーが憑依した勇者を葬り、その配下達を一掃した後であっても皆が喜ぶことはなかった。
あの時のワシは、ルシファーを退けた安堵感はあったが、オリエンスの痛ましい姿を見たら自責の念に駆られるばかりだった。
ワシは、ユグドラシルの世界を旅して、多くの事を知り様々な体験をした。
だからこそ、この魔界の世界を良くするためにワシは王となり、魔界の在り方について考えて行動してきたつもりだ。多分、アスタロトもワシと同様の考えを持っているだろう。
オリエンスは、彼女との約束を守ることに固執していた。だから東の辺境となる場所でひっそりと暮らしていたのだろう。
オリエンスを弔うためにも、お前が責任をもって奴の使命を引き継いでやれ。
必要な事があれば、ワシも協力は惜しまない。
「頼んだぞ」
「ああ。わかった。俺がオリエンスの意思をしっかり受け継ぎ、使命を果たそう」
アドラメルクの昔話によって、いつしか二人の周りには大量の空になった酒瓶や酒樽が散乱していたのであった。




