霊力のない巫女
博麗神社の境内には、朝の光が眩しく差し込んでいた。
霊夢は今日も、お祓い棒を手に取る。
「やっぱり、だめか。」
霊力の流れは、やっぱり感じられなかった。
指の先が冷たい。
空気でさえも、指の隙間から抜け落ちていく気がした。
わかってる。
今の自分にできることは、なにもない。
それでも、......。
この手を下ろしたら、本当に終わってしまいそうな気がした。
霊夢はしがみつくように、祈るようにお祓い棒を握った。
もう...力はない。
それでも、博麗の巫女である自分を、手放せなかった。
「霊夢ーー!おにぎりつくってきたぜーー!」
聞きなれた声が、居間に響く。
霊夢の背中から、張りつめていたものが少しだけ抜け落ちた。
「......勝手に人の家で騒がないの。」
「そうはいってもなぁ?朝からまーた気難しい顔してたろ?これくらいがちょうどいい!」
魔理沙はにやりと笑って、大きな包みを机に広げる。
「ほれ!鮭と、梅と、なんかよくわかんないの!」
「......なんかよくわかんないのはやめてよ。」
霊夢は呆れた声でそう言い、おにぎりをひとつ手に取った。
「それで、今日は何しに来たのよ。」
「別に?お前の顔見に来ただけ!」
「ふうん。」
それきり、会話は止まった。
けれど、不思議と居心地の悪さは感じていなかった。
魔理沙は床に寝転び、霊夢はおにぎりを口に運ぶ。
ただ静かに、時間が流れていた。