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第4話 テディベア、くさくなる

 あぁ、今日もかわいいなぁ。クリスティーナたん。

 朝、早起きしたおれはすやすやと、しあわせそうに眠るクリスティーナたんのねがおをながめていた。

 いつまで見ていても見あきないけど、あ、そういえば、今のうちにかくにんしておこう。

 両うでを頭のところにあげて、三角形みたいな形にする。

 ステータスパネルが視界の中に出現した。


 スキルポイント 1


 スキルポイントがふえた!

 昨日は0だったのに。

 でも、ふえるタイミングわからない。急にふえたと思ったら、数日たってやっと1ポイントだけだし……

 あれ? なんかよく見るとスキルポイントの上のところに半とうめいの小さい「?」マークがあるぞ。


 おれが丸っこいテディベアの手で「?」を押してみると。


「テディベアのスキルポイントはハグ経験値でふえるよ」


 かわいい丸文字の説明がでてきた!

 ハグ経験値! ......ハグ経験値ってなに? 聞いたことないよ?


 ってか、RPG世界なのに、モンスターたおしたりしないの?

 おれが知っているこのゲームは、モンスターをたおして経験値をためてレベルアップするオーソドックスなシステムのRPGゲームだったんだけど。


 まぁ、おれ、テディベア、ステータスもないもんなぁ。

 人でもモンスターでもない、ただの物体(オブジェクト)だもんなぁ。


 で、ハグ経験値ってことは、ハグすればいいの……?

 でも、クリスティーナたんはいつもおれをだっこしているけど、スキルポイントはそんなにふえない。 

 前にふえたときは……。あ! あのジャックとかいうかくれマッチョにしめ上げられた時だ。あれもハグ?

 ひょっとして、初めてハグを交わした時はハグ経験値が多めにもらえるの?



「お嬢様! 朝ですよ!」


 あ、今日もまた乳母のメアリがクリスティーナたんを起こしに来た。

 ねぼけながら、クリスティーナたんが起き上がって両手をあげてのびをする。

 うーん。その姿もかわいい。

 メアリがくんくんと鼻を動かした。


「お嬢様……なにか、くさい……」


 メアリがおれに鼻を近づけた。


「くさっ!」


 ぐさっ。いきなりくさいといわれるなんて。


「お嬢様、テディが、くさっ……ぞうきんのような臭いになっています」


「テディはぞうきんじゃないよ……くさっ!」


 ぐさっ。クリスティーナたんにまで臭いと言われた。


「どうやら、テディはお風呂に入らないといけないようですね」


 メアリはおれの足をにぎって持ち上げた。

 いやだぁー! もう洗われて干されるのはいやだぁー!

 あばれたいけど、ぬいぐるみのふりをしないといけないから動けなーい。


「またね、テディ」


 クリスティーナたんがかわいく言って、小走りに去って行く。

 ああ、クリスティーナたん! おれを置いていかないで。

 おれはさかさまにされたままメアリに持ち歩かれた。ろうかとか天井とかがぐらんぐらんゆれる。

 メアリはおれを、ごみをすてるみたいに、洗い物のカゴのなかにほうりなげた。


「エリー、クリスティーナ様のテディベアを洗っておいてちょうだい。洗い物置き場に置いておきますから」


「はーい」


 洗われてたまるか! 

 エリーの洗われるのって、むっちゃ苦しいんだぞ。


 おれはメアリがいなくなると、こっそりとかごをでて、洗い物置き場を抜け出し、ろうかにでた。

 ここは、使用人フロアだな。

 どこかにかくれなければ。

 おれがろうかでかくれ場所を探しながらきょろきょろしていると、人の気配がした。


「あ! テディだ!」


 この声は、マッチョ少年ジャーック!

 と思ったしゅんかんには、おれはもちあげられ、マッチョハグでしめ上げられていた。


「かわいい……くさっ。なんかくさいけど、やっぱり、ふわふわもこもこ、かわいいなぁ」


 おれがジャックにすりすりされていると、メイドのエリーの声が聞こえた。


「もう。メアリったら。洗い物置き場に置いておくっていってたのに。テディをろうかに落としちゃうなんて」


「エリーもだっこしてみろよ。テディをだっこすると、なんかポワンとして幸せな気分になれるぜ」


「えー? 本当?」


 ジャックはおれをメイドのエリーにわたし、エリーがおれをだきしめ……

 え? ちょっ、おじょうさん、むねが当たって……ま……ふ……


「本当だ。なんか、ポワンと温かい感じがする。でも、くさっ! 早く洗わないと。クリームまみれになって洗った時、生かわきだったから臭くなっちゃったのかも。今日はてってい的にあらって干さないと」


 やーめーてー。

 おれはエリーにせんたく場につれていかれて、せっけんまみれにされてごしごし洗われた。そして、ひねりあげられたり、ねじりきられかけたりした後、庭で干された。


 うぅ……ひどい。

 しかも、エリーめ。

 なんで上下さかさまにつるすんだよー。世界が上下さかさまに見えるぞ。


 おれは干されたまま、両手を頭にくっつけた。ステータスオープン。


 スキルポイント 2


 やっぱりスキルポイントがふえてた!

 うーん。でも、おれは今日一日このままつるされてるのか?

 ひまだなぁ。

 世界がさかさまで変な感じだし。


 バサバサ……カァ!


 うん? 今、なんか聞こえた?


 カァ! カァ!


 バサバサと音がして、おれのつるされているロープの上に黒くて大きな鳥がいるのが見えた。

 カラス?

 おれが小さくなったせいか、カラスがすごく大きく感じる。


 カァ! カァ!


 え? ちょっ、やめろ!

 カラスはおれをつついて遊びだした。

 やめろやめろ!

 おれは手足をバタバタ動かしてあばれたけど、ぬいぐるみの手足がぶつかってもカラスにダメージはないし、カラスはむしろもっと楽しそうにおれをつついて遊びだした。


 やめろー!


 ふいに、おれは落っこちた。

 あばれまくっていたのと、カラスがつつきまくったので、ロープがゆるんだっぽい。


 カァ!


 カラスが追いかけてくる!

 おれは全力で走ってにげた。

 にげてもカラスが追いかけてくるから、おれはずっと走っていった。

 とちゅうから、ヒツジが草を食べてる原っぱになったりシカが歩いている林になったりしたけど。これ、全部、クリスティーナたんの家のしきちなの?

 さすが貴族。

 お庭がひろすぎる。

 

 林に入ってしばらくしたらカラスはいなくなったから、おれはこかげで休むことにした。


 あー。つかれた。

 いい風だ。

 ところで、ここはどこだろう。

 100パーセント、おれ、迷子だな。


 そんなことを思っていたら、話し声が聞こえてきた。


「ふぇっ。バカでかいお屋敷だぜ。さすが公爵さまだ」


「でも、ここから坊ちゃんか嬢ちゃんをさらってくりゃ、一生くっていけるだけの金をもらえるってんだ。借金まみれで、おれはこのままじゃ監獄行きだ。一発逆転、やらねぇわけにはいかねぇよ」


 なんだか人相の悪いうす汚い男が二人、林の中にいる。

 どうやら、また、クリスティーナたんたちをねらって悪い奴が侵入してきたらしい。


 だけど、ふっふっふ、運が悪いな。こいつら。

 クリスティーナたんをねらう悪いやつは、おれがたおす!

 おれは走って行って、悪者めがけてジャンプしてキックした。


「あん? なんか、今、ひざのうらにぽわんって感触が」


 おれはぽわんとはね返って地面に落ちた。

 クソッ、おれのキック、全然ダメージを与えられないぞ。


「あ、ぬいぐるみが落ちてるぞ」


 そうだ! こういうときこそ、スキルだ。

 今はスキルポイントが2ある。これで、何か攻撃できそうなスキルをおぼえるんだ。おれは両手を頭にくっつけて、ステータスをひらいた。


「かわいいな。このテディベア」

「なんか動いていないか? 気のせいか?」


 ステータスが表示され、そこにまだ覚えていないスキルがいくつか表示されている。

 その中に、「テディパンチ」というのがあった。これだ!


 テディパンチLv1を覚えた!


 その時には、おれは、うす汚い男に持ち上げられていた。


「なんかしめってるな、このぬいぐるみ」


 悪者はおれをもちあげて顔を近づけた。このきょりなら、パンチがあたるぞ。

今こそ、テディパンチの出番だ。


 テディパーンチ! ……ぽふっ


「おほっ」 


「どうした?」


「このくまの手、ぽふってして気持ちいい」


 えーっ! おれの全力のパンチが!

 いや、あきらめるな! 

 おれは、なおもテディパンチをはなち続けた。


 ぽふっ ぽふっ ぽふっ ぽふっ


「あっ、これ、いいっ。きもちいいっ」


 あれー? 何この反応?


「おれにも、おれにも」


 もう一人の男がおれをつかんだ。

 負けるものか!

 おれは男のほおめがけてパンチをうち続けた。


 ぽふっ ぽふっ ぽふっ


「あはぁーっ いいっ いいっ ごくらく気分っ!」


 えええー? 

 いや、あきらめるな! がんばれ、おれ! あきらめたら、そこで試合終了だ!

 あごを狙え! パンチに全体重をのせろ! 

 おれはパンチをうちつづけた。


 ぽふっ ぽふっ ぽふっ ぽふっ ぽふっ ぽふっ ぽふっ


 おれのパンチを思うぞんぶん受け続けた男達は、やがて地面にねそべって、空を見上げた。


「あー。いやされた」


「こんな晴れやかな気分は久しぶりだな」


「はぁ。何やってんだろうな。おれ、子どものころの夢を思い出したよ。おもちゃ屋になりたかったんだ」


「帰ろうぜ。きっと、まだ人生やり直せるさ」


「ああ。おれはテディベアでいっぱいのオモチャ屋をつくってやる!」


 悪者たちは、すっきりした顔で夢をいだいて帰って行った。


 ……ふぅ。うまくいったぜ。


 だけど、あれぇ? なんか思ってたのと、ちがうなぁ。テディパンチ。

 もっとこう悪者を一発でふっとばすようなパンチを予想してたんだけど。

 

 林の中に取り残されたおれは、もう一度ステータスを開いてスキルをかくにんしてみた。

 テディパンチのところに小さな「?」がついていた。「?」をポチっとな。説明がでてきた。


 テディパンチ:とても気持ちがいい。ダメージ0、状態異常回復(小)、浄化(小)、魅了(微)  


 あ、そういうスキルなんですね。了解、了解。

 さぁ、家に帰ろう。


 夕方、日が暮れる頃、おれはなんとかおやしきのそばの物干し場にたどり着いた。

 ちょうどおれが物干し場の下にたどり着いたとき、大きな声が聞こえた。


「あー! あったー! よかったぁ。テディをなくしちゃったら、クビになっちゃうところだったもん」


 メイドのエリーがおれを見つけて泣きそうになっていた。


 実際、けっこう、やばかったぞ。

 このおやしきのお庭は広大で、おれはどこにいるのか、まったく見当もつかなかったから。

 何度も、おれはこれからは、ずっと林の中でシカといっしょにくらすことになるのかな、とか、この先ずっとヒツジといっしょに草地でくらすのかな、って思ったもん。

 とちゅうでヒツジにはむはむされて、あぶなかったし。


 エリーはおれを持ち上げ、ため息をついた。


「あぁ。でも、すっかりどろだらけで枯れ葉まみれ。また洗わなくちゃ」


 えぇーーー! あらうのは、やめてぇーーーー!



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