第11話 テディベア、ねこふんじゃった
引っこし先へは一日でつく、という話だったんだけど。夕方になっても馬車は目的地についていなかった。
馬車はなんだかうす暗い林の中を走っている。
これ? だいじょうぶ?
「おかしい。もうついている頃なのに」
と、メアリつぶやいて、ぎょしゃにむかって叫んだ。
「スティーブ! 本当にこの道であっているの?」
「あっていますよ~。イヒッ」
ん~? そういえば、さっき休けいした後、ぎょしゃのおじさん、変な笑い方をするようになったんだよなぁ。イヒッって。
おれはまどから顔をだして、あちこち見回した。前にも後ろにも、馬車がいない。
荷物と召使いが乗っている馬車が別にあるはずなのに。
いつの間にか、この馬車だけになっている。
馬車はゆっくりととまった。
メアリがけげんそうにたずねた。
「スティーブ?」
「イヒッ。つきましたよ。どうぞおおりになってくんさい」
ぎょしゃのおじさんはそう言って、馬車からはなれていく。
「なにをばかなことを。こんな林の中で」
「おりないなら、馬車ごと爆破しちゃいますよ~。イヒッ 3・2・1」
メアリがドアをけりあけ、クリスティーナたんとロビンをだきかかえてとびおりた。おれはクリスティーナたんのうでの中だから、おれもいっしょに。
背後ですんごい音がひびきわたり、ほんとうに馬車がばくはつした。
「イヒヒヒヒッ」
ぎょしゃ……に化けた何者かの笑い声がひびいている。
「貴様、何者だ!」
「こたえる必要はありやせんよ。イヒッ。さぁ、ミャオーテ、やってしまえ!」
おれ達の後ろに、ふくめんをした黒ずくめの人影が立っていた。
子どもみたいに小さい。麦畑でおれがふみふみした暗殺者だ。
メアリがムチをとりだした。
「クリスティーナ様、ロビン様。私が命に代えてでも奴は倒します。どうかお二人はお逃げください」
「いや、メアリ! わたしもたたか……」
クリスティーナたんは自分も戦うと言おうとしていたけど、だけど、その時、とつぜん、暗殺者が大地にひれふした。
「クマさまぁ! クマさまぁ! どうかミーをおふみくださいミャー!」
「は?」
「イヒッ?」
え? おれ? ご指名?
メアリとぎょしゃがあぜんとした顔をしていた。
でも、しかたがないなぁ。そこまでいうなら。
おれはクリスティーナたんのうでのなかからとびおりて、地面にふせっているふく面の暗殺者のところに走って行って、ふんづけてやった。
おれの足の下で叫び声がひびいた。
「みゃーっ! さいこーみゃーっ! やっぱり、クマさまのふみふみさいこーみゃーっ!」
ぎょしゃにばけた何者かは、口をあんぐりあけていた。
「ミャオーテ。お前、何をやっている?」
「ふみふみされてるミャー。ふみふみ最高だミャー」
「いや、お前、仕事しろ! 暗殺しろ!」
ほんとだよな。こいつ、なにしてんだよ。暗殺者のくせにテディベアにふみふみされてるなんて。
「もうミーの仕事はくま様にふまれることになったミャー うみゃーっ」
どうやら、この暗殺者はふみふみ中毒になってしまったみたいだ。
どんだけ気持ちいいの? おれのふみふみ。
さて、おれがふみふみをしている間に、メアリがつかつかと歩いて行って、ニセぎょしゃにむかってムチをふった。
ぎょしゃに変身していた男は林の中にふきとんだ。
「イヒィー! おぼえてろよぉー!」
男は逃げ去っていった。
そうこうしている内に、ほかの馬車が到着した。
荷馬車からジャックとその他がとびおりてきた。
「あねさん! だいじょうぶですか!」
「ええ。クリスティーナ様とロビン様はご無事です。馬車をやられましたが」
「あれは?」
みんなの視線が、ふみふみをしているおれとその足の下に注がれている。
「はみゃーっ。ふみふみ最高だみゃーっ」
「テディのふみふみ!? いいなぁ! おれもふまれた……」
ジャックが最後までいう前にメアリの冷たい声がひびいた。
「ジャック。もしお前が人間の尊厳を失うというのなら、私が親せき一同を代表してその性根を叩きなおす」
「……たくないです! どんなに気持ちよさそうでも、テディベアにふまれるなんて、ありえない……さいこうに気持ちよさそうだけど……」
ジャックが小声でぶつぶつ言っている中、おれの足のしたでは暗殺者がもだえていた。
「はみゃーっ。さいこうみゃはぁーっ」
メアリの声が聞こえた。
「ジャック。あれはまかせた。行きましょう。お嬢様。召使い用の馬車になってしまいますが、ごようしゃください」
「テディ、いくよ」
はーい。おれは暗殺者の上からとび降りた。地面の上によこたわったまま、暗殺者は声をはりあげた。
「待ってくらはいみゃー! ミーもつれてってみゃー。もう、くま様なしには生きられないみゃー」
「その気持ちはわかる。テディのモフモフ度は最高だ。でも、お前は何者なんだ?」
とジャックが言い、メアリがジャックをギロリとにらみつけた。
「ミーは暗殺者ギルド、フモコイーサの一員だみゃ」
小さな暗殺者はそう言って、ふくめんをとった。猫みたいな顔があらわれた。この暗殺者は猫の獣人らしい。
メアリは冷たい声で命令した。
「ジャック、こいつをしばり上げて、後から連れてこい。やとい主をはかせる」
「ミーは命令を受けただけだから、ギルドに依頼した人のことはわからないみゃー。でも、やとってくれれば、ぜったいやくにたつみゃっ。くま様のふみふみのために!」
「信用できるものか」
メアリがぴしゃっと言って、ジャックが言った。
「ま、とりあえず、しばりあげて連れて行くぜ。判断するのは公爵様だ。おい、武器をおけ」
ミャオーテは巨大な爪がついた小手をとって地面に置き、メイドのエリーがささっとミャオーテをしばり上げた。
クリスティーナたんとロビンは馬車にのりながらメアリに言った。
「メアリ。あのこをゆるしてあげて。テディがすきなひとにわるいひとはいないよ」
「お嬢様。テディベア好きはなんの保証にもなりません」
「あのねこ、もふもふだから、うちでかおう」
「ロビン様。あれはミャオ族という獣人です。本物の猫ではありません」
たしかに、あの暗殺者、ふく面をとると二足歩行の猫にしか見えなかったなー。
とりあえず、おれ達は馬車にのって、引っこし先に向かった。




