第10話 テディベア、ひっこす
クリスティーナたんの家は燃えてしまったので、おれ達はひっこすことになった。
ひっこし先は王都の近くらしい。
クリスティーナたんのママさんはまだ帰ってこない。帰ってこないまま、ひっこしになった。
だから、おやしきの使用人たちと子どもたち二人だけでのひっこしだ。
でも、このおやしきの使用人って、おれから見ると、みんな、たよりないんだよなぁ。
これは、おれが目を光らせていないと危いな。
だから、おれは馬車の窓から顔をだして、きょろきょろしていた。外にはヨーロッパ風の、前世では見たことのない風景が広がっている。
うー! これぞ異世界ー!
旅っていいな。
「テディ、たのしそう」
クリスティーナたんがそう言った。
「かってに動くテディベアなんて、絶対におかしいのです」
と、メアリはぶつぶつ言っているけど、おれはもう、みんなに公認された動くテディベアだ。
「たしかにぬいぐるみが動くなんておかしいけど。テディが悪いぬいぐるみのはずないっす」と、ジャックはいい、メアリ以外、みんな同意したから。
こそこそしなくていいから前よりたのしい。
あ、畑の向こうに風車がみえるなー。.......なんて思っていたら。突然、ヒヒーンって馬のすごい声がして、世界がくるくるまわって、おれは空をとんだ。
気がついたら、おれは畑の中に落ちていた。馬車からとびでてしまったっぽい。
馬車は?
おれは立ち上がって、とびあがって、麦畑の向こうの道をみた。
馬車は横転している。あばれる馬をぎょしゃががんばって落ち着かせていた。
馬車から、クリスティーナたんたちが出てきた。とりあえず、みんな無事っぽい。
だけど、道の先には、変な三人組がいる。背の高い女が一人と、二足歩行のカピバラみたいな男とインコみたいな顔のやつだ。
「おっほーほほほほ! パンパンパンプキン、パンプキンの馬車で舞踏会に行きたいわ」
「明日のシンデレラ、アマードロ様の登場でやんす! やんす!」
「ありがね全部、おいていくだす!」
このレトロアニメっぽい感じの意味不明なクセのあるセリフをはく3人組は、あのレトロゲームにでてきた盗賊、アマードロ一味だ。
語尾に「だす」がついてるカピバラ男がカピダスで、インコみたいで語尾に「やんす」をつけるのが、イヤンだ。
この世界は獣人とか魚人とか鳥人とか、いろんな種類の人間がいるのだ。
この王国は人間が多いけど、アマードロ一味はアマードロだけがふつうの人間でのこりのふたりは獣人と鳥人。
ゲームのアマードロは、年れいを聞いたら怒る、とか、行きおくれ、っていじられたりしていたけど、実はまだ三十手前の二十代だった。昔は女は25歳が賞味期限とか、へんなことが言われていたらしくって、そういう時代のなごりっぽい。
でも、今はゲーム開始時点より何年も前だから、アマードロは、まだ普通にぴちぴちに若い。
ま、アマードロ一味はどうせかませ犬のお笑い担当悪役だから、どうでもいいや。
このテディ様が出る必要はあるまい。
「ジャック!」
「はい、あねさん! まかせてください!」
メアリが呼ぶと、後ろの馬車からジャックがとびでてきて、アマードロ一味のほうへ走っていった。
インコ人のイヤンとカピバラ男のカピダスがジャックのジャブ一発ずつでふっとばされていった。
「あら、いい男。……なんて、言ってるばあいじゃないわぁ! よくも、カピダスとイヤンをやってくれたわねー!」
アマードロを前に、ジャックは考えこむようすを見せた。
「うーん。きれいなお姉さん。おれは女の人は殴りたくないんだ。おとなしく帰ってくれない?」
「え? き、きれい? ん、んもう。ぼうやったら。ほめたって、なにもでないぞ」
アマードロは身をくねらせたり、へんなポーズをとったりしている。
うん。やっぱあれはどうでもいいや。
おれがでる必要はない。
それより、スーパーハイパーSPテディベアなおれが気になっているのは。
おれの目の前。
麦畑の中に腹ばいになってかくれひそんでいる、こいつ。
全身黒づくめのかっこうで、ふくめんをしている、こいつ。
ぐうぜん、麦畑にふっとんじゃって発見したけど。こいつ、あやしすぎない?
「みょーなじゃまが入ったけど、計画通り暗殺をすすめるみゃっ」
そんなことを通信機みたいなものにむかってしゃべっている。
どうやら、アマードロ一味とは別の、本物の暗殺者のようだ。
暗殺計画絶対阻止!
おれは麦畑の中にひそんでいる暗殺者のせなかめがけてジャンプした。
「みゃ? なにかせなかに……」
ん? この暗殺者、意外と小さいな。子どもみたいな小ささだ。まぁいいや。
ふみふみふみふみふみふみ
おれは全力で暗殺者をふみつけた。この前、かたっぱしからおぼえたスキルの中に、テディふみふみ、というスキルがあったのだ。
「み、みゃっ ミャー……」
ふみふみふみふみふみふみ
まぁ、このスキルも、物理ダメージはゼロなんだけど。この技はちょっとベアハッグににていて......
「き、きもちよすぎて、うごけないみゃ……みゃはぁ……みゃふぅ……」
ふみふみふみふみふみふみ
おれは、ふみふみしながら、馬車のほうを見物した。
「ジャック! なにをもたもたしている!」
馬車のとまっている道の方では、メアリがジャックをおしのけ、ムチで強盗アマードロを攻撃していた。
メアリのムチでアマードロはふっとんでいった。
乳母なのにメアリもけっこう強いんだね。
「くーっ! くやしい! 今日のところは、これで許してやろうじゃないか!」
「ゆるしてやるから、感謝するでやんす! やんす!」
「そうだす! そうだす!」
アマードロ一味は捨てぜりふを言って逃げて行った。
さて、こっち、麦畑の中では。
ふみふみふみふみふみふみふみ
「みゃひぃ、みゃふぅ。もう、らめぇ……」
この、ダメージもなんにもないスキル、テディふみふみのいいところは、たくさんふむと一定時間あいてを行動不能にできるってとこだ。
スキルの説明によると。
テディふみふみ:とても気持ちがいい。状態異常回復(小)、浄化(小)、魅了(小)、行動不能付加(ふみ回数×2秒)
立っている敵をふむことはできないし、なかまを回復するには行動不能付加がいらないし、使えないスキルだなって説明を見た時は思ったんだけど。意外と使い道があるもんだ。
「みゃー……みゃふぅ……みゃはぁっ……みゃーっ……」
それはそうと、馬車の近くでクリスティーナたんがおれを探し回っている。
「テディー!」
そろそろ行くか。
じゃ、アデュー。暗殺者よ。
ひとしごと終えたおれは、麦畑を走ってもどった。
「テディー、どこー?」
ここだよ、クリスティーナたーん!
「テディ!」
クリスティーナたんはおれをだきしめた。
「チッ。なくなってしまえばいいものを」
と、メアリが大きく舌打ちしてつぶやくのが聞こえていたけど。
ジャックたちが馬車をもとにもどして、おれ達はまた馬車に乗って移動を開始した。




