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1話 

「ただいま戻りました」

服が濡れたまま家のドアを開けましたが、私の声に反応する声はありませんでした。

今日は二人とも遅くまで仕事だったかしら...…。

とりあえず濡れた服をハンガーにかけ、体をふきます。そして、服を着て自室に行きます。

ドアを開けて、自室を見ると今まで使っていた部屋でしたが前世の記憶が戻ったからか、部屋の中は新鮮に感じました。

「はぁ、記憶が戻ってない頃の″わたし„はひどいですね」

散らかっている部屋を見て溜息を吐きました。

このままなのも落ち着かないので、床に散乱している服や物を手に取り、元あった場所へと戻します。

前世の部屋は余分なものは一つもなく、綺麗な部屋だったというのに…この部屋にはいらないものばかり、散らかっているのね。

変なキャラクターのキーホルダーを見てそう思いました。

床に散らかっているものを片し終わり、椅子に座ります。

「...…これは、転生と言うものなのかしら...…」

今の現状を改めて実感します。

スマホやバック、キーホルダー。いずれにせよ前世では見たことないものです。

幸い、この世界で生きてきた記憶があるのでどのようなものか混乱することはありませんが...…。

「それにしても、別世界からこの世界に転生とは...…。本でよく見る展開と違うではありませんか!」

この世界で呼んできた本では、転生というのは、この世界から別世界へ転生、と言うものが多く見られました。他にも死に戻りや、召喚...…。様々なものを読んでいましたが、このような展開は、少なくとも”わたし„は見たことがありません。おそらく、それほど珍しいのでしょう。

「せっかくだったら死に戻りがしたかったわ...…」

なぜそう思うかは当然、前世に未練があるからです。

未練と言うのは、アメリアのことです。アメリアを心配しているわけではありません。むしろその逆なのです。

「あの憎きアメリア...…。アメリアのせいで私は...…」

思い出すと、手を握る力が強くなります。

アメリア・ルニデについて簡単に説明しましょう。

私の元居た世界では魔法があり、貴族しか魔法を扱うために必要な魔力はないはずでした。ですが、アメリアは平民ながら多大な魔力を持っており、貴族魔法学園に入学しました。貴族達、特にアメリアよりも魔力の低い方はアメリアを妬み、いじめました。そんな状況でもアメリアは決してやり返すことなく、いじめに耐えていたそうです。それが王子の目に留まり、お互いに恋に落ちたとか...…。王子、単純すぎますね。貴族から妬まれ、最初よりもひどいいじめを受けていたようですが、なにやらアメリアの素敵な心に気づいたとか何とかでいじめはなくなったそうです。そして、その後王子とアメリアは婚約……。

改めて思い返してみると、この世界でありがちな物語ですね。平民が王子の公約者になるだなんて……。

ちなみに、私はいじめに気づきませんでした。このことを知ったのはいじめが終わった後の事です。

このことに対してだけは、アメリアに謝りたいですね。

次は私が悪役令嬢、と言うことを説明しましょう。

前世を物語風に表すのなら、アメリアがヒロインで、王子がヒーロー、そして私が悪役令嬢、という感じになります。それが、私が自分のことを悪役令嬢と言っている理由です。

なぜか、前世の私を思い浮かべた時に、悪役令嬢という言葉が真っ先に思い浮かんだんですよね。不思議です。

それはともかく、誤解していただきたくないのは、私はアメリアに理不尽なことをしたりしたわけではありません。私はただアメリアに、平民が王子と婚約するなんてたくさんの貴族の方から恨みを買うと思いますが、大丈夫ですか?、と心配の言葉をかけただけなのです!そのことが広まって……なぜかすごい噂ができたのです。その噂とは、私がアメリアに嫉妬して遠回しな言い方で二人を引き離そうとしている、という内容です!

まぁ、学園内には私を嫌っている方も多数いらっしゃったのでその方達がやったのでしょうね...…。

噂が原因で私はアメリアをいじめる人だと思われ、仲の良かった方も離れていく始末です。

そしてある時、学校での授業中たくさんの怪しい男たちが乗り込んできて、生徒を襲い始めました。

もちろん、魔法で皆さん対抗しました。ですが、敵はなかなか強く皆さんは苦戦しているようでした。運の悪いことに教員は体調の悪くなった生徒を保健室に連れて行っていてその場に入ませんでした。私は結構強かったので全く苦戦することなく黙々と倒していました。ですが、アメリアは強いというのに人を倒すのが怖い、と言ってその場でしゃがみこんでいて、そんなアメリアを王子が守っていました。

その間、私は倒していくだけじゃ数が減らないと思い敵を殺すことにしました。人が死ぬのを見せないよう、生徒に配慮してわざわざ人目のつかないところに敵をおびき寄せたのです。そして、いざ魔法を放とうとしたとき、なんとアメリアが魔法で私の体を動けなくしたのです。人を殺しちゃダメ!と叫んでいました。そして、その隙に敵が私に魔法を放ち、私は死にました。

最後に見たのは赤く染まった地面と、アメリアの青く染まった表情です。

自分の死んだシーンを思い出し鳥肌が立ちました。自身の体を抱きしめて震えを止めます。

...…やめましょう。こんなこと考えても嫌な気分になるだけだわ。

首を横に振り、思考を切り替えます。

アメリアは素敵な心を持っているらしかったですけど、私の事は全く気にせず笑顔で歩いているのを何度も見かけました。たまにちらりとこちらを見ては、気まずそうに眼をそらしていました。

結局、自分がよければ他人のことなどどうでもいいのですね……。

この世界でもそれは変わっていないことに、呆れて声も出ません。

”わたし„をいじめる人。”わたし„がいじめられているのをただ眺めている人。どちらも最低なことには変わりありません。

...…私が殺された後、アメリアはどうしたのかしら。

自分のせいで私が死んだといったのかしら。

それとも私は敵に、運悪く殺されたと言い、事実を隠蔽したのかしら。

どんなことを考えても私は前世に干渉できないし、私の死後のことを知ることもできない。

もう前世のことを考えるのはやめましょう。気分が沈むだけだわ。

「さて、恵里香さん達はどうしましょうか...…」

このエレナ・クランレスに手を出したのよ?ただじゃおかないわ……。

私の受けた何十倍の苦しみを生涯にわたって受けてもらうには、じわじわと攻めていった方がいいかしら?それとも一気に攻めた方がいいかしら?

頬に手を当てて黙々と考えます。次々とアイディアが出てくるがどれもピンときません。

失敗したら元も子もありません。慎重に考えなければ...…。

生涯にわたって残ると言えば...…トラウマを植え付けるのが手っ取り早いかしら。トラウマを心の奥深くに植え付けておけば、それを忘れられなくなるはずよ。

よし、そうしましょう。

椅子から立ち上がり、本棚へ向かいます。そこから、怖い話が載っているものやトラウマ関連のものを抜き取り、もう一度椅子に座ります。

絶対に恵里香さん達に、”わたし„を虐めたことを後悔させてやりますわ。

もちろん、それをただ見ていた方達にもです。

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