第 五 章 あさみのおなか
第 五 章
現在 高校一年 春 4月上旬
姫魂冥衣花と香月あさみはお風呂上がりで身体を拭いていた
あさみはめいかに言った
「いい?あとはこの紐をストッキングの金具につけてショーツから吊るすわけ
だからストッキングを履くときに金具がちゃんと前に来てないといけないわけよ」
「左脚は?」めいかは聞いた
「右脚と同じ履き方」あさみは答えた
めいかとあさみは避難用降下式滑り棒を掴んで登り、鉄棒の要領で
三階まで登ってめいかの部屋に入った
あさみは言った
「こんな高級な三階建て一軒家なのに、なんで三階に行く方法が
非常用滑り棒しかないわけ?
階段なくて毎回鉄棒使って上り下りしたら非常用じゃないじゃんか
お風呂入ったのに汗かいたし両腕の筋肉震えてるし
鉄棒したの小学生以来だよ」
「祖父がこの家を設計する際、将来建築基準法と消防法が厳しくなると思ったそうです
彼は法の不遡及の原則を知らなかった」
あさみとめいかは同じベッドに入り、電気を消した
めいかが指をパチンと鳴らすと電気が消えた
あさみは言った
「あ、その能力かっこいい。そういう能力、いつもそういうのに使いなよ
呪いの句を詠んで、線路に飛び込ませるとかよりキュートだから
めいかちゃんにはそっちの方が似合ってる
黒のめがねのチョイスもセンスある。不思議な可愛さ」
「これはAmazonのアレクサにそう覚えさせた。あさみさんも指鳴らして」
あさみが指を鳴らすと電気がついた。あさみはがっかりした
「めいかちゃんのおじいさん、建築家か。お父さんはお医者さん、お母さんは宗教学者
多様性に富んだ家系ね」
めいかはあさみに言った
「もっとそばに寄って寝たい。修学旅行みたいにしたい
中学の修学旅行の夜、誰かがわたしに向かって投げた枕が
マシュマロに変化し、そのままわたしを優しく包んだ
みんなで一緒にマシュマロを食べ飽きた頃、もう一回やってみたら今度は」
「どうなったの」
めいかは答えた
「さっきと同じ子が枕を投げて来ようとしたのが見え、
わたしはその時素敵な一句を思いついたのです
その一句というのは
姫魂冥衣花(14才)
同窓の
投げてきたるは
にがよもぎ
われに刃向かう
小さき女
「もしかしてその子、焼け死んだ?
素敵な句を思いついてもそのまま詠まないってわたしに約束して
あとそれ短歌だね。ニガヨモギは季語なのかしら」
「その子は大丈夫だった
枕がニガヨモギの束に変わってただけ。申し訳なくてわたしの枕と交換した
ニガヨモギを枕にして寝た苦い思い出」
「めいかちゃん、本当はこころ優しい女の子っていうの私は分かってるよ」
めいかはあさみに近寄り肩をつけて寝た
あさみは思った。こんなことになるなら遺体安置室でそのまま焼かれるのを待って
いればよかった
わたしが死んだことはあの女性の耳に届いているはず
それで気が晴れるってことはないだろうけど、これ以上わたしが彼女に
してしまった事をつぐなえる方法はない
それができたんだから、そのまま永遠に消滅しておけば
でももう手遅れだ。6才も年下の子供みたいな年の子にこんな親切にしてもらって
この子には母親がいない、父親も干渉しない、恐ろしい能力を持って
悪に対する嫌悪と、死者に対する優しさで自由勝手にその能力を使い回してる
子どもの判断能力で
頭はいいけど、判断力はただの子どもだ
あのお店で男を火だるまにして、そのまま火事になったら他の人もきっと死んでた
そしてそういうことをしてると、自分に積み重なってくる
この子は何も分からないで人の怨念を代理になって晴らしてる
それは自分に返ってくる
あさみは思った
わたしはこのまま死ねない。この子の呪われた能力を奪う方法を見つけ
この優しい子が普通の女子高校生のように幸せに成長できるのを見届けるまでは
めいかはあさみのお腹に右手を当てて寝た
あさみはその手に自分の手を重ねて寝た