第12話 テディベア、子分ができる
「クリスティーナ! ロビン!」
新しいおうちに入るとすぐに、お上品な三十代くらいのおじさんが出てきて、クリスティーナたん(と、おれ)をだきしめた。ちなみに、ロビンはとちゅうでねてしまって、今はメアリのうでの中でねている。
「おとうさま!」
「ぶじでよかった。クリスティーナ」
いいきかいだ。ハグ経験値をもらっておこう。だきあう二人にはさまれたおれはパパさんの方にだきついた。
「はぁ。クリスティーナ。パパはポワンと心があたたかくなるよ」
パパさん、それ、おれのハグ効果だよ。
それから、クリスティーナたんとロビンは子ども部屋へとつれていかれ、すぐに着替えてベッドの中に入った。おれもいったんはクリスティーナたんといっしょにベッドに入ったんだけど。
このお家ははじめてだからな。
ちょっと探索してみよう。
おれはこっそり子ども部屋をでた。
このおやしきもでっかいなー。と思って歩いていると、声が聞こえてきた。
「全員ぶじでよかった。第二王子の勢力から、こちらにつかないなら、どうなるかわかっているなと脅されていてな。彼らなら暗殺でもやりかねないから心配していたのだ。メアリ、よくぞ、あの子たちを守ってくれた」
メアリじゃないよ、おれ、おれ。スーパーハイパーSPテディベア。
もうクリスティーナたんたち、めちゃくちゃねらわれまくってて、おれ、とってもいそがしいんだから。
「ありがとうございます。だんな様。敵勢力にやとわれた暗殺者がねらってきているのはまちがいありません。ただ、それとは別に、ひとつご報告しないといけないことが」
メアリは深刻そうな声で言った。
「クリスティーナ様がお気に入りの、以前、だんな様がクリスティーナ様にプレゼントされたテディベアのことなのですが」
え? おれのこと? おれって、パパさんからのプレゼントだったんだー。
「テディがどうしたのだ?」
「あのテディベア、動くのです」
動くよ、動くよ~。
おれはろうかで、もふにゃもふにゃおどってみた。
「んん? いや、あれはただのかわいいテディべアのはずだが」
「それが、先日から、突然、かってに動くようになったのです。お嬢様に危害を加える気配はありませんが、早急に始末……」
えー! 始末だと!? おれ、毎日、活やくしてるのにー。おれがいないと、クリスティーナたんを守れないじゃん!
パパさんはのほほんとした声で言った。
「クリスティーナが魔法であやつっているのでは? あの子は天才だからね。とつぜん、信じられないほど高度な魔法を使ったりするんだ」
「家庭教師に確認しましたが、そんな魔法は教えていないと。それに、クリスティーナ様が操作しているようには見ないのです。あのぬいぐるみは、自ら意志をもって動いているように見えます」
パパさんはさらにのほほんとした声で言った。
「クリスティーナの愛がテディにたましいをふきこんでしまったのかな」
「そんなメルヘンな! ......いえ、失礼いたしました」
メアリが思わずつっこんじゃって、謝っている。
「危険がないのなら、よいではないか。むしろ動くぬいぐるみ、なんてかわゆい......」
パパさん、話がわかるね!
......だけど、おれもちょっと不安になっちゃうよ。パパさん、お気楽おひとよしすぎない? この人絶対、弱肉強食世界で生き残れないよね。マンボウなみだよ。
あぁ、だからゲーム本編ではすでに亡き人だったのか.......。
そこで、とつぜん。叫び声が聞こえた。
「ミャー! くまさまー!」
「テディじゃーん!」
おれはジャックに持ち上げられ、マッスルハグをされた。
うぐぉー!
ジャックはあいかわらず力がつよすぎる。
ぐるぐるにしばられたまま、猫人がとびはねた。
「ミーも! ミーも!」
「だーめ。公爵様のおゆるしがでるまで、お前は敵だ。さ、行こう。しつれいしまーす!」
ジャックは、しばられた猫人をつれて、パパさんがいる部屋に入って行った。
ドアがしまる前に、おれは顔をもふっとつっこんで、中のようすを見ることにした。
猫人は部屋に入るなり、元気よく言った。
「ミャー! ミーをやとってミャー」
メアリが冷たい声で説明した。
「だんな様、この者は、暗殺者ギルド、フモコイーサの一員で、クリスティーナ様、ロビン様の暗殺をくわだてたものです」
「ミーはくわだててないミャー。命令されただけで、なにもやってないみゃー」
「たしかにいきなりひれ伏してテディにふまれたがってただけらしいよな」
と、ジャックが助け舟をだした。
「ミーはくまさまの部下になるのみゃっ。だから、ミーをやとってみゃっ」
パパさんは、あっさりうなずいた。
「ふむ。よかろう」
「だんな様! こんな危険な猫人を!」
メアリがあわててとがめるように言ったけど、おひとよしなパパさんは言った。
「だが、改心したのだろう?」
「そうミャー! フモコイーサを裏切ると、大変な目にあわされちゃうミャー。それでもミーはくまさまを選んだのみゃっ」
たいへんなめ?
たしかに暗殺者ギルドを裏切ったら報復されるよな……え、そんな重たい決断を、おれのふみふみだけでしちゃったの?
メアリはきびしく言った。
「だんな様、ミャオ族は気まぐれで有名です。また裏切るかもしれません。そもそも暗殺なんてことをなりわいにしている者を信用するなど」
「ミーは心をいれかえたのみゃっ。だれもやとってくれなくて、おなかすいてみんな死にそうだったから、ギルドに入ったみゃー。けど、たとえ、ミーの弟と妹がうえ死にしそうでも、暗殺なんて仕事はだめだったみゃー」
猫人は悲しそうな声でそう言った。
パパさんは、深くうなずいた。
「うむ。わかった。ミャオ族の者よ。おまえも苦労してきたのだな。クリスティーナとロビンの護衛にお前をやとおう。しっかりと仕事をしていれば、家族が食べていけるくらいの給料は保証しよう」
「ありがとみゃっ!」
パパさん、ほんとに、ほんとに、ほんとーに、おひとよしだね。
おれはドアの間から顔をひっこめた。
なわをとかれた猫人がうれしそうにとびはねながら、部屋を出てきて、外にいたおれにとびついてきた。
「くまさまー!」
しかたない。ハグしてやるか。
「ミャー! くまさまのハグはぽわんとするミャー」
みんな、そう言うけど、おれはおれにハグできないから、わかんないんだよなー。
「ミーの名前はミャオリーみゃっ。くま様の手下一番みゃっ。よろしくみゃっ」
ミャオリーはおれの手をにぎって、おれの全身をぶんぶんふりながらそう名のった。
「名前、ミャオーテじゃないんだ」
と、ジャックが言った。
「ミャオーテはミャオ暗殺術マスターの称号みゃっ」
部屋から出てきたメアリがぶつぶつと言った。
「ミャオ暗殺術マスター? それは、最高レベルの武術をきわめた者と評判の……」
ん? ひょっとして、この子どもみたいな猫人、強いの?
「じゃ、お前、実はすごい暗殺者で暗殺しまくってたのか?」
ジャックがたずねると、ミャオリーは堂々と言った。
「みゃー。ミーの暗殺成功率は0%みゃっ!」
「成功率ゼロ? ぜんぜんダメじゃん! ん? でも、殺してないってことだから、いいのか? むしろ、いいことか?」
ジャックがくびをかしげる中、ミャオリーは明るく言った。
「ミーは暗殺むいてないみゃー。ギルドからはこんど任務に失敗したらクビだって言われてたみゃー。あたらしい仕事がみつかってよかったみゃっ」
「お、おう。よかったな」
こいつ、だめだめすぎだろ、って顔でジャックが言った。
こんな感じで、ミャオリーがなかまになった。




