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夜峰街怪奇譚  作者: 幻夢
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始まり

男の視界を覆っていた靄が、徐々に晴れていく。

薄暗いトンネルの中、ぼんやりとした蛍光灯の光が周囲を照らしていた。

やがて完全に靄が消えると、まず男の目に飛び込んできたのは、血を流して倒れている友人――羽場の姿だった。

周囲には、この世のものとは思えない、名状しがたい怪物の死骸がいくつも転がっている。


男がさらに辺りを見回すと、いつの間にかまたソイツらに囲まれていた。


「……俺も、ここで終わりか」


凶爪が、呆然と立ち尽くす男に向かって振り下ろされる。

男はそれをただ、残念そうに見つめるばかりで、避けようともせず、少年の命を刈り取るには十分な威力の一撃を受け入れようとしていた。


「あの人の言うことを、素直に聞いておけば……」


そう呟いた瞬間――

凶爪は少年の顔の目前にまで迫っていた。

男はそのとき、「死んだ」と思った。


だが、突如ソイツの頭が弾け飛んだ。

血と肉片が四散し、壁や男の服を汚す。

背後から、乾いた足音が近づいてきた。


「おい! 大丈夫か!? 怪我は!?」

「……はい、大丈夫です」


ぼんやりと、声の主を見上げる。

先日話をした、初老の男性だった。

たしか、刑事だと名乗っていたはずだ。


彼の手にはリボルバーが握られており、怪物を撃ったばかりの硝煙の匂いが漂っている。


「お前、一人だけか?」

「……友だちが、そこに……」


男は力なく、倒れている羽場を指差す。

刑事は怪物の死骸に警戒しつつ、羽場の傍にしゃがみこみ、脈を確かめる。

数秒後、無言で首を横に振った。


「すまんが……友達は、手遅れだった」

「……そう、でしたか……」


「忠告したろうが! 余計なことに首を突っ込むなって!」

「……すいません……」


刑事は怒りを露わにしていたが、すぐに頭を振り、思考を切り替えた。

男は茫然と宙を見つめている。


「くそっ……とにかく、ここから出るぞ!」

「……わかりました……」

「おい、切り替えろ! お前まで死ぬぞ!」


刑事の平手打ちが、男の頬を叩いた。

男はしばらく呆然としていたが、やがて正気を取り戻したように返事をした。


「……はい。あの化け物は、まだ他にもいるはずです。早くこの場を離れましょう!」

「……まだ居るのか。にしても、この化け物どもをやったのはお前らじゃないよな?」

「はい……僕と羽場が来た時には、すでにこうなっていて……何が何だか」

「……後で詳しく話を聞かせてもらう。奴らがまた集まってきてるようだ!」


刑事の言葉通り、遠くから微かに複数の足音が聞こえてくる。

刑事が先導し、男はその後に続いた。

時折脇道に逸れながら、化け物との遭遇を回避しつつトンネルを進んでいく。


どれだけ走ったのかわからなくなった頃、進行方向から散発的な銃声が聞こえてきた。

2人は身構えながら、慎重にその音の方向へと進む。


やがて、トンネルを抜けて広い空間へと出た。

廃棄された地下鉄のホームのようだった。


先ほどよりもはっきりと銃声が聞こえる。

2人とも直感で、それが銃撃戦によるものだと察した。


「こんな場所で……誰が銃を撃ってるんだ……?」


2人は物陰に身を潜めたまま、音の方へと近づく。

物陰から顔を覗かせると、視線の先には10人ほどの人間が立っていた。

全員が小銃を携え、ODカラーの戦闘服とプレートキャリアを身につけている。

彼らの足元には、化け物たちの死骸が転がっていた。


「……奴らがやったのか?」

「さっきの死骸も、もしかしたら彼らの仕業かもしれません。そう考えれば納得がいきます」

「だとしても……何者だ、あいつら……?」

「とりあえず、助けてもらいましょう! 化け物を倒してくれてるみたいですし!」


そう言うが早いか、男は物陰から出て「おーい!」と手を振りながら武装集団に向かって歩き出した。

刑事もそれに続いて姿を現す。


不意の声かけに、武装集団は咄嗟に銃を2人へと向けた。

だが、彼らが人間であると確認すると、訝しげに銃を下ろした。


「すみません! ここで化け物に襲われていたんです! 助けてください!」


男の叫びに、武装集団は顔を見合わせる。

次いで、リーダーと思しき男を見た。

リーダーは無線で誰かと通信しているようだ。


「お前ら何者だ! 小銃なんか装備しやがって……逮捕されたいのか!」


刑事が警察手帳を見せながら怒鳴る。

リーダーは手帳をちらりと確認すると、再び無線で何かを話しはじめた。


その間、男と刑事が何度か話しかけても、誰一人として反応を示さない。

彼ら全員がバラクラバマスクで顔を覆っているせいもあり、感情の読み取りは困難だった。


「〜〜〜〜……了解……しゃ……する」


通信が終わったのだろう。刑事が再び話しかけようとする。


「なぁ、あんたがリーダーなんだろ! お前ら何を……!」


言い終わる前に、「パンッ!」と乾いた銃声が響いた。


リーダーの男の手には拳銃が握られていた。

銃口からは硝煙が立ちのぼっている。

刑事の胸がじわじわと赤く染まり始めた――誰がどう見ても致命傷だ。


「なに……を……!?」


刑事は武装集団に銃を向ける。

だが、引き金を引く前に複数の銃声が男の耳を打った。


刑事の身体は、まるで操り人形のようにぎこちなく踊り、そして崩れ落ちた。

その姿に、もはや生気は感じられなかった。


男は、何が起きているのか理解しようと必死に頭を回転させた。

だが、脳が現実を拒み、結果として男はただ呆然と立ち尽くしていた。


リーダーが銃口を、男に向ける。


「あ、あ……」


今度こそ死ぬ――そう理解していても、身体は動かなかった。


「パンッ!」


最後に銃声が一発。

そして、男の意識は闇に沈んだ。

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