第16話 テディベア、VS海のボス
つまり、こういうことみたい。
おれたちがかくれたのは船の中だった。そして、おれたちが眠っているうちに船は港を出てしまい、おれたちは今、広い海のただ中にいる。
あぁ、海はひろいなー......なんて現実逃避して海をながめてちゃだめだ!
このままじゃ、とんでもないところに行っちゃうぞ。
あのバカねこぉー!
信じたおれがバカだったぁー!
「ぎょっ! なにものぎょっ!?」
顔が魚な人がこっちをみて叫んでいた。船員っぽい。
甲板に魚人船員が次々とでてきて、あっというまにクリスティーナたんをかこんだ。
「みゃ~? よくねたミャー」
といって、顔を手でこすりながら、ミャオリーもでてきた。
魚人船員たちはおどろいたような顔で叫んでいた。
「密航者ぎょっ! 密航者がふたりもいるぎょっ!」
「船長とこに連れて行くぎょっ!」
「みゃー?」
ミャオリーはまだねぼけている。クリスティーナたんたちはおとなしく魚人の船員たちに船長室に連れて行かれた。
「キャプテン! 密航者だぎょ!」
船長室には船長帽をかぶったずんぐりした人がいた。
「なんだど!?」
船長はトドみたいな顔だった。船長帽をかぶってパイプをくわえている。立ち上がったトドにしかみえないけど、獣人なんだろう。
「みっこうじゃないみゃー。ねすごしちゃっただけみゃー」
ミャオリーがまだねぼけた声でそう言った。トドっぽい船長はクリスティーナたんを見ていった。
「こんな小さな子。こりゃ、大変だど。もどらないどまずいど。でも、もうけっこうすすんでしまったから、もどれないど」
「ミーたちはファルセターに行くミャー。ファルセターにつれてってミャー」
ミャオリーが気楽そうな声でいった。こいつ、事態をぜんぜんわかってないか、ぜんぜん問題ないと思ってそう。
「ファルセターには行かないぎょっ」
「方向はいっしょだけど、むりぎょっ」
「ファルセターとの間の海域にはでっかいモンスターがでるから通れないんだぎょっ」
魚人の船員たちが口々にそんなことを言っていた。
そういえば、ゲームでも、海でボスがでてきたりしてたなぁ。
「モンスター?」
「大きなイカみたいなモンスターぎょっ。とっても強くて、もう何隻もやられてるんだぎょっ」
ゲームのボスと同じだ。キョダーオーイカっていう巨大なイカみたいなモンスターで、あいつはかなり強い。
海の中にいるから近距離攻撃は足にしかきかなくて。
魔法耐性もけっこう強いし、HPがすごく多いから、おれは何回かゲームオーバーしたなぁ。
「そんなモンスター、ミーが倒してやるみゃっ!」
と、ミャオリーは気軽に言うけど。ミャオリーは超近接攻撃タイプだから、たぶんあのボスには攻撃できないぞ。
「キョダーオーイカはとってもとっても強いんだぎょっ」
「ユー泳げるのかど?」
「ミ、ミーは水は苦手みゃっ」
相手は基本、海の中だからなぁ。トドみたいな船長はあっさり言った。
「じゃ、むりだど」
「そんにゃぁ。クリスティーナは早くママに会いたいみゃー?」
クリスティーナたんはこくりとうなづいた。そして、その目から、おれの頭にぽとりとなみだが落ちた。
クリスティーナたん。本当はいっこくも早くママに会いたかったんだね。とっても、さみしかったんだね。
とたんに、魚人船員たちとトド船長はおどおどしはじめた。
「ぎょっ! 子どもが泣いてるぎょっ!」
「な、泣いちゃだめだどっ。こどもは泣いちゃだめなんだど」
この人たち、みためはこわいけど、いい人たちだなー。
でも、クリスティーナたんのなみだはとまらない。
トド船長は魚人航海士と顔をみあわせ、大きなため息をついてから言った。
「しかたないど。ファルセターによるど」
「やったみゃっ!」
ミャオリーはよろこんだ。
これでぶじに目的地に向かえそうだ。
だけど、ボスモンスターがでるっていうのに、だいじょうぶかなぁ。
そして数時間後。おれの心配は現実のものとなり、船には魚人船員たちの叫び声がひびいていた。
「ぎょぎょっ でっかいモンスターぎょー!!!」
「キョダーオーイカだぎょーっ!」
巨大なイカみたいなバケモノが海から出てきた。
キョダーオーイカの足が船をがっしりつかんでいて船は動けない。
魚人船員たちが先が三つに分かれたヤリでキョダーオーイカのでかくて長い足をさしているけど、あまりダメージは与えられてない。
「ミーにまかせるみゃっ……」
いきおいよくとびでたミャオリーは、速攻、キョダーオーイカのぶっとくてながーい足につかまった。
「みゃぁ~! ぬるぬるしてきもちわるいみゃぁー。ミーはムリみゃ~」
あいつ、あんな強気だったのに、あっさり戦力外になってるぞ。
そして、キョダーオーイカの足は、クリスティーナたんとおれにもおそいかかってきた。
キョダーオーイカの足がクリスティーナたんの体をつかんでもちあげた。
クリスティーナたんをはなせー!
おれはぽかぽかキョダーオーイカの足をたたきながら、その足によじのぼった。
うわぁ。このモンスターの足はぬるぬるしてくさくてさいあくだ。
「女の子をはなすんだどー!」
トド船長がカトラスっぽい剣でキョダーオーイカの足に切りつけた。キョダーオーイカは痛がるようにうごめき、クリスティーナたんをはなした。
でも、その時、おれは、イカの足の上だった。
「テディ!」
キョダーオーイカはおれがつかんでいる足をふりまわした。
ぬぅわぁー!
このまま手をはなしてふっとんだら、おれは海にぽちゃんだ。
どこまでも海をただよう海洋ごみなテディベアになっちゃう。
そんなのイヤ!
おれはふり落とされないようにぬるぬるする巨大なイカの足にひっしにしがみついた。
クリスティーナたんが雷魔法をはなった。巨大イカはちょっとひるんだけど、ぜんぜん元気なままだ。
トド船長の声が聞こえた。
「大砲よーい! うてー!」
船から大砲が発射された。
大砲の玉は、でも、キョダーオーイカには当たらず、海に落ちた。
攻撃されておこったように、キョダーオーイカは足でつかんでいる船をぐらぐらと、さらに大きくゆらした。
船に乗っている人たちは落ちそうになりながら、必死にしがみついている。けど、船自体がもうひっくり返されそうだ。
「ぎょーっ もうだめだぎょーっ!」
「てんぷくするどー!」
だけどその時、キョダーオーイカは、とつぜん、動きをとめた。
キョダーオーイカは、足でつかんでいたミャオリーや船員をはなし、そして、船から足を離しはじめた。
「ぎょぎょ? なにが起こってるぎょ?」
魚人船員たちはふしぎがっていた。
ほんと、なにがおこってんだろ???
ミャオリーがおれを指さし叫んだ。
「くま様のお力みゃっ! あのモンスターは、もうくま様大好きじょうたいみゃっ」
え? おれ?
おれ、なにもしてない.......でも、なんか、たしかに、キョダーオーイカはだいじそうにおれを足にのっけて、フレンドリーな目でおれをみつめている気がするぞ?
うーん。おれ、なにかしたっけ?
「くま様のかわいさの前にはみんなメロメロキュンみゃっ!」
まぁ、おれ、かわいいけど?
でも、そんなぁ......あ、そっか。あれだ。
テディハグって、オート発動のスキルだから、おれが巨大イカの足にしがみついているのも、ハグ認定されてたのかも。
そして、テディハグには魅了の効果があるから、ひっしになってずっとしがみついてたらメロメロに.......?
おれはキョダーオーイカの足をぽんぽんたたいて、うでをのばして、おれを船にもどせ、とジェスチャーで伝えた。
キョダーオーイカの足がゆっくりとのびていき、おれを船におろした。
うわっ。ほんとに通じた。
なんだ。このイカ。いい奴じゃん。
おれはキョダーオーイカに手をふった。
キョダーオーイカは足をふって、海の中に帰って行った。
「みゃっ! さっすが、くま様みゃっ! でっかいモンスターもイチコロみゃっ」
「たすかったぎょーっ!」
「か、神だぎょっ!」
魚人船員たちが、感謝感激しながら、おれにとびついてきた。
さすが、おれ。でも、みんなもがんばったよね。ミャオリー以外。
おれはつぎつぎにだきついてくる船員たちにハグをしてやった。
「ぎょぎょぎょーっ」
「こころがあったかいぎょーっ!」
「神のほうようだぎょーっ!」
さて、船はまた発進し、そのあとは特になにも起こらなかった。
夕方ころに、おれ達はぶじファルセターの港についた。
「ぎょぎょぎょ~ くまさまぁ~」
「またこんどど~ くまさまぁ~」
船員たちと船長が、船からおりるおれ達をねつれつに見送ってくれた。
船員たちにさよならをしてから、クリスティーナたんはえがおでおれに言った。
「テディ、おふねのたび、たのしかったね」
うん、まぁ、結果的にはね。
そうそう。そういえば、しばらくした後で、おれは変なうわさ話を聞いたんだ。
海の男たちのあいだで、テディベアが大ブーム、みんなお守りとしてテディベアを持ちこむから船の中がテディベアだらけなんだって。




