第18話 テディベア、ドラゴンをふむ
「ベアトリスはウィズファ山へと向かった後、行方がわからなくなってしまった」
みんなが朝ごはんを食べおわったところで、クリスティーナたんのおじいさまはそう言った。
ベアトリスというのが、クリスティーナたんのお母さまの名前だ。
てんじょうにシャンデリアがあるりっぱな部屋。真ん中の白いテーブルクロスがかかった長いテーブルにクリスティーナたんたちみんながすわっている。
おれもクリスティーナたんのとなりのイスにすわっている。おれには食事は用意されてないけど。
メアリはクリスティーナたんの後ろに立ってひかえている。
そして、おれのむかいがわの席には、お犬様がいる。
このお犬様は、さらっさらな毛並みのお上品そうなお犬様で、今はお上品にイスの上にすわっている。
そのお犬様のうしろに、昨日おれをおふろばに案内したメイドがいる。
だから、たぶん、このお犬様がチェスター様だ。
チェスター様はさっきまで、金でふちどられた高級そうなお皿に盛られたおいしそうなご飯をお上品に食べていた。
チェスター様のごはんは人間用とはちがったけど、肉が多めで人間用よりもおいしそうだった。
メアリがクリスティーナたんの後ろからたずねた。
「なぜ、ベアトリス様はウィズファ山に?」
「実は、あるおかたから、極秘の依頼がきてな。その薬をつくるためにウィズファ山のいただきにはえている炎輝花が必要なのだ。わしが取りに行けばよかったのだが、あいにく、この足でな」
おじいさまはいつも杖をついていて足が悪いみたいだった。
「チェスターも不在だったため、ベアトリスが代わりに取りにいってくれたのだが。それきり連絡がとだえてしまった」
「ウィズファ山はいにしえよりドラゴンが生息するとても危険な場所だと聞きますが?」
メアリがそうたずねると、おじいさまは言った。
「ん? うむ。たしかに今もドラゴンはいるが。だが、あの子なら問題ないと思ったのだ」
「たしかに、ベアトリス様なら……」
メアリがつぶやいていると、クリスティーナたんがたずねた。
「じゃあ、おかあさまはそのおやまにいるのね?」
メアリはそくざに強い口調で言った。
「お嬢様。お嬢様は決して近づいてはいけません。ウィズファ山は非常に危険な場所です」
クリスティーナたんはメアリに返事をしなかった。
おれにはもうクリスティーナたんが何を考えているのか、はっきりわかるぞ。
数時間後。おれとクリスティーナたんは山道を歩いていた。といっても、おれはクリスティーナたんのリュックの中から外をながめているだけだけど。
チェスター様もいっしょだ。
クリスティーヌたんはチェスター様とお散歩に行くといって家を出てきたから。
チェスター様はくびわもつなもつけていない。お上品なスカーフを巻いているだけだ。
それにしても、チェスター様はさらっさらで神々しいほどに美しい毛並みだ。あのシャンプー、すごいもんなぁ。おれのふわふわ度も、すっごくましたもん。
さて、だいぶ遠くまで歩いてきた。たぶん、おれ達はもうウィズファ山の中にいる。
「イコロオハリニノオヤヘリ アイススピアー!」
たまに魔物がでてくるけど、クリスティーナたんが魔法でやっつけている。
この辺の魔物、けっこう強そうだけど。クリスティーナたん、ちっちゃいのに強い。
さらに数時間後。
おれ達はついに山頂付近にまでやってきた。炎輝花という花も見つけた。
でも……
「おかあさま……」
ここまでのぼってきたけど、クリスティーナたんのお母さまはいなかった。
しかたないね。かえろう、クリスティーナたん。
ところが、そこで、突然!
辺りをふるわすほうこうと、ドシンドシンと地面をゆらす重たい足音が聞こえてきた。
そして、巨大なつばさをもつ、赤いドラゴンがあらわれた。
「ドラゴン……」
ついに、ドラゴン、でちゃったよ。
ドラゴンは、ゲームの中ではエリアのボスとかででてくる。ゲームをやってるとき、おれは一度、レッドドラゴンにぜんめつさせられたことがある。ストーリー上攻略しなくてもいいエリアだったから、あきらめて、べつのばしょにいったけど。
というわけで、クリスティーナたん、これ、ぜったい、勝てないよ!
早く逃げよう!
と、おれは全身で伝えようとした……んだけど。
「アイススピアー!」
クリスティーナたんは魔法で攻撃していた。
<フハハハハッ 小娘が。こんな氷のつぶて、我にきくものか!>
ですよねー。かくなるうえは、おれがベアハッグでドラゴンの動きをとめる!
と思って、近づこうとしたんだけど、ドラゴンは炎をはいた。
うひゃー! あんなのあたったら、やけるー! もえるー!
おれにダメージという概念はないけど、もえたら、たぶん、ただの灰になっちゃう。
これじゃ、近づけない。ベアハッグはむりだ。ほかのスキルも使えそうなのはないし.......
その時。
「やれやれ」
という声が聞こえた。なんかかっこよさそうな若い男の声だ。
この声、だれ? と思ったら。
チェスター様の姿がたてながに変形していった。犬から二足歩行の、人の形へと。
気がつけば、そこには、さらさらの髪の毛の20歳前後くらいの美しい青年が立っていた。
人間になったチェスター様が呪文をとなえると、まるで突然火山が雪山になったかのように巨大な氷の刃がなだれのように大量にレッドドラゴンにふりそそいだ。
ドラゴンは地面にたたきつけられ、そのままたちあがれなかった。
「調子にのるなよ。ウィズファ山のレッドドラゴンが」
<うぐぅ……>
チェスター様、かっこいい!
さて、このすきに。
おれは、ドラゴンにかけよっていって、よじのぼった。
ドラゴンの体をのぼるのはけっこう大変だった。
のぼっているとドラゴンが「おほっ」とか「うほっ」とか変な声をだしてふるえるし。
おれがドラゴンにのぼろうとしているあいだに、むこうの方から声がきこえた。
「お嬢様!」
「メアリ? ジャック?」
おれがドラゴンの上に立つと、クリスティーナたんの後ろのほうから、メアリ、ジャック、ミャオリーが走ってくるのが見えた。
メアリたち、今回はわりとすぐに追いついたな。
人型になっていたチェスター様は、今はもう犬にもどっていった。
「あれ? 犬だけ? さっき、そこに人いなかった?」
と、ジャックがつぶやくと、メアリがそくざにジャックをしかり、さらさらのお犬様に深々と頭をさげて謝った。
「失礼な! 申し訳ありません。チェスター様」
「あねさん?」
「ジャック、チェスター様はベアトリス様の弟君だ」
えー! ってことは、チェスター様はただのペットのお犬様じゃなくて、クリスティーナたんのおじさんで、クリスティーナたんのおじいさまの息子、ってことか。
ジャックはあほ面でつぶやいている。
「え? 犬が弟……?」
美しく、りりしいお犬様から人間の美声が聞こえた。
「かつて禁忌とされた魔法を使った結果、私は呪いで犬の姿へと変わってしまったのだ。人の姿に戻れるのはせいぜい一日数分といったところ」
チェスター様って、しゃべれるんだ。犬の時でもおれより格上だな。おれ、ぬいぐるみ、走ったりおどったりはできるけど、いまだに声はだせないもん。
かっこいいお犬様なチェスター様は、ドラゴンに向かって言った。
「さて、レッドドラゴンよ。教えてもらおうか? 我が姉ベアトリスの行方を。6日ほど前に、人間の女がここへ来ただろう?」
ドラゴンは口からけむりをふきだしながらいかめしく言った。
<さっきので勝った気になるなよ。こわっぱめ。勝負はこれから.......おふっ>
ふみふみふみふみ
<だれが、貴様なんぞに……う、うふぅ……お、教えるものかぁ……あ、あはぁ……>
そうそう、ドラゴンが動き出さないように、おれはドラゴンによじのぼった後、ずっと、ふみふみをしている。
ミャオリーが叫んだ。
「ずるいみゃー! くま様のふみふみ! ミーもふみふみされたいみゃーっ!」
ふみふみふみふみ
<うほぉ……き、きもぢいぃ……>
さっきまでいかめしかったドラゴンは、ハァハァ息をしている。
「ずるいみゃー。あんなにふみふみしてもらって……」
ミャオリーはよだれをたらしそうな顔でこっちをみていた。
ジャックが言った
「おい、ドラゴン。テディにふみふみを続けてほしかったら、質問に答えるんだ」
ふみふみふみふみ
<う、うふぅ……し、しかたがなひ、この極上のマッサージに免じて、お、おふぅ……おしえて、やろふぅー……>
ふみふみふみふみ
<あ、あの女は、や、やみを封じると言って、どうくつに入っていったぞ……あはぁー、いい! もっと、もっとぉー!>
ふみふみふみふみ
「どうくつ?」
メアリが聞き返すと、チェスター様がかしこそうな声で言った。
「この山の溶岩洞の奥深くに邪悪なる闇が封じられていると伝えられている。その封印がとかれていたということか。私が封印を見てこよう」
「わたしもいく」
というクリスティーナたんに、そくざにメアリが叫んだ。
「お嬢様! 危険すぎます!」
「チェスター、いいでしょ?」
クリスティーナたんは、お犬様をだきしめて、そう言った。
チェスター様はかっこいい美声で言った。
「未熟者は命を落とすかもしれない。その覚悟があるか?」
「うん」
と、クリスティーナたんはうなづいたけど、メアリが叫んだ。
「良いわけがありません!」
「クリスティーナはミーが守るからだいじょうぶみゃっ」
と、一番信頼できない護衛が言い、クリスティーナたんは言った。
「ありがとう、ミャオリー。テディ、いっしょにいこう」
はーい! テディ、いきまーす!
おれはドラゴンから降りて、クリスティーナたんのもとへ走っていった。
レッドドラゴンは舌をだしてはぁはぁいきをしながら、だらりんと地面にのびていた。




