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澄み切った、はずの朝。
霊夢は、静かに息を吐いた。
「……夢じゃない、よね。」
あまりに現実感のない感覚に振り回されるように、霊夢はもう一度境内を見渡す。
澄みきった空気、響く鳥の声。
全てが、変わらない。
焦りと不安が胸の奥で渦巻く中、霊夢の中だけが、ぽっかりと空白になっていた。
「お祓い棒のせい...じゃないよね...」
ほんの僅かな希望にすがるように、そこにあるはずのない答えを探すように、泳ぐ目で細部をなぞった。
以前と変わらない姿でいるお祓い棒は、嘲笑うかのように霊夢を見つめていた。
「うそ...だよね......?」
わずかに漏れ出たその声は、まるで静かな水面が揺れるように震えていた。
霊力が消えた。
そのたった一言が、いつまでも理解出来ないでいた。
霊夢は、ふらりと立ち上がり、まるで何かに導かれるように境内の端へと足を向けた。
毎日変わらない姿でいた、神社を守る結界。
けれど、そこには誰もいなかった。
「消えてる......。」
風が吹く。
空気は妙に澄んでいた。
それら全てが、霊夢には遠のいて見えた。
変わらない日々の中で、霊夢だけが、誰も知らない朝をさまよっていた。