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俺たち/私たちについて

「俺の出身地である地球では遥か昔、惑星にどれだけの人数の人間が生きているのかをご丁寧なことに一々数えていたらしい。それに一体何の意味があったのかはわからないが、確かに、純粋な好奇心としてそれが気になっちまうのはわかる。今は地球でも数えることをやめてるらしいが、もしこの宇宙にどれだけの生命体が住んでいるのかを数で知ることができたら面白いだろうな。

 その数がどれくらいになるかは見当もつかない。ただ、少なくとも片手で数えられるレベルではないことも確かだから、本当に数えることになった場合には、数えるために何人かに指を貸してもらう必要があるだろう。そして、その具体的な数を知った時、俺は一体どんな感情を抱く? たったそれだけしかいないのか、なんてことは思わないだろうし、そんなにいるんだってきっと思うだろう。それから、俺の命や俺が関わってきた誰かさんの命はその途方もない数の一つでしかないってことにどうしようもないほど無力感を覚えるだろう。

 俺が死んでも宇宙は続く。俺が死んでも、死ぬ前と死んだ後の生命体の数としては、数字と言う意味では誤差にすらならない。でも、それは俺に限ったことじゃない。俺以外の生命体についても同じこと。宇宙から見たらたくさんあるうちのたった一つが死んだところで、そのことを気にする必要もないし、そのことを考え続ける必要もない。俺はそう信じている」

「ねえ、イーサン」

「なんだ?」

「どうしてさっきから一人でぶつぶつ喋ってるの?」

「どうしてだって? 決まってるだろ? さっきの惑星で俺の宇宙船をガラクタの寄せ集めだってバカにした技師を殺したところで、宇宙的には何の問題もないって自分に言い聞かせてるんだよ!!」

「呆れた。イーサンだっていっつも、オンボロ宇宙船だって自分で言ってるじゃない」

「俺が言うのと誰かに言われるでは、言葉が同じでも意味が違う」

「でも、この前私が感染症にかかってまずい状況だった時も、この宇宙船が何とか頑張ってくれたからきちんと治療ができたんじゃない」

「そもそもオンボロ宇宙船だったらあんなピンチは起きていない。全財産を巻き上げて自分から相手を無一文しておいて、可哀想だからと相手に帰りの交通費を渡すみたいなもんだ」

「私はこの宇宙船は好きよ。狭くて、乗り心地が最悪で、燃費が悪くてお金もかかって、シートの隙間にピーナッツシューの屑がびっしり埋まっているところも」

「天窓に誰かさんの唾の跡が残っているところもな」

「さっき、イーサンが言っていたどれだけの生命体がいるのかって話だけど」

「なんだ?」

「確かに誰か一人が死んだところで宇宙としては何も困らないっていうのは理解できるわ。ただ……」

「ただ?」

「その死んだ誰かが、イーサンだったり、私たちのママだったら、少なくとも私は悲しい気持ちになる」

「本当か?」

「本当よ。わかりやすく確率で伝えるとしたら、50%の確率で悲しい気持ちになるわ」

「残りの50%は?」

「とても悲しい気持ちになる」

「それは大変だ」

「私思うの。この宇宙は途方もないほど広くて、数え切れないほどの生命体が入る。でも、その中で私の双子の兄はイーサンしかいないし、私のママはママしかいない。宇宙は広いんだから、どっかに私たちが知らない双子がもう一人くらいいてもいいくらいなのに、そんなことも決してありえない。これって改めて考えてみたら、とんでもないことだと思わない? 宇宙から見たら砂漠の砂一粒にすらなれない私たちではあるけれど、私からみたら、イーサンは決して一粒の砂なんかではない。別にこれは双子だからというわけではないわ。ママであったり、恋人であったり、友達であったりも同じよ。愛してるわ。イーサン。この宇宙でたった一人の私の双子のお兄さん。愛してるわママ。この宇宙でたった一人の私のママ」

「俺もだ、エマ。この宇宙でたった一人の俺の双子の妹」

「ありがとう。誰かが私のことをそう思ってくれていると知っているだけで、この広い宇宙のどこにだって行ける気がする」

「そして、俺たちを愛しているママからメッセージが来てる」

「何てきてるの?」

「『愛するイーサン&エマへ。私が作った宗教なんだけど、誰も入信してくれないので一から教義を見直そうと思ってます。アドバイスをして欲しいから、一度地球へ戻ってきてくれると嬉しいわ。P.S. 美味しいご飯を作って待ってます』」

「なんて素敵なお誘いね。全力で首を横に振りたくなるようなメッセージだわ!」

「だけど、行かないわけにはいかない」

「もちろん、私たちを愛してくれて、私たちが愛してるママだもの」

「それじゃあ、次に向かう地球は俺たちの生まれ故郷である地球だ」

「ええ、ぶっ飛ばしてちょうだい、イーサン!」

「もちろんだエマ。最高に楽しい時間が待ってるはずだ!(脚注)」

(脚注)ハッピーエンドだけが人生ではないと思うが、ハッピーエンドであるに越したことはない。俺がエマの幸せを願うのと同じくらいに、お前が幸せになることを、俺は祈ってる。

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