7話
教室に入ると、鋭い視線が突き刺さってきました。
全く….…この方たちは睨むしか能がないのでしょうか?
…….まぁ、恵里香さんは行動をするタイプのようですけれど。
いつもだったら、落書きをされている机ですが、今日はそれがありません。
落書きをされてないのではなく、机自体がないのです。椅子も見当たりません。
教室を見回しますが、視界に入るのはにやにやと笑っている方達で、私の机は見当たりません。
「すみません、私の机はどこですか?」
近くにいた方に声をかけてみますが、
「.….…」
無視、ですか。面倒くさいですね….…。
「あの、私の机は......」
違う人に話しかけてみても、私が言い終わる前に顔を背け、教室の外に行ってしまいました。
大きなため息をつき、私は教室を出ました。
近いところにあるといいんですが。
そんな思いは裏切られ、教室が三階にあるのに反し、机と椅子は一階の隅で見つかりました。
しかも、何かの液体やら死ねなどの暴言やらが机に散乱しており、椅子にも同様のことがされています。
これを3階まで持っていくのですか.......。
さすがに魔法を使って、机を堂々と浮かすわけにはいきません。
一旦、机の汚れを落とそうと、体の位置を移動し机が完全に見えないようにします。
周りを見渡し、人がいないことを確認して魔法を使います。
指先に魔力を集めて.......。
一瞬机周りの空気が揺れると、液体や文字は綺麗さっぱりなくなりました。
あとは、3階まで運ぶだけですね。
椅子を机の上に置こうと手を伸ばすと、後ろに人の気配を感じました。
振り返ると、そこには不思議そうな顔をした奏斗さんが立っていました。
「あら、奏斗さん。おはようございます」
キチンとお辞儀をして挨拶をします。
「おはよ、鈴華。そんなところで何やってるんだ?」
今は私以外に人がいないからか、奏斗さんは”素„で話しました。
私は、机がクラスメイトによって移動されたことを話そうとしましたが、すぐにやめました。
理由は単純です。もし、私が奏斗さんいじめのことを話したと、恵里香さんに伝わったら、さらにいじめがひどくなりそうだからです。
「…間違えて、椅子と机に汚れをつけてしまって。雑巾を持っていなかったので、この部屋まで取りにきたんです」
いじめのことを伏せ、違和感がないように話します。
近くが備品室でよかったです。ここには、色々な物が置いてありますから。もちろん、私が言った雑巾もあります。
それでも、奏斗さんは不思議そうな表情をしたままです。
「なんで机持ってきたんだ?雑巾持ってった方がよかっただろ?」
「使った後の、濡らした雑巾をここまで返しに行くときに、水が垂れるので。後でその水を拭くのが面倒くさいからです」
私の言葉に、奏斗さんは、ふーん?と、少しいぶかしんでいる声を出しました。
ですがこれ以上は何も聞かないようで、私は胸をなでおろします。
そのまま教室まで向かうと思いましたが、奏斗さんはこちらまで歩み寄り、机と椅子を持ち上げました。
「さっさと教室まで行くぞ~」
そのまますたすたと階段の方へ向かって行きました。私は慌てて奏斗さんを追いかけます。
「自分で運びますよ?」
「俺に運んでもらえるだから、黙って感謝しとけばいいんだよ」
そう、偉そうに言いました。
上から目線なセリフに交じっている優しさに、少し笑みを漏らしながらお礼を言います。
「ふふっ、ありがとうございます」
奏斗さんは満足げに笑みを浮かべました。
そこでふと、奏斗さんは私の顔をまじまじと見つめ、ぽつりと言いました。
「......鈴華の顔どっかで見たこと気がするんだよな......」
「この学校に来る前、ですか?」
奏斗さんは頷きながら言葉を続けます。
「どこでだろ......鈴華は俺に会った記憶ないのか?」
「…特にはないですね」
”わたし„の記憶は曖昧なところがあるので、会った可能性は0ではないですが.…。
「ま、いっか」
自分から出した話であるのに、奏斗さんはもう興味を失ったらしくまた階段を上り始めます。
私も、あまり興味のない話題だったので、特に追及せず奏斗さんの後ろを追いました。