女児の定番科白
「まあ、どっちかのお家で遊んでるって設定でまずはやってみよう」
「オッケー」
今家だし、ちょうどいい。雑な設定だが(そもそも遊ぶって女児時代、我々は何をして遊んでいただろうか。世の皆々様方は覚えていらっしゃるのだろうか)それはプレイしていくうちにどうにかなるだろう。
「となったら、ちょっと待ってね」
琴子はそう言うと、おもむろにヘアゴムを取り出し、その長い黒髪を頭の高い位置で結わえ始めた。……女児ヘアスタイルの定番、ツインテールである。
「やるやん……」
「やっぱり格好から入るのが一番だからね」
確かに真理だ。私も、ヘアゴムを借りて前髪を結う。俗に言うこのちょんまげスタイルは、私の女児時代の定番だった。
準備は出来た。二人で頷き合う。
「よ~い、スタート!」
琴子が、パンッと手を叩いたかと思えば。
「ねえ、みことちゃん」
きょるんとした瞳で、私を見つめ出す。
出した声は甘く、口調は舌っ足らず。
「なぁに、ことこちゃん」
私も負けじと、いつもより高めの声で答えた。気持ち、舌足らずに。
がんばって女児時代を思い出そうとする私の努力に、琴子がにっこり笑う。
いつもよりも、もっと顔全体で笑う感じ。
……いや、なりきるの上手いなあ。表情がまんま幼女だわ。
女児時代が垣間見えた気がして、少し心がほわりと和んだ。その瞬間、
「わたしを、みことちゃんのおよめさんにしてくれる?」
この一撃。
「ヴっ!」
あまりの攻撃力に、女児にあるまじき声が漏れた。だって、手までしっかり握られているのだ(しかも両手で)。破壊力が凄い。
「た、タンマ。な、なにそれ……」
「え? 女児の定番。『お嫁さんにして』。漫画とかでもよく見るでしょ」
「見る気はするけど!」
か、可愛すぎ……っ!
お蔭様で変な扉が開きかけ、慌てて全力で閉じた。鍵もしっかりかけた。がちゃん。




