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6話

「はぁ、いきなり名前を呼ぶのは失礼ではなくて?」

「そんなことはどうでもいいだろ」

教室で見た姿とは180度違う奏斗さんの発言。教室ではおしとやかな王子様と言う感じでしたが、今は権力を振りかざす王子様みたいな感じになっています。

私を見る視線はなんだか私を探っているようで、前世での貴族とのやりとりを思い出し、自然と背筋が伸びます。

「意外だな」

奏斗さんがぽつりとこぼしました。

「なにがですか?」

「いや、もうちょっと驚くかと思ってな」

驚くって….…今の奏斗さんの雰囲気などでしょうか?

「最初見た時から、奏斗さんには裏がありそうだなって思ってたので」

奏斗さんが浮かべていた笑みは、前世でよく見ていた作り笑いでしたから。

「それにしてもよくわかったな。結構上手に笑えてたと思ったんだけどな」

….…わかったのは”私„の記憶があるからでしょうね。

「他人の嘘には敏感なので」

曖昧に言いながら作り笑いを浮かべる。

普通の方だったら気づけなかったでしょう。それほど奏斗さんの作り笑いは上手でした。

ですが、”私„は前世でたくさんの貴族(嘘つき)たちを相手してきたので、他人の噓には敏感になってるのでしょう。

ふいに、奏斗さんが言いました。

「.…鈴華ってどっかのお嬢様なのか?」

その質問に、私は笑みを深めました。

「….…どうしてそう思ったんですか?」

奏斗さんは、んー、と少し悩むように顎に手を当てました。

「口調とか。あと、仕草が普通の奴とは違って、一つ一つ洗練されたやつだった」

奏斗さんの答えに、私は少し目を見張りました。

私の口調は、考えなくとも普通の方とは少し違うとわかるでしょう。そこは間違いなく言われると思っていましたが、仕草も言われるとは….。

少々驚きました。

….….奏斗さんは有名な財閥の息子さんらしいですから、私と同じような教育を受けるのかしら?

それだったらわかるのも納得です。

「私はお嬢様じゃないですよ」

”今は„ですけどね。

心の中で付け足します。

奏斗さんは、私の答えに怪しむような視線を向けてきます。

「ふぅん?….….まぁ、いいか」

納得できていないようでしたが、深く追及することはなさそうで、胸をなでおろします。

「質問は以上ですか?」

「あぁ、次は鈴華が聞いていいぞ」

聞いていいぞって.…。

偉そうな言葉に呆れつつ、私は質問をします。

「では、なぜ私をここに連れてきたのです?なぜ私に”素„を出そうと思ったのです?」

矢継ぎ早に質問をしていきます。

奏斗さんは、一気に質問するなよ…、と言いながら片方の耳を塞ぎました。

失礼ですね….…。

「なんで”素„を隠してるんだって聞かないんだな」

質問の答えを言うかと思いきや、予想もしないことを言われました。

「その理由は明白ですから、聞く必要はありません。先程の質問に答えてください」

「鈴華の思う、俺が”素„を隠す理由ってなんだ?」

逆に質問をし返されました。私が答えるまで、質問には答えてくれなさそうです。

….…はぁぁぁ、面倒くさい。

大きなため息をついてから口を開きます。

「家の事情でしょう?奏斗さんは有名な財閥の息子さんらしいですし、性格が悪いなんて噂が立ったら体面が悪いから隠せ、と言うようなことを言われたのでは?」

奏斗さんが大きく目を見開いたのを見て、私の考えが当たったということがわかります。

私も、前世でクランレスの名に恥じぬような行いをせよ、と何度も言われましたから自分の”素„を出したことは本当に少ないです。

家のせいで自分の本当を出せないのはこの世界でも変わらないんですかね….…。

「これで満足ですか?」

今度こそ質問に答えてください、と言う視線を送ろうとする前に、奏斗さんが笑い出しました。

「っくく、ははっははは!」

急に笑い出した奏斗さんにギョッと目を見開きました。

な、なんなんですか?

何かおかしなことを言ったかしら?と疑問に思っていると、奏斗さんがこちらに歩み寄ってきました。

「鈴華!お前すごいな!」

そして、私の手をガシっとつかみました。

放してください、と言おうとしましたが奏斗さんのキラキラした目に驚いてその言葉を飲み込んでしまいした。

「俺のことをこんなに暴いたのは鈴華が初めてだ!」

「あ、暴いた….…?」

困惑する私をよそに、奏斗さんは続けます。

「あぁ!女どもは俺の顔に群がってくるやつばっかだったけど、鈴華は違う。本当の俺を見てくれる!」

その表情は、教室で見たような作り笑いでも、黒い笑みでもありません。

それは――毒気のないキラキラとした満面の笑みでした。

奏斗さんも、こんな笑顔できるんですね….…。

先程までの印象は、王子様の皮を被った俺様でしたので、毒気のない笑みに少々驚きました。

キーンコーンカーンコーン

「あ、やべ。もうこんな時間か」

奏斗さんは私から手を放し、窓の外を見ました。いつのまにか空は茜色に染まっていました。

「俺、そろそろ行かなきゃ怒られるから!じゃあな!」

「さようなら….…」

奏斗さんの大きく手を振りながら教室から出ていく姿に、私も小さく手を振り返しました。

「結局質問に答えてくれませんでしたね….…」

まぁ、明日聞けばいいことでしょう。

そう思いながら私も教室を後にしました。

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