演者と作者
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
汝、狂い賜えよ。さすればその者の心情を得るだろう。
こういう気分で書いてるんですよ。
演者と作者。全く異なる二つの役割であるが、意外と近からず遠からず。非常に近しい関係であると私は思っている。だから今もこうして役を頭の中に入れている。
彼女に対して『ヲタクの絶叫』について聞いてみた。どうやったらそんな声が出るのか。普通に声を出すだけじゃ、そうはならないのではないかと。
すると彼女は俺の喉に手を当てて、静かに語りかけた。
「喉、全力で絞って。声、出る? 出るならもっと絞って」
喉の絞り方が分からず、俺は苦し紛れに声を出した。
「喉を絞るって……」
「あぁ……息を止める感じ。喉の奥蓋を閉ざす感じ。どう? 声は出る? 出るならもっと潰して」
息を止めた状態。もう声の一つも出せない。もう限界だと思った。彼女は俺の喉にぺたぺたと触れながら、視線を合わせた。『声は出ない?』と問い掛けてきた。
勿論、此方は声が出せないので、静かに数回頷くしかない。
「その状態で無理矢理声を出して。全力で、空気を裂く様に」
苦し紛れ。完全に喉が塞がれた状態。其れでも声を出せと矛盾した事を言う。けれども彼女は本気だった。喉を押さえたまま、俺の声を待ち侘びる。
「あ゛ー゛」
濁った声。ダミ声。決して綺麗とは言えない声が部屋に響き渡った。
「これがヲタクの絶叫。どんな状態で、どんな心理で出しているか、分かる?」
分からないと怪訝な顔をする俺に、彼女は漸く喉から手を離して、静か語りかける。
ヲタクと言えど、人間です。倫理観は備わってます。公共の場で恥をかきたくない。推しに迷惑掛ける訳にはいかない。そういう心理があります。つまり好き勝手絶叫する訳にはいかないと精神的制御が掛かります。
けれどもうちに秘めた熱量と言うのは、それだけじゃ抑えられません。感情的な部分なので、先に話した理性で押し留める事が難しい分野です。つまり理性と本能がせめぎ合って、ギリギリを超えた時の声があれ。
公共の場で声を出す訳にはいかない。推しに迷惑掛けたくない。だから息を止めて、喉を絞って我慢する。けれども内側の熱量はそれさえ押し退けて声になった。これがヲタクの絶対。
「分かったかな?」
「なんでそんなに詳しいんだよ。」
そこはかとなく得意気な顔をする彼女に俺は疑問を投げかけた。お前は物書きではあるが、役者じゃないだろ。なんでそこまで分析して、指導出来るんだよ。
「役者は役の人となりを知る必要がある。作者は登場人物の心情を知る必要がある。だから。実は近からず遠からず存在している。
狂うキャラを書きたいなら、自ら狂う事だよ。君」
ヲタクの絶叫って何故あんなに濁るの?
とお思いの方々、理性が働いているからですよ。
叫んじゃ駄目だと思っているから喉を絞るんです。
其れでも感情が其れに勝って出た声こそが、あのノイズがかった声なんです。
『あ゛ー!! 大゛好゛ぎ!!』
これ、何も声が枯れてるからとか、そういう訳じゃないんですよ。
声を絞り上げた、つまり自分で首絞めた状態で無理矢理放つからあんなに濁るんです。
前に『役者やってる方ならば、作者も出来ると思う。心理描写上手いと思う』と独り言を述べさせて戴いたと思います。
これが理由です。
役者が役の人となりを理解する様に、作者は登場人物の心理の動きを理解しなきゃいけないんです。
つまり感情移入して、脳内で実際に演じた上で、心理描写するんです。
※私の場合はそうしてるんですよ。
だから心理描写に目を向ければ、遠からず近からず。勝るとも劣らず。
私達ぐらいに知ってそうだし、場面描写上手そうだなと思った話。
じゃあ狂ってる話を書いてる時、狂ってるの? と仰られれば、表に出さないだけで狂ってます。