2話
記憶が戻った次の日、私は朝早くに家を出て学校にいました。
人目のつかない空き教室に入り、扉を閉めます。
なぜこんなことをしているかと言うと、この世界でも魔法が使えるか試したかったからです。
「まずは、簡単なものからやりましょう」
集中して、自身の魔力を探ります。…...よかった。魔力は今までと同じくらいあります。
ですが、魔力があっても魔法が使えなければ意味がありません。
これを、指先に集めて...…。
近くにあった椅子に人差し指を向け、シュッと指先を上げるしぐさをするとフワンと椅子が浮かび上がりました。
...…どうやら、魔法は使えるみたいね。
物を浮かせる魔法は成功しました。
魔法を使えば、恵里香さん達に植え付けられるトラウマの種類もぐんと増えますわね。
考えていると、耳にかけていた髪がパラリと落ちてきました。
それをみて、見た目は前世と変わってないのね、と思いました。
肩よりほんの少し長い茶色の髪を見ます。目の色も、少し緑がかっていて、前世の見た目そのままです。
...…髪、結構ぼさぼさね。魔法で整えましょう。
指先で髪を指し、魔法を使い髪を整えます。
「恵里香さん達にやられた持ち物も直しちゃいましょう」
教室に向かいボロボロになったジャージを手に取り、また空き教室に戻ります。
ジャージはハサミで切られていたり、マーカーで落書きされていたりとひどい有様です。
魔法を使うと、切られていた箇所は修復され、落書きはきれいに消えました。
「はぁ…。こんな便利な魔法がないだなんて、この世界は不便ですね」
その代わりに前世になかった電気を使ったものがありますが、魔法を使えば携帯などいりません。
昔の歴史に魔法なんてものはなかったみたいですから、やはり私は違う世界から来たのでしょうね。
この世界は、前世とはいろいろなところが違います。
校門からちらほらやってくる生徒を横目で見ながら考えます。
まず、身分制度というものが薄れています。前世では王族、貴族、平民、奴隷の順番で偉かったです。
それに、乗り物も発達しています。車やバスだなんて、前世にはありませんでした。
ですが、一番の違いは魔法の有無でしょう。この世界には様々な便利なものがありますが、やはり魔法には劣ります。
先ほど直したジャージでいうと、マーカーなら洗えば落ちるかもしれませんが、敗れている個所を縫い目もなく直すのは魔法でなくちゃできないでしょう。
物を浮かすことなんて前世ではできて当然と言う感じでしたが、この世界では夢物語になっています。
窓から校門を眺めていると、恵里香さん達が視界に入りました。
昨日の事なんて忘れたようにけらけらと笑っていました。
「全く...…。今からどんなことが始まるかも知らないで、呑気なものですね」
あの方たちは全く考えていないのでしょうね。これから、どんな地獄が始まるのか。
昨日、頭の中を整理して恵里香さんがどのような方か考えてみました。
男の子に媚をうって、女の子にはきつい態度をとる。まぁ、この世界の典型的いじめっ子って感じでした。結構男の子にモテているみたいで、男の子を選ぶ余裕もあったみたいです。ほかの女の子を利用して自分の株を上げるだなんてこともしばしばありました。それが、男の子たちにばれる様子はありませんでした。
恵里香さんの取り巻きの方達は、クラスのカースト上位にいました。男の子たちに媚をうったりはしていませんでしたが、ほかの女の子にきつい態度をとる様子はありました。恵里香さんのそばにいる理由は、いじめられたくないからだけではないようで、少なからず誰かをいじめることに快感を覚えているようでした。
”わたし„はいじめられていたのに、あんないじめっ子が幸せに過ごしているだなんて、不公平ですね。
……いえ、わかっていたことじゃありませんか。この世が不公平だなんて。
前世もそうでした。アメリアは平民なのに貴族学院には入れて、貴族と友達になれて、神様に寵愛されているようで。それに比べて私は、あらぬ疑いを着せられ、数少ない友人から離れられ、随分と神様に嫌われていたようです。
この世界では、神様に嫌われていても自分の力で、幸せになってみせますわ。
そう決意しながら、私は空き教室を後にしました。
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