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第9話 テディベア、火事場でベアハッグ

 燃えるおやしきにむかってクリスティーナたんが走りだした。

 おやしきの入り口からは炎と煙がふきだしていて、中もよく見えないほどだ。


「イミロズハヨニマホモヘレト、ウォーターベール!」


 クリスティーナたんとおれの周囲にうすい水のまくが出現した。

 クリスティーナたんはお家の中に入るつもりみたいだ。

 ロビンをたすけたいのはわかるけど、これはさすがにむぼうだよ! 


「イミロズハタニマホ、ウォーターボール!」


 クリスティーナたんが呪文をとなえると、大きな水のかたまりがあらわれ、入り口の炎をいっしゅんだけ消した。

 そのいっしゅんでクリスティーナたんはおれをかかえたまま、おやしきの中にとびこんでいった。


「ロビン!」 


 クリスティーナたんは二階の子ども部屋にむかって、階段をかけあがっていった。

 子ども部屋の入り口近くにロビンのすがたが見えた。

 ロビンは床にたおれたまま動かない。

 クリスティーナたんは水魔法で周囲の炎をけしながら、ロビンにかけよった。


「ロビン! ロビン!」


 ロビンは目をつぶったまま。気絶しているみたいだ。


「テディ、どうしよう。かいふくまほーはできないの」


 回復? どうやらおれの出番のようだ。まかせろ! テディパーンチ! ……ぽふっ


 おれは、ぽふっぽふっぽふぽふ、ロビンを両手でたたきまくった。

 やけどで赤くなっていたロビンの顔のほっぺやおでこが元に戻っていき、ロビンが目をさました。


「んん?」


「ロビン! はやくにげよう!」


 クリスティーナたんがロビンを助け起こし、いっしょに歩き出そうとした、その時、おれはろうかの先の炎の向こうに黒い人影を見た。

 ぜんしんの毛がさかだつかとおもった。

 よく見えなかったけど、ぶきみで、とにかく、とても恐ろしかった。


 でも、おれがもう一度よく見ようとした時には、その人影は消えていた。

 代わりにその場所に大きなかいぶつがあらわれていた。


 火の中を、ドシンドシンと床をゆらしながら大きな石がいくつもつながったみたいな人の形のかいぶつがあるいてくる。天井に頭がぶつかりそうだから、ねこぜになりながら、歩いてくるあれは……


「あれは、ゴーレム?」


 ゴーレムっていう強いモンスターだ。

 クリスティーナたんは魔法をとなえようとしたけど、その時、ゴーレムの向こうから、メアリの叫び声が聞こえた。


「お嬢様! お逃げください! ゴーレムに魔法はききません」


 そうなのだ。この世界のゴーレムは魔法がききづらくて、物理攻撃じゃないとたおせない。

 メアリとジャックがゴーレムに、後ろからおそいかかった。

 だけど、ゴーレムが振り回す腕で、ジャックは階下までふきとばされ、メアリもダメージを受けてひざをついた。

 ゴーレムがさらにメアリになぐりかかり、メアリが床にたおれた。

 ゴーレムはこんどは、こっちのほうに向きなおった。


 クリスティーナたんはおれが守る!


 おれはゴーレムにむかって走りながら、さっきおぼえたスキルの中でただひとつ、攻撃スキルっぽい名前のスキルを選んだ。おれの新スキル……


 ベアハッグ!


 おれは大きくジャンプして、ゴーレムの胴体にだきついた。


 ゴーレムは動きをとめた。

 おれの攻撃でダメージを受けているようすはないけど、ゴーレムは動かない。


 何秒かそのまま、何も起こらず、ゴーレムもびどうだにしない状態で時間がたったあと、おれは理解した。


 あ、これ、動きをとめる系の技なんだね。


 ベアハッグって、おれはプロレス技みたいな攻撃をきたいしていたんだけど。

 攻撃じゃないんだ。ただひたすら動きをとめるんだね……。


 まぁ、いいや。今のうちに逃げるんだ! クリスティーナたん!


「お嬢様!」


 おれがゴーレムの動きをとめている間に、メアリがゴーレムの横をすりぬけクリスティーナたんのところにかけより、ロビンをだきあげた。


「お嬢様、早く逃げましょう!」


 メアリはロビンをだっこして走りだそうとしたけど、クリスティーナたんはそこから動こうとしなかった。


「ダメ! テディをおいていけない!」


 え? おれ? 

 おれがスキルを解除したらゴーレムが動き出すから、おれは動けないよ?


「テディはただのぬいぐるみです。さぁ、ゴーレムが動きをとめている、いまのうちに早く!」


「ちがうもん! テディはだいじなかぞくなの! いっしょじゃなきゃだめなの!」


 クリスティーナたん……。おれのことを、家族って……。


 思えば、おれにはいままで家族がいたことがなかった。

 きおくがないほど小さい頃には家族がいたのかもしれないけど、おれがおぼえているのは、おれが育てられたしせつだけで、そこでは必要な衣食住は与えられたけど、家族の愛情みたいなものはもらえなかった。

 はたらきだしてからも、恋人はできなかったし、おれはいつもひとりだった。

 だけど、この世界で、おれに、はじめて家族ができたんだ。


 おれはそこで、周囲の炎の熱を感じて、気がついた。

 そっか。このままの状態が続けば、おれは炎でもえちゃう。

 いくらテディベアがダメージというがいねんが存在しない物体でも、燃えてなくなったら、終わりだ。


 おれはここで死ぬのか。

 でも、クリスティーナたんを守って死ぬなら、家族を守って死ぬなら、おれはそれでいい……


「うぉーーー! テディは渡さないぞぉーーー!」


 野太い声が聞こえて、おれはぎょっとした。

 まさか、クリスティーナたん!?

 と思ったけど、それは、階下からはいあがってきたジャックだった。


「ジャック、コアをねらえ!」


 メアリが叫び、ジャックの短剣の一撃が、動かないゴーレムのコアをくだいた。

 ゴーレムの体がくずれおちていき、いっしょに地面に落ちていったおれをジャックの手がつかんだ。




 ふぁーあ。つかれた、つかれた。

 おれは、いま、クリスティーナたんのひざの上で、炎の中にくずれ落ちていく大きなおやしきをお庭から見ている。

 水魔法を使う消防隊がやってきて、しきりに水をかけているけど、燃えさかる炎が強すぎて火をとめられないらしい。

 でも、もうみんなひなんしたから、ぜんぶ燃えちゃっても死ぬ人はいない。


 ロビンやクリスティーナたんのやけどは、おれがポフポフたたきまくってなおしておいたから、みんな元気だ。

 よかった、よかった。一人もぎせい者をださずにすんで。

 おれはとっても、つかれたけど。


 はぁ、つかれた。

 おれはクリスティーナたんのひざの上でねっころがった。


「テディ、おねむなの?」


 クリスティーナたんが、おふとんみたいにハンカチをおれのおなかにかけてくれた。

 しあわせー。さぁ、もうねよう。

 おやすみー。


「申し訳ありません。クリスティーナ様。ロビン様。こんな危険な目にあわせてしまって」


 もう。ねようと思ったのに、メアリがあやまる声がうるさくて、ねれないな。

 おれはそこで、ふと気になっていたことを思い出して、ねっころがったまま頭に両手をつけてステータスを開いた。

 スキルのリストの、ベアハッグのところについていた「?」マークを押してみた。


「だきつかれたものは、あまりのきもちよさにうごけなくなる」って説明があった。


 どんだけ気持ちいいの? ベアハッグ。






あけましておめでとう ʕ•ᴥ•ʔノ

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